とある魔術の禁書目録にARMSを入れてみた(仮)   作:コウ・カルナギ

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スキルアウト。

時間割から漏れた落伍者達。

しかしそんな彼らでも貫くべき矜持はあった。


これは、その群の中にあって、気付かぬ内に「外れて」いた少年の話。




「浜面仕上」

《これは基本的な『ARMS』のコンセプトなのだが……我々は成長する》

 第十九学区。

 寂れた街並みの一角。

 何もないような廃墟の屋上に二つの人影があった。

「成長?」

 上条と黒嶺だ。

 二人の右腕は既に『ARMS』を開放しており、異形のそれへと変貌している。

 格闘訓練をする為だ。

 実戦を想定して、お互いにある程度本気で殴り合うことになっており、身体能力も強化されている。仮に大怪我をしても即座に治療――というか復元出来るので二人とも結構本気でやり合っていた。

 そんな二人に、ナビゲーター役の『自立型ARMS』である『バロール』は説明する。

《私は記録や観測用に特化しているが、それでも情報収集や分析などといった蓄積されたデータを用いて進化し、適応出来るようになっている。では、戦闘用にデザインされた『全竜』や『竜帝』が進化する為に必要なモノは何だと思う?》

 黒嶺は腕を組み、

「戦う相手の質や量、か?」

《それと、ダメージと強い意思だ》

「ダメージ? 意思?」

 首を傾げてしまう。

 敵から受けるダメージが進化を促進させるのだろうか。

 それ以前に意思とはどういうことだ?

《強い意思の発露。それこそが、我々に進化を齎す大原則。ドクターはどんなに機械が強くなろうと、「人の意思」は其れさえも凌ぐと信奉していた》

 上条の右腕に宿る『全竜』は言う。

《翻って、ダメージだが……端的に言おう。我々は攻撃を受けて初めて耐性を得るのだ。そして、現段階では――電撃に滅法弱い》

 それに『竜帝』も同意する。

《攻撃を受ければ耐性を得て、ある程度は動ける。しかし電撃だけは早急な対処が必要だ。現状浴びれば機能不全に陥ってしまう。具体的に言えば変貌したまま腕が動かせなくなる》

「……マジか」

 嫌そうな顔を隠さない黒嶺。

「スタンガン程度でも、食らった方がいいのかね?」

《寧ろ食らっておかなければ高電圧の攻撃を受けた際、長時間に渡って機能不全になる可能性がある。……なので》

 そこで、『バロール』は胴体(目玉)の裏から触腕をぬるりと数本伸ばし、その丸っこい三本指の手で挟んだダンボールを二人に見せた。

 中には用途不明の道具が幾つも入っており、それが余計に不気味さを感じる。

《ここにドクターの遺品で、電撃関係の品を「玩具箱(トイボックス)」から持ち出した。今日から戦闘訓練にはこれを持ってお互いに電撃を浴びせまくって貰う》

 なんとも素敵な申し出だった。

 上条と黒嶺はお互いに顔を見合わせる。

 如何に特殊な能力が使えようと、まだ中学生の二人だ。

 格闘戦なら望むところだが、電撃を浴びせられるのは御免被りたかった。

 だが、そうも言ってはいられないのも解っている。

 だから『バロール』の言う戦闘訓練に文句も言わず参加しているのだ。そうでなければとっくに逃げ出している。

《では始めよう。時間は有限だ。明日も学校があるのだからな》

 そう言って、『バロール』は警棒を二本取り出し、二人に手渡した。

「……あの、『バロール』さん。これはなんでせうか?」

《ん? ああ、これは電極内蔵型特殊警棒(スタンロッド)だ。少々電圧は高めだが、まあ君たちならば問題は無いだろう》

「あるわあっ!?」

 上条が絶叫する。

 ちょっと操作してみれば、バチバチバチィッと危険なレベルの電流が流れているではないか。しかも最低電圧でだ。なんだ、熊でも仕留めるつもりなのか。

 こんなものを人間に使えば後遺症だって残りかねない。

 一体これを造った木原連立という男は何を考えていたのか。

《大丈夫だ。一応死なない程度には抑えてある。……メモリを最大にしなければ》

「ぅおぉいっ!? それって最大にしたら死ぬってことですかい!?」

 黒嶺も突っ込む。

《そう気にするな。だから戦い給え》

 ゴーイングマイウェイな『バロール』はそう言って促した。

「……判った」

「……死んだりしねぇだろうな」

 そして今夜も、廃墟ビルの一角で二人は戦う。

 確かめるように。理解していくように。

 何が出来るのかを、一つずつ、入念に調べていくように。

「うおぉおおおおおおおおおおっ!? マジに腕が動かねぇ!!」

「ぎゃーっ!? マジでシャレになんねぇ!! え? え? ねえこれ明日の朝には戻ってるよなぁっ!?」

 中学生が二人、ギャーギャーと騒いで戦っている。

 しかしそれはどこか、楽しそうな様子でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市。

 この大都市には、二三〇万人の人間が存在する。内、八割が学生だ。

 しかしその全員が健全な学生として生活している訳ではない。

 学校に行かず路地裏で屯している不良共。

 彼らは『スキルアウト』と呼ばれている。

 その殆どは、無能力とカテゴライズされた者達だ。

 しかし無能力者(レベル0)の全員が不良である訳ではない。

 事実、無能力者であろうと普通に学校に通い、普通に授業を受け、普通に下校帰りに友達と笑い合うような人間だっているのだ。

 寧ろそういった人間の方が多い。

 その事実に見向きもしないで、無能力者を狩ろうとする能力者達がいる。

 切っ掛けは些細な事だった――らしい。

 街中で能力者の少年たちが、数の多い無能力者に虚仮にされた。

 その報復として、全く関係のない無能力者たちが槍玉に挙げられたのだ。中には未だにベッドから起き上がれないような者もいる。

 虚仮にされた本人への報復ではなく、大勢の無能力者への『正当な復讐』を彼らは謳った。

 そうなってくれば、便乗する人間は増える。事実そのせいで能力者による無能力者狩りの被害は増える一方だ。

 風紀委員も警備員も巡回を強化し、見つけ次第連行しているが、それでも止まらない。

 それもそうだろう。

 『正義』の側に着き、誰に憚ることなく能力を使い人を甚振れるのだ。

 昏い悦楽に酔い痴れてる子供は、踏み止まれる筈もないない。

 だから、その結果はある意味当然と言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一月。

 第七学区にある無能力者武装集団のリーダーである厳ついゴリラのような少年、駒場利徳は覚悟を決めていた。

 能力者狩りを止める事を、だ。

 幾ら自分達とは無関係とは言えど、小学校を襲おうとしているのは流石に見過ごせなかった。

 切っ掛けはスキルアウトにあるが、しかしだからと言って小学生を襲うなど、どう考えても悪党の所業と言える。

 正義の味方と呼ぶには憚るような後ろ暗い事もやってきてはいるが、それでも動かない理由にはならない。

 だから、掲示板にあった小学校襲撃の決行日に駒場はその身を盾にしてでも、子供たちを護ろうと心に決めていた。

 そんな時だ。

「――っと」

 空から大男が降ってきた。

 文字通りに。

 たたらを踏み、しかし直ぐに立ち止まった。

 駒場よりも巨大きい少年だ。

 顔の印象はどちらかと言えば獅子や熊に近い。

 ゴリラと称される自分よりも腕力は上のように感じられた。かなり鍛え込んでいるように感じられる。ジャケットの下には鋼鉄のような筋肉があるのだろう。

 と言うか、どう見ても身長は二メートルを超えているが、本当に十代なのだろうか。

「えーっと……こっちでいいんだよな?」

 携帯電話片手に独りごちる。

「……何者だ」

 そんな少年に、駒場は話し掛ける。

 怪しさ全開だが、逆にそれが風紀委員や警備員関係者では無いのは解った。

 しかし怪しいものは怪しい。

「あー……俺は『運び屋(トランスポーター)』っつーんだが。ここら辺にいるらしいスキルアウトの半蔵って人間を捜している」

「……何故、ソイツを捜している?」

 その言葉を聞いて、駒場は警戒の度合いを高める。

 友人の名前だったからだ。

 場合によっては、少々荒っぽい事態になるだろう。

「言ったろ? 『運び屋』だって。届け物があるから、指定されたビルの屋上まで来ただけだっつーの」

 そう言って、男は黒い渦を生み出し、そこから小包を取り出した。そしてそれをまた渦に放り投げる。

 確かに半蔵も宅配便が来るとは言っていたが、今ヤツは廃ビルの一階にいるのでは?

「……能力者か」

「あ? ああ、無能力者狩りだとか思ってるのか? 生憎とそんな事してる暇はねぇよ」

 手をひらひらと動かし、『運び屋』は言う。

 携帯を操作し、どうやら半蔵にメールをしているらしい。

 能力者狩りだと思われた、という時点で自分が無能力者だと気付いたらしく、

「そう言や、確か明後日だったか? 小学校にボウガン持参して、子供を襲おうとか考えてる間抜けが動くのって」

 そんな態度を見て、無関係な人間なのだと駒場は理解した。

「……そうだな」

 半蔵を待っている間、二人は世間話をし始めた。

 まだ真冬で空気は寒いのに、二人は普通に会話を続けていく。

「アンタも見たのか? 掲示板」

「……まあな」

 自分が見た掲示板からは、嫌な熱気が感じられた。

 まるで、歴史にある公開処刑を見るかのような――

「……やると思うか?」

 能力者の事は能力者に訊くのが一番良い。だから尋ねた。

 恐らくこの男、強能力以上の使い手だろう。

「んー……多分、ヤるな。どうやら話半分の馬鹿に煽られたせいで、マジになってんなぁ」

 駒場も携帯を操作し、その掲示板に飛ぶとそこでは参加すると表明している馬鹿共が大勢いた。

 学校の襲撃する馬鹿も一人ないし数人だった筈なのに、いつの間にか数十人が動こうとしているではないか。

 この分だと、明日にでも動き始めるかもしれない。

 完全にキレた「能力者(バカ)」が数十人。

 ボウガン持ちが一人だとしても、それ以上に危険な能力者がいれば被害は拡大する。

 元々独りで動こうとしていたのだが、そうも言っていられないようだ。

「……このままだと、無能力者(レベル0)が暮らし難くなるな」

 そう呟き、駒場は暗澹な気分になった。

 自分や仲間のような不良は兎も角、不良ではない無能力者が生き辛くなるのは本意ではないのだ。

 いっその事、学園都市に反旗を翻すか、と駒場が考えていると、『運び屋』は言った。

 

「逃げ易くなるような道具ならあるんだが、いるかい? 勿論金は貰うけどな」

 

 ピクリ、と駒場の肩が揺れる。

「そうだな……商談といこうか。ここじゃあ冷えるし、どっか暖かい場所はねぇかな?」

「……来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキルアウトの少年少女たちが屯する第七学区の廃ビルの一角に駒場と『運び屋』の少年はやって来た。

 黒い渦がゆっくりと動き、渦の中から大きめのダンボール箱を転移させる。この『運び屋』の能力なのだろう。

 その光景に、かつて抱いた憧憬と嫉妬が顔を出しそうになり、必死で抑え込んだ。駒場だって老けて見られるがまだ少年なのだ。

 割り切るには少々時間が掛かった。

 だから早々に、『運び屋』の商品に意識を向ける。

 手に取り、調べてみた。

「……これは、ローラー付きの靴、か」

 他にも、手の甲の部分に何かの装置が付いているグローブもあった。オープンフィンガー版もあるが、季節で変えるのだろうか。

 恐らくローラー付きの靴とこのグローブはセットで使うのだと推測出来る。

 『運び屋』の少年は言う。

「こいつはとある科学者が作った遊び用の道具でな。ホイールの中に超高性能なモーターが仕込まれてる。性能は俺も試したが、折り紙付きだ」

「……具体的には?」

「速度が乗れば、軽くビルの間も飛び越えられる」

 次にグローブを持ち上げ、

「こっちは、電磁式吸着装置の付いたグローブだな。装置を反転させて、磁力を反発させることも出来る」

 要するに命綱ということか。

 他にも学園都市製のプロテクターを使えば、かなり無茶な使い方をしても怪我をしないだろう。

「名前は『スカイ・ギア』。まあ、慣れない内は普通に地上走った方がよっぽどだが――それでも加速していけば、車程度なら余裕で追い越せるだろうさ」

 そう言いながら『運び屋』がまた別の道具を取り出していると、

「リーダー、いるかい?」

 誰かが部屋に入ってきた。

 バンダナを頭に巻いた少年だ。

「半蔵」

 駒場が『運び屋』を指差す。

「ああ、アンタが『運び屋』か。……それで、例のブツは?」

「ここにある」

 黒い渦が転移させたのは、一抱えもあるダンボール。

 それが二十個はあった。

「しっかし大変だった。アンタが教えてくれたルートを使わなきゃ、『外』から仕入れるのは出来なかったよ」

「いやいや。最近の運送屋は女も多いからな。男のアンタがいなけりゃ危険は冒せなかった。……いやあ、こりゃ有り難ぇ」

 ダンボール箱の中身を確認し、半蔵は感謝の言葉を述べる。かなり顔がにやけているではないか。

 幾らスキルアウトでも敵対していなければ能力者に隔意は抱かないものだ。

 それに半蔵は忍者の末裔で、仕事に感情は可能な限り持ち込まない主義だった。ちなみにこの事実は駒場しか知らない。

 ……それにしても、こうも気持ち悪いレベルでにやけていると流石に引いてしまう。

「むふふふふふ…………」

 つい気になり、背後からダンボールを覗き込む。

 それを見て、駒場は息を呑んだ。

「……半蔵、お前……っ!」

 そこには、十八歳未満お断りの大人の教科書が大量にあった。実写漫画問わずかなりの量だ。

 見た所DVDもある。こっちも実写とアニメの両方があった。

 エロの宝箱が、ここにはある。

 どうやら前に半蔵が言っていた『新しい金儲け』がこれのようだ。

 この手のモノは十八歳以上しか見てはいけないという規則だが、しかし中学生や高校生でもエロを見たいと思うのは当然だろう。その気持ちは変わらない筈だ。

 学生が都市の八割を占めるとは言え、更にその半数は男だ。

 この第七学区だけでも十八歳以下の男子生徒はそれなりの数になるだろう。

 そいつらに向けて噂を流せば、定価プラス手数料で割り増し価格でも買いたい人間は多い筈だ。

 更に先の『スカイ・ギア』を使えば、風紀委員や警備員に捕まる確率は低くなるだろう。

「で、だ。金の用意は出来てるか?」

「勿論。ああ、それと一つ頼まれてくれねぇか?」

 半蔵は懐から紙幣の入っている封筒を渡す。

 そして頼み込んだ。

「俺らが、『教科書』を売ってるって噂を流して欲しいんだよ。アンタ、『運び屋』やってんだから顔広いだろ」

「いやいや、始めたのはつい最近だって。まだまだお得意さんは出来てないよ。……まあ、噂は広めておくさ」

 『運び屋』は封筒を開け、金額を確認する。

 どうやら過不足が無いようで、黒い渦にその封筒を突っ込む。

 転移させたのか、はたまた異空間に収納したのかは解らないが、しかし便利な能力だ。もし戦うとすれば、苦戦は免れないだろう。いや、勝ち目は薄いと見るべきだ。海底にや上空に転移させられたらどうする事も出来ないで死ぬだけだ。

 ――やはり、能力者と戦うにしても逃げるにしても、ある程度の装備は必要か。

 そう、駒場は思った。

 日の当たる世界で生きる無能力者たちならば、逃げれば警備員に保護を求める事も出来るだろう。不良の場合はカツアゲをする場合もあるので自業自得なので除外する。

 だが、逃げるにしても、その前に能力者によって攻撃されるのだ。

 相手は能力者。逃げ出せるのなら、それに越した事はない。勝てない勝負は誰だってしたくはないだろう。

 ならば逃げた後は、立ち向かうと決めた者に任せれば良い。

 自分のような馬鹿がそういった事には適任だろう。

 駒場がそう決意を新たにしていると、何やら半蔵と『運び屋』が真剣な顔で話し合っているではないか。

「……つまり、この『スカイ・ギア』は、もう幾つかの企業に持ち込んでるんだな?」

「ああ。多分、それに実際の稼働データがあれば、専用テスターとして金を貰う事も出来る、かもしれない」

「スキルアウトって時点で門前払いされる可能性もある……か」

「もしくは、諸手を上げて受け入れてくれるレベルのデータがあれば――」

 そんな事を話し合っている時だ。

 

「おーっす! なんか、エロいもんが手に入ったって聞きましたよー?」

 

 金髪の少年が部屋に入ってきた。

 名を、浜面仕上。

 チームにおいてナンバーツーの、ありとあらゆる乗り物に愛される――無能力者だった。

 ぐるり、と半蔵が浜面を見遣る。

 そのタダならぬ雰囲気に、浜面は一歩引く。

 しかしそれよりも先に半蔵が動いた。

「なあ浜面くんよ、これ――履いてみてくんない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生……! なんだって俺がこんな目に……っ!」

 翌日。

 浜面は小学校に侵入し、無能力者(レベル0)の子供たちを襲おうとしている能力者(バカども)を前に『スカイ・ギア』で翻弄していた。

 手には単なる警棒を持ち、高速で移動しながら馬鹿共の後頭部を容赦無く殴り倒していく。視界の横を火やら礫やらが飛んでいくのは心臓に悪い。特にこう、高速で移動している場合は特にだ。

 勿論他の仲間達も同様に能力者を思い思いの武器で殴っている。

 日頃の鬱憤を晴らすかのように、かなり容赦がなかった。様々な仮面やヘルメットで顔を隠しているが、その顔は真剣で晴れやかなものになっているだろう。

 そして、そんな姿をカメラが追っていた。これは『運び屋』が連れてきた撮影隊だ。

 切っ掛けは、昨日の半蔵と『運び屋』の会話だった。

『まず前提条件として、ある程度のレベルでこれを履きこなせる連中に動いて貰う必要がある』

『派手に立ち回れって事か』

『ああ、騒ぎを大きくして貰う』

『顔はどうする? スキルアウトは大抵ツラが警備員や風紀委員には割れてるぜ』

『当然ツラは非公開だ。正体不明な路地裏のヒーローってヤツだな』

『……騒ぎを大きくして、どうするつもりだ?』

 駒場の疑問は尤もだった。

『ああ、この馬鹿共には生贄になって貰う』

『……生贄、だと?』

 『運び屋』はあっさりと、この惨劇に参加しようとしている馬鹿共を使い潰す、と言った。

『勿論相手も馬鹿じゃない。多分自分の顔は隠してくるだろうさ。こういう小物は、自己保身には聡い』

 だから、と前置きして。

『殴り倒して顔を晒して、学園都市全体に恥を掻かせてやろう』

 秘密裏に仕留めても、こういった手合いはまた繰り返す。

 なら、大っぴらに恥を掻いて貰って、警備員に引き渡そう。

 その後は知った事か。

 少年院で過ごそうが、退学になろうが、どうでもいい。

 無能力者だからって、無抵抗に狩られないのだと、示せればいい。

 そう駒場のリーダーは宣言した。

 だから浜面は、このリーダーに付き合う事にしたのだ。

 確かにそう決めた。

 決めたのだが――

「死ねや雑魚がぁ!?」

 何故大能力者(レベル4)がいるのだ。

 しかも炎熱系能力者。

 明らかに人に向けるべき規模ではない火力の炎がこちらに向かって飛んでくる。

 一つでも当たれば死ぬ。

 だから浜面は逃げた。

 履いている『スカイ・ギア』の性能を限界まで引き出さず――つかず離れずで他の仲間に攻撃を向けないように。

 駒場のリーダーと半蔵に任せれば、小学校に侵入している奴らはどうとでもなるだろう。

 襲撃してきた大部分は既に叩きのめして、顔を晒している。

 後はこの大能力者を仕留めれば、それで今回の一件は終わるだろう。

 だが――

「いやいやいや! 死ぬ死ぬ! 死ぬってこんなのぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 迫る炎を、壁を蹴って回避。

 そのまま背後に着地して、攻撃しようとしても炎が邪魔で近付こうにも近付けない。

 だから逃げようとした。

 だが、

「いい加減、死ねよお前」

 ゾッとするような、底冷えした平坦な声。

 一瞬の躊躇。その隙を突いて大能力者(レベル4)は動いた。

 右腕を掴まれ――炎が肌を焼き焦がしたのだ。

「がぁぁっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――っ!!」

 炭化した腕を抱えて、浜面は絶叫してしまう。

 もう腕は使い物にならない。

 しかしその瞬間。

「ごぁ……っ!?」

 浜面は左手に持っていた警棒を後ろ向きで振るった。

 いい具合に相手の側頭部に当たったようだ。

 もう無我夢中である。

「ぐぅうううううう……!」

 嫌な臭いのする腕を抱え、蹲る浜面。

 思う。

 どうしてこんな目に遭わなきゃならない。

 どうして俺の腕が焼かれなきゃならない。

 どうして――俺はこんな野郎に、

「こんなクズに殺されなきゃならねぇ……っ!?」

 怒り。

 腕を燃やし焦がされ、浜面は――キレた。

「いってぇ……。てめぇ、生きたまま火葬してやらぁ――」

 その憎悪に塗れた言葉を、

「黙れよ」

 彼は物理的に塞ぐ。

 焦げた腕で、相手の喉を掴む事によって。

「がっ……! あ……っ?」

 皮膚の火傷どころか、骨すら炭化している筈なのに。それ程の火力で腕を燃やした。

 なのに何故、この無能力者は普通に首を締め上げているのか。

 大能力者は見た。

 焦げた腕から、炭化した皮膚が剥離していく。その下には、傷一つ無い肌が見えた。

「て、んめぇ……。自動再生の、能力者か……?」

 だが、浜面は無能力者。

 ここまで驚異的な再生能力など、彼は持ち合わせていなかった。

 ならば、一体『何』が原因なのか。

 答えは直ぐに解った。

 喉を掴んだまま、腕一本で相手を投げ飛ばす。

 ゴロゴロと転がっていく大能力者の男。その姿に、一切の脅威を感じなかった。

 その男よりも危険な「何か」が自分の腕に宿っている。

 確信があった。

「――もういい」

 この大能力者に勝てるという、根拠の無い確信が。

「テメェはここで沈めてやる。無能力者(レベル0)に徹底的にボコにされて大恥かきやがれ……!」

 声が聴こえた。

 

 

 

《――力が欲しいか?》

 

 

 

 人では有り得ない異形のそれへと変える声。

 

 

 

《――力が欲しいのなら》

 

 

 

 しかしそれを、浜面は受け入れた。

 

 

 

《――くれてやる!!》

 

 

 

 右腕が異形の甲殻に覆われた。

 意識が沸騰している浜面は、その変異した腕を握り締め、言った。

「覚悟しやがれ」

 しかしそれを聞いた大能力者の少年は咳込みながら、

「舐めんなクズがぁああ――――っ!!」

 炎を纏い、突っ込んできた。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 大能力者の少年は、顔をボッコボコにされて倒れていた。その顔はまるで風船のように膨らんでいる。

 倒れている能力者を尻目に、浜面は途方に暮れた。

 異形の甲殻の腕を見て、どうするべきか迷っているのだ。

 これを駒場のリーダーや半蔵を始めとした仲間達に見せていいのだろうか。

 受け入れてくれるのだろうか。

 それが――酷く不安だった。

《――初めまして、と言うべきだろうな》

 声が、聴こえた。

「だ、誰だ……?」

《我が名は『軍団(レギオン)』。そなたに宿る力だ》

「レギオン? つーか、力って……」

 浜面は戸惑っていた。

《説明しても良いのだが、少々ここは差し障りがある。どうやら同胞も近くにいるようだ。詳しい話は同胞たちを交えてするとしよう》

「同胞って……」

 そんな時だ。

 黒い渦が壁に生み出された。

 その中から、大柄の筋肉質な少年が現れたのだ。

 ここ二日辺りで見知った顔だった。『運び屋』の少年だ。

「あー……マジでお仲間か。『バロール』の感知能力も凄いな」

 その言葉に不審そうな顔をする。

「一体、何の話だよ?」

()()()()()()

 『運び屋』の右腕も、変貌した。

 自分のとは形は違うが、それでも解った。

 これは、自分と『同じモノ』だ。

 

 

 

 

 

 ――こうして、浜面仕上は上条当麻と黒嶺流星と合流した。

 

 

 

 

 そして、新学期の五月。

 彼らは吸血鬼とそれを殺す者と出逢う。

 殺す者と殺される者。

 本来の物語であれば、禁書目録と出逢った後の物語。

 錬金術師は、科学の街にやって来た。

 目的は、たった一人の生徒を救う為。

 その為にとある少女とそれを狙う存在を捜していた。

 出る筈の無かった登場人物を交え、科学と魔術の交差する「物語」は紐解かれる。

 

 

 

 ――これは、再開/再会の物語。

 

 

 

 禁書目録と呼ばれる少女が、もう一度絆を手に入れる為の再誕の物語。

 赤毛の愛煙家が。

 黒髪の乙女が。

 そして、緑髪の錬金術師が。

 もう一度、彼女に出逢う。




吸血鬼。

それを殺す事に特化した少女がいる。

彼らは言う。

お前は悪だ。

お前は怖い。

だから殺す。

しかし誰もが死んでいく。

灰の街で、少女は思う。

――誰か助けて。

しかし願いは届かない。





科学の街で、少女は待つ。

自分を助けてくれる人を。

そして願う。

誰かを救える存在になる事を。


そして、三人の男と一人の美女が現れた。
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