とある魔術の禁書目録にARMSを入れてみた(仮)   作:コウ・カルナギ

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 人には過去がある。

 どんな人にも平等に。

 『運び屋』を営む巨漢の高校生にも。

 裏家業を生業とする金髪の高校生にも。

 誰にだって過去がある。

 だからこそ、時として過去は『誰か』を連れてくる。

 『懐かしい何か』と『新しい何か』を一緒くたにして。


「再会」

 浜面仕上は改造人間である。

 

 

 まるで特撮やアニメの冒頭における主人公の紹介みたいだが、十割事実だったりする。喋る蝙蝠の翼の生えた目玉と自分の腕に宿った存在から一通りの説明を受けたのだが、出来る事なら気絶してしまいたかった。

 だが、仲間がいた事だけは素直に有り難かった。

 たった二人の仲間だが、そいつらは顔見知りの大能力者(レベル4)無能力者(レベル0)にランク分けされているだけの異能持ちであり、パッと見で乗り物ならば大抵のモノを動かせて、多少扱いが特殊だろうとマニュアルを読み込めばそれなりに動かせる程度の一般人の自分からしてみれば、違う存在でしかない。大抵のアナログ錠なら簡単に開けられる自分なんぞよりも、自分の二〇倍の物体を転移させられる巨漢や、あらゆる異能を消し飛ばせるヤツの方が凄いに決まっているのだ。

 だから初めは隔意のようなものは感じたが――二人とも「良い奴」だと解ったので、今はそういった感情は抱かなくなった。

 そしてそれ以上に、自分の中にあるARMSが特殊で扱いが難しい事も、そう言った感情を持ち続けられない理由の一つでもあった。

 

 ――『軍団(レギオン)』。

 

 個にして多数。

 それをコンセプトに製造されたARMSであり、その扱いは黒嶺と上条のそれよりも比較的難しい。

 観測用ARMSである『バロール』の話では、最も扱いが難しいARMSはまだ目覚めていないが、それを除けば『軍団』は最も難易度の高い兵装を持っているとか。

 そしてそれは、浜面自身も『軍団』との会話で理解していた。

 このARMSは、他のものと違い、「コピー」を生み出す事が出来るのだ。

 右腕を砲身化させ「卵型弾倉(エッグチャンバー)」より結晶体を射出し、それが無機物に当たれば周囲を食らって「兵隊」が活動を始める。別に砲身から射出しなくとも、手で結晶体(たまご)をバラ撒く事も出来た。

 本来は『軍団』本体を「マザー」と称し、生み出されたそれを「幼生体」と呼称していたのだが、浜面本人の強い希望により、彼に宿っている『軍団』は「オリジナル」、生み出されたモノは「兵隊(ソルジャー)」と呼ばれるようになった。

 だって男なのにマザーとか呼ばれたくない。そう浜面が言い、上条も黒嶺も同意してくれた。

 話を戻すが、浜面にとって生み出した「兵隊」の操作は難しい。例えるなら見えない糸で「自分」と「兵隊」を繋いで一本一本を別々に操っているようなものだからだ。

 かなり複雑なので、命令は基本的に『軍団』が行っている。そこに随時浜面が追加でオーダーを出しているようなモノだ。

 一度浜面本人が操った事もあったが、同時に五体を操るだけで精一杯だった。しかもその精度は数を増やす度に落ちていく。手足のように操れるのは精々が二体までだ。

 そんな難易度の高いARMSを持った浜面は現在、危機に直面していた。

 スキルアウトに所属しているのは変わらないが、それでも自分が改造人間だと打ち明けるのは勇気がいる。

 流石に全員に話すのは上条たちからも止められており、それは自分でも同意した。

 しかしそれでも、スキルアウト関係なしに駒場や半蔵には打ち明けておきたい。

 

 

 

 

 

 だから、

「なあ、リーダー。半蔵。……話がある」

 浜面は意を決して二人に打ち明けた。

 

 結果として、二人は浜面の事情を受け止め、理解を示してくれた。

 

 だから浜面は、スキルアウトとしての活動も続けている。

 しかし今では路地裏に学生を引っ張り込んでカツアゲしたりATMの強奪などの犯罪行為は行わず、『スカイ・ギア』のテスター料や大人の『教科書』の販売、『運び屋(トランスポーター)』を真似しての配送業務などで金を稼いでいた。言うなれば黒ではないグレーな業務である。

 リーダーである駒場が、前からカツアゲや強盗に難色を示していたから、その方針の転換はある意味当然でもあった。

 これにより、第七学区のスキルアウトに限定されるが、モラルが出来上がっていたのである。

 浜面としては、手っ取り早く稼げるなら犯罪行為も仕方ないと思っていたが、もしそれが上条や黒嶺にバレれば――この身体で竹蜻蛉の気持ちを理解する羽目になるだろう。あの二人、そういった意味では手が早い。

 事実、上条たちはカツアゲの現場に出くわすと有無を言わさず殴り飛ばしている。酷い時など、人が縦に回転するのだから恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――夢を見た。

 

 ――どこか遠くへ行くことになった幼馴染との別れの日。

 

 ――自分と別れるのが嫌で、半ベソな顔。

 

 ――元々病気で、太陽の下に出られなかった女の子。

 

 ――そんな彼女を不憫に思った自分は、外でいろんなモノを拾っては見せてやった。

 

 ――だからだろうか、彼女は自分に懐いた。

 

 ――しかし彼女は短い時間しかこの田舎にはいなかった。

 

 ――両親の都合で海外に行く事になったとか。

 

 ――その彼女が別れの際、とある約束を口にした。

 

 ――自分は、『それ』に何と応えたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 季節は変わり五月。

 新学期が始まり一か月が過ぎた頃、人がちょっと暖かな気候が心地良く、無気力になり五月病なんかに悩まされるようなそんな時期。

 高校生になった上条と黒嶺は、中学と同じように同じクラスなった。

 相も変わらず馬鹿な話をして、騒ぎに巻き込まれ、場合によっては殴り殴られる――そんな毎日を過ごしていた。

 平たく言えば、日常を謳歌していた。

 そんな五月の夜。

 夢見が悪かった黒嶺は、一人で夜の学園都市を飛び回っていた。今日は上条も浜面も用事があったので一人で行動している。

 ARMSで身体能力を強化して、ビルの屋上を駆け抜けていく。

 時折、複数で一人を痛めつけるような馬鹿を見つけたら、能力者無能力者問わず殴り倒す。弱い者虐めはカッコ悪い。だからつい手を貸してしまう。

 不良を全員昏倒させ、被害生徒がこっちに気付く前に転移したそんな時。

 依頼の連絡が入った。

 依頼人は、土御門元春(つちみかどもとはる)

 色々と仕事を回してくれる仲介役だ。

 そして四月からの同じ高校のクラスメートでもあった。余談だが、義理の妹を持つ筋金入りのシスコンでもある。

『もしもーし。黒やん、今大丈夫かにゃー?』

 どこか間の抜けた声色だが、依頼の質も高くこちらとしては有難い。

 その見返りに義妹系の『教科書』の融通もしているが、どうやら未だに義妹である舞夏には見つかっていないらしい。聞けば、彼女には決して見られないように別に保管所を用意しているのだとか。

 ……その情熱を正しい方向に向ければ彼女も出来るだろうに。

 ――いや、無理だ。そう思いなおす。

 だってこの野郎は舞夏を愛しているのだから。

 上条にシスコン軍曹と呼ばれるのは伊達ではない。

「ああ、今は夜中の散歩だ。……依頼か?」

『そうだぜい。依頼人は……えーと、あれ? おっかしいにゃー。なんでいねぇんだ? さっきまでここにいたのに……』

 声は軽いが、しかしその裏では何かが張り詰めたような感じを受けた。

「――土御門、今どこだ?」

『……第十九学区だ。そこの外部搬入ゲートで依頼人と待っていたんだが、いつの間にかいなくなってる』

 寂れている学区なだけに、基本的に土御門の依頼人とはそこで会うのが通例だが、いなくなるとは尋常の出来事じゃない。

「直ぐに向かう」

 そう言うや否や、黒嶺は『黒渦穿孔』を発動。

 渦巻く黒い渦を生み出し、その中に身を躍らせる。

 その渦の先に第十九学区の見知った搬入ゲートと土御門が見えた。

「よお」

「おっす。相変わらず出鱈目だぜい、黒やん」

 冬だろうと意地でも変えない地肌にアロハシャツの金髪サングラスの少年は、シニカルに笑う。

 手にはオートマチック製の拳銃を握っており、かなり警戒しているのが見て取れた。

 この男、強度は無能力者に区分されており使えるのは『肉体再生(オートリバース)』という能力で、文字通り肉体的損傷を回復させるのだが、治癒速度効果共に大した事は無いのが実情だ。本人の自己申告になるが、破れた血管を応急処置したり、長時間かけて瀕死の重傷から復帰する程度だとか。

 それなりにグレーな仕事を斡旋してる以上、身の危険を感じて武装するのはおかしくない。寧ろ当然だ。

 しかしその豆鉄砲だけでは心許ないだろう。

「土御門、これを使え」

 だから黒嶺は黒い渦より例の警棒を取り出し、クラスメートに放ってやる。

「……黒やん。これは?」

「電気ショック付きの特殊警棒(スタンロッド)だ。威力を最大にすりゃあ人なんざ余裕で殺せる」

「……有り難く借りとくぜい」

 お互いに背を向け、互いの死角をカバーするように周囲に意識を向ける。

 勿論その間に自分も特殊警棒を二本取り出し構えた。少々警棒は長めのそれだが、巨漢の黒嶺が構えると普通サイズに見えていたりする。

 黒嶺は依頼人の情報を土御門に訊ねた。

「どんなヤツだった?」

「普通のオッサンだったぜい。つーか、黒やんも何度か会ってる野郎だ」

 その人物の名前を告げられて、黒嶺は怪訝に思った。

 件の彼は学園都市で離れて暮らしている娘と息子に誕生日プレゼントを届けるように、と依頼を出した金持ちのオッサンだったからだ。

 ひょんな事で伝手を通して土御門が担当したが、本来は黒嶺のような場末の『運び屋』など使わないでもいいような人間だった。

「……なんであのオッサンがいなくなる? つーか、娘さんへの誕生日プレゼント配達、この前やっただろ」

 既に依頼金も振り込まれており、感謝の手紙も(土御門経由で)貰っている。

 だからと言って、こんなに短いスパンで来るような人物ではないのは確かだ。本業があり、外の現場で辣腕を振るうバリバリの企業戦士が仕事を放ってくるなど有り得ない。

「いや、もしかしたら……オッサン本人じゃないかもしれないぜよ」

「はあ?」

 土御門の突然の仮説に、黒嶺も怪訝な顔をする。

 しかし。

 突如周囲に『異変』が現れた。

「――っ!?」

 いつの間にか、“霧”が周囲に立ち込めているのではないか。

 本能的に、これは自然の霧ではない――と理解出来た。

「……霧、か」

 少々メモリの電圧を上げる土御門。最大値だった。

 バチバチバチ――ッ!! と明らかに人が死ねる音が周囲に響き渡る。

 流石にその電圧のヤバさに真顔になる金髪サングラス。

「……本当にヤバいなこれ」

「間違っても地肌に触れんなよ。お前冬でもアロハ一枚なんだから」

 軽口を叩きながら、黒嶺は土御門に訊ねる。

「で、だ。こりゃあ『何』だ?」

 そんな時。

 蝙蝠の鳴き声が“霧”の中に木霊した。

 キィキィといった蝙蝠特有の甲高い鳴き声。

 それ以外にも、犬科の動物の唸り声が聴こえてくる。

「霧に蝙蝠に犬、ねぇ。……お伽噺の吸血鬼じゃあるまいし」

 黒嶺がそう冗談で口にすると土御門が、

「いや――どうやら“そう”みたいだぜい。黒やん」

 土御門が顔色を悪くして、ある一定の方向――上空を見上げていた。

 黒嶺もそれに釣られ、

「――――あ?」

 呆然となる。

 そこには、巨大な銀狼に乗った黒いドレス姿の美少女が空中に浮かんでいたからだ。

 髪は白銀のそれ。

 肌は陶器を思わせる白磁。病的な白さだが、どこか人間らしい。

 瞳は血のように赤い。

 起伏の激しい放漫な肉体は色気に満ち溢れており、それが少女の見た目の年齢以上に色気を感じさせる。

 表情は冷たく、しかし強い感情が瞳からは発露されていた。

 顔立ちはどこか日本人っぽいが、明らかに外国の血が入っているのは明白だろう。

 美少女だ。

 しかし何故だろう。

 その少女に、例えようも無い危険を感じるのは。

「あなた達に訊きたいんだけど」

 抑揚の無い声色。

 しかしそれは感情が無いからではない。

 それは、溢れ出るような激情を押し殺しているが故の平坦な声。

 

 

 

 ――『吸血殺し(ディープブラッド)』は、どこにいるの?

 

 

 

 瞬間。

 土御門が叫んだ。

「黒やん、走れっ!!」

 しかしそれよりも早く。

 “霧”の中から別の狼が現れて、土御門に襲い掛かった。

 しかも今度は人型の狼。

 所謂「人狼」というヤツだった。

「がっ…………っ!?」

 その巨大な手で地面に叩きつけられ、土御門は苦悶の声を上げる。その手から拳銃を取り落としてしまうが、辛うじて特殊警棒だけは手に残った。

「土御門!?」

「に、げろ……黒やん。コイツ、マジでヤバい……!」

 特殊警棒を全力で叩きつけるにも、身体が密着している以上土御門にも電流が流れかねない。

 だから即座に黒嶺の黒い渦が人狼の腕や脚、胴を通過して止まる。そのまま渦は拘束具となり、人狼の自由を奪った。

 次に、地面と人狼の手でサンドイッチになっている土御門の背中に渦を生み出して、自分の背後に転移させる。背後の渦から出てきた彼は、咳き込みながらも再度撤退を黒嶺に伝えた。

「ゲッホ、えっほ。黒やん、ありゃマジモンの吸血鬼だ。人の勝てる相手じゃねぇぜい」

 空中の少女は黙ったままこちらを見下ろしているが、動きは無い。

「……吸血鬼、って。あの女がか?」

「ああそうだ」

 ずれたサングラスを直し、

「しかもアイツ、『魔術師』だ」

 

 

 

「…………何だって?」

 

 

 

 何だか聞き覚えの無い単語が耳に入った。

 土御門が大真面目に再度言う。

「魔術師だ」

「冗談――じゃ、なさそうだな」

「ああ、大真面目だ」

 そんな二人を見下ろす少女は、指を鳴らす。

 すると、人狼が消え去った。

「……ねえ?」

 ゆっくりと空中を歩く狼。まるで見えない坂道を下るかのように地面に降り立った。

「所で、さっきの質問には答えてくれないかしら? ――『吸血殺し』について」

 小首を傾げる美少女。

 こんな状況でなければさぞ絵になっていた事だろう。

 狼に横座りしていても、その挙動の優美さは全く損なわれておらず『人外の美』というモノをこれでもかと二人に見せつけていた。と言うか、精神的に弱い人間なら喜んで下僕になりそうな色香だ。

 事実、土御門はその美しさに一瞬虚を突かれたようで、次の瞬間には目の前の少女を無視して自分の顔を全力で殴りつけているではないか。

 小声で『俺には舞夏が……!』なんて言っており、そのガチ具合には流石に引いた。

 …………しかし。

「………………………………………………………………………………………………………………………………んー?」

 黒嶺には見覚えがある。

 具体的に言えば、幼少の頃。

 かつて山中の限界集落で暮らしていた黒嶺には、幼馴染がいた。

 同世代の人間が麓の街にしかおらず、そこまで片道三時間掛かるような山奥で野生児として暮らしていた黒嶺。

 その山中のほぼ人のいない集落で一緒に遊んだ他県から移住してきた銀髪の幼馴染がいたのである。なんでも自然の中で病気療養する為だと聞いていた。

 そう。

 銀髪だ。

 目の前で狼に横座りしている美少女を見る。

 ――あっれー?

 そう言えば、顔にも見覚えがある。

 具体的に言えば、その幼馴染の母親に似ている気がするのだ。

 だが、だがしかし。

 それでも本人だとは思えない。

 何故か。

 彼女は“病気”で、太陽の下では遊べないが夜になれば遊べた。その時の彼女はとても元気で、いつもニコニコしていたのだ。元気一杯だったと言って良い。

 罷り間違っても、あんな淑女の極みのような仕草を手に入れられるような女である筈がない。あの野生児がそんなスキルを身に着けるなど、まだサルがビジネスマナーを会得したという噂の方が信憑性がある。

 あの集落が山崩れで住めなくなったのもあり、彼女とも疎遠になっていたが、忘れた事は無かった。何せ人生で初の銀髪系女子だ。彼女との思い出の品も色々と土砂や泥水やらで駄目になったが写真は手元に残っている。

 だから、名前を呼ぶ事にした。

「……まさか、白雪(しらゆき)?」

 すると。

 彼女の視線が見開かれる。

 吸血鬼が反応したのだ。

 彼女の眼に、『期待』と『不安』が混じり合っているように土御門には見えた。

 しかし黒嶺はそこから更に言葉をブッ込んだ。

「――の親戚か?」

「…………」

 一瞬で、空気が死んだ。

 眼前の少女の顔がさっき以上の無表情になる。

 完全なる無だ。

「ちょ――黒やん。ナニを言って……!?」

「いやだってさぁ。俺の知ってる白雪ってあんなお嬢様じゃねぇもん」

 ビキリ、と少女のこめかみに青筋が浮かんだ――のを土御門は幻視した。

 更に黒嶺が続ける。

「それにあんなドレスなんか着る筈ねぇし。基本アイツ、パジャマで川に魚を見に行くようなヤツだぞ。恐らく今のアイツの部屋着兼外出用はジャージだ」

 ゴオッ、と彼女の背後に夜叉が見えた(土御門のみ)。

 狼は主人の乱心に狼狽え気味だ。無理もない。

「『大きくなったらボクがパパの剣を習うんだー』とか言ってたアイツが、ポン刀を持っていない筈が無い。事ある毎に玩具の刀振り回して俺に斬りかかるような問題児だぞ」

 今度は、笑顔になった。

 しかし土御門(ついでに狼)には解った。あれは、殺意の笑みだ。

 狼から降りると、少女はその手にいつの間にか日本刀を携えていた。

 これはもう確定である。

 狼も自分も、二人から距離を取った。

 だがせめて友人に忠告ぐらいはしてやろうと思い口を開いた。

 最初に抱いていた危機感はすっかり霧散したが、別の危険が今友人を襲おうとしている。

「黒やん――」

 しかしそれは黒嶺の発言にて中断させられた。

「あと、これは私見になるが――」

 少女の豊満な胸を見て一言。

「あんな偏食バカ娘がこんな立派な御胸様を持てるはずが無い」

 決定的。

 余りに決定的な一言だった。

 ブチィッ!! と何か決定的な何かが千切れた音を聴いた。恐らく堪忍袋的な何かだろう。

「…………の……」

 少女は俯いている。

「ん?」

 その微かな声に反応し、黒嶺は再度目の前の少女を見た。

 手にした黒鞘のポン刀。

「りゅーくんの……」

 りゅーくん。

 それは、かつて小学校に上がる前に海外へ移住した幼馴染が黒嶺を呼んでいた名前だ。

「え、本物?」

 そして、吸血鬼の少女は――爆発した。

 

 

 

「りゅーくんのあほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――っ!!」

 

 

 

 人外の速度で距離を詰め、その脳天に鞘付きの日本刀が振り下ろされた。

「ぐべっ!?」

 蛙が潰れたような呻き声を上げて、黒嶺は仰向けに引っ繰り返った。

 そんな黒嶺にドレスであろうと気にせず少女は馬乗りになり、両手で胸倉を掴んでガンガンと揺さぶる。ガンガンとは、彼の後頭部が地面に激突する音だ。

「なんでりゅーくんはそうかなぁ!? 折角綺麗になったのに髪の毛伸ばしたのにおめかし出来るようになったのにおっぱい大きくなったのに!」

 もう先程まで感じていた人外の美などどこにも見当たらなかった。

 そこには、唐変木の幼馴染に説教する少女がいるだけだった。

 眼も先程の血のような赤では無く、草原のような碧色をしている。

「そりゃあボクだってこんなドレス好きだけど結婚式以外じゃ着たくないよ! でもりゅーくんお姫様みたいな娘が良いって言ったから精一杯おめかししたのにヒールだって履いたのに!」

 少女は止まらない。

「大体偏食バカ娘って何さ! ただちょっと人参レタスピーマンブロッコリーニンニクアスパラガス大根トマトが食べれなかっただけじゃん!」

 結構多い。

「……いや、もっとあっただろ…………」

「――う」

 息も絶え絶えになりながらもそう黒嶺が訂正すると、バツが悪そうに少女が視線を逸らす。

 そして、至近距離になった二人の視線が交錯する。

「……よく、俺だって解ったな。こんなにデカくなったのに」

「りゅーくんを見間違える事なんてないよ。それに、りゅーくんだってボク――の身内かって思ってたって事はボクを忘れてなかったんだよね」

「そりゃあ、俺の人生で銀髪の幼馴染はお前だけだしな。それにお前、小母さんに似てきてるぞ。今だから言うけど俺、小母さんに憧れてたんだぜ?」

「それ、おかーさんのおっぱいにでしょ」

「否定はしない」

「…ちぇ、相変わらずりゅーくんはえっちだなぁ」

 不満そうに、しかし嬉しそうに少女は倒れている大男の厚い胸板に顔を寄せる。

 

 

 

「ただいま、りゅーくん」

「お帰り、白雪」

 

 

 

 黒嶺が以外に華奢だが成長した幼馴染を抱き締める。

 二人は取り合えず一切合切を棚上げして、再会を喜び合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、どういう事か説明して貰いたいんだがな、黒やん」

 頃合いを見計らって土御門が近付いてきた。

 本来なら茶化してしまうのだが、事が事だけに後回しだ。

 場合によっては上条やクラスメートの青髪ピアス、最近上条たちとつるんでいる浜面を呼んで罰を与えなければならないが。

 二人とも立ち上がり、居住まいを正していた。

 自然体な様子なのが微妙に癪に障った。これで照れていてもイラッとしたが。……いや、まだ若干少女の頬が赤らんでいる。

 決定。

 この件が終わったら上条たちに報告しよう。

 土御門はそう硬く心に誓った。

「ああ、こいつは幼馴染の伊須那白雪(いずなしらゆき)だ」

「初めまして、土御門家の陰陽博士。伊須那=トワイライトハート=白雪だよ」

 先程とは違う、人懐っこい笑顔で自己紹介される。

 が、こちらの正体もある程度は知っているようで、土御門としては苦笑いを浮かべてしまう。

「あ? 土御門がオンミョウハカセ? まるで陰陽師みたいな役職名だな」

「りゅーくん、まるでも何も正真正銘の陰陽師だよ。彼」

「マジで!?」

 驚くクラスメートに土御門は苦笑を濃くする。

「え、じゃあ舞夏も?」

「テメェが舞夏を呼び捨てにしてんじゃねぇぞコラぁ!!」

 しかし義妹の名前を出された瞬間に沸騰した。

 気を取り直し、彼は少女の名字に違和感を覚えた。

「伊須那? 伊須那って言えば確か、もう滅んだ『飯縄法』の家系じゃなかったか……」

「お、流石は優秀過ぎて本家から英国に出向になった人。そだよ、ボクのおとーさんはそこの家系なのさ」

 傍流だけどね、と白雪は続ける。

 土御門はその事実を知って笑う。もう笑うしかないといった様子で。

 

「……ははは。飯綱法の術者が吸血鬼と結婚とか。もうスキャンダルとかの次元を遥かに超えてるぜい」

 




 少女の目的は『吸血殺し(ディープブラッド)』。

 しかしそれは敵討ちではない。

 もっと大事な目的の為だ。

 少女は、少年と別れる際に学園都市に入学する事を聞かされていた。

 だから思わぬ再会ではあったが、いるという事は解っていた。

 そして。

 少女は幼馴染の少年と、金髪の陰陽師に目的を話す。

 それは。

 ――吸血鬼としては当然で、女としても至極当然な目的。

 その為には、『吸血殺し』が必要なのであった。
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