前回から時間が空いてしまいましたね。
待っていてくださった方はお待たせしました。
第50弾です。
早朝、透はソファーの上で目を覚ました。
昨夜、理子はこの部屋に泊まり、透のベッドに潜り込んで「くん・・・くん。はああぁ・・・トオルンのニオイだあ・・・理子これ好き、大好きぃ・・・」なんて言いながら抱きついてきたものだから、そのまま寝ることもできずに、寝静まった夜中にそっと抜け出し、ソファーで寝直していた。
(ねむ・・・)
おかげさまで寝不足なのだが、また授業中にでも寝よう。
イ・ウーにいた頃に知ったのだが、どうも夜型の体質なようで昼間の方が安眠しやすいのだ。
授業の睡眠計画を立てながら、透はゆっくりと朝食の準備に取りかかる。
テレビでニュースを観ながら、朝食を取り、その後はパソコンを開くルーチン。
パソコンを開いてから気付く。
(そういえばもう調べる必要もないんだよな・・・)
美沙は見つかった。生きている事が分かった。
後はアリアたちと協力して、イ・ウーの人間を逮捕すれば、自ずと向こうからやって来てくれるはず。
透はパソコンを閉じてから、『鎌鼬』をテーブルの上に置いた。
鞘から抜くと、刀身が半分になった『鎌鼬』が姿を見せる。鞘を傾けると、刃先側のもう半分が出てきた。
(さて、どうしたものか・・・)
折れてしまった刀を元に戻す事はできない。
溶かして材料として使用し、全く違う1本を作る事は可能である。
だが、それは『鎌鼬』として復活するのだろうか。
一振りすれば、『風の刃』は出るのだろうか。
脇差や短刀にする考えもあるが、同じように『鎌鼬』として使うことが出来るのだろうか。
(一度試してみるか)
透は理子の朝食と書き置きを残していつもより早めに家を出た。
○
アリアも良い場所を教えてくれたものだ。
透は以前、
相変わらず
途中、コンビニで買ってきた缶ジュースを縦に積み上げていき、即席の
使い手の透も『鎌鼬』の攻撃を
「『鎌鼬』」
刀の柄を握り、的目掛けていつも通り振るってみるも、缶が崩れる事はなかった。
それならばと刃先側を手に取り、振ってみるも結果は同じであった。
やはり
恐らく、新しい一本に作り直しても、脇差や短刀にしても、ただの日本刀として復活するだけである。
しかし、刀を通じて透は感じていた。
『
もしかすると、
透は目を
カッ、と目を開き、柄をしっかりと握りしめ大きく振るった。
「『鎌鼬』!」
直後、一番上に乗っていた缶が破裂し、
○
時刻は現在午後7時30分。
今日の授業も快眠で、午後からは
昨夜、ブラドから十字架を盗み出す為に、キンジとアリアを巻き込むと言っていたがその下準備らしい。
「トオルンおっまたー」
外壁から動力つきのワイヤーを使って、理子が屋上へとやって来た。
「随分と派手な登場だな」
フェンスの向こう側に足を着けた理子は「まあねー」なんて答えながら、ワイヤーを切断する。
そして、フェンスを登り、頂上に腰を掛けて足をプラプラさせ始めた。
少ししてから────
「理子!」
ばん! と怒りを
その後ろにはキンジもいる。
「あぁ・・・今夜はいい夜。オトコもいて、
すっ、と理子の目が鋭くなる。
それは、獲物を前にした獣のような目。
「峰・理子・リュパン4世───今度こそ逮捕よ! ママの冤罪、
アリアは、白銀のガバメントを理子に向ける。
「やれるもんならやってみな。
にやぁー、と白い歯を見せて笑った理子が、ぽん、とフェンスから屋上に降り立つ。
「言ったわね。
と、2人はイギリス人とフランス人の
雲に月明かりが
理子が、駆け出した。
それを見たアリアも、二丁拳銃を発砲しながら、理子の正面に突っ込んでいく。
「くふっ!」
初弾を側転で
そして、その場で
がちゃっ、と理子が背負うランドセルが空中で開いた。
中からは、ワルサーP99が2丁滑り出てきて、理子の小ぶりな両手に握られる。
バッ!
ババッ!
振り返りざまのアリアと理子の銃弾が、お互いの脇を通過する。
武偵と武偵の近接戦には、通常の拳銃戦とは全く異なる戦闘技術────アル=カタというスキルが用いられる。
防弾服の着用を前提とし、銃弾を打撃技として使う格闘術なのだ。
「透、お前は
頭に血が上り、透の
「俺は、『灰色』だよ」
「・・・そうか」
ひねくれた回答に対しても、落ち着いた声で納得するキンジ。
雰囲気から分かっていたが、既にHSSの状態になっている。
理子はキンジに対して
心が少しモヤモヤするのを感じた。
「遊ぼ遊ぼ、
「こ・・・このおっ!」
銃弾がお互いの身体を捉えようとせめぎ合う。
しかし、当たらない。
とてもハイレベルな二丁拳銃同士のアル=カタ戦である。
発砲音が────
手持ちの弾を全て撃ち尽くしたらしい2人が、一旦、距離を取った。
2人は拳銃をスカートの中のホルスターに収めると、それぞれ2本の小太刀と2本のナイフを抜く。
「あんたブサイクだから、いま気付いたんだけど」
アリアがちょっと背を
「髪型、元に戻したのね」
先程、おチビちゃんと言われたことに皮肉で言い返しているのだろう。
アリアは先日のハイジャックで自分が切断した、理子のツーサイドアップのことを持ち出した。
今の理子は改めて髪の毛を
「よく見ろオルメス。テールが少し短くなった。お前に切られたせいだ」
男喋りで言った理子に、アリアはわざとらしくほほほと笑った。
「あら。ごめんあそばせ」
「言ってろ、チビ」
「何よブス」
「チビチビ」
「ブスブスブス!」
「チビチビチビチビ」
「ブスブスブスブうっぷぇ!」
アリアが舌を噛んだことで、子供の口喧嘩が終わり────
「そろそろか・・・」
キンジがタイミングを見計らっていたかのように、目配せをしてきたので、そうだなと透は頷く。
今のやり取りでお互いしか見えなくなったアリアと理子が疾風のように距離を詰めた、その間に透とキンジが割り込んだ。
アリアの日本刀は、キンジのバタフライナイフで受け止められ、理子のナイフは透の鞘入りの『鎌鼬』によって止められた。
2人の行動に、アリアは犬歯を剥いて驚いた表情をし、理子は、フンッ、と鼻を鳴らす。
「悲しいよ」
キンジの低く
「キ、キンジ・・・! あんた、また・・・?」
アリアは、キンジが
「今は
「・・・こ、こね、こね、ね・・・?」
喉の奥から漏れ出る声は、言葉になっていない。
鍔ぜっていた刀も優しくキンジに押される程、手から力が抜けていた。
「───という訳で、
アリアが戦意喪失となったので、透は理子に呼びかけた。
理子は本気で戦っていなかった。
本気だったなら、ハイジャックの時に見せた髪で武器を操る『
だが、彼女は
「はーい」
生返事をした理子は透たちから一歩退き、ナイフを頭上に放り投げた。
「キーくんは気付いたと思うけど」
と前置きをした理子は、背中のランドセルを振ってカバーを開け、落ちてきた2本のナイフを見もせずに中に受け止め、頭を振ってカバーを閉じた。
「今の理子は万全じゃない。だから、アリアとは・・・まだ決着をつける時じゃないんだよ」
「そうかい」
呟いたキンジは、バタフライナイフを手のひらの中で回転させ、刃を収めた。
「───アリア。理子と戦っちゃダメだ」
「キ・・・キンジ!? あ、あんた理子に何されたの!? ────どうして止めるのよっ!」
と犬歯を剥いて怒るアリアは、キンジが理子に寝返ったと
「
なので、透が早々にキンジのフォローへと回った。
「理子は4月の事件についてはもう司法取引を済ませている」
「そうなのです! つまり理子を逮捕したら不当逮捕になっちゃうのでーす!」
ちっちっち、と立てた人差し指を口の前で振る理子。
それに対して、アリアはぎりぎり、と歯ぎしりして二刀流の刀を怒りに震わせた。
「ウソよ! そんな手にあたしが引っかかるとでも────」
「ウソかもしれないが、本当かもしれない」
そのアリアを、キンジが制止する。
「透、理子の言っている事は
司法取引の有無の確認手段として、キンジは透の嘘を見破る力を利用してきた。
キンジがその力を信じているのか定かではないが、透を信用しているアリアを黙らせるには効果的だろう。
「ああ、嘘はついてない」
その考えを
事実、理子は司法取引を済ませている。
透の言葉を聞くや否や、アリアは悔しそうな声を喉から出しつつも、キンジの策略通り黙ってしまった。
だがそれでもアリアは、右の刀を突き刺すように理子へと向けた。
「でも、ママに『無偵殺し』の濡れ衣を着せた罪は別件よ! 理子! その罪は最高裁で証言しなさい!」 「いーよ」 「イヤというなら、力ずくでも・・・って・・・え?」
アリアはセリフの途中で割り込んだ理子の声に、その
「証言してあげる」
「ほ・・・ほんと?」
再び言った理子に、アリアは疑うフリをしながらも嬉しさを隠しきれていない。
「ママ・・・アリアも、ママが大好きなんだもんね。理子もお母さまが大好きだから分かるよ。ごめんねアリア。理子は・・・理子は・・・」
そこまで言うと理子は顔を伏せ、
「お母さま・・・ふぇ・・・えぅ・・・」
足元に、涙を落とし始めた。
「・・・ふえぇえぇええぇえぇ・・・!」
理子はいきなり、泣き始めたのだ。
ぐしぐし、と手の甲で目元から溢れる涙を
「え・・・えっ・・・えっえっ?」
そんな理子に、アリアは自分の目の前で何が起きているのか分からずオロオロとしている。
「ちょ、ちょっと。なに泣いてんのよっ。ほ、ほら・・・何よ。ちゃんと話しなさい」
制服の背に寸詰まりの日本刀を収めると、アリアは泣きじゃくる理子に母性でも目覚めたのか、なだめるような口調になっている。
理子が泣く理由も事情の背景も知っている透は、その理子の姿を見て心を痛める。
・・・普段なら。
よく見ると、理子はニヤッと口の端が笑っているのだ。
とどのつまり嘘泣き。
アリアを
「理子、理子・・・アリアたちのせいで、イ・ウーを退学になっちゃったの。しかも負けたからって、
ぴりっ、と周囲の空気が張り詰める。
「・・・ブラド。『無限罪のブラド』のことよね・・・!」
アリアからの視線に透は頷いた。
「理子はブラドから宝物を取り返したいの。だからキーくん、アリア、理子を
きらきら、と涙に濡れた瞳を2人に向ける理子。
「・・・
とキンジが訊くと、理子はごしごしと手の甲で目元を
「泣いちゃだめ理子。理子は本当は強い子。いつでも明るい子。だから、さあ、笑顔になろっ」
などとわざとらしく独り言し、満月を背に───
「キーくん、アリア、一緒に────」
にやっ、と笑顔になって言った。
「
これまでのように『鎌鼬』を使う事はできませんが、何か条件次第では使用可能みたいですね。
今後も不定期・亀更新が続くと思いますが、お付き合いの程よろしくお願いします。