「あかりたちは明日デートかー。」
今日は優の部屋で勉強会である。テストもないしあとは卒業するだけというときに勉強するのは優だけで、私と雛ちゃんはゲームしているのだが……
「デートっていうのかあれ。ただたに、もちたの言葉を早坂が真に受けただけだろ。」
確かに、もちたが急に映画のセリフを出したから気になったあかりが映画に誘っただけに見えるだろう。女子の行動に理由なんてないのに、男は理由を求めるから恋を失う……だっけ?そんなの当たり前じゃん。気の向くままに行動するのがベストでしょ。
そしてあかりは映画についてスケジュール帳に入力する。でもおそらくスケジュール帳に書かれた文字は『映画』ではなく『デート』。
直接見たわけではないが日頃からスマホをイジリっぱなしの私にとっては打っている文字を予想するなんて朝飯前。しかもあかりはスマホ操作が苦手なために打つのがかなり遅いから見間違えってこともおそらくない。それに
「あかりがね、自分の意見を突き通すことってそうそうないよ」
そう、あのときもちたからラブコメの映画を勧められた時に断ったのだ。それもラブコメよりこっちの方が……とか遠まわしに言うのではなく『ラブコメだけはヤです』とハッキリ断ったのだ。
「それって、それほどもちたに心を許しているってことでしょ。たぶんあかりはそのことに気づいてないだろうけど」
こころでは普通に話したいと思っているのに、いざ面と向かい合って話そうとすると緊張して敬語になってしまう。普通に話すだけなら砕けた話し方でもいいのにあかりは全ての人に敬語を使う、私には理解不能な種類だ。けどもちたと話しているときの笑顔は心の底から笑っている気がした。
「不器用さに関してはもちたといいとこ勝負か。あの二人がちゃんとデートできるのか不安だな」
「そう、それが言いたかったの私は!!」
天然で不器用なあかりに緊張でまともに話すのもやっとであるもちた。優はまた始まったと言わんばかりの呆れ顔である。
「明日、二人がちゃんとデートできているか覗きに行こう!!」
翌日、近くの公園で待ち合わせである。この近くの公園というのは映画館の近くというわけではなく家の近くなのは仕方ない。
なにせ家が隣同士なのでそもそも待ち合わせしなくてもいいのだが、雰囲気作りとして待ち合わせがしたかったのだ。
あかりともちたのデートを見守るのが主だが、私が優に本物の告白をしてから初めてのお出かけである。それなりの雰囲気が欲しかった。
「よぉ夏樹、待たせたか」
言葉はパーフェクトなのである。むしろ女子が待ち合わせしている時に一番といっていいほど言われたい言葉なのである。問題は優だけじゃなかったことだ。
「なっちゃーん、待たせてごめんね」
優の隣に雛ちゃんがいたことだ。別に来たからって悪いわけじゃないし私と優が相談していた時にいたから行きたいというのも当然だ。
そう思っていたら雛ちゃんは私のところに来て耳打ちする。
「ごめんね、なっちゃん。ほんとはお兄ちゃんだけのはずだったけど私もついて来いよって言われて。」
犯人は優か。雛ちゃんが気を使ってくれているのにそれまでも気づかないとはこの鈍感やろうめ。行きたい気持ちを我慢して気を効かせてくれているのに誘われたら行きたくなるでしょうが。
「ううん、ありがとうね。せっかく気を効かせてくれたのに優があんなので。」
「もう、それは今に始まった事じゃないから……でも行きたかったのもホントだし……」
雛ちゃんが優のことを大切に思っているのも知っているしほんとは行きたかったのも知っている。ゲームをしながらウズウズしていたのも分かっていた。だから雛ちゃんを責めることはできない。
「よし、じゃあ今日は瀬戸口家と榎本家の交流会ってことにしよう。そうしたら虎太郎も連れてこなきゃだけどめんどうだからパス!」
「なつきー、もちたが言っていた映画は午後4時かららしいぞー」
確かに調べてくれたのはありがたいけどそこに気を使うなら雛ちゃんにも気を使ってあげろー!!
「で、しばらく時間空くけどどこ行く?なつきはどこかいきたいところあるか?」
「うーん、デパートに新しいクレープ屋さんできたらしいけど行ってみない?雛ちゃんも甘いもの好きだし」
「あぁそれいいな。せっかくだし雛の新しいパーカー買うか。ずっと俺のパーカー着てるしそろそろボロくなってきただろ」
「いいの、私はあのパーカーがいいんだから」
優と二人でお出かけっていうのもいいけど、たまにはこの三人でゆったりするのもいいよね。
「おぉ、なっちゃん。新しいクレープ屋さんってここ?」
デパートの一角にできたクレープ屋さん。一昨日オープンしたからなのかお客さんの姿はほとんど見えない。並んでいる人はいないしお店の中に食べるところはないと聞いたので、ベンチに座って食べている男女二人組しかお客さんはいないはずだ。
「なんであのふたりがここに」
そう、問題はその二人組なのだ。そこにはここにクレープ屋さんがオープンしたという情報をくれた張本人、あかりともちただった。
「あれ、よく見ればあれ、もちた君じゃん。おーい、もち……ふんぐっ」
隣ではもちたを呼ぼうとした雛ちゃんの口を優が抑えていた。私は優と無言のコンタクトをとり、二人に気づかれないようにその場から立ち去る。
二人の姿が見えなくなっても追いかけてくるのではないかとしばらくの間息を潜めていたが、どうやら気づかれていないようだ。
「ふーー、びっくりしたな。まさかもちたと早坂までこのデパートに来ているとは」
「完全に予想外だった。あのもちたがデパートにまで誘えるほどにまで成長しているとは思わなかった。いつ、もちたの精神力レベルが10上がってたんだろ」
「いや、ここまで来るとヘタレもちたはツンデレもちたに進化しているんじゃないのか。これはただたにレベルが上がっただけとは思えん」
「クッ、もちたのくせに進化とは生意気な。それでもツンデレもちたから彼氏もちたまでの道のりはまだまだ……」
「えっと、お兄ちゃんたち。もちた君の悪口を言っているところごめんけどそろそろ手を放して欲しいかも。口元がさっきからくすぐったいのですが」
「おっと、わりぃ」
優が雛ちゃんの口から手を放すのを忘れるほど衝撃的だった。あかりの方を向きながら話せるのにもだいぶ時間がかかっていたのにこの異常な程の成長スピードはなんだ。映画を見に行けたのだってあかりの純粋すぎる心に助けてもらいながらやっとのことだったのに午前中からデート?こんなこと思いつくのはあかりかもしくは……
「もしや、もちたにはブラックもちたの他にピュアもちたがいたりとか」
「話の内容は私にはよく分からないだけどもちた君に対する評価ひどすぎない」
クレープを食べるにもあの二人が動かないと食べることはできない。あの二人が動いたとしてもこのデパート内でいつ、どこで会うのか分からない。そしてカンのいいもちたのことだから私たちを見たらついてきたのだとバレてしまう。それでは当初の計画が台無しである。
「……ごめん雛ちゃん 。クレープはまた今度でいい?」
それに二人をほっとくには私の好奇心が掻き立てられすぎた。
「優、あの二人のあとつけていこう」
はぁ、またかよと言いたげな表情で私を見てくるもここは譲るわけにはいかない。私にとっては幼なじみと親友の恋路なのだ。応援しなくてはバチが当たる。
クレープを食べ終わった二人が向かったのは水着売り場だった。まだ桜も咲いていないこの頃に水着売り場が設けられているのも不思議だがそこによるあかりも不思議だ。だてに天然キャラで押し通しているだけもある。
「なんでこの時期に水着売り場なんかに行くんだ」
それは優も同じようで疑問に思っている点は同じだった。水着ならわざわざ今の時期に買わなくても夏の季節に なれば種類も増えるし最新のものだって手に入る。それに夏が過ぎ去った秋なら、セールとかで安くなるから勢いで買ってしまうのは分かる。でもまだ長袖でも肌寒い時に水着を選ばない。
あかりは胸元にヒラヒラが付いている可愛らしい水着が気に入ったのかすでにレジに向かっていた。もちたにいたってはあかりの水着姿を想像したのか耳まで真っ赤にゆであがっている。
あかりが戻ってくると用が済んだのか水着売り場を離れていく。その二人をみて早速追いかけようとするも優に襟元を掴まれて身動きがとれなくなった。
「ちょっと優、襟掴まないでよね。服が伸びちゃうじゃない」
「いいから二人のことはそっとしといてやれ。俺たちが付きまといすぎても困るだけだ」
「えーー、でも気になるじゃん」
「そうか、それなら仕方がないな。新しい服でもおごってやろうと思っていたのだが」
「ありがたき幸せ」
「よし、じゃあ服売り場にでも行くか。雛もあのパーカーはだいぶ古いから新しいの選んでいいぞ」
「やった。お兄ちゃんのおっごり、おっごりぃ」
そういいながら私たちはあかりたちが歩いて行った方向とは逆方向に歩き始める。そこでふと後ろを振り返ってみると楽しそうに笑っているあかりの姿が目に入った。
(あかり、前よりも笑顔が可愛くなったような)
前の笑顔も可愛かったのだが、なんというか、最近の笑顔は前の笑顔とは少し違って見えた。どう違うのかと聞かれても言い返せないけどなにかが違って見えるのだ。
(まぁ私の思い違いなんだろうけど)
そう思い優たちを追いかけていくとなぜか優の表情も少し笑っていた。
気前のいい優に乗っかって新しい服を2枚購入した。部屋着に使うジャージと夏に着るためのワンピースだ。男にジャージを奢らせるのかよと小言を言われたがジャージが一番動きやすいので仕方がない。ワンピースの方は今よりも少し小さめのものを買って夏にはすんなり着れられるぐらいダイエットしようと思っていた。
雛ちゃんの方は優が選んだ新しいパーカーだ。もう少し可愛らしさがある服でもいいと思うのだが、雛ちゃんにとっては優が選んでくれた服が着たいのだろうと安易に予想がついた。
「あっ、しまった。もうこんな時間」
ふと時計を見るとすでに映画が始まっている時間だった。チケットを買っていたわけではないから、今から急いで行ったところで席が空いているとは思えないし、なにより途中から見はじめる映画ほどおもしろくないものはない。
「別に気にしなくて大丈夫だろ。あの二人ならうまくいくって。それより食いそこねたクレープ食べに行かないか」
別にあかりたちが映画館から出てくるときにこっそりと様子を伺えば済むと思うし、なにより食べ損なっていたクレープも気になっていたのですぐに了承した。
クレープも食べ終わり、ゲームセンターでUFOキャッチャーなどをして時間を潰したあとあかりたちが出てくるであろう映画館に立ち寄った。
なのに映画が終わって10分は立っているはずなのに二人の姿は発見できなかった。どこかで見過ごしたのかと思ったが雛ちゃんも見てないという。もしかしたらここの映画館ではなく違うところに行ったのかもしれない。
優に関しては疲れたのか自動販売機のベンチに座ってコーラを飲んでおり、すでに探すつもりなどさらさらなかった。しかたなく私たちも諦めて家へと帰っていった。
「はぁーー、あかりたちどうなったのかな」
家に帰ってもあかりともちたがどうなったのか気になる。もちたは緊張せずに話せたのだろうか、あかりはこの時期に水着を買うほどのド天然をまた発揮していないだろうか、心配すればするほど不安要素が募っていく。
連絡をとろうにも二人に今日はどうだったか聞いてみても、どちらも既読になっていない。それが私の不安を一気に掻き立てていく。
「別に大丈夫だろ。そんなに心配しなくても」
今、部屋には優と雛ちゃんも遊びに来ていた。家に帰ってもまだ誰もいなかったので暇つぶしに来たそうだ。
「でもさぁー、やっぱ気になんじゃん。もちたとか、もちたとか、もちたとか」
「……不安要素はもちた君だけなんだね」
「だってさ、もちたってばあかりと話すだけでも精一杯なんだよ。あかりもフォローできるような人じゃないし」
「そんなことないんじゃないか。あの二人のことだから」
「でもあの二人だから心配なんだけど……」
「あの二人だからこそ大丈夫だ」
さっぱり意味が分からないし話が通じているのかも疑問である。この解き方とかどう考えたなんて説明せずに結果をドンっというものの言い方。ことごとくもうひとりの幼なじみである春樹に似てきた気がした。本人も自覚してきたのか『やべぇな、これじゃ春樹の質問と同レベルだ』とつぶやいている。私は結果だけ言われて、あぁーそういうことかと納得できるほどのIQを持っていないので説明を待たないと分からない。
「えーっと、俺たちは今から高校を卒業するよな。ってことは、俺たちはそう頻繁に会うことができなくなる。 だからもちたの奴もやっと早坂と進展し始めている。きっと焦りを感じたんだろうよ」
「確かに私たちもそんな感じだよね」
私の場合たくさん会うことができる高校生のうちに告白しようとは決めていた。告白したのが恥ずかしくて告白予行練習とかいう大嘘をほざいてしまったから遅くなっただけで、告白自体はしていた。
「俺たちの場合は家が隣同士で会おうと思えばいつでも会える距離にいる。だけど、早坂の家まで知らないがもちたと顔を合わせることは滅多にないだろう」
もし私が告白する度胸がない意気地なしだった場合でも、家が隣同士だというだけで顔を合わせることは充分あるし告白しようと思えば出来る距離にいる。
だけどあかりともちたは家が遠いからそう頻繁に会うことはできないだろう。それにいまでも恋はもちたからの一方通行で行き違いがあるように思えている。
「なら距離を縮めるには今しかない。むしろこの時期を逃したらもうチャンスは来ないだろうな」
「ちょっと待って。その言い方だともちたの一方通行の恋だったけど、あかりももちたに対して恋愛感情を抱くようになったってこと?」
「あぁ、それは水着を買ったことで明らかだ」
「あぁ、なるほど。それでお兄ちゃんは嬉しそうな顔していたんだね」
どうやらあかりともちたの関して深入りしていない雛ちゃんも分かったらしい。分かっていないのは私だけのようだ。やっぱりこうカンがいいのは兄弟だからだろうか。優に聞くのはしゃくに障るので雛ちゃんにヘルプを要求した。
「えっとー、なっちゃんはお兄ちゃんに買ってもらった服をどうしたいと思った」
「部屋で着たいと思った」
「そうじゃなくて夏服のほう」
「ダイエットしてあの服が入るようにしたかった」
「「……」」
どうやら私の答えが明後日の方向にとんでいっていうようで二人からの返答はため息で帰ってきた。この返答の仕方までになくていいのにと本気で思った。優にされるのは慣れてるけど、雛ちゃんにされると少しショックである。
「じゃあ、ダイエットして着た服を誰に見せたいと思った」
わざわざダイエットしてまで着たいと思った服、ワンサイズ上を買えばなんの心配もせずに着れる服を体が細いほうが可愛く着れると判断したあの服。
「そりゃあ、優に見せたいと思った」
そのために努力してまで着ようと思ったのだ。まだ付き合い始めてほとんど日にちはたっていないけどそこだけでも優の彼女らしい行動をしたかった。
「それと同じように、男も彼女に服を買ってやるときはこの服着てくれたら似合うだろうな、可愛いだろうなと思いながら買ってるんだ」
女目線からすると奢ってもらったラッキーって感じだけど、男目線ではそれはアンラッキーじゃなく今後、その服を着た姿を想像して似合うと思うから買っているらしい。
「じゃあ、なんで早坂はもちたがいるときに水着を選んだと思う」
「つまり、あかりも誰かに見せるために買ったってことだよね」
「じゃあ、もちたの方はどう思う」
「もちたはその姿を見てみたいと思って……あっ」
そういうことなのか。だから優はあのときの二人の姿をみて首を突っ込んでも邪魔になるだけって言ったんだ。
「つまり早坂は自分の水着姿をもちたに見て貰いがためにあそこで水着を買った」
「そしてもう一つ、あかりさんはもちた君に水着姿を見たいと思わせることで、口には出さなくてもある約束をしたのでした」
「……夏にデートすること」
あかりは水着姿をもちたに見せたいと思った。そしてもちたもその水着姿が見たいと思った。だけど水着は普通夏に着るもの、ならばどうするか。
夏に会うしか方法はないのだ。
もちたは告白していたらしいがあかりは恋というものをまだよく分からずに付き合っていた。だからもちたとあかりの距離はなかなか縮まらなかったのだ。そしてあかりが恋というものがどんなものか分かったのはつい最近。
あかりの笑顔が変わったと気づいたときだ。あの笑顔は……恋をする乙女の表情だった。
もちたはあかりに会いたくないと思うことはないし、あかりももちたと会いたいと思っていたのだろう。
でもあのもちたが自分からまた会いたいということは言い出せるはずがない。自分から告白しただけでも満点だ。それを見越してとった対策がこの水着作戦なのだろう。もちたが言い出せなくてもこれなら自分から誘うことができる。前に買ってもらった水着を見せたいからといえばまず間違いなく来るだろう。
「……あかりちゃんぬかりないねぇ」
「それほど早坂ももちたのことを想い始めてる……いや、やっと気づけた。そんな二人の事を単なる面白半分で邪魔するほど俺はバカじゃない」
「なるほどねぇ、あかりがねぇ」
あの恋ってなんなんでしょうねとか言っていたあかりがついに恋に目覚めたのか。確かに二人だけでも自然にくっつくだろう。
「そっか、あかりが……えへへへ」
私の大好きな親友とよく一緒にいた幼なじみが付き合うのか。これは祝うしかない!!
女子の行動に理由なんてないのに、男は理由を求めるから恋を失う?理由大アリじゃない!!
「うん、こんなめでたい日なのに何もしないなんてもったいないよ!!いまからでもどこか美味しいもの食べに行こう!私のおごりでもいいから!!」
「そうだな、それじゃあ行くか。もちろん雛も行くだろ」
「行くーー!!もちた君のお祝いだもん。それにお兄ちゃんとなっちゃんのお祝いもまだだったし今日はパーっと行こう」
「そうそう、パーーーっと」
今日はいままでの中で一番祝いたい日だ。もちろん私が優に告白してOKもらえた日も嬉しかった。けどもちたとあかりが両思いになれたこの日は盛大に祝いたい気分だった。
その日は夜遅くまではしゃぎまわって寝床についた時にはすでに朝日が昇っていた。