とある魔術の禁書目録にARMSを入れてみた(仮)   作:コウ・カルナギ

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説明しよう。

何故ここにいるのか。

解説しよう。

自分たちの生態を。

知ってもらおう。

いつかこの想いを。

だから、少女はここに来た。


「吸血鬼」

「……で、だ」

 自分の部屋に連行した幼馴染を前に腕を組む黒嶺。

 事情を知っているであろう土御門も同席している。

「詳しく話して貰おうか」

 しかし。

 ぐぅぅ~、と腹の鳴る音が聴こえた。

 音の発生源を見る。

 そこには黒いドレス姿の幼馴染がいた。

 名を、伊須那(いずな)=トワイライトハート=白雪(しらゆき)

 日本人の父と、少々ややこしい来歴の母との間に産まれた――ヒトと吸血鬼の混血(ハーフ)である。確か黒嶺の記憶では欧州系のクォーターという事を母が話していた記憶があった。

 そして、そんな来歴の美少女が「たはー」みたいな顔で腹部を抑えていた。どうやら音の発生源はそこのようだ。

「……メシ、作るか?」

「……お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 手際良く料理を二、三品作り、テーブルに並べる。

 野菜炒めに唐揚げ、それに味噌汁。

 どこにでもあるような品。

 しかしこれらと白米を腹一杯掻っ込むには丁度良い。

 事実、草原のような碧の眼をキラキラさせて喜ぶ白雪を見ればチョイスは間違ってないと確信できた。実は幼少の頃、この少女は唐揚げが大好物だったのだ。

 そんな姿を見て、土御門は思う。

 どう見ても普通の少女だ。とても吸血鬼のハーフ(ダンピール)には見えない。

「しかし黒やん、普通に料理出来たんだにゃー」

 土御門もご相伴に預かっており、手にはしっかりと茶碗が握られている。

「ほら、隣に不幸の権化がいるだろ? 時々あの馬鹿がメシをタカりに来るんだよ。なあ?」

 特に財布を落とした日などは特にだ。

「……面目次第もございません」

 当の本人が頭を下げる。

 実はこの上条当麻、黒嶺たちが『黒渦穿孔』で部屋に転位してきた時にやって来たのである。

 財布を無くした上条はカップ麺等も底を突いており、食事を恵んで貰おうとしたのだ。

 そんな彼に白雪が吸血鬼で魔術師であると自己紹介したものだから引っ張り込まれたのであった。勿論迂闊な白雪の脳天には黒嶺の拳骨が落ちた。

「カミやんも自炊出来るんだな。黒やんの方が美味いの?」

「そうそう。マジで流星はメシ上手なんだよなー」

「単に慣れの問題だって。俺はある程度の移動時間を短縮出来るからな。メシに当麻より時間を掛けられるのだよ。つーかお前はどうなんだ?」

 しかしそれに土御門は首を横に振って。

「ウチは舞夏がいるからなー。それが答えだぜい」

 この男の義妹である土御門舞夏は、学園都市でも珍しいメイド養成の為の繚乱家政女学校に通っている。つまり技能として炊事洗濯等の家庭スキルはそこらの学生どころか本職にさえ迫ると聞く。

 兄と同様に無能力者(レベル0)で、誰にでも「お兄ちゃん」と呼ぶが、絶対に他人を「兄貴」とは呼ばない少女だ。

 つまり、お似合いの兄妹と言えた。

 彼女にとって、「兄貴」は特別なのだろう。

 そんな事を考えていると炊飯器が音を鳴らした。蒸し上がったサインだ。

 炊飯器を持ってきて、それをテーブルの近く――具体的に言えば自分と土御門の間に置いて、白雪の茶碗についでやる。つい十年前と同じように大盛りにしてしまったが、まあ大丈夫だろう。コイツはそれぐらい余裕で食べる。

 資金に関しても問題は無い。

 何せ今の自分は大能力者(レベル4)で、『運び屋(トランスポーター)』としても何度も仕事をしており、それなり以上に稼いでいるのだ。大半は貯金に回しているが、それでも残り三割四割で十分に良い暮らしは出来る。

 これが超能力者(レベル5)になると学園都市から支給される金は更に跳ね上がり、研究に参加すればそれ以上の金も動くらしいが自分には関係の無い話だ。それ以前に紐付きになるのは好きじゃない。

 既に身長が二メートルを超え、体重が一〇〇キロ超過したこの身体。

 ここまで成長したお陰で、黒嶺は全長4メートル総重量二〇〇〇キロ以下の物体ならば転移させられるようになった。

 しかし。

 黒嶺の能力の真骨頂は別にあった。

 彼は、「行った事のある場所に自分を転位させる事が出来る"門"を造り出せる」のだ。

 黒い渦の大きさを変えられるようになり、自分が転位出来るようになって黒嶺は大能力者(レベル4)の称号を得た。

 しかし門を造るという特異性、並びに転位させる際のタイムラグの大きさのせいで公式な評価では、風紀委員の某ツインテール少女を始めとした上位の空間転移系能力者たちには一歩劣るとも言われている。

 話を戻そう。

 食事をしながら黒嶺は幼馴染に事情の説明を求めた。そしてそれは土御門としても知りたいので黙って白雪を見遣る。……食事に手を伸ばしながら。

「えっとね。元々おかーさんは日本人なんだけど、血筋に色々入ってるんだよね」

 白雪は、箸でおかずを口に運びながらそう言う。

「色々?」

 上条が首を傾げる。

「うん。色んな国の吸血鬼。なんでも、欧州の至る所に吸血鬼はいた――って言うか今もいるらしいんだけど、そこの掟が「人に遭ったら殺すか眷属に」って、かなりエクストリーム入ったものだったらしいんだよ」

「……確かに、向こうの国じゃ「吸血鬼に遭ったら必ず死ぬ」って事は言われてたぜい」

 土御門の同意する。

「そ。でも、その掟が嫌になる人だっていたワケでさ。吸血鬼って言っても、精神的にはそう人と変わらないからね。そういう人は故郷を捨てて安住の地を探したんだ」

「……へー。漫画みてぇな話だな」

「うん、ボクもそう思った。で、戦国時代だったかな? そういった人たちが日本に移住してきたらしいんだよ。今でも時々そうやって移住してくる吸血鬼はいるらしいけど、始まりはそこだってボクは聞いてる」

「マジか」

 これには黒嶺たちも驚いた。まさか戦国時代には吸血鬼が日本に移住してきたとは思わなかったからだ。そして現代でも移住する吸血鬼がいるとは。

「あれ? でも吸血鬼って水の上を渡れないんじゃ?」

 そう。

 黒嶺は思い出したが、吸血鬼には弱点が存在する。

 流れる水。

 白木の杭。

 十字架。

 銀製の物。

 ニンニク。

 そして――太陽の光。

「ああ、水とか十字架の事? 『吸血鬼特有の魔術』で自分を伝承化させて強化改造すれば弱点になるけど、普通の吸血鬼には太陽以外の弱点は無いよ」

 太陽に当たると重度の火傷を負う以外は普通の人間と変わらないと彼女は言う。と言うか焼け焦げるらしい。

「まあ、ちょっと身体の丈夫さとかは普通の人よりも上かもだけれど。うん」

 しかしそれで黒嶺にも合点がいった。

「ああ、成程。病気ってそういう」

 しかしそこで黒嶺は気になった事を尋ねる。

「あれ? じゃあお前、素でニンニク嫌いだったの? 吸血鬼だからとかじゃなく」

 白雪はそんな幼馴染の台詞に頬を膨らませながら言った。

「当ったり前だよ! ボクのは単に嫌いなだけだもん。……今は食べられるけどさ」

 どうやらある程度の好き嫌いの改善を実践しているようだ。

 その事で昔を思い出し、幼馴染の成長に黒嶺はまるで近所のオジさんのような微笑ましさを感じた。それに気付いた白雪はジト眼になったが。

 

 

 

 

 

 

 一つ咳払いをして、彼女は話を続ける事にした。

「で、そういった欧州各地から日本にやって来た吸血鬼は独自のコミュニティを作ったんだよね」

「そうだな。新参者が周囲に溶け込むには時間が掛かる。だったら知ってる連中同士で集落を作れば手っ取り早いのは確かですたい」

 土御門はそう言って納得する。

「で、この話は一端置いておいて、おかーさんの話を先にするね」

 白雪は言う。

「おかーさんのおかーさん、つまりボクのおばーちゃんは二十歳で日本に移住してきたって聞いてる。で、こっちで暮らしてた移住組の子孫でもある日本人の吸血鬼と結婚したんだ」

 二人ともまだ存命で、今も元気一杯らしい。

 昔は良く黒嶺も飴やらお菓子やらを貰っていたが、普通の人間にしか見えなかった。

「そしておかーさんが産まれて、おとーさんと結ばれたんだ。で、おとーさんはさっき言った通り伊須那流の呪術師。だからボクは四分の一外国人な日本人で、半分吸血鬼な呪術師ってワケさ」

 こうして、『伊須那流伊綱法』という呪術と『吸血鬼の魔術』を扱うクォーターでハーフの伊須那=トワイライトハート=白雪は生まれたと彼女は説明した。ちなみに『トワイライトハート』は祖母の姓だそうだ。

「でも」

 上条が白雪の美しい銀髪を見て、

「外国人の血がかなり表に出てるよな」

「そうなんだよねー。顔立ちは日本人っぽいって言われるけど、肌や眼の色や髪の毛がねーモロに外国人の血が張り切っちゃってさー」

 白雪は嘆息する。

「あれ? お前海外に移住してたんじゃねーのか?」

「海外の日本人街にね。だからボク、実はあんまり外国語得意じゃないんだー」

 こんな外国人っぽい外見で、外国語が堪能ではないと彼女は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 テーブルの上には皿だけしか無くなっており、料理は全て四人の腹に収まっていた。

 しかし話はまだ終わらない。

「――で、話は変わるんだけどさ、今の日本に吸血鬼は何人いると思う?」

 その言葉に、三人は顔を見合わせる。

「戦国時代からいるなら、結構な数にならねぇかな」

「多分、最低でも百人じゃきかねぇと思うにゃー」

「じゃあ、二、三〇〇人か?」

 白雪は頷き。

「大体四十人ってところかな」

 そう言ってのけた。

「「「…………」」」

 三人は絶句した。

 少な過ぎる。

「本当は五〇〇人くらいはいたんだ。でも十年前に日本で一番大きい吸血鬼の集落が滅んでね。全員灰になって死んじゃった」

 悲しそうな笑顔で、白雪は告げる。

「残ってるのは、集落とは距離を取ってた個人主義者や人間と結婚してる吸血鬼ばっかり」

「そうか。だから『吸血殺し(ディープブラッド)』を――」

 土御門が何かに納得したように頷いた。

「なんなんだ、土御門? そのディープブラッドってのは」

 上条の疑問に土御門は、

「ん、ああ。実は十年前に京都の山奥の村が全滅してたらしくてな。で、一人だけ生き残ってた女の子がいるって話だぜい。――俺も又聞きになるが、なんでも吸血鬼に襲われたらしい」

 白雪は土御門の言葉を肯定する。

「うん。それを引き起こしたのが日本で暮らしてた吸血鬼の一族。……でも、吸血鬼は全員、その娘に殺された」

 殺された。

 その言葉に空気が若干重くなる。 

「先に手を出したの吸血鬼のせいなんだ。その娘の家族や町全体を吸血鬼化させて、なんとしてでも殺そうとしたんだ」

「……何でだ?」

 

「死にたくなかったからだよ」

 

 白雪の声は重い。

「実は結構前から『吸血殺し』の情報は、こっちの世界では流れてたんだよ」

 黒嶺が能力でシンクに設置しているタライに転移させ、一斉に洗い始める。

 四人分の食器を洗いながら、

「じゃあ、お前が日本を離れたのは」

「うん。私やおかーさんたちが『吸血殺し』に関わって死なない為だよ」

 確かにあの時、今は九州に住んでるという祖父母と共に一緒に海外に移住したと聞いていた。元々父親の祖父母はとっくの昔に死別していたらしいが。

 『吸血殺し』の所在が学園都市にあると掴めたから、絶対に近寄らないようにと九州を拠点に選んだのである。

「まあ、殆どは眉唾だと思って気にしていなかったんだけどね……。でも、不用意に近付いた吸血鬼は『吸血殺し』に惹かれて死んだ」

 風の噂では、最初に確認の為に近付いた吸血鬼は、『彼女』から立ち昇る芳醇な香りに呆然自失となり、そのまま彼女に噛みついたそうだ。簡単に催眠に掛かり、無防備になった少女の肩に顔を埋めて血を啜った吸血鬼は――灰になって崩れ死んだ。

 そういった事が何度も起きたせいで、吸血鬼たちは恐怖した。遠くから少女を殺そうとしても、視認した瞬間にふらふらと近寄ってしまうのだ。

 天然の誘蛾灯。

 まるで虫を誘い、餌とする食虫植物のそれ。

 だから、彼等は決意した。

 何をしてでも彼女を殺そう――と。

 それ故に彼等は伝承化し、己を伝説の通りの怪物へと変貌させた。変貌した事で、余計に『吸血殺し』に惹かれてしまうとも知らずに。

「結果として、村一つが壊滅。彼女の親兄弟、友人知人すら吸血鬼に転化させて、物量で殺し切ろうとして――結局全員が死んだ」

 カチャカチャと黒嶺が食器を洗う音だけが木霊する。

「……その女の子が、殺したのか?」

 上条がなんとも言えない苦い顔で訊く。

「うん。基本的に『吸血殺し』は自動発生型だからね。生きてるだけで吸血鬼を惹き付ける。だから、全員が彼女の血を吸って死んだ」

 それは――地獄だろう。

 その日まで笑顔で一緒にいた人たちが文字通り鬼のような形相で少女に迫り、そして死んでいくのだから。

 どう考えてもそれはトラウマだ。

「……救われねぇなぁ」

 食器を乾燥機に入れながら黒嶺はそう呟く。事実、誰も幸せになれていない。少女はその能力故に独りになり、大切な人を全て無くした。敵だって勝手にくたばった。

「で、イギリス清教の十三騎士団の一つである先槍騎士団が少女を発見、保護。英国に連れ帰ったんだよね。事実身寄りが無いんだから、幾らでも裏工作は出来ただろうさ」

「なんでそこでイギリスが出てくるんだ? つーか、騎士団つったよな。……このご時世にか?」

 黒嶺が手をタオルで拭きながら首を傾げる。

「……あれ? イギリス? 確か土御門、英国に出向してるってお前言ってたな?」

 陰陽師なのに? と、黒嶺。

 土御門は。

「いやあ、実は俺、学園都市のスパイでもあるんだにゃー。勿論イギリス清教にも俺のポストはあるぜい。所謂二重スパイってやつですたい」

 そうあっけらかんと言って笑う。

 衝撃的な事実だ。

 絶句する上条。

 しかし黒嶺は、

「ああ、要するにバランサーやってんのな」

 そう言って納得する。

「お、おい。流星、どういう事だよ?」

 上条が解っていないようなので、黒嶺は説明してやる事にした。半分は当てずっぽうだが、義妹を溺愛するこの男の事だ。間違ってはいないだろう。

 他にもしがらみだってあるのだろうが、基本的な姿勢は絶対にそれの筈だ。

「あのな、当麻。このシスコンが義妹を危険に晒すような真似をするような人間に見えるか?」

「見えねぇ」

 一瞬も考えずに即答する。

 四月からの付き合いだが、例え一月足らずだろうとこの男の義妹への愛情はよく解ったからだ。

「なら、そういう事だろ。舞夏を護る為にどっちにも良い顔してんじゃねぇの?」

 黒嶺はあっけらかんとそう言って今度は冷蔵庫から冷えた麦茶を用意する。

 そして黒い渦がグラスを四つ転移させた。

「……結構鋭いな、黒やん」

 苦笑いを浮かべた土御門。

 そんなクラメスートの前に置かれたグラスに麦茶を注ぎながら黒嶺は言う。

「映画とかでよくあるだろ。敵と味方の組織に通じてて、どっちも衝突しないように調整しているスパイとか」

 具体的に言えば、敵対組織同士なのに結婚した男女とか。

「まあ、似たようなもんだぜい。でも、それなら俺も聞きたいんだが――黒やんもカミやんも、何を隠しているんだ?」

 サングラスの奥の眼が鋭くなった。

 白雪もまた、違和感を感じていたらしく、二人をじっと見据えている。

 どうやら「こっちが正直に話したんだから、そっちも正直に話せ」という事のようだ。

 上条と黒嶺は顔を見合わせる。

 そして。

「……見せた方が良いな」

 頷く。

「見せるけど、驚くなよ。いや、驚いてもいいけど絶叫すんなよ」

 まるで芸人のフリのようだが、二人の表情を見る限り本気のようだ。

 頷く。

 

「まあ、これが俺等の『秘密』だ」

 

 そう言って、二人は右腕を変貌させた。

 異形と化した右腕に絶句する二人。

 驚く白雪と土御門に二人は、『ARMS』について説明する。

 結局。

 四人が四人共、秘密を暴露し合ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条と黒嶺の秘密も一通り暴露した後、時刻は〇時を過ぎていた。

 明日は日曜日とは言え、流石に徹夜はキツい。

 なので上条と土御門はそのまま自室である隣とその隣の部屋へと戻っていった。

 残されたのは、銀髪巨乳美少女に成長した幼馴染である白雪と部屋の主である黒嶺だけである。

 何か話をしてもいいのだが、少々疲れた。

 大きく欠伸をして、黒嶺は言う。

「……寝るか?」

 しかし白雪は、

「何を言っているのかねりゅーくん。ボクは吸血鬼、夜型の人間さ」

 そう言って胸を張った。

 豊かな双丘がゆっさ、と揺れる。「ぷるん」でも、「ブルンっ」でもない。重量感のある揺れだ。

 しかし黒嶺はそれを一顧だにせずテレビを点けて、明日の天気を確認する。

「……明日は晴れだな」

「ちょっとー!」

 ツッコミを入れる幼馴染に黒嶺はジトリとした眼を向けた。

「お前、ここに来た理由を話してないだろ?」

「――ん?」

 そう言われて、白雪はキョトンとした顔をする。

「確かに『吸血殺し』に用があるとは言っていた。だから土御門も学園都市のどこにいるのかを調べてくれると言ってくれたよな。……だが、お前は何の目的があってここに来たのかを俺等に説明していねぇ」

 そう。

 白雪の目的は未だ不明なのだ。

 だから土御門は退出する際、黒嶺に「その理由を聞いて欲しい」とメールした。

 しかし白雪はあっけらかんと答えた。

「――あれ? 言ってなかった? ボクの目的は」

 そして、黒嶺は驚く事になる。

 

 

 

「『吸血殺し』の血を手に入れて、陽の当たる世界を歩く事だよ」

 

 

 

 吸血鬼の唯一にして最大の弱点。

 その太陽を克服する為に、『吸血殺し』の血が必要なのだ、と白雪は言う。

「だからダンピールであるボクが来たんだ。おかーさんたちじゃあ、近付いた瞬間に全員灰になっちゃうからね」

 伊須那=トワイライトハート=白雪は、産まれた時から太陽を見た事が無かった。

 写真でなら見た事はあるが、しかし実物などお目に掛かった事など無い。そしてそれは母や祖父母も同様だった。

 夜中に出歩くのが当然で、日中に出歩く事など考えもしなかった。

 しかし、黒嶺は昼も夜も出歩ける。

 その隣に自分がいないのは、少し寂しい。――いや、訂正しよう。凄く寂しくて悔しい。

 この唐変木は気付いていないが、彼の好みに近付くようにキャラ作りをしていたのだ。それが無駄になりはしたが、時折胸やお尻に視線が行くのが解ったのでプロポーションは問題無いのだろう。

 色々と小さいままで終わらないように、と小学生に上がった頃から豊胸マッサージをした甲斐があったと言うものだ。

 ――おっと。

 白雪は直ぐに説明を再開させる。

「外国に行ったのはね、『陽の下を歩く者(デイライト・ウォーカー)』の伝承を調べる為でもあったのさ。……資料は散逸してて、しかも魔術用語とかも多くておとーさんも難儀してたけど、それでもなんとか解読したら――解ったんだ」

「何がだ?」

「吸血鬼にとって最も羨望し、有害なモノが必要だって――“抗えぬ死に至らしめる何か”が必要だってさ」

 それが――『吸血殺し』。

 しかし吸血鬼をそこまで魅了するその能力の正体は、結局何なのだろうか。

「じゃあ、ここでその『吸血鬼殺し』って何なのか、って話になるけど……実は大昔にもその能力者はいたらしくてね」

 大昔の吸血鬼たちは、近付けば抗えずに死んでしまうその人物をあるモノに例えた。

「その人は――『太陽の血』と呼ばれていたそうだよ」

 太陽。

 吸血鬼にとっての天敵。

 それが『吸血殺し』の正体だと白雪は言った。

「太陽は――ボク等吸血鬼にとって天敵であり、そしてそれ以上に憧れでもあった。幾つもの犠牲の果てに、その血で作られた結晶があるくらいだ」

 本来なら、その結晶が太陽を克服する為に必要なのだ。

 しかし。

「でも、その結晶も数が少なくてね。現存するのは十個にも満たないって話だったかな? ぜーんぶ外国の名家が保有してて、他国の人には貸し出しなんて絶対にしなかった。ましてや――日本に渡った「裏切り者共」には絶対に触れさせたくなかったなんだろうね」

 結局、海外の吸血鬼たちは『吸血殺し』の正体を日本に隠れ住んでいた吸血鬼たちに知らせず、滅ぶに任せた。

 その事に引っかからないと言えば嘘になる。

 距離を取っていたとは言え、同胞には違いないのだから。

「もっとも、そのせいで余計に日本に移住してくる吸血鬼の数も増えちゃってね。今、三、四十人くらい日本に移住しようとしてるんじゃないかな」

 苛烈な対応を取れば反発だって生まれるものだ。

「で、そういう移住する人たちから聞いて、ボクはイギリス清教を出奔していた『吸血殺し』を追ってここまで来たわけさ。つまりボクの目的は、ボクやおかーさんたちが太陽を克服する為の力を借りに来たんだ」

「……成程なぁ」

 黒嶺は納得したように頷いた。

「……」

 しかし白雪は一つ言わなかった事があった。

 ダンピールであろうとも『吸血殺し』の危険性は変わらない、という事実を――白雪はどうしても言えなかった。確かにその血の香りは純正の吸血鬼よりは効き難いだろう。だからと言って、ダンピールであろうとも『吸血殺し』によって死ぬ事例はあったのだ。

 他に魔術師がいれば、その人物に結晶化の魔術を頼めただろうが、しかしこの科学の坩堝である学園都市に魔術師――と言うか呪術師は自分しかいない。

 例の金髪サングラスの少年も陰陽師だが、しかしこの学園に所属している以上『もう魔術は使えない』筈だ。こっちの事情に付き合わせて死なせたくはなかった。

 何より、黒嶺の友人なのだ。

 仲の良い友人が血溜まりに崩れ落ちる光景を、りゅーくんに見せたくない。

 そう思った。

 

 何故なら、結構バレバレだが――伊須那=トワイライトハート=白雪は、黒嶺流星が大好きだからだ。

 

 だからこそ、彼女は幼馴染を巻き込んだ。

 想像以上に逞しく成長した彼を。

 秘密を曝け出し、助力を頼んだ。

 結果として、彼と彼の友人二人も手を貸してくれると言ってくれた。

 きっと――大丈夫だ。

 そう白雪は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マズいぜい」

 土御門は情報を探り、『吸血殺し』の足跡を負い――その少女が学園都市の三沢塾にいるところまで突き止めた。

 現在時刻は午前二時。

 たった二時間で対象を絞り込むその手腕は流石と言えた――が、しかし彼の表情は晴れない。

 それもその筈だ。

 異変があった。見つけてしまったのだから。

 三沢塾のトップを始めとした上層部が、ここ数日で全員解雇ないし辞職しているのだ。元々経営自体芳しくはないようだった。

 その後釜に座った人間はいるが、恐らくこれはスケープゴート。明らかに名前だけだ。

 ……となれば、学園都市に顔を知られたくない人間がトップに居座っていると判断出来る。

 では誰だ?

 決まっている。

 

 ――魔術師だ。

 

 土御門はここ一年もしくは数か月で動いた――と噂のある魔術師を脳裏にリストアップした。

 どいつもこいつも曲者だ。

 しかしこの件に関わるような人間は少ない。

 だから直ぐに該当者は見つかる。二人ヒットした。

 『禁書目録』と『アウレオルス=イザード』だ。

 禁書目録は、土御門の所属するイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)』に()()として登録されている少女だ。

 一年毎に『記憶をリセット』するように『調整』されており、その度に「一年間の保護者」を更新している――らしいのだが、土御門には接触が禁じられているので詳しい話は知らない。

 学園都市で暮らし、脳科学も授業で習う自分だけに接触禁止令が出される時点でかなり怪しいが、その命令が最大教主(アークビショップ)から出されている以上迂闊には動けない。

 そして、禁書目録は今年の保護者を選定していない。

 一年前に記憶を消され、目の前にいた同僚二人を前に逃げ出したと聞いている。ずっとずっと、逃げ続けているらしい。

 そんな彼女の二年前の保護者が、アウレオルスだ。

 男は、ローマ正教『隠秘記録官』だ。魔術の使用傾向や傾向と対策などを記した「教会のために魔道書」を書く人間で、不眠不休で取り掛かれば薄い物なら三日、分厚くても一ヶ月で書き上げられたと聞く。

 「魔導書」。

 魔術の使用方法が記された書物。『原典』とその写本や偽書が存在する。

 力ある魔術師によって作成されるそれらは、人類にとって害悪だ。普通の人間が読めば廃人――もしくは死者となり、魔術師でもその毒の汚染は免れない。

 人格が壊される等はまだ温い方だ。中には異界の法則が書かれている場合もあり、全く法則性の違う概念を延々と垂れ流すようになる者だっている。つまり「生きた魔導書」になってしまうのだ。

 魔術師の起こす事件の何割かは、『原典』を読んでしまった魔術師が狂って引き起こしたモノである。――そして、そんな連中を殺す者もまた存在していた。

 話をアウレオルスに戻そう。

 彼は、二年前にローマ正教を出奔した。

 教え子であった禁書目録の記憶障害をなんとか治そうと奮闘したが、しかし救えずに彼女は記憶を消されたと聞いている。

 ならば、それが原因だと考えるのが妥当か。

「しっかし解んねぇにゃー。なんで錬金術師が『吸血殺し』なんて確保しようとするんだ……」

 錬金術師として名高いパラケルススの末裔。

 それがアウレオルスの血筋であるものの、彼の本分は魔導書の作成だ。禁書目録との交流もそれが主だったと同僚から聞いている。

 チューリッヒ学派の錬金術を学んではいるらしいが、しかし錬金術師を名乗る人間など今の時代にはいない。

 所詮魔術という学問の一部でしかないからだ。

 それなのに、彼が錬金術師と名乗ったその理由を考え――

「…………っっっ!!」

 土御門は背中に氷柱を入れられたような悪寒を覚えた。

「じょう――ダンじゃねぇ……!」

 ヤバい。

 もし「そう」なら、『吸血殺し』なんてメじゃない位にマズい。

 アウレオルスがもし仮に「それ」に成功しているとしたら、世界全てがヤツを殺そうとするだろう。

 実を言えば土御門としても、仮に「そう」だとしたら殺しておきたいというのが本音だ。

 義妹と世界が危険に晒される。ならば容赦はしない。

 ――いや、待て。

 順序が逆だとしたらどうだ。

 ヤツは「それ」を完成させる為に、『吸血殺し』を利用しようとしているとしたら?

 土御門の脳内が高速で回転する。

 義妹への危険に気付き、最年少で首輪を着けられた神童がその知能を遺憾無く発揮しようとしていた。

 疑問を。

 仮定を。

 疑惑を。

 思惑を。

 願望を。

 推し量る。

 ――そして、気付いた。

「…………まさか」

 二年前。

 それがアウレオルスという男を紐解くキーワードだ。

 彼は、人を救いたいと願いイギリス清教に接触し、禁書目録に魔導書を提供する教師役を担っていた。

 禁書目録。

 それが、暗殺部隊を送られようとローマ正教を出奔した理由。

 自分だって、もし舞夏が「そう」であった場合、世界を敵に回してでも救いたいと思うだろう。

 そう思えば、小さな情くらいは湧く。

 しかしそれでも。

 義妹を危険に晒すようであれば、例え『反動』で全身から血が噴き出そうと――全力で殺してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三沢塾。

 人気の無いビルの最上階。

 そこには二つの人影があった。

 一人は、緑髪をオールバックにした青年。

 もう一人は、巫女服を着た少女だ。

 塾長室にいる青年は部屋の重厚なテーブルに肘を突き――言葉を発した。

「疑問。吸血鬼が、来たのか?」

 ソファーにちょこんと座っている少女に訊ねた。

「――うん。この感じ。十年前も感じた」

 長い黒髪の少女だ。

 どこか眠そうな眼で、表情は寡黙のそれ。何故か巫女服を着ているが、かなり似合っている。純和風の顔立ちだからだろうか。

 感情の薄い少女は、しかしよく見れば震えていた。

 恐怖。

 青年もまた背中に嫌な汗を感じるが、気合いで無視する。

 「カインの末裔」になどお眼に掛かった事など無いのだ。どれ程強いのか、まるで見当もつかない。

「俄然。遂に――か」

「約束。忘れないで」

 感慨深げな緑髪のオールバックの青年に、少女は言う。

「当然。私は契約は順守する。……それもまた「彼女」との約束故に」

 青年は立ち上がり、ガラスの向こうに広がる街並みのどこかに潜伏する「待ち人」に宣言する。

「画然。し私は貴様を待っている。何があろうと――「彼女」を救って貰うぞ吸血鬼」

 まだ本命の「アレ」は未完成。

 完成まではあと数日かかるだろう。

 それまで、瞬間錬金(リメン・マグナ)や魔術による罠で足止めしなければ。

 ――いや。

 もし、吸血鬼がこの都市全てを吸血鬼化して襲い掛かってくれば、この少女は大丈夫でも自分は危険だ。

 まだ死ねない。

 自分には、まだ為すべき事があるのだから。

「……急がせるのは不可能。ならば――」

 準備だけはしておこう。

 ありとあらゆる錬金術師が望んだ「それ」を造る準備を。

 彼はアウレオルス=イザード。

 錬金術師の家に産まれた男。

 そんな彼の家には、「ある魔導書」のレシピがあった。

 先祖や高名な魔術師が作ったとされるそれは、「賢者の石」と呼ばれていた。

 




緑髪の男は思う。

必ず「君」を救い出す。

巫女服の少女は思う。

この力なんか、無くなってしまえばいい。

吸血鬼の少女は思う。

太陽が見たい。好きな人と太陽が見たい。

三人の願いを、今――馬鹿な男共が叶えに来た。

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