とある魔術の禁書目録にARMSを入れてみた(仮) 作:コウ・カルナギ
その少年は、生きているだけで人を不幸に巻き込んだ。
しかし誰かに助けを求められると、全力で応えようとする少年だった。
大きな少年がいた。
物理的に大きな少年だ。
能力の向上に身長と体重の増加が不可欠だと解り、人体改造に明け暮れていた。
そして、二人の腕には「武器」があった。
中学生になった上条当麻は、相変わらず不幸で、誰かを助けようと拳を振るっていた。
関係など無くても、理由など無くても。
誰かの涙を拭いたいと、その為に彼は戦う。
――そんな彼は何度目かの満身創痍になっていた。
それを見たのは偶然だった。
小学生くらいの子供を、数人の能力者が追いかけていた。
それを見た瞬間――何も考えずに割って入った結果がこれだ。
奴らは中学に入ってからよく聞く『無能力者狩り』とか呼ばれる恥ずかしい集団の一つだろう。
自分よりも弱い人間を複数で甚振るような奴らだ。
現に自分の背後には、頭から血を流して倒れている子供がいる。
意識は無い。
すぐに病院に連れて行かなければ命の危機さえあるかもしれない。
(負けられねぇ)
既に左腕は折れている。左目は見えない。肋骨は多分、何本か折れている。
後ろには、理不尽に泣いている子供がいる。
子供は、
それ故に、ゴミだと。
そんな手前勝手な理由で、複数の能力者に狩られようとしていた。
無造作に。
まるで雑草でも抜くかのように。
そんなこと――認められるか。
だから、こんな路地裏でも上条当麻は戦う。
異能を消せる右手だが、それ以外は一般人と変わらない。
現にこうして複数の人間にボコられて死にそうになっている。
このままでは確実に後遺症が残る怪我を負うことになるだろう。下手をすれば死んでしまう可能性だってあった。
――しかしそれでも、上条当麻が戦わない理由にはならない。
一人を殴り飛ばす。
しかし代わりに別の誰かの能力が上条を傷付ける。
それでも上条は引かない。
決して背後で気絶している子供の元には行かせない。
この身は誰かの盾である、と言わんばかりに。
業を煮やした無能力者狩りの少年たちは、上条を押さえ付けた。そして一人が金属バットを上条の前で振り被る。
一切の容赦の無い振り下ろし。確かこの男は筋力強化系の能力者だった筈だ。
当たれば上条当麻は頭蓋骨は柘榴のように砕けるだろう。
――だが、それが「覚醒」の引き金。
その時、上条の脳裏に“声”が響いたのである。
《――力が欲しいか?》
時間が遅くなり、視線の先でゆっくりとバットが近付いてくる。
《――“力”が欲しいのなら》
しかしどうしてか、一切の恐怖を感じなかった。
《――くれてやる!》
当たり前の生存本能と、それを凌駕する「子供を護りたい」という意思が、上条当麻の右腕に宿った「武器」を目覚めさせた。
(なんだ、これ……)
上条当麻は、変貌した右腕を驚愕の眼差しで見つめていた。
二の腕まで異形のそれへと変わり果てたのだ。
《――何をしている》
そして、脳裏に響く謎の声。
性別を無理矢理当て嵌めるなら、男だろうか。
《そこにいる子供を助けたいのだろう? ならば、何を躊躇う必要がある。この馬鹿共は痛みを知らん。例え知っていてもこのような暴挙に出るような救いようのない屑だ、殴らねば子供は護れぬぞ》
金属バットを握る異形の手に力が入る。まるで飴細工のように簡単にバットは折れた。
相手が何か喚いている。
お前も能力者なら、どうしてクズを狩るのを邪魔するんだ、などと手前勝手で稚拙な理論を振り翳している。
《出力の調整はこちらでやる。全力で殴っても殺さないレベルは把握した》
有り難い。
「それでもだ」
だから、変わってしまった右腕を振り被る。
どうせ右腕にはとっくの昔に『何か』がいるのだ。今更驚くようなことじゃない。
「例えどんな理由があろうと――子供泣かせて流血させていい理由にゃならねえだろうがっ!!」
振り抜く。
顎を打ち抜かれ、縦に数回転する能力者。
呆気に取られる他の不良能力者共も同じように縦回転で意識を喪失させたところで、上条は右腕に宿っている「新しい何か」に問い掛けた。
「――で、お前何なんだ?」
《その前に、場所を変えないか? ……身体能力を強化した。このまま移動しよう》
その言葉を受けて、上条は全力でこの場を離れる。勿論子供のことを警備員に通達して、人が来るのを待ってから――全力で逃げた。
そして、誰もいない夜の公園にて、上条は右手と会話を交わしていた。
「――つまりお前は、『ARMS』って名前で、炭素と珪素のハイブリッド生命体で、俺に寄生しているってわけなんだな」
《その通りだ》
「出ていくことは?」
《解らん。私には「私自身の詳細」と「製造目的」しか入力されていない。恐らく宿主の寿命で共に滅ぶのだと思う》
それを聞いてじゃあしょうがない、と上条は受け入れた。
例えよく解らない生き物でも、こうして言葉を交わせる時点で上条にはこの寄生生物を殺せないのだから。
しかしそれよりも問題なのは、この異形の腕そのものだ。
「……この右腕、元には戻せねぇのか?」
《いや、戻せる。君が思えば自由自在だ。私は言うなれば管制人格のようなもので、最終意思決定権は宿主が担うように設定されている》
「成程……おお、戻った戻った」
確かに上条が願えば右腕は元の人のそれに戻った。
どこにも先程のような異形の腕(鉤爪付き)の痕跡は見つからない。
これで最悪包帯で腕をグルグル巻いて、グッバイ利き手こんにちは左手をしなくて済んだ。
「……ところで、お前の製造目的と名前ってなんなんだ?」
そう問い掛けると、右腕はどこか誇るように言ってのけた。
《ああ、私の製造目的は――宿主となった者の剣となり楯となることだ。言うなれば人生のサポートだな》
そして、と一呼吸置いて『ARMS』は己の名を上条に告げる。
《名は、『
これが、全ての異能を消し去る『幻想殺し』を持った少年と、『オリジナルARMS:全竜』との出逢いだった。
そして。
《いやはや、まさか初めての覚醒が『全竜』とは……個人的には『軍団』が最初だと思っていたが、これは嬉しい展開だ》
上条は驚く。
ここには人はいない筈だ。
現に眼に見える場所に人の姿はない。
《ここだよ少年》
声は下から聞こえた。
見ると、そこには巨大な目玉があった。
どこかデフォルメされていてその横には蝙蝠の翼がある。どっからどう見てもRPGで出てくるようなザコモンスターだ。
「え、えーと……」
《故・ドクター木原連立より製造された最終ロット『ARMS観察用完全自立型ARMS』――コードネームは『バロール』。君を始めとした『ARMS適合者』のサポート役だ》
その言葉に『全竜』が疑問を呈した。
《待て、『バロール』。ドクターが死んだというのは事実か?》
《事実だよ。研究所も爆破し、資料は全て抹消された。遺っているのは君たちと私くらいだ》
この寄生兵器を造った科学者が死んでいる。
その言葉に上条はショックを受けた。
これを取り外すことが出来る人間がいなくなったことに衝撃を受けた――わけではない。
そんなことよりも。
人が死んでいるのに、何故こいつらはこんなにもドライなんだ?
こうまで人間臭い人工知能であるのならば、感情くらいはあるだろうに。
《まあ、彼の死因は『ARMS』が全員揃ってから話そう。一々同じような説明を続けるのは面倒だ》
《人工知能とは思えない台詞だな》
《人の脳味噌をエミュレートすればこうもなるさ。君もそうだろう。……とは言え、君も私も学習中だ。そこの少年と共に成長していけばいい》
そう言って、『バロール』は上条当麻を見上げる。
《さて、聞いた通りだ少年。君にはこれから『ARMS』を使いこなせるようになって貰う。それがドクターの遺志だ》
「待て」
間髪入れずに上条は待ったをかける。
《何かな?》
「……お前ら、その、悲しくないのか? ……お前らの生みの親が死んで、悲しくはないのかよ」
その言葉に、二体の『ARMS』は暫く沈黙した。
そして、
《まあ、彼の死因は寿命のようなものだ。遠因としては私たちにあるのだろうが……奇妙な喪失感は感じているよ》
そう『バロール』が答えると、『全竜』もまた同意する。
《これが「悲しい」という感情なのかは判断がつかない。だが、妙に落ち着かない気分ではある》
それを聞いて上条は、
「……なんだ。ちゃんと悲しんでるじゃねぇか」
――当たり前のように危機に遭遇する少年は、早い段階で「覚醒」した。
――ただ当たり前のように
――『一方通行』と呼ばれる少年が「覚醒」するには時間がかかった。彼が「覚醒」するのは最後のそれ。どうしようもない罪を背負い、しかし歯を食い縛って耐えようとしている時に、同胞に殴られる事で「覚醒」は始まる。
――そして、本来は物語の舞台に上がることのない『その他大勢』であった少年は――自らの『能力』のレベルアップと共に「覚醒」した。
その日。
学校では、
そこには、大柄な少年がいた。
体操服に身を包んだ一九〇近い身長の少年だ。
筋肉質で顔は野獣のようだ、とよく友人に揶揄われる太い眉と鼻と口。獣を思わせる鋭い眼光。
少なくとも、世間一般で言う美形とは対極にあるような男臭い貌だ。
「……」
その少年らしからぬ少年は、腕を軽く振る。
すると、空間に『黒い渦』が生まれた。
人の拳二つくらいの大きさの渦だ。
それが十。
運動場の至る所に生み出される。
その渦の中に、少年は持っていたボールを軽く投げ入れた。
ボールは渦を通り、別の渦から吐き出された。
そのままボールは勢いを殺さずにまた別の渦へと入り、次の渦へ。
まさに縦横無尽とばかりにボールは渦の中を通り過ぎていく。
速度は一定。
投げた速度を保ったまま、渦を通過していく。
「……」
ボールが渦を通過する瞬間に、その渦を『締め』る。
二つに分かれたボールが校庭に転がっていた。中の断面は鉄のそれ。まるで鏡のような滑らかさだ。
少年は次に長い棒を持ってきた。
渦を集め、一直線に並べる。
それを全ての渦に通過させ、そして『締め』た。先程と同じように。
強度の高いカーボンファイバー製の棒がいとも容易く切断された。
次に、二メートル弱の大渦を生み出す。
その中に足を踏み入れる。
すると、離れた場所にいつの間にか出現していた大渦より、少年が現れたではないか。
それを確認し、記録していた教師はこう書き記す。
強度の向上を確認、と。
彼のこれまでの
身体検査の結果は、
能力名は、『
名を黒嶺流星。
特殊型移動系能力者で、自分の身長の二倍、体重の二○倍までの荷物を有機物無機物問わずに転移させることが出来る大能力者だ。
しかし能力は己の身長に依存していることが判明してからは、専ら肉体改造が主な――とても風変りな転移系能力者でもあった。
故に能力向上の時間割は、基本的に筋肉を付けて体重を増やし、成長促進剤やサプリメントで体調を整え強制的に身長を伸ばしていくことが中心になっている。
もう身長はこのままでも十分だと思ったのだが、「こうなったら行くところまでいこう!」と変に研究所の人々にブーストが掛かった。要ははっちゃけたのだ。
お陰で今も身長体重共に絶賛増大中である。
このままだとまだ十代という若い身空で、身長は二メートルを超えて、体重は一〇〇キロを超えかねない。
もう既にプロレスラーと間違われるような風貌なので勘弁して欲しかったが、暴走中の研究者を抑えることは中学生の黒嶺には難しかった。
流石にプロレスラーはともかく、ボディビルダーにはなりたくないのが本音である。
さて、そんな彼は現在同じクラスの上条当麻と帰路についていた。
今年より同じクラスになった二人だが、実はこうして一緒に帰るのは初めての事だ。
放課後になれば黒嶺はトレーニングの為に専用の施設に行かなければならない。だから同じアパートで部屋も隣同士でも、一緒に帰ることは無かったのである。
中学生として一般的な身長の上条と、既に一九〇センチオーバーの黒嶺が、山も谷もないような文字通りの四方山話に花を咲かせていると、上条の方がふと先の身体検査の結果を訊いてきた。
「なあ、流星。お前、レベル上がったか? なんか先生たちがザワついてたけどよ」
「おお。
黒い渦を掌の上に生み出す。
その手を上条に見せ、視線で「触れ」と促す。視線の先は彼の右手だ。
上条は黒嶺に促されるままに、その『右手』で黒い渦に触れた。
即座に渦は消滅する。
まるで掻き消されるかのように。
「それでも消せるお前に比べりゃあ、なんてことねぇわ」
呵々、と笑う黒嶺。
嫉妬も敵意も、嫌悪もない混じりっ気なしの笑顔。
こうまで簡単に打ち消されては逆に気持ち良いくらいだ。
上条当麻の右手には、『異能の力を打ち消す異能』が宿っている。
名を『
神様の奇跡だろうと魔王の呪いだろうと殺してみせるその異能故に、上条は無能力者の烙印を押されていた。
「そうか? まあ、確かに便利だけど、不便なことの方が多いぜ」
確かに上条は不便を強いられるだろう。
こんなにも強い異能なのに、誰も認めないのだ。……些か不自然な程に。
しかしそれ以上に運が無い。
街を歩けば財布を落とし、不良に絡まれ、場合によっては追い掛けられる。時々、女の子とのラッキースケベに遭遇してしまうがそれは更なる不幸への呼び水だ。
聞けば、学園都市に来るまでは誘拐に巻き込まれることも、刃物で刺されたこともあるとか。
下手をすれば命を落としていたかもしれないと言っていた。
しかし。
だがしかし。
本人は「不幸だ不幸だ」と嘆きながらも、前を向いていた。その右手で、誰かを救いもしている。
そんな友人を、黒嶺は気に入っていた。
だから、気になった。
「なあ、当麻さんや」
「なにかな流星さん」
「なんで最近夜中に部屋を出ているのかね?」
「……え?」
ここ数日、何故か上条は夜九時を過ぎた辺りで、外出することが多かった。
これは、黒嶺が毎日九時頃にマンションの周辺をランニングしていたから解ったことだ。
「いやーそれは……」
「なんだ、また人助けか? それ自体は別に構わんと思うけど、お前自分の身体くらいは最低限労われよ。疲れたまんまだと助けられるもんも助けられねぇんじゃねーの?」
純粋な疑問の言葉。
しかし、上条はどこか明後日の方向に視線を逸らす。
これは何か隠し事をしている眼だ。特に黒嶺的に面白いと思うような何かを。
……俺が首を突っ込みたくなるようなことに巻き込まれたってことか。
瞬間。
まさか、と黒嶺の脳内に電流が奔る。
「お前、悪の組織に拉致られて改造されてたのか!?」
「惜しい! 惜しいけどそうじゃねぇよ!?」
反射的にそう上条が吠えた。
だが、「惜しい」ときたか。
「……ほう? つまり、似たような事件には、巻き込まれている、と?」
そう尋ねると、びっくりするくらい動揺して、口笛を吹いて誤魔化そうとした。そんなんで誤魔化されるのは、例え漫画のキャラでも有り得ない。
「はっはっは」
そう笑いながら、黒嶺は上条の肩に腕を回す。
身長が三〇センチは違う筋肉の塊が平均身長の上条の逃亡を許さない。
「詳しく話せ」
「ほうほう。つまり貴様はいつの間に改造されていて、右腕に不思議な生物を飼っている、と」
「まあな。他にもあと三人いるらしいけど、それが誰かは解らん」
腕を変異させ、上条は『全竜』と『バロール』から説明されたことを黒嶺にも話した。
腕を見せられればそれが嘘ではないことは解ったのだが、上条としてはどうしても腑に落ちない。
何故か、『全竜』は黒嶺に話すことを止めなかったのだ。
「……おい、良いのかよ教えて」
《問題ない》
「本当かよ……」
《直に解る》
そう言って『全竜』は、黙り込んだ。
だが、これは。
動揺しているような……
「ん?」
何かを感じたのか、黒嶺は自分の右腕を見た。
震えている。
彼の右腕が、小刻みに震えているのだ。
「まさか……」
上条は何かに気付いたのか、驚いた様子で黒嶺の右腕を見た。
実は今別行動中の、『木原連立の遺産』を確認しに行っている『バロール』ならば直ぐに気が付いただろう。
しかし『全竜』が気付いたのは、今だった。
その理由は強くなっていく共振にある。
『ARMS』は初見の場合、距離が近付くにつれて共振するようになっているのだ。
お互いがお互いを認識し易く、そして「覚醒」を促すように。
事実、黒嶺の脳内に“声”が聴こえた。
結果、どうなるかと言えば――
《――力が欲しいか?》
「は?」
見知らぬ男の声。
《――力が欲しいのなら、くれてやる!》
こうなった。
黒嶺の右腕が、変貌しているではないか。
鉤爪の付いた異形の腕。元の腕が太いせいか、まるで鈍器のような重厚感のある腕へと変貌を遂げている。
パッと見、そういう籠手を着けていると誤認しそうになるくらい物々しかった。
「……なあ、当麻さんよ」
「……何かな流星さんや」
引き攣った顔で腕を持ち上げ、
「つまり俺も、お仲間だったのね……」
そんなクラスメートに、上条は半笑いで言う。
巻き添えと言うか、仲間が出来たことを喜んで。
「えっと……ようこそ?」
「『ようこそ』じゃねぇよこん畜生!?」
こうして、黒嶺流星は上条当麻と同じく『ARMS適合者』として「覚醒」した。
合流した『バロール』に『ARMS』の使い方の基礎を教わり、夜の街中を――いや、ビルの上を黒嶺は飛び跳ねて移動している。
俗に言うパルクールのそれだ。
目的地は、第一九学区だ。
「……にしても、『
《ああ、『全竜』と共に造られた。基本的に『ARMS』は単体での戦闘運用を基本にデザインされているが、四体揃った場合、個別の役割が存在する》
しかしその声は、「覚醒」の時に聴こえた「声」とは違ったように感じる。
「役割?」
《私と『全竜』は、前線での戦線維持と防御を担う。残り二体は、中距離と遠距離担当だ。そして、中距離担当が指令塔も兼任している》
移動しながら、黒嶺と『竜帝』は会話を続ける。
相互理解は重要だ。
どんな機能があるのかを確認しなければ、動き方も定まらない。
しかし近接攻撃が主なのは有難い。
基本的に学力はそこまで上位ではないのだ。
それでも
多分、身長三メートル体重二〇〇キロとかになれば
というかそれは人類の範疇に入るとは到底思えない。
しかし。
「……単なる肉体強化でも、そこらの能力者が顔負けだな」
身体能力はそれなりだと自負しているが、こうまでビル群を容易く飛び回れる程ではない。
まるでどこぞの蜘蛛男並みの強化だ。
その証として、流星の四肢には細い無数の線が並行に等間隔で浮かんでいる。まるで何かのコードのように。
数本の指でビルに掴まり、そのまま腕力だけで空へと跳躍。
そんな時だ。声が聴こえた。
とあるビルの屋上で立ち止まり、下を覗いてみる。
そこには、何やらカツアゲをしようとしている不良を発見。数人で一人を囲んで殴る蹴るの暴行を加えているではないか。
流石にあれは見過ごせない。
そのままビルとビルの間を蹴りながら降下し、地面に降り立つとそのまま全員を殴った。
横合いからの突然の攻撃だ。相手は何も解らない内に顎を打ち抜かれ――糸の切れた人形のように崩れ落ちた。全員何の抵抗も出来ずに意識を失ったのである。
無論、そのまま足元に『黒渦穿孔』を発動。カツアゲされていた学生がこちらを認識するよりも早くに地面に沈み込んで離脱した。恐らくは地面潜航系の能力者だと誤認したと思う。
姿を隠す理由は簡単で、御礼もいらないからだ。助けた方だろうと、不良からだろうと。
そして再度、パルクールを開始する。
《しかし流星》
「なんだ」
そんな宿主に『竜帝』は思ったことを口に出した。
《人助けは素晴らしいのだが、やってることは通り魔に近いな》
「否定はしねぇよ」
そのまま黒嶺は、夜の学園都市を疾走する。
目的地で待つ、上条と『バロール』の元へ。
こうして、学園都市の七つ以上存在する不思議の一つに、“深夜にビル群を飛び回っている高位能力者が、人助けをしている”というモノが誕生した。
噂の下手人を
その噂が出回るの前から、能力者による『
学園都市における教師陣による治安維持部隊――通称
そして、ある『噂』が流れた。
元々は、学園都市に存在する掲示板の一つ。
能力者を誇り、無能力者を馬鹿にすることが顕著なその掲示板で、それは起きた。
喧嘩で無能力者に負けた腹いせ。それの八つ当たりをしようと仲間に持ち掛けたのだ。
そしてそれは、静かに能力者無能力者問わずに広がった。
『能力者たちが、無能力者たちが通う学校を襲撃しようとしている』と。
噂は事実だった。
能力者たちは、手にボウガンを持ち――小学校を襲撃した。
しかし、誰も小学生は怪我をしなかった。
助けた集団がいたからだ。
無能力者武装集団。
俗に『スキルアウト』と呼ばれる不良集団であった。
指揮を行った少年の名は駒場利徳。
所属していた者の中には、浜面仕上の名前もあった。
こうして、浜面もまた「覚醒」した。
――残るは、『一方通行』のみ。
人の悪意は弱い者に向かう。
まるで水が低い場所に流れるように。
誰だって落ちるのは楽だ。
だから、この所業も人のそれ。
だからと言って黙って見過ごすことは出来ない。
不良にだって守るべき筋はある。
無能力者だからって見捨てていいわけはない。
だから動いた。
これは、それだけのお話。