緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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少し間が空いてしまいましたが、第3章の開始です。


夾竹桃と正義
透と理子、そしてブラド

それぞれがどのように関係しており、どのように繋がってくるのか、大事な章にしたいと考えています。


第48弾です。






第3章~ブラド編~
第48弾~帰ってきた大怪盗~


今から(さかのぼ)る事約3年前。

 

イ・ウー内にある各自に与えられた個室にて、夾竹桃は『人体実験』を行っていた。

 

「んッ・・・桃・・・子ォッ ・・・!」

 

夾竹桃の本名である『鈴木桃子(すずき ももこ)』。喉の奥から漏れ出そうな喘ぎ声を抑えながら、その下の名前を言うのは、ジャンヌ・ダルク30世。

 

「も、もう・・・いい、だろう・・・? これ、以上はッ・・・んっ・・・!」

 

媚薬(びやく)を使った実験の被害者となってしまったジャンヌ。

 

いつもの凛とした姿は見る影もなく、体の内から感じているであろう熱と快楽を抑え込むのに必死だ。

 

「・・・そうね。概ね効果は分かったわ」

 

ジャンヌがベッドの上で(もだ)える姿を見て満足そうに笑みを浮かべる夾竹桃。

 

「な、なら・・・早く・・・っ!」

 

解毒を欲するようにジャンヌは手を伸ばしてくるが、同じベッドの上に座っていた夾竹桃は立ち上がり、

 

「後、1時間もすれば効果は失くなるわよ」

 

無慈悲な一言を告げて、部屋から出ていくのであった。

 

「・・・・・・」

 

部屋を出てすぐ、夾竹桃はその場に留まり、曲がり角に視線を向ける。

 

「女部屋の前で聞き耳を立てるなんて、随分と悪趣味ね」

 

一言、曲がり角の向こう側にいる()()に毒づいてみせた。

 

「いやあ、気付かれてましたか」

 

少しおどけたような口調で姿を見せたのは、見た目40代のどこにでもいそうな男。

 

しかし、彼は歴史上途絶えたとされている平清盛の血を継ぐ者────平正義であった。

 

「しかし、ジャンヌも可哀想ですね。あなたの実験に付き合わされて苦しんで」

 

「合意の上よ」

 

この男、いきなり姿を見せたかと思えば実験にケチをつけるような言い草。何をしに現れたのだろう。

 

「そして、あなたも可哀想だ。せっかく新しい毒を見つけても、作っても試せる相手がいない。試せる毒も媚薬だけ」

 

「何が言いたいの?」

 

「私にあなたの実験の協力をさせて頂けませんか?」

 

「・・・私、男に興味はないのよ」

 

「媚薬のお話ではないですよ。あなたが持つ毒の方の実験に協力すると言ったのです。私の()()()をご存じでしょう?」

 

確かに正義の二つ名が、イ・ウー内外で呼ばれている通りものなら、実験対象者としてはうってつけである。

 

しかし現状、彼にとって利益になることは思い付かない。彼は何の目的で名乗りを挙げたのだろうか。

 

夾竹桃は正義の胸の内を探るように警戒の視線を向ける。

 

「疑り深いですね。あなたは毒の効果を試せる。私は()()()がどれ程のものか試せる。お互いに悪い話ではないと思うのですが」

 

毒をもって毒を奪う。夾竹桃が他者から毒を奪う時の手口である。

 

しかし、この手法は毒の効果をよく分かっていなければ使えない。弱ければ脅せないし、強くて殺してしまうほどの毒であれば、強請(ゆす)るのには適さない。

 

目の前にいる正義は、毒の効果を測るのにこれ以上ない人材である。

 

平静を装っていたものの、気兼ねなく毒を打ち込めるという提案に夾竹桃はこれ以上、欲求は抑えられなかった。

 

「・・・分かったわ。早速試したい毒があるの。風魔から奪ったのだけれどなかなか使える機会がなくてね」

 

「例の『符丁毒(ふちょうどく)』というやつですか。もちろん構いませんよ」

 

こうして、夾竹桃と平正義の間に、毒によって繋がれた奇妙な関係が生まれた。

 

この関係性は平正義が殺される前日まで続いていくのである。

 

 

 

 

 

「親父が・・・イ・ウーにいた・・・!?」

 

夾竹桃の話を聞き終えた透は、驚きのあまり、自然とその言葉が口から漏れていた。

 

「でも、親父はほとんど家にいた。たまに家を空ける事はあったけど、そんな頻繁には・・・」

 

「確かに他のメンバーに比べて出入りはかなり少なかったわ。あなたたちが学校に行っている間や出張と言って来ていたようね」

 

透は過去の出来事を思い出そうと試みるが、記憶している限り正義の不審な行動が思い付かない。

 

いや、一つだけ思い当たる事がある。

 

何度聞いてもはぐらかされてばかりで気にしてすらいなかったが、仕事の内容だけは()()()()()()()()()()()()

 

「・・・親父の言う仕事って、イ・ウーの事だったのか・・・?」

 

「そうでしょうね。まだ一般人だったあなたに教える訳にはいかなかったのよ」

 

「親父が・・・イ・ウーにいた目的や、その()()()って言うのは何だったんだ? お前の毒に耐えられるっていう」

 

次々と(あらわ)になる父親の隠されていた一面。

 

透はさらに、夾竹桃の話の中で、疑問に感じた部分を明らかにしようと尋ねる。

 

「話はここまでよ」

 

しかし、夾竹桃は透の質問には答えなかった。

 

「どうしてだ!」

 

「あなた勘が良いから、これ以上話すと()()()()()()()()

 

「気付くって何に」

 

()()()()()()よ」

 

「耐え難い・・・って、どういう意味だ。お前、他に何を隠してる!」

 

透は慌てて立ち上がり、背を向けて去ろうとする夾竹桃の右肩を掴んだ。

 

「平正義は、毒の耐性があったとだけ言っておくわ」

 

「待て! まだ話は────!」

 

その制止を無視して帰ろうとする夾竹桃を引き留める為、肩を掴む力を強めようとするが、

 

───チクッ

 

夾竹桃の肩に乗せていた手に少しの痛みが走った後、急激な脱力感に襲われた。

 

「おま、え・・・!」

 

この感覚。頭痛と目眩(めまい)はないものの、ハイジャックの時に理子に浴びせられた麻酔薬に似ている。

 

立っていられない程に力が抜けていき、意識は遠のいていく。

 

いつの間にか夾竹桃は振り返っており、徐々に体勢を崩していく透の様を眺めていた。

 

「ま・・・はな、しを・・・・・・」

 

そして、透が完全に倒れこむまで見守ると、

 

「世の中には、知らない方が幸せな事もあるのよ」

 

透に哀れみの視線を送ってから、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

強襲科(アサルト)棟の2階には、トレーニングジムがある。

 

そこで透は時速12km、30分間で6kmのペースでランニングマシンを設定し走っていた。

 

走りながら昨夜の出来事を振り返る。

 

父親がイ・ウーにいたこと。

 

そして、そこでは毒に耐えられる事にちなんでか、ある()()()を付けられていたこと。

 

その二つ名を知ってしまうと、()()()()()()とやらに気付いてしまうということ。

 

(何なんだいったい・・・!)

 

美沙に引き続き、正義の事で頭を悩ませる透。

 

確かに話を聞きたいと言ったのは自分だが、中途半端な事実を知っただけでは釈然(しゃくぜん)としない。

 

「透先輩?」

 

隣のランニングマシンでジョギング並みのスピードで走っていた戦妹(アミカ)の千佳が心配そうな表情でこちらを見ていた。

 

「どうした」

 

「いえ、透先輩。なんだか怖い顔をしてましたから・・・何か悩み事でもあるんじゃないかと思いまして」

 

どうやら表情に出ていたらしい。

 

今は千佳の為に割いている時間なのに他事を考えて、しかも気を遣わせてしまうなんて実に良くない。

 

「千佳の今後のトレーニングプランをどうしようかと考えていたんだ」

 

なので、咄嗟(とっさ)に思い付いた嘘でやり過ごそうとする。

 

しかし、言ってから気が付いたが、実際この先どうするべきだろうか。

 

白雪の護衛任務もアドシアードも終わったので、以前伝えたように今日から少しずつ指導を始める事にした。

 

今は、何事にも体力は必要不可欠なので、ランニングマシンによる基礎体力向上トレーニングを行っているところである。

 

その後に関しては、今のところノープランなのである。

 

些細(ささい)な事ではあるが、透の悩み事は増える一方であった。

 

 

 

 

 

第7男子寮505号室。

 

強襲科のシャワールームで汗を流した透は自身の部屋へと帰宅した。

 

いつものようにドアを開けると、玄関の光景に違和感を覚える。

 

靴が一足多いのだ。赤色のメリージェーン。

 

直近で部屋を出入りしていた女子はアリアと千佳。

 

しかし、2人の物ではない。透はこの靴の持ち主に心当たりがあった。

 

それを確かめるべく、透は靴を脱ぎ捨てて駆け込むように中へと入っていく。

 

()()!」

 

声を挙げながらリビングのドアを開けると、

 

「およ?」

 

ソファーでうつ伏せになり、ポッキーを食べながらテレビを見ていた理子が首だけこちらに向けてきた。

 

「あー、トオルンだぁ! おっひさー!」

 

動くのが面倒なのか姿勢はそのまま、武偵高のセーラー服姿だと言うのに無防備にもばた足をする理子。

 

そんな何事もなかったかのように応答する理子に、透は柄にもなくカチンと頭にきた。

 

「お前、今までどこにいたんだ! 何度も連絡したのに無視して!」

 

理子の性格はよく分かっている。普段なら、もっと冷静に対処できたであろう。

 

だが、今の透は美沙の事や正義の事で頭がいっぱいで気持ちに余裕がなかった。

 

(なか)ば八つ当たりするように、理子を怒鳴ってしまう。

 

「おー、トオルンが怒ってるぅ。めっずらしいー」

 

それでも茶化してくるので、透の怒りのボルテージは上がっていき、歩調を強めて理子へと近付いていく。

 

「俺がどれだけ心配したと────」

 

「───思ってるんだ」。そう言いかけて口が止まった。

 

理子がソファーから飛び起きて、抱き付いてきたのだ。

 

そして、

 

「透・・・ごめんね」

 

透の胸に顔を埋めるように謝ってきた。

 

「・・・・・・」

 

素直に謝られてしまった事で怒りの矛先がなくなった透は冷静になり、

 

「・・・生きていてくれて良かったよ」

 

そっと、理子の背中に両手を回した。

 

「ぷはー。トオルン成分接種かんりょー!」

 

30秒くらい経ってからだろうか、理子は透の胸から顔を離すと、「くふっ」と笑顔を見せてから素早く透の背後へと回り込み、ソファーへと突き飛ばした。

 

「は・・・!?」

 

いきなりの事で反応できなかった透はすぐに起き上がろうとするが、

 

「油断大敵ぃー」

 

仰向けになったところで、理子が透の上に(おお)いかぶさってきた。

 

「あはっ、トオルンの心臓すっごくはやーい。ドキドキしてるのが理子に伝わってくるよ」

 

「・・・早く降りろ」

 

首に両手を回され、左足を両足で絡まされ、身動きが取れなくなった透はそっぽを向きながら理子に言う。

 

「あれー、トオルン顔少し赤くない? もしかして理子で興奮してくれてるの?」

 

「・・・ノーコメントだ」

 

「いいよ? トオルンが望むなら今ここで始めちゃっても」

 

上体を起こした理子はセーラー服の白いブラウスをたくし上げようと手をかけた。

 

「そういう事は・・・大人になってからやれ」

 

透は理子の腕を掴み、制服を止める。

 

「トオルンってばホントにこの手の話に弱いよねー。理子も嫌がるトオルンとは遊びたくないし、今回も引いてあげるけど」

 

あーあ、とつまらなそうにしながら理子はまたがるのを辞めてソファーに座り直した。

 

「・・・それで、今まで何してたんだ」

 

透も体を起こして、理子の隣に並ぶ。

 

「んー? 別に何もしてないよ。ぼちぼちほとぼりも冷めてきたかなーって思って戻ってきただけだよ」

 

「俺に嘘をつくだけ時間の無駄なのは知ってるだろ。夾竹桃に俺には教えるなって、口止めまでして何をしていたんだ。俺には言えない事なのか?」

 

「・・・トオルンには、これ以上迷惑をかけたくなかったの」

 

ボソッと呟いた理子の一言を透は聞き逃さなかった。

 

()()()・・・のことか?」

 

一瞬躊躇(ためら)ったが、その名前を出すと、肯定するかのように、理子の身体がビクッと揺れた。

 

「矛盾・・・してるよね。本当は迷惑かけたくないのに、気付いたらトオルンを頼ろうとしてる・・・」

 

事の詳細を聞けば、面倒事が降りかかってくるのは分かっている。

 

それでも自分を頼りにしてくれて、小さな体を震わせている女の子を無視できる訳がない。

 

「・・・理子」

 

何より、理子がいたからこそ、今の自分がいる。

 

理子に出会わなければ、未だに荒んだ人生を送っていただろう。

 

「俺はお前が自由を取り戻す為の手伝いをしたい。だから、何があったのか教えてくれないか?」

 

()()()()・・・くれるの?」

 

()()()()()()くれ」

 

「・・・トオルンなら絶対そう言ってくれるって分かってたのに・・・本当ズルい女だよ理子は」

 

嬉しさと申し訳なさが入り交じったような表情を見せる理子。

 

そして、ANA600便で別れてからの事の顛末(てんまつ)を話し始めるのであった。

 






夾竹桃と平正義とを結びつけていたのは『毒』という事で実に夾竹桃らしいですね。
そして猛毒にも耐えられるという謎の二つ名も注目していきたい所です。


そして、次回は理子が美沙に射たれてしまった後の出来事を交えたお話となる予定です。

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