緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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リアルの方での環境の変化に伴い、またしても更新頻度が遅くなってしまいそうです。

もう少し要領良くやりたいんですがね。


さて、ここにきて意外な人物が今回のサブタイトルです。
どのような展開を持ってくるのでしょうか。


第49弾です。





第49弾~八代白夜~

 

────寒い。

 

 

雨風に(さら)されるホテルの屋上で、理子は目を覚ました。

 

イ・ウー執行部隊を名乗る狐面を付けた女に、左肩を矢で射抜かれた理子は少しの間気を失っていた。

 

寒気を感じながら、覚醒しつつある頭の中で、理子は意外にも身体を動かせる事に気が付いた。

 

上体を起こし左肩に触れると、思ったよりも出血は少なかった。

 

肩は、骨や神経が複雑に入り組んでおり、なかでも鎖骨下動脈は損傷すれば致命傷の危険性もある。

 

だが、この傷の具合を見るに後遺症は残らなさそうだ。少しだけ痛みはあるが、動かすこともできる。

 

()()()()()()

 

「・・・へっくしゅっ!」

 

寒さを感じるのも当然だ。

 

強い雨風の中、コンクリートの上で下着姿のまま眠っていたのだから。

 

とにかく今は暖を取ろう。

 

先の事は後から考える。

 

理子はびしょ濡れになってしまっている制服に着替え、チェックイン済みのホテルの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

風呂に入り、肩の応急措置も済ませた理子は丸2日寝込んだ。

 

状況が状況だっただけに、やはり熱が出てしまったのだ。

 

2日後、体調が元に戻った理子はイ・ウーへと帰還した。

 

しかし、

 

「あれ、理子さん? なんで君がここにいるの?」

 

声をかけてきたのは見知らぬ同世代くらいの少年。黒髪短髪で爽やかな印象はイ・ウーという裏組織にはとても似つかわしくない。

 

「誰だお前は」

 

男口調で切り返す理子だが、その少年の正体は何となく気付いていた。

 

「君、美沙ちゃんに()()されたはずだよね? どうして平然とした顔でイ・ウー(ウチ)に戻ってきてるのかな?」

 

執行────その言葉から確信する。やはりこの男も執行部隊の人間。

 

理子は顔を知らなかった事からそうではないかと思っていた。

 

だが、それよりもこの少年は今聞き捨てならない名前を言った。

 

「美沙?」

 

とても聞き覚えのある名前。

 

透の妹の名前だ。

 

理子が透からの依頼で、捜していたが全く手がかりを得られなかった人物。

 

もちろん、同名の可能性もありえるが、理子の捜査能力を持ってしても見つけられなかった秘匿性(ひとくせい)や情報として透から聞いていた弓矢を使うという点を加味すると、狐面の女は平川美沙だというのは十分にありえる話だ。

 

「そうだよ。知らなかった? 君がご執心な透君の妹だよ」

 

少年は理子を(あざけ)るように、正体をあっさりとバラした。

 

理子が美沙を捜していることを知った上で、言ってきたのだろう。

 

「で、何しに戻ってきたの? たかが一般の高校生武偵に負けた君に居場所なんかないよ」

 

先ほどまでの陽気な印象と打って代わり、冷酷な口調へと変化した。

 

「困るんだよね。君みたいな人がいると、イ・ウーの品位が落ちるんだよ」

 

そのセリフと共に少年は睨んできた。

 

「・・・あ・・・」

 

理子は何も言えなかった。

 

ただただ感じる()()に理子はその場から動けなかった。

 

「そういえば、ちょうど君に用があったんだよ」

 

恐怖を理子に与えたところで、鋭かった目付きはさらに細くなり、柔和(にゅうわ)な笑顔を見せる少年。

 

「ブラドさんからお願いされててね。君の()()()を取り上げて欲しいって」

 

「だ、ダメだ! これはお母さまが下さった大切なものだ! 絶対に────」

 

言っている途中で、理子の口が止まった。

 

目の前の少年は笑顔───なのだが、消えていたはずの殺気が再び漏れ出ているのだ。

 

「あ・・・」

 

これ以上、刺激すれば何をされるか分からない。

 

理子の意志とは正反対に、動物的防衛本能が働く。

 

気が付くと理子は震える手で、首に付けていた十字架を外すと少年に手渡してしまっていた。

 

「ん、ありがとう。じゃあ、これはブラドさんに渡しておくね」

 

殺気が無くなった少年は、まるで友達間の橋渡し役をするような感じでその場から離れていった。

 

「ちくしょう・・・」

 

理子は自分の無力さ、そしてブラドから逃れられない己の悲運を憎み、涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

「ごめん理子」

 

理子の話を聞き終えた透は、まず真っ先に謝った。

 

「どうしてトオルンが謝るの?」

 

「美沙が理子の事を傷付けた・・・妹の責任は、兄の俺の責任でもある」

 

「トオルンのせいじゃないよ。ていうか、美沙りんの事知ってたんだ」

 

ケガしてまで手に入れた情報だったのになー、なんて冗談混じりで笑う理子。

 

「トオルンと連絡するの避けてたのは、理子が美沙りんの事知っちゃったから。電話越しに伝えてもワケわかんなくなるだろうし、それに一度でも連絡返したら理子のこと捜そうとしちゃうでしょ?」

 

確かに今でこそ美沙の事は驚かなくなったが、何も知らなかった時にこの話を聞いていたら、冷静ではいられなかっただろう。

 

それ以前に、安否も心配だったので、理子の言う通りどうにか彼女を捜して接触を図ろうとしていたに違いない。

 

「どのみちしばらくは危険だって思ったから、ちょっと海外旅行してたんだー。あ、そうだ! これ紅茶とチーズケーキ。トオルンにお土産ねー」

 

ソファーの脇に置いてあった赤いランドセルをがさがさ漁ると、お土産とやらを次々に押し付けてきた。

 

いつもの調子の理子に戻りつつあることに、透は少し安堵(あんど)を覚える。

 

「それで、十字架はどうするつもりだ。ブラド相手に何か作戦でもあるのか」

 

「もっちろん! そこはりこりんだもん! 場所も分かったし、作戦も考えてる」

 

にやっ、と笑顔を見せた理子は言った。

 

「キーくんとアリアを巻き込んじゃおう!」

 

 

 

 

 

新宿駅の西口から高層ビル街の方へ、歩くこと数分。

 

オフィスビルが建ち並ぶ中、ポツン、と違和感を引き立たせる小さな喫茶店が一店あった。

 

聞くところによると、ビル街開発の際にこのお店も取り壊し予定だったそうだが、店主の意向が強く残ったそうだ。

 

朝や昼は特に繁盛しており、オフィス街で働くサラリーマンたちにとって憩いの場となっているとか。

 

狐の面を付けていない平川美沙は、いつものブレザー制服の格好でそのお店の中へと入っていく。

 

夜という事もあり、客足はまばらである。

 

「美沙ちゃん、こっちこっち」

 

ここの喫茶店で待ち合わせをしていた人物は奥のボックス席に座っていた。

 

黒髪短髪の10代後半と(おぼ)しき少年。

 

手を振って場所をアピールする姿はとても爽やかな印象を与えてくる。

 

「お待たせしてすみません」

 

美沙は初めに一言謝罪しつつ、向かいの席に腰を下ろした。

 

「僕もさっき来たところだから大丈夫だよ」

 

注文したアイスコーヒーをストローで混ぜながら、少年は特に気にした様子もせず答える。

 

「えっと・・・」

 

美沙は名前を呼ぼうとして、口ごもってしまう。

 

「ああ・・・ごめんね。()()『八代白夜』って言うんだ。改めてよろしくね」

 

この少年───現・八代白夜の本当の名前を美沙は知らない。

 

事情は分からないがその時々によって名前が変わるようだ。

 

素性も不明だが一つだけハッキリしていることは、所属している『イ・ウー執行部隊』において、自分よりも立場が上だということ。

 

「それで、お話というのは」

 

「この前の事だよ」

 

この前・・・ジャンヌの執行を失敗してしまった事を思い出し、美沙はビクッと肩を震わせる。

 

「あ、そんな堅くならないで。ジャンヌさんの執行を止めろって言ったのは僕なんだし。そこを責めるつもりは全然ないよ」

 

「はい」

 

「それにしても、ジャンヌさんにも困ったもんだよね・・・せっかく、僕がアリアさんを引き付けて時間稼ぎまでしてあげたのに、もっと素早く(さら)えなかったのかなぁ」

 

「しかし何故、わざわざ八代さん自らがジャンヌさんの為に動かれたのですか?」

 

これまで八代が執行に関する事以外で、行動に移す姿を見たことがなかった美沙は少なからず疑問を覚えていた。

 

知らないところで他に暗躍(あんやく)しているかもしれないが、美沙の中では初めての出来事であった。

 

「単純な話だよ。星伽白雪さん・・・彼女自身の戦闘能力と『星伽』という組織。それらが手に入ればイ・ウーは組織としての地位がより高まる」

 

「ですが、ジャンヌさんの失態によりそれは不可能となってしまいました。やはり今からでも執行すべきでは」

 

「いや、いいよ。ジャンヌさんのターゲットが白雪さんだってたまたま知ったから、あわよくばって思っただけだし、『星伽』の力が絶対に必要って訳じゃないからさ」

 

「そうですか」

 

「話が()れちゃったね。本題に入るとしようか」

 

話を一区切りさせた八代は、アイスコーヒーを2口程飲み、ニコッと微笑んだ。

 

その貼り付けただけのような笑顔を見た美沙は背中から嫌な汗が出るのを感じる。

 

「美沙ちゃんを今日呼んだのは他でもない。向こう側にいた()()の平川透君のお話だよ」

 

兄の名前が挙がった事に、ドクンッ、と鼓動が一度大きく跳ね上がったのを感じる。

 

敵側にいた平川透を名乗る少年は髪色こそグレーに染められていたが、顔と声は美沙が知る兄そのものであった。

 

でも、それはありえない話なのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

無惨な姿をした父親と見知らぬ男2人の死体の中で血塗れになって一緒に倒れていた。

 

「美沙ちゃん、彼を見て動揺しちゃってたよね。ダメだよ。前にも話したと思うけど、彼は君のお兄ちゃんの名前を語る偽物なんだから」

 

「はい、それは分かってます。でも一体何のために」

 

「それは僕も分からないよ。でも、変装や変声は僕らもできるような技術だ。彼はそれらを使って君のお兄ちゃんのフリをしてるんだよ。許せないよね?」

 

もし、八代の言っている事が本当ならもちろん許せない。

 

生前、透が愛用していた『鎌鼬』まで使っていた。

 

そうまでして透に成りきろうとするのは、侮辱も良いところである。

 

しかし、彼に()()()()()時、美沙はどこか懐かしさを感じた。

 

本当に偽物なのかと思ってしまう程の感情をぶつけられた気がした。

 

「まあ、僕としては君が確実に仕事をこなしてくれるならそれで良いんだけど。もし、彼がいることで今後もヘマするような事があるなら透君を殺して()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「・・・問題ありません。八代さんのご命令はちゃんと遂行します」

 

「うん、それならよし。話はこれでおしまい。何か注文しなよ。ここコーヒーも良いけど、パフェも美味しいんだよ」

 

「いえ、結構です。失礼します」

 

美沙は出された水も口に付けず、席を立った。

 

出入り口に向かっていく美沙を見ながら八代は呟いた。

 

「僕もバカな事を言ったなぁ」

 

そして、アイスコーヒーを一気に飲み干した。

 

 

()()()()()()()()なんて僕にだってできないのに」

 






アリアの時から露骨に怪しさを出していた八代ですが、やはりイ・ウーの人間でしたね。

透を偽物呼ばわりする真意とは?

美沙の目的とは?

そして、八代が最後に呟いた意味深な一言。


様々な疑問点が新たに浮き彫りになってきました。
少しずつ2年前の真実に近付いて行ってる感はありますね。

全て明らかになるのはまだ先になるとは思いますが、お付き合い頂けたらと思います。

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