サブタイトル通り、ついにジャンヌとの戦いも決着です。
そして、敵はもちろんジャンヌだけではありません。
第46弾です。
透たちが作戦会議をしている間にも、白雪とジャンヌの肉薄とした戦いは続いていた。
「っ!」
白雪はまるで息を止めているかのように、歯を食い縛りながら刀を振るう。
体当たりするようなその一撃に、とうとうジャンヌが壁際まで追い詰められる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
しかし、
「剣を捨てて、ジャンヌ───もう、あなたの、負けだよ」
「ふ・・・ふふ」
不適に笑うジャンヌの方が余力を残しているように感じられる。
ジャンヌは、自分の周囲に微細な氷の粒を発生させると、それに隠れるようにして、回転受け身のような動作で白雪の脇に逃げた。
白雪は慌てて
見るからに白雪は限界である。
「はぁ、はぁ・・・はぁっ」
息が荒くなった白雪は柄を右手で握ったまま、その場に膝を着いてしまう。
そして、壁から刀を抜いた白雪は、そばに落ちていた
「甘い───お前はまるで、氷砂糖のように甘い女だ。私の肉体を狙わず、剣ばかりを狙うとはな。聖剣デュランダルを斬ることなど───絶対に不可能だというのに」
姿勢を直したジャンヌは、剣の切っ先を、白雪の首に向ける。
その様子を見たキンジが衝動的に飛び出しそうになるが、アリアが手で制する。
「まだよキンジ・・・! 白雪は多分、あと一撃分だけ、力を残してる・・・! でも、それを使うのに時間が要る・・・何か力を
小声で言いながらのアリアも、駆け出したいのを必死に自制しているようだった。
剣を構えたジャンヌの周囲に再び、ダイヤモンドダストが舞い始める。
そしてそれが、吹雪のように室内に吹き荒れた。
「見せてやる、『オルレアンの氷花』────銀氷となって、散れ───!」
ジャンヌの聖剣デュランダルが見る間に青白い光を蓄えていく。
「キンジ、透、いくわよ!」
その瞬間、叫んだアリアが2本の日本刀を手に、まるで銃弾のように飛び出した。
白雪との戦いに集中していたジャンヌが、ハッ、と振り返る。
「
怒りに身を任せるように剣を横薙ぎに払ったジャンヌより早く、アリアは先ほどジャンヌが脱ぎ捨てていた巫女服を右手の刀で払い上げて敵の視界を一瞬塞いだ。
「────!」
アリアはスライディングで、その攻撃の下を
ジャンヌの技は空中の巫女装束を押しのけて青い光の
天井はまるで、巨大な花が咲いたように広く氷結していく。
「今よ透! ジャンヌはもう超能力を使えない!」
アリアに言われるまでもなく、透は構えていた。
日本刀を体の後ろに隠し、いつでも振るえる状態。
「くっ・・・『鎌鼬』か・・・!」
透の姿勢を見たジャンヌは突っ込んできた。
「お前の攻撃は
距離を詰めてくるジャンヌに向けて透は、刀を振るう。
「『鎌鼬』!」
透の横一閃に、ジャンヌは足を止めて、聖剣デュランダルを盾のようにして構える。
しかし────
「───ぐぁっ・・・!?」
『鎌鼬』はジャンヌに
「どういうことだ・・・!」
ジャンヌは慌てて後ろを振り返る。
「何故、お前が
予想外の攻撃に
「よそ見をしてる場合か」
そして、その隙を透は当然逃さない。
「くっ!」
ギンッ!
透の攻撃をかろうじて受け止めるジャンヌ。
透はそのまま、
「お前は、いつもそうやって小細工な手段で私をハメようとする・・・!」
「お前は自分の作戦に自信を持ちすぎなんだ。臨機応変に対応する勉強もする事だな」
透の『鎌鼬』とアリアの小太刀を交換するという単純明快な策。
透の『鎌鼬』の性質をよく知っているジャンヌが相手だからこそ、上手くハマったのだ。
「ナメた口を!」
壁に背中が着く直前、ジャンヌは透の刀を押しのけて、斬りかかろうとしてくる。
「キンジ」
透はさっと横に避け、キンジの為に射線を作り出す。
ガガガンッ!
3点バーストに切り替えたベレッタで、ジャンヌの正中線を銃撃する。
ジャンヌはその3発をとっさに剣で弾いた。
それを見て、キンジは床を蹴りジャンヌに
「
キンジに対し、ジャンヌも突っ込んで行った。
その足元を、透が回し蹴りで払うが、ジャンヌは跳躍して避け、そのままキンジに飛びかかる。
迎撃するキンジの銃弾を剣で受けながら、脳天目掛けて斬り下ろす。
その斬撃をキンジは────
「──ッ──!」
────受け止めた。
───真剣白刃取り───
それを拳銃を握っていない
「────!」
ジャンヌは剣の柄を握ったまま、キンジの真横に着地した。
「・・・なんて、ヤツ・・・」
自慢の剣、その切っ先がキンジの
「これにて一件落着だよ、ジャンヌ。もう、いい子にしておいた方がいい」
キンジは左手で剣を抑えたまま右手の銃をジャンヌの首筋に突きつける。
「武偵法9条」
ジャンヌが呟く。
そう、法に従えばキンジはジャンヌの首を撃つことはできない。
「よもや忘れたわけではないな。武偵は、人を殺せない」
「ははっ。どこまでも賢いお嬢さんだ」
「お、お嬢・・・?」
ジャンヌは呼ばれ方が恥ずかしかったのか、少し赤くなる。
「だ・・・だが、私は武偵ではない、ぞ!」
言いながら、剣に力を込める。
その様子を見ていたが、透は助太刀をしない。
なぜなら、
カッ! カカカッ!
という、赤い
「キンちゃんに! 手を出すなあああああッ!!」
絶叫と共に駆けてきた白雪が───キンジとジャンヌの間にあったデュランダルめがけて。
「──
鞘に収めていた刀を抜きざまに、下から上へ、居合い抜きのように
切り上げた刃はデュランダルを
「・・・・・・!」
最後の最後に再び訪れた想定外の出来事。
ジャンヌは聖剣デュランダルが
「
その隙に、アリアがジャンヌに襲いかかり、その手首に対能力者用の手錠をかける。
「
透は鍔の辺りで切られたデュランダルの上半分を手に取ると、しがみついたアリアに今度は足首に手錠を
ジャンヌは最後の最後まで、キンジとアリア────『武偵』を侮っていた。
だが、ここにいる武偵はHSSのキンジと、パートナーが機能している状態のホームズ4世、
透は一息ついてから、後ろを振り返る。
そこには、泣きじゃくる白雪とその背中を撫でて、優しく慰めるキンジの姿があった。
「もう・・・勝手に俺の前からいなくなるんじゃないぞ、白雪」
ジャンヌを捕まえ、白雪も戻ってきた。
ここで終われば、ハッピーエンドで終わるのだが────
ざっ、ざっ、と徐々に近付いてくる足音。
────やはり、そう簡単には終わってはくれないようだ。
「ジャンヌさん」
ジャンヌを含めた5人は、その足音と声をした方へ振り向く。
「やっぱり来たか・・・」
透はその声の人物の姿を見て思わず呟いた。
狐の面にブレザー制服。手には弓を持った女。
夾竹桃が言っていた『イ・ウー執行部隊』の者がジャンヌを
「理子さん、夾竹桃さんに続き、ジャンヌさん・・・あなたたち『攻撃少女隊』には失望しました」
「お前は誰だ!」
ジャンヌは狐面の女とは面識がないのだろう。
両手首両足首に手錠をかけられるという無様な姿ながらも、凛とした声と
「イ・ウーに弱者は必要ない」
しかし、狐面の女はジャンヌの質問を無視して矢を取り出し、弓を構えた。
「アリア!」
透はアリアから『鎌鼬』を投げ返してもらい、臨戦態勢を取る。
その直後、限界まで張られた弦から矢が解き放たれた。
狙いはジャンヌ。
それさえ分かっていれば対処できる。
透は飛来する矢とジャンヌの間に割り込み、『鎌鼬』で矢を斬った────
「っ!?」
────はずだった。
初めに聞こえたのは、
次に感じたのは、刀を持つ右手に一瞬かかった圧力。
そして、気付いた時には『
幸い、肌には達していない。『鎌鼬』と防刃制服が威力を吸収し、偶然にも、制服に編み込まれているワイヤー繊維の隙間に引っかかったのだろう。
だが、
「「透!」」
近くにいたアリアとジャンヌが悲鳴に近い声を挙げた。
「次は外しません」
再び弓を構える狐面の女。
「そこをどいてください。あなたが傷付く必要はありません」
「・・・お前こそジャンヌを傷付ける必要はないだろ」
言いながら、透は胸の矢を抜く。
「いいえ、あります。ジャンヌさんはイ・ウー の品格を落とした。それ相応の罰が必要です」
「さっきから何なの!? あんたもイ・ウーの人間なの!?」
透が攻撃を受けたとあり、アリアはその手に日本刀を構えていた。
「邪魔をするならあなたたちから先に
「女性はあまり相手にしたくないんだが、女性を傷付けようとするなら話は別だな」
先の戦いで消耗している白雪を離し、ベレッタを構えたキンジも前へと出てきた。
刀、銃、弓。3者が身構える緊迫ムードの中、それを打ち破ったのは、
「いい加減にしろ
透の怒号だった。
その声に狐面の女はピクッと手が反応し、弓を揺らした。
そして同時に、透が発した名前に聞き覚えがあったアリアも驚きに満ちた表情を浮かべていた。
「えっ、美沙ってあんたの妹・・・」
「美沙・・・なんだろ?」
そのアリアの言葉に答えるように、透は狐面の女に尋ねる。
透が狐面の女が美沙だと言うのには根拠があった。
透が通っていた中学のブレザーの女生徒用の制服に、毛先のみ淡い紫色に染められた黒髪のセミロング。
先日、街中で美沙と
そして何より、先ほど弓を放った彼女の姿に透はどこか懐かしさを覚えていた。
「仮面を、外してくれないか」
透にそう告げられた狐面の女は、力いっぱい引いていた弦を緩め、矢も左手に持つと、右手でゆっくりとその狐の面を外した。
「────!」
その優しかった目はいささかつり上がっているようにも見えるが、それでも見間違いようがない。
「美沙・・・!」
毛先も染められ、雰囲気も2年前と違うが彼女は正真正銘、透の妹────平川美沙であった。
「美沙・・・お前、今までどこにいたんだ? 何をしてたんだ? どうしてこんなことをしてるんだ? ずっと、捜していたんだぞ・・・!」
透の口から出るのは、疑問と喜びの感情の数々。一歩一歩、それを踏みしめるように、美沙に近付いていく。
だが────
「近寄らないでください!」
その叫び声に透は足を止める。
美沙の口から発せられたのは、先ほどまでの無機質な口調でも、再会を喜ぶ言葉でもなく、感情を剥き出しにした
「
そう呟いたかと思うと、美沙は透から目を逸らし、カタカタと震えだした。
「美沙、どうしたんだ・・・?」
その美沙の言動に透はひどく困惑する。
「目の前にいるお兄ちゃんは偽物・・・別人・・・赤の他人・・・」
美沙は自己暗示をかけるように、ブツブツと呟き、再び狐の面を顔につけた。
「何を・・・言ってるんだ? 俺は平川透だ。お前のお兄ちゃんだ」
「嘘をつかないでください」
落ち着きを取り戻したかのように、再び弓を構える美沙。
今度の照準は透。
「あの日、お兄ちゃんとお父さんは
2年前のあの日。美沙は一度、帰ってきていたのだろうか。
そして、あの部屋の
しかし、
「確かに親父は死んでしまった。でも、俺はちゃんと生きてる。ここにいる俺は
あの時の透は身体中血塗れであった。
そんな状態で他の死体に紛れて、気絶していたのだから、死んだと思われていても仕方はない。
「最後の警告です偽物さん。そこをどいてください。どかなければ容赦なく
それでも聞く耳を持たない美沙は、弦を限界まで引っ張りいつでも矢を発射できる状態であった。
殺意・・・は感じられなかったが、本気で射ってくる気ではいる。
「あんた透の妹なんでしょ!? なんで信じてあげないのよ!」
「透、アリア。今の彼女には何を言っても無駄だ。これ以上、敵意を見せてるくるようなら逮捕するが、いいな?」
自分の兄の事を信用しない美沙に怒りを
それに対して、透は静かに頷いた。
「あくまでも邪魔をするのですね。では────っ!?」
美沙の動きが固まった。
今まさに矢を放つのではないかと思った瞬間であった。
「・・・はい。本当に良いんですか? ・・・はい。分かりました」
何やら地面に向けて会話のような独り言を始めた美沙は、それが終わるとスッと弓を下ろした。
「ジャンヌさん、運が良かったですね。今回の執行は見送る事になりました」
淡白にそう伝えると、美沙はこちらへ何かを投げつけた。
────
瞬時に察した透は慌てて目を
その直後、辺り一面を真っ白に染め上げた。
「美沙!」
数秒後、なんとか目眩ましを避けた透は目を開けて、周囲を確認するが、美沙は既にいなかった。
「くそっ!」
2年前から捜し続けて、ようやく会えた妹はイ・ウーの一員だった。
自分を平川透の偽物だと呼び、拒絶された。
状況を冷静に理解しきれずに、透は珍しく声を荒げる。
「透・・・すまない。その、助かった」
ジャンヌは声をかけることに少しためらいながら、自らを守ってくれた透にお礼を述べてきた。
「・・・お礼なら、夾竹桃に言ってくれ。あいつの忠告がなければ、お前の事は守れなかった」
自分の手と地面に落ちている
たったの
手入れはきちんと行っていたし、強度も白雪の『イロカネアヤメ』やジャンヌの『デュランダル 』程ではないが、一般的な刀と比べても申し分ない。
ジャンヌが狙われると分かっていた上でのこの結果だ。
頭の片隅で、先日の白雪の占いを思い出す。
『平川君の大切な人とは、近いうちに会う事ができます。ただし、良くない形で』
妹は敵として現れ、愛用の武器は壊された。
本当に
「透・・・」
「悪い、アリア・・・しばらく1人にさせてくれ」
透は折れた『鎌鼬』の刀身を拾い上げると、1人で地上へと向かい歩き始めた。
こうして、白雪の護衛は、平川兄妹の再会と『鎌鼬』の犠牲という波乱の展開を迎え幕を閉じた。
狐の面の女の正体がついに判明しました。
これまで読んでいてくださった方は、既に気付いていたかと思いますが。
そして、『鎌鼬』が折れるというまさかの事態。
美沙の不可解な言動と透の今後の行動など、楽しみにして頂ければと思います。