緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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なかなか上手く進められない今日この頃。


更新頻度も再び下降気味ですが、ゆっくり気長にお待ちして頂ければと思います。


第51弾です。




第51話~メイド~

武偵少年法により、犯罪を犯した未成年の武偵の情報は公開が禁止されている。

 

そのプロフィールをやり取りすることは武偵同士の間でも禁忌(きんき)とされ、知ることができるのは被害者と司法関係者のみである。

 

故に、透とアリアとキンジは、あのハイジャックの犯人が理子だとは誰にも言っていない。

 

そして、翌日の一般科目の授業が終わった後。

 

「たっだいまぁー!」

 

いきなり、ヒラヒラの改造制服で教室に現れた理子に2年A組は、わぁー! と、盛り上がりを見せた。

 

気持ち良く睡眠していた透も、この騒ぎでさすがに目覚める。

 

理子は4月から長期の極秘犯罪捜査でアメリカに行っていて、昨日帰ってきたという設定のようだ。

 

「みんなー、おっひさしぶりー! りこりんが帰ってきたよー!」

 

教壇に上がってくるりんぱっと回った理子に、クラスメイト達が喜んで集まっていく。

 

「理子ちゃんおかえりー! あーこれなにー?」

 

「えへへー。シーズン感を取り入れてみましたー!」

 

理子は赤ランドセルを背負っていて、その側面にてるてる坊主をぷらぷらとさせていた。

 

透にはイマイチ分からないが、女子には「かわいー!」と大ウケであった。

 

「峰さんがいると、やっぱりクラスも明るくなるね」

 

隣の席の不知火が、爽やかな笑顔を見せながら声をかけてきた。

 

「・・・そうだな」

 

性格は明るく、おバカキャラな理子はクラスのマスコット的存在で人気者。

 

本性を知らない人間から見れば、そう思うのも当然だろう。

 

「くふっ。トオルンもおいでよー!」

 

クラスメイト達にちやほやされながら手招きしてくる理子から、透は目を逸らした。

 

「お呼ばれみたいだよ」

 

「いや、いい」

 

下手に事を荒立てたくない。

 

机に顔を突っ伏して怒りに震えながら鉛筆をへし折るアリアの姿を見て、透はそう思った。

 

 

 

 

 

放課後、帰宅したアリアとキンジ、そして部屋にお邪魔している透。

 

「あー腹立つはむぅ!」

 

「全くだ」

 

「理子にはいずれ、オシオキが必要ねはむぅ」

 

「おう。やれ、やっちまえ」

 

「そしてはむ、はむぅ、風穴地獄にはむぅ」

 

「なんだか凄そうな地獄だが、おいアリア。そのくらいにしとけ。腹壊すぞ」

 

「うるふぁい!」

 

ソファーに腰掛け、1はむぅ=1ももまんのペースでやけ食いをするアリアにキンジが注意するが、口の周りに(あん)をつけまくりの顔で怒鳴られていた。

 

「で、いいのかお前は。理子は俺たちに盗みの片棒(かつ)ぎをさせるつもりだぞ」

 

アリアから最も離れたソファー部分に腰を降ろしたキンジは、腫れ物に触るような感じに、アリアに尋ねた。

 

「よくないに決まってるでしょ。リュパン家の人間と組むなんて、ホームズ家始まって以来の不祥事になるわ。けど、理子がママの裁判で証言するって言うんだから・・・これも必要悪と割り切って、本当にやってもいいと思ってる」

 

「柔軟なのは結構なことだけどな。泥棒はつまり窃盗罪だ。前科一犯つくんだぞ。まぁ、武偵なんて、その辺が身綺麗なヤツの方が少数派だけどな・・・それも覚悟の上か?」

 

キンジの言葉に透は思い出してしまう。

 

過去に自分が窃盗罪なんて比較にならない大罪を犯した事を。

 

物的証拠などはないし記憶もないが、人を殺してしまっている事を。

 

「ああ。そこ。そこは心配しなくていいのよ。これは犯罪にはなり得ないわ」

 

「・・・何でだよ?」

 

「理子が言ってた『ブラド』ってのは、イ・ウーのナンバー2───相手がイ・ウーなら、もはや法律(ほう)の外。仮に窃盗容疑で逮捕されても起訴されないわ」

 

「ど・・・どういうことだよ?」

 

キンジは驚いた様子で尋ねるが、アリアは頭の後ろで腕組みをして、それ以上は何も言わない。

 

それならばと透に目で訴えかけてくるが、透もアリア同様、口を閉ざしたままだ。

 

「・・・っていうか、いい加減そのイ・ウーとやらについて教えろよ。まあ、おおかた秘密結社か何かだとは思うが・・・俺がイ・ウーの事を聞くといつもすぐはぐらかすのは何でだ。一時的にとはいえチームを組むかもしれないのに、俺だけ()()()って法はないだろ」

 

「・・・だめ。教えられないわ」

 

「パートナーの俺にも教えられないのか」

 

「パートナーだから教えられないの」

 

「なんだそれ」

 

「聞いたら、あんた、消されるわよ」

 

「・・・殺される、って意味か?」

 

「それで済まない。戸籍、住民登録、銀行口座、レンタルショップの会員情報に至るまであんたの痕跡は全て消える。あんたは()()()()()()()ことになる、この国に」

 

「何だって・・・?」

 

「・・・現に美沙───俺の妹は戸籍が無くなっていた。どういう理由で生かされてイ・ウーにいるかは分からないが、アイツはこの世にいない人間になってる」

 

透という証人の言葉にキンジは何も言えなくなってしまう。

 

それだけ危険な組織だということを理解したようだ。

 

「それに、イ・ウーの事はイギリスでも王国A機密。日本でも特Ⅰ級国家機密だわ。ヘタに知って公安0課や武装検事に狙われたくないでしょ?」

 

公安0課。武装検事。

 

どちらも国内最強の()()()。職務上で人間を殺しても罪に問われることのない、いわゆる『殺しのライセンス』を持つ、闇の公務員である。

 

「そんなことよりね、キンジ、透」

 

キンジが黙ったままでいると、アリアは今の会話をなかったことにするように続けた。

 

「あんたたちはどうするの。やるの?」

 

「俺の目的は元よりブラドだ。当然やるつもりだ」

 

かなえに冤罪を着せた1人でもあるブラドに近付けるとあれば、アリアも協力するはずだ。

 

それならば、透も断る理由はない。対峙する事になった場合、全員で協力してブラドを逮捕する。

 

「まあ、あんたはそうよね。で、キンジは?」

 

「あ・・・ああ。俺もやろうかな」

 

「ふーん。なんで理子を手助けするのよ」

 

「それは・・・お前に関係ないだろ」

 

「・・・カワイイ子に泣きつかれたから、助けるってわけ?」

 

「なんだよそれ。それはどちらかと言えばお前だろ。泣いて済むなら武偵はいらない」

 

「じゃあ、なんでよ」

 

アリアに言われて、キンジは再び黙る。

 

キンジが理子に力を貸すのは、兄である────遠山金一の情報のためだろう。

 

キンジは、金一が去年の浦賀沖海難事故で死んだと思っていた。

 

しかし、透から一度だけ生きていると伝えており、理子もそれをエサにキンジを利用すると言っていた。

 

「キンジ? どうしたの」

 

「あ、いや・・・お前には関係ないことだ」

 

個人的な問題だからだろう、適当にはぐらかすキンジ。

 

「────()()()()()()()()

 

それに対して、アリアは不機嫌そうに呟き、

 

「ふん。あんたが言わなくてもだいたい分かるわよ。理子はブリッ子だから、男子ウケがいいもんね。むっ、むっ、胸もあるし」

 

的外れな事を言い始めた。

 

「武偵は闇、毒、女に堕ちる。あんた・・・昨日の夜、あの部屋で、り、り、理子に・・・へ、へ、ヘンなことされて、トリコになったんでしょ!!」

 

びしっ! とアリアに指を指されたキンジは、見当違いな推理に思わず目が点になっていた。

 

「ど、ど、どんなハレンチなことをされたのよ! 包み隠さず白状しなさい!」

 

「なんだそれっ」

 

「ちゃ、ちゃんと話しなさいっ! な、な、なにをされたのっ!」

 

「待て、待て。なんでお前がそんなこと聞きたがるんだ」

 

「え、あ、それはその、う・・・うるさいうるさい! こッ────このピンク武偵!」

 

最早、お決まりとなりつつあるアリアの勘違いからのケンカ。

 

巻き添えを食う前に、透はそっとキンジの部屋から退散するのだった。

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませご主人様♪」

 

「お、お帰りなさいませっ。ご、ご主人様!」

 

寮の部屋を間違えただろうか。

 

透が帰宅してリビングのドアを開けるとメイド服を着た女の子が2人出迎えてきたのだ。

 

「・・・なにしてるんだ」

 

突拍子もない展開に戸惑いながらも、そのメイドさんが理子と千佳であった事から自分の部屋であることを確信する。

 

黒を基調としたミニスカートタイプで、(えり)・袖口・胸元は白を配色したフリルが付いた理子好みのゴスロリ系メイド服を2人は着用していた。

 

千佳の方はサイズが合っているようで恥ずかしそうにしながらもバッチリ着こなせているのだが、理子が着ている方は明らかにブカブカでサイズが合っていない為、違和感を覚える。

 

「もートオルン反応が薄いぞー。これはねぇ、()()()()()がどうしてもやってみたいって言うから理子が付き合ってあげてたの」

 

理子がチラチラニヤニヤと千佳を見ながら説明を始めると、

 

「ちちち違いますよ!? 何言ってるんですか理子先輩! これは透先輩がメイド服が好きだって理子先輩が言ったから、その・・・・・・」

 

千佳は顔を赤らめながら、大慌てでそれを否定した。

 

「別に好きでもなんでもないが」

 

透が冷静にそう答えると、千佳は「え?」と固まってしまう。

 

「そもそも仮に俺がメイド服を好きだったとして、なんでお前が着る必要がある」

 

透にそう突き詰められると、千佳は「それは、その・・・」なんて口ごもり始める。

 

その様子を見た隣の理子は笑いを(こら)えようと必死に口を閉ざしている。

 

しかし、我慢の限界がきたのか、

 

「ぷふー」

 

と、笑いと空気が抜ける音が混ざったような間抜け声を発した。

 

その音声を聞いた千佳はようやく、理子にからかわれていたことに気が付いたようで、

 

「り、理子先輩! 騙したんですね!」

 

顔を真っ赤にして、瞳を(うる)ませていた。

 

「いやー」

 

やり過ぎと感じたか、これ以上は可哀想と思ったか、理子は間延びした声を出しながら透を見てきた。

 

「実を言うとね、最近トオルンが元気ないから、何か出来ることはないかってせんちゃんが相談してきたんだよ。つまりはそゆことなのです」

 

そうだったのか。どうやら自分が思ってた以上に、表情に出してしまっていたようだ。

 

透としては千佳に一度指摘されたので、彼女の前ではいつも通りのつもりだったのだが。

 

ともあれ、千佳は透を元気付けようとしてくれていて、理子が悪ノリした結果、メイド服を着る羽目になったという事らしい。

 

「・・・何か色々とすまない」

 

余計な心配をさせた事。理子の入れ知恵でコスプレさせられた事。それらに関して透は謝った。

 

「謝罪なんかよりもさー」

 

「きゃっ!」

 

「もっと他に言うことあるんじゃない?」

 

理子が千佳に飛び付き、身体をまさぐり始める。

 

「せっかくかっわいいメイド服着てるんだからさぁ」

 

「り、理子先輩!? ひゃん!」

 

「感想とかないのー?」

 

「あ・・・それは! や、やめてください!」

 

その短いスカートに手を伸ばした理子は裾をあげようと引っ張るが、千佳が必死に両手でそれを阻止する。

 

見かねた透は溜め息をついて、2人に近付き、

 

「みゅっ!」

 

理子にデコピンをかまし、荷物をソファーに置いた。

 

「あまり俺の戦妹(アミカ)をいじめるな」

 

「ちぇー」

 

理子はしぶしぶ千佳から離れて、ポフッとソファーに座る。

 

「それと千佳」

 

「は、はい」

 

「よく似合ってると思う」

 

一言、感想を述べた透はそそくさとキッチンへと移動し、コップ一杯の水を飲んだ。

 

「おおー、せんちゃん良かったねぇ。トオルン褒めてくれたよぉ」

 

「うぅ・・・今になってまた恥ずかしくなってきました」

 

「ところでだ」

 

女子2人が再び盛り上がる気配を見せたので、透は割り込み、話を方向転換させる。

 

「千佳、お前は今日テスト勉強に来たはずだろ。やらなくていいのか」

 

明日、武偵高では中間テストがある。

 

千佳は電車通学なので、少しでも勉強時間を稼ぐ為に、今日は泊まりがけで勉強をさせてもらいたいとお願いしてきたのだ。

 

「あっ・・・そうでした! すぐに着替えてきます!」

 

理子に乗せられてすっかり忘れていたのだろう。

 

千佳は大慌てでリビングを出て行った。

 

「・・・で、お前は何をしに来たんだ? 千佳とは知り合いなのか?」

 

千佳を見送った透は、理子の対面に座った。

 

「トオルンってば、理子がいない間にあんな可愛い後輩ちゃん部屋に連れ込んでるなんて、ビックリしちゃったよぉ」

 

「話を()らすな」

 

「せんちゃんとは、さっき仲良くなったばかりだよ」

 

普段の理子は、クラスメイトから人気があるように、初対面でも心を開きやすい性格をしている。

 

勉強しにきた千佳は、偶然にも理子と鉢合わせて、上手いこと手懐けられてしまったという状況が容易に想像できる。

 

「でも、あの()気を付けた方がいいよ? 理子がトオルンの元パートナーだって話したらすぐに信じちゃったし、警戒心足りなさすぎ」

 

「分かってる。今のアイツは武偵としてのスキルが全然ない。戦兄妹(アミカ)として一緒に行動するのはまだ危険だ」

 

透自身、千佳と一緒に過ごしているうちに戦兄妹のメリットなどが理解出来てきたので、正式に戦兄妹契約をしてもいいと思っていた。

 

しかし、現時点での千佳は体力もなければ、銃の扱い方も危うく感じる。

 

しばらくは仮戦兄妹のまま、最低限のラインまで教育していくのが無難だと透は考えているのだ。

 

「誰とも戦徒(アミカ)契約する気はないとか言ってたのに・・・変わるもんだねぇ」

 

よいしょっと、と理子は立ち上がり赤いランドセルを背負った。

 

「帰るのか?」

 

「うん。ちょっと作戦の事でトオルンに話したい事があったんだけど、今日はせんちゃんもいるし、また今度にする」

 

「それなら俺がそっちに行こうか」

 

透も一緒に出ようとして、立ち上がるが、

 

「明日でいーよ。それよりも、せんちゃんホントーにトオルンの事心配してたんだから、ちゃんと構ってあげるのだぞ」

 

理子に制止させられる。

 

そしてすぐさま「じゃね~」と言って、足早に部屋から出て行った。

 

「すみません。お待たせしました」

 

そこに、入れ違いで制服に着替え直した千佳がリビングに戻ってくる。

 

その手には、先ほどまで着ていたメイド服が畳まれた状態であった。

 

「それ返さなかったのか?」

 

「あ、はい。理子先輩が貰っていいって言ってくださって」

 

でも、いつ着れば良いんでしょうか。そう言って千佳は苦笑いをする。

 

「そもそも何でそんなものを持ってたんだか・・・」

 

「理子先輩は『ちょうど良かった』なんて言って取り出してたので何か別の要件でもあったのでしょうか?」

 

別の要件・・・すなわち今度の泥棒作戦の話が目的で来た事は、先ほどの会話から間違いない。

 

結局、千佳がいた事でその要件はキャンセルになった訳だが。

 

(・・・ん?)

 

透はここで妙な胸騒ぎを覚える。

 

千佳がいた事は理子にとってはイレギュラーだった訳で、千佳のメイド服も彼女の為に用意していた物ではない。

 

じゃあ本当は誰の為に、用意していたのか。

 

同時に理子が着ていた()()()()()()のメイド服を思い出す。

 

その先は・・・考える事を止めた。

 

「千佳、ありがとう」

 

「え?」

 

千佳がメイド服を着てくれた事に、透は感謝するのであった。





千佳が居合わせてくれたお陰でなんとかメイド服を着ずに済んだ透くんですが、そもそも用意されてる時点でおかしいんだよなぁ、と匂わせつつ次回に続きます。

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