緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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やっと、白雪さん出せました\(^-^)/





第6弾~ドレイ宣言~

「ここがキンジの部屋なの?」

 

アリアと透は第3男子寮のキンジの部屋と思われるドアの前に立っていた。

 

「そのはずだ」

 

郵便受けで部屋番号を確認してきたので、間違いはないはずである。

 

 

そのことも理解しているアリアがピンポーンとチャイムを鳴らす。

 

しかし、誰も出る気配がない。

 

「ほんとにここであってるの?」

 

ピンポンピンポーン。今度は二連続で鳴らしてみる。

 

やはり出ない。

 

 

ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン! ピポピポピンポーン!

 

「誰だよ・・・」

 

鳴り止まないチャイムの嵐に観念したのか、キンジがドアを開けて顔を出す。

 

「遅い! あたしがチャイムを鳴らしたら5秒以内に出ること!」

 

「か、神崎!? それにお前は・・・」

 

「平川透だ。同じクラスなんだがな」

 

そうだったのか。今朝、アリアが隣の席に来てからキンジは彼女に脅え、男子達からは敵意の視線を向けられ、他人の自己紹介など気にしている余裕はなかった。

 

「アリアでいいわよ」

 

アリアはすーっとキンジの断りもなく、部屋の中へと入っていく。

 

「待て、勝手に入るな!」

 

「邪魔する」

 

「お前もだ、平川!」

 

トランクを持った透もアリアに続いて入る。

 

「あんたここ、一人部屋なの?」

 

アリアは洗面所、寝室と手当たり次第に部屋を確認してリビングの一番奥、窓の前まで侵入していった。

 

この部屋は本来四人部屋なのだが、キンジが強襲科(アサルト)から探偵科(インケスタ)に転科したこと、そして相部屋になる探偵科の男子がいなかったので、一人で使っている。

 

「まあいいわ」

 

くるっと、夕日を背景に振り返ったアリアはキンジ、透、両二名を指差した。

 

「──キンジ、透。あんたたち、あたしのドレイになりなさい!」

 

 

しばしの沈黙の後、キンジから漏れでた言葉は

 

「・・・は?」

 

という一言である。

 

ありえん。助けてくれたと思ったら、拳銃や小太刀で襲うわ、隣の席に座ってくるわ、挙げ句の果てに家に押しかけてドレイになれ宣言。

 

「ほら! さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ! 無礼なヤツね!」

 

アリアはソファーに座り、キンジに命令する。無礼なのは一体どっちだろうか。

 

「コーヒー! エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ! 砂糖はカンナ! 1分以内!」

 

魔法の呪文かよ。簡単には出て行ってもらえないと直感で分かったキンジは仕方なしにインスタントコーヒーを用意する。

 

「ほら」

 

「俺も貰って良いのか」

 

「お前だけ出さない訳にもいかないだろ」

 

散々迷惑をかけているにも関わらず、大人の対応をみせるキンジに透は感心した。

 

「これホントにコーヒー?」

 

一方でアリアは出されたコーヒーを訝しんでいた。

 

「・・・ヘンな味。ギリシャコーヒーにちょっと似てる・・・んーでも違う」

 

「味なんかどうでもいいだろ。それよりだ」

 

キンジも真向かいのソファーに座り、アリアと対面する。

 

「今朝助けてくれたことには感謝してる。それにその・・・お前を怒らすようなことを言ってしまったことは謝る。でも、だからってなんでここに押しかけてくる」

 

「分かんないの?」

 

「分かるかよ」

 

「あんたならとっくに分かってると思ったのに。まあいいわ。そのうち思い当たるでしょ」

 

そこまで話すと、アリアはソファーの手すりにもたれかかった。その女性らしい仕草にキンジは一瞬ドキッとし、慌てて目をそらす。

 

「おなかすいた。なんか食べ物ないの?」

 

「ねーよ」

 

「ないわけないでしょ。あんた普段なに食べてんのよ」

 

「食い物はいつも下のコンビニで買ってる」

 

「ああ、あの小さなスーパーのことね。じゃあ、行きましょ」

 

「じゃあってなんだよ」

 

「バカね。食べ物を買いに行くのよ。もう夕食の時間でしょ」

 

会話が噛み合わないのは今に始まったことではない。透もここに来るまでに会話の成立にどれだけ苦労したか。

 

「ねえ、そこって『ももまん』売ってる? あたし食べたいな」

 

 

 

 

 

ももまんとは一昔前にちょっとブームになった桃の形をしたあんまんである。

 

アリアはコンビニで余っていた7つを買い、既に5つを平らげていた。

 

「・・・ていうかな、ドレイってなんなんだよ。どういう意味だ」

 

キンジはハンバーグを口に運び、箸をアリアに向けながら訊いた。

 

「強襲科であたしのパーティーに入りなさい。そこで一緒に武偵活動をするの」

 

「俺は強襲科がイヤで、武偵高で一番マトモな探偵科に転科したんだぞ。それなのに、あんなトチ狂った所に戻るなんて──ムリだ」

 

「あたしにはキライな言葉が3つあるわ」

 

「聞けよ人の話を」

 

「『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』。この3つは、人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める良くない言葉。あたしの前では二度と言わないこと。いいわね?」

 

それと、と話を続ける。

 

「キンジと透のポジションは──そうね、あたしと一緒にフロントがいいわ」

 

フロントとは、武偵がパーティーを組んで布陣する際の前衛のことだ。キンジが望む普通、平凡からかけ離れた負傷率ダントツの危険なポジションである。

 

「よくない。平川はともかくなんで俺まで巻き込む」

 

「あんたたちドレイ仲間なんだから、ファーストネームで呼び合いなさい」

 

「話聞け!」

 

「キンジは質問ばっかりの子供みたい。仮にも武偵なら自分で情報を集めて推理しなさいよね」

 

この時、キンジはある結論に達する。

 

駄目だ。こいつとは会話のキャッチボールが成り立たない。

 

「・・・とにかく帰ってくれ。俺は一人でいたいんだ。帰れよ」

 

「分かった。邪魔したな」

 

透は立ち上がり、素直に帰ろうとするが、

 

「ダメー! あんたもあたしのドレイなんだから帰ったらダメー!」

 

アリアが飛びかかり、帰宅を阻止する。

 

「ひらっ・・・透! そのままアリアを連れて帰れ!」

 

平川と言いかけるが、律儀にもアリアの命令に従うあたり、もしかしたらドレイの素質があるのかもしれない。

 

「・・・諦めろ。俺が帰るにしてもアリアは帰る気ないようだし」

 

「は?」

 

「まだ分からないか? あのトランク」

 

「おい、まさか・・・」

 

キンジは気付いてしまった。リビングの入口脇に置いてあるブランド物と分かる小酒落たストライプ柄のトランクの中身に。

 

(あれ、宿泊セットかよッ!!)

 

泊まられるなんて溜まったもんじゃない。キンジが言うべきセリフはただ一つ。

 

「──出てけ!」

 

 

ただし、これはキンジの発したセリフではない。

 

キンジが言うべきセリフを、なぜかアリアが先に叫んでいた。

 

「な、なんで俺が出てかなきゃいけないんだよ!」

 

「うるさい! 分からず屋にはおしおきよ! 外で頭冷やしてきなさい! しばらく戻ってくるな! 透、あんたもよ!」

 

透からすればとんだとばっちりだ。出ていくのを止められたにも関わらず、今度は出ていけ。

 

お前は俺をどうしたい。透の率直な疑問である。

 

結局、訳も分からないまま二人は追い出されてしまう。

 

「・・・なあ、ここで訊くのも変だが」

 

キンジは目線を追い出されてしまった部屋のドアから透に移す。

 

「お前はアリアのパーティーに入る気あるのか?」

 

食事中、一切の言葉を発しなかった透の心中が分からなかったので、その疑問をぶつけてみる。

 

「どうだろうな」

 

ただ、と続ける。

 

「遠山キンジ、お前は入ることになるだろうな。その血が体内で流れ続ける限りな」

 

「・・・どういう意味だ」

 

「そのままの意味だ」

 

それだけ言うと、透はキンジに背中を向けてどこかへと去っていった。

 

(まさか、透は俺の性質を知っているのか?)

 

疑心と共に残されたキンジは気になりながらも、時間を潰す為、再びコンビニに向かった。

 

 

 

 

 

キンジとは反対に、透は寮の屋上まで足を運んでいた。

 

周りには当然誰もおらず、踊り場まで上がれば人工の光は当たらない。彼を照らすのは月明かりのみである。

 

暗く人気(ひとけ)がなくとも、安全と分かりきった場所は人間にとって落ち着く空間となるものである。

 

一人で心を落ち着けたい時は自分の住む寮でもこのように踊り場まで来て仰向けに倒れる。そして、星を見て妹の好きだった神話の話を思い出す。

 

 

 

一通り時間を潰し、キンジの部屋まで踵を返すと、何故かドアが開いていた。

 

訪問客の顔はドアで遮られ確認できなかったが、腰辺りまで伸びた黒の長髪。巫女装束を思わせる格好から女性であることは伺えた。

 

「・・・でも・・・その、今夜のキンちゃん、なんか・・・ちょっと、ヘンだよ?」

 

その巫女さんのセリフから聞き取った、キンちゃんという言葉。どうやらキンジと話しているようだ。

 

「キンジ、何してるんだ?」

 

その声にキンジは部屋から顔を出し、巫女さんも顔をみせた。

 

「会長か。キンジに用があるのか?」

 

その巫女さんの正体は東京武偵高の生徒なら誰でも知っている人物であった。

 

星伽白雪(ほとぎしらゆき)。大和撫子を絵に描いたような性格のスタイル抜群な美少女と謳われ、偏差値も75オーバーの優等生。生徒会長の役職にも付いている為、極力他人と関わろうとしない透でも彼女の存在は知っていた。昨年、同じクラスだったというのも理由の一つである。

 

「あ、ひ、平川君。ちょっと、キンちゃんにお届け物したくて・・・」

 

その割にはそこそこ話している様子だし、キンジの表情から焦りのようなものが伺える。

 

「そうか」

 

透はキンジを退けて部屋の中に入って行こうとする。

 

「キンジ、手短に済ませろよ。改造の注文、まだ聞いてないからな」

 

そう言い残して、奥へと進んでいった。

 

武偵高で改造と一言言えば、拳銃の改造であることは誰にでも分かる。もちろん改造には依頼人の好みや希望があったりするので、場合によっては、事前に依頼人と話し合う必要がある。

 

今後の生命を左右することになる改造の話し合い。それを今からすると読み取った白雪は、

 

「キ、キンちゃん! ごめんなさい! そんな大事なことがあったのに時間を引き延ばしたりして・・・。こ、これタケノコごはん!」

 

慌てて持っていた包みをキンジに差し出し、頭を下げた。

 

「え? あ、ああ・・・。もう大丈夫だから。じゃ、じゃあな!」

 

「ま、待って、キンちゃん!」

 

用は済んだ。キンジはドアを閉めようとしたが、白雪が止めに入り、何故か顔を近付けた。

 

「な、なんだよ・・・」

 

ドキッとしてしまい、一瞬体温の上昇を感じる。キンジは慌てて、顔を離した。

 

「あ、ご、ごめんなさい。あのキンちゃん、平川君に何か変なことされてない?」

 

白雪はすぐに謝り、先ほどまでよりも小さな声でキンジに訊ねた。

 

「変なことってなんだよ」

 

「ううん。何もされてないならいいの」

 

白雪らしからぬ大雑把な質問に少し違和感を覚えたが、今はそれどころではない。

 

「も、もういいよな? 透と打ち合わせもあるし、じゃあな!」

 

半ば無理やり話を切り上げ、ゆっくりとドアを閉める。

 

た、助かった・・・。透の機転の利いた嘘のお陰でこの場を切り抜けたキンジは彼に感謝しながらも、渡されたタケノコごはんを持って素早くリビングへと向かう。

 

先ほどのセリフを聞く限り、透は装備科(アムド)の生徒なのだろうか。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「それ、食って良いから!」

 

慌てた様子で、タケノコごはんをソファーに座っていた透に投げ渡し、洗面所に駆け込んだ。

 

夕飯は先ほど食べたが、捨てるのももったいない。透は渡された包みをほどき、中から漆塗りの一段重を出した。

 

 

「────死ね!!」

 

物騒なセリフと鈍い音が聞こえたが武偵高では日常茶飯時だ。

 

フタを開けて、添えられていた箸でタケノコごはんを一口食べた。

 

「ホントに死ね!! このドヘンタイ!!」

 

洗面所からの喧騒がイヤでも耳に入る中、透はあることに気が付いた。

 

 

こんな状況下で食っても旨い物は旨い、と。

 

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