緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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待っていてくださった方はお待たせいたしました。

今回で第2章完結です。



第47弾です。






第47弾~エピローグ~

I'd like to thank the person...(感謝させてほしいよ)

 

不知火のボーカル、キンジのギター、武藤のドラムでアドシアード閉会式のアル=カタが始まる。

 

本当ならキンジの隣にベース担当の透がいたはずなのだが、その姿はなかった。

 

この前の地下倉庫で別れてから今日まで一度も顔を合わせていない。

 

連絡も取れずに、アリアの話では寮の自室にもいないそうだ。

 

透が美沙に対して口走っていた言葉とアリアから少しだけ話を聞いたので、ここに来ない理由はなんとなく察している。

 

Who frash the shot like the bangbangbangbang'a ?(バンババンババンってあの一閃は、誰が?)

 

楽曲が急にアップテンポになると同時に、左右からポンポンを持ったチアガール姿の女子達が笑顔で舞台に上がってきた。

 

「で、でもやっぱりこんなの・・・」

 

「あーもう! ここまで来て何言ってんの! ほら出る!」

 

モジモジとしながらも、アリアに蹴り出されるようにして、()()が舞台の中央に出てくる。

 

顔を真っ赤にした白雪がポンポンを掲げたその脇には、アリア。

 

キンジと学外へ出た上に星伽に禁止されていた技の使用という制約違反を積み重ねてしまった白雪は、3度も4度も同じというアリアの押し文句に押され、このチアへの参加を了承していた。

 

今回、魔剣(デュランダル)を退けた事は白雪にとってもプラスの経験になったようだ。

 

今も照れを隠しきれずながらではあるが、ぽんぽん跳ねたり、クルッと回ったりと完璧なチアを披露(ひろう)している。

 

Who was the person, I'd like to hug the body,(誰なんだそいつは、抱きしめさせてくれよ)

 

チアも終盤になり、女子達が一斉にポンポンを天高く投げ捨てると、会場が一気に盛り上がった。

 

全員ポンポンの内側に拳銃を持っており、空砲を歌詞の通り、空に向けてバンバン放している。

 

そして、アリアと白雪を中心にした女子達が、一斉に組体操のようなポーズを決めて。

 

舞台にセットされていた銀紙の紙吹雪が、その女子達の周囲に巻き上がり────

 

It makes my life change at all dramatic!(それが私の人生を一変させたんだから!)

 

アドシアードは、これにて一件落着となった。

 

 

 

 

 

アドシアードも終わったという事で、学園島唯一のファミレス、ロキシーで、キンジ、アリア、白雪の3人で打ち上げが行われていた。

 

魔剣(デュランダル)を逮捕できたことで、その濡れ衣を着せられていた母親───神崎かなえの刑期を一気に短縮できる流れとなったアリアが上機嫌で(おご)り宣言してくれたのだ。

 

「アリア、透は?」

 

「連絡はしたわ。でも、返事はなしよ」

 

キンジは一応の確認をしてみたが、アリアからは当たり前の回答が返ってきた。

 

アリアも、今はそっとしておく方が良いと考えているのだろう。必要以上に連絡はしていないようだ。

 

事情が事情なだけに、少し暗い雰囲気が流れ出す。

 

その流れを変えようとしてか、

 

「「あ、あの」ね」

 

アリアと白雪の声が重なった。

 

「あ、アリアが先でいいよ」

 

「あんたが先に言いなさいよ」

 

「・・・外すか?」

 

キンジは気を遣い、隣の白雪に言うと、白雪は首を横に振って顔を伏せた。

 

「え、えっと・・・あのね。キンちゃんにも聞いてほしいの。私・・・どうしてもアリアに言っておかなきゃいけないことがあるから」

 

「なんだ?」

 

「あの・・・この間、キンちゃんが風邪ひいた時・・・あの時キンちゃんが飲んだお薬・・・私が買ってきたんじゃないの。あれは・・・アリアが、お部屋に置いてったんでしょ?」

 

「え?」

 

この前、熱で朦朧(もうろう)として学校を休んでた時。

 

特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』をわざわざ買ってきてくれたのは・・・

 

「アリア、だったのか?」

 

「・・・・・・」

 

無言のアリアを見る白雪は、本当に済まなさそうにしている。

 

アリアはそんな白雪を見て、その赤紫色(カメリア)の瞳でキンジを、チラッと見てきた。

 

「な、なーんだ! そんなこと!」

 

アリアはわざとらしく両手を頭の後ろにやり、大きく体を後ろに傾けた。

 

「『話がある』っていうから、もっと大変なことかと思って損したわ」

 

否定しないところを見ると、やはりアリアで間違いないようだ。

 

「イヤな女だよね私。でも、イヤな女のままでいたくなかったから・・・ごめんなさいっ!」

 

ぺこっ、とアリアに頭を下げる白雪。

 

だが、アリアは白雪の顎に手をやって、ぐい、と姿勢を戻させた。

 

「別に気にしてないからいいわよ。はいこの話は終了。じゃ、今度はあたしの番ね」

 

「う、うん」

 

「ぉほん」

 

アリアはわざとらしく咳払いをすると、姿勢を正し───

 

 

「───白雪。あんたも、あたしのドレイになりなさい!」

 

 

びしっ! 白雪を指差しながら放たれたセリフに────

 

(とう)の白雪。キンジ。そして近くのボックス席の男子数人が固まる。

 

「ありがとう、白雪」

 

前後の文脈が明らかにおかしい。

 

魔剣(デュランダル)を逮捕できたのは、2.5割はあんたのおかげよ。4割はあたし。1.5割は透とレキ」

 

(・・・ん?)

 

この計算式だと、キンジの貢献度は0.5割ということになる。

 

人差し指と中指だけで白羽取りをするという、特訓の成果以上のものをやってのけたのにも関わらず、0.5割とはいささか不満である。

 

「あたし今回分かったの。あの魔剣(デュランダル)、ジャンヌ・ダルクとの戦いは────あたしたちが1人1人だったら、きっと負けてた。4人がかりで、やっと倒せた。それは認めるわ」

 

その4人の中に自分は入っているのだろうか。

 

貢献度の割合から、キンジは少し気にしながら話を聞く。

 

「あたしたちの勝因は力を合わせたことよ。今までのあたしは───どんな敵が相手でも、自分と、自分の力を引き出すパートナーたちがいれば良いって思ってた。でも・・・3人じゃどうしようもできない相手もいるわ。つまり、あたしのパーティーに特技を持った仲間が増えるのはいいことなの。特に白雪みたいに、あたしにない力を持ってる仲間はね」

 

アリアは『武偵殺し』の件でパートナーの大切さを。

 

今回の『魔剣(デュランダル)』の件でパーティーの大切さを学んだようだ。

 

「というわけで契約は満了したけど、あんたもこれからキンジと一緒に行動すること! 朝から晩までチームで行動して、チームワークを作るのよ! はいこれキンジの部屋の鍵! 今後、自由に入ってよし!」

 

「ありがとうアリア! ありがとうございますキンちゃん!」

 

「おおおい!」

 

超神速で偽造カードキーを胸ポケットにしまう白雪と、ボックス席から床に転げ落ちるキンジ。

 

「ダメだダメだダメだ! あそこはそもそも男子りょ────」

 

「ドレイ1号! 文句あんの!?」

 

「お前ら! 俺の話を!聞────」

 

「騒がしいな・・・周りに迷惑がかかってること気付いてるか?」

 

間が良いのか悪いのか────

 

「透!」

 

まさかの透登場により、アリアの折檻(せっかん)はなくなったものの、キンジの抗議もなかった事になってしまった。

 

「あんた、もう平気なの?」

 

「心配かけてたなら悪かった。もう大丈夫だ」

 

そう言いながらアリアの隣に座った透だが、心なしかまだ少し表情は暗い気がする。

 

「どうして美沙がイ・ウーにいるのかは分からないが、どのみちやることは変わらないさ」

 

そうだろ? と訊くようにアリアの顔を見る透。

 

その視線を受け取ったアリアも微笑みを浮かべて、

 

「そうね。あたしはママの為に、あんたは妹の為に一緒に戦いましょ」

 

ちょうど運ばれてきた料理の中からコーラを手に取り、グラスを上げる。

 

「はい! じゃあ透の復活と新しいドレイの誕生にカンパーイ!」

 

「かんぱい! ・・・嬉しい! 嬉しいよ! 合い鍵・・・キンちゃんの愛の(あかし)だよー!」

 

白雪は嬉し泣きつつ、烏龍茶のグラスを上げて、まだ注文してない透も流れに乗り先出しのお冷やを掲げた。

 

完全に流れを作られてしまったキンジは、

 

「勝手にしろ!」

 

3人のグラスから飲み物がこぼれるような勢いで、がちん、と乾杯するのだった。

 

 

 

 

 

ファミレスで3人と別れた透は第7男子寮の屋上に来ていた。

 

出入口の上にある踊り場まで上がり、仰向けで寝転ぶ。

 

何故、美沙はイ・ウーにいるのだろう。

 

何故、美沙は(かたく)なに拒絶するのだろう。

 

あの日から、毎日ここに来て星を眺めながら、答えの出ない問いを頭の中でひたすら繰り返していた。

 

その為、アリアが様子見で部屋に来ていた事も彼は知らない。

 

これからも、ジャンヌのようにイ・ウーのメンバーを逮捕すれば、(おの)ずと美沙は現れるはずだ。

 

その時、どうすればいい。

 

戦えばいいのだろうか。たった一矢で、こちらの武器を破壊した人物を相手に。

 

それだけの実力差が出来てしまったであろう人物を相手に。

 

実の妹を相手に戦えるのだろうか。

 

いや、そもそも何故戦う事を前提に考えているのだろう。

 

みんなの手前、平気だと見栄(みえ)を張ってみたものの、透自身の中では何も解決できずにいた。

 

やがて思考さえも放棄して、ぼーっ、としながら星を眺める。

 

そんな透に忍び寄る黒い影。

 

顔に影がかかった事で、透はこの場に誰かがいることを初めて認知した。

 

「随分と無様な姿ね」

 

毒づいた言葉と共に、見下ろしてきたのは夾竹桃であった。

 

「・・・何の用だ」

 

透は体を起こしたが、夾竹桃の方には向かず用件を尋ねる。

 

「あなたたちジャンヌを逮捕したそうね」

 

「ああ」

 

「狐の面は現れたのかしら?」

 

今のやり取りで理解した。

 

夾竹桃は、約束通り『透の知らない正義の話』をしに来てくれたのだろう。

 

「・・・現れたよ。お前の依頼通りジャンヌの事も守った」

 

「そう。それなら、どうして今まで連絡を寄越さなかったのかしら」

 

「・・・・・・」

 

透は無言のまま、腰に差していた『鎌鼬』を鞘から抜いた。

 

「・・・折れたの?」

 

()()()()んだ。狐面に」

 

透は刀身が半分に折れてしまった『鎌鼬』を鞘に収める。

 

「呆れたわ。刀を折られただけで落ち込んでるの?」

 

「そうじゃない・・・狐面の正体が、美沙────妹だったんだ」

 

「・・・そう。そういえば、あなたがイ・ウーに来たのも妹を捜す為だったわね」

 

一瞬、言葉が詰まったように話す夾竹桃。

 

背後から煙管(キセル)の煙が風に乗って流れてくる。

 

「妹を捜す為にイ・ウーに所属していたのに、その妹はイ・ウーに(かくま)われていたなんて、滑稽(こっけい)な話ね」

 

「・・・お前は知らなかったんだよな?」

 

「彼女と会ったのは、この前が初めてよ」

 

夾竹桃は『イ・ウー執行部隊』について詳細までは知っていなかった。

 

ジャンヌも同様に、美沙を見て誰だ、と尋ねていた。

 

同じイ・ウーの人間でも美沙の事を知らなかった辺り、その『執行部隊』とやらは機密性が高いのだろう。

 

「今の姿を見てると、あなたが初めてイ・ウーに来た頃を思い出すわ」

 

「こんなことで思い出すな」

 

「あの時は、もっと(すさ)んでいたわね。全てを失った悲劇の主人公みたいに」

 

「・・・でも、理子のおかげで立ち直る事ができた」

 

昔の事を思い出し、透の口から小さな笑みがこぼれる。

 

「あの時に比べれば妹が見つかっただけマシと言うものよ。何をそこまで悩んでいるかは知りたくもないけれど、悩めるだけの進展があったという事でしょう?」

 

「え?」

 

確かに夾竹桃の言っている事は一理ある。

 

自分が今、苦悩してるのは大まかに言えば、美沙が見つかった事によるものだ。

 

そもそもこれまで通り、美沙が見つからなければこんなに悩む事はなかっただろう。半ば諦めかけていたいつもの日常を過ごしていたはずだ。

 

見方を変えれば、この悩みというのは好転なのである。

 

「お前、(はげ)ましてくれてるのか?」

 

ここで透は初めて、夾竹桃の方へ体を向けた。

 

「・・・どうしてそんな発想に至るのかしら」

 

振り返ってみると、夾竹桃は呆れたような顔つきで煙管を吹かしているのだった。

 

「・・・本題に入っていいかしら」

 

その問いかけに、透は静かに頷いた。

 

「今のあなたには、少し(こく)な話になるかもしれないけれど、それでも?」

 

「ああ、頼む」

 

 

透の知らない正義の話。

 

 

「あなたの父親、平正義は────」

 

 

今、夾竹桃の口から語られる。

 

 

「────イ・ウーに所属していた人間よ」

 

 

 





ようやく第2章も完結しました。
亀更新・不定期更新でお付き合いくださってる方は本当にありがとうございます。



親父がイ・ウーにいたという衝撃? の事実を最後に章の終わりを迎えたわけですが、今後、親父がどういった人物だったのか。夾竹桃と正義、透の関係性など楽しみにして頂けたらと思います。


今後も引き続き亀更新・不定期更新となると思いますが、よろしくお願いします。

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