とある魔術の禁書目録にARMSを入れてみた(仮)   作:コウ・カルナギ

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さあ、準備をしよう。

牙を砥げ、爪を磨け。

身体を動かし、魂に火をくべろ。

何があってもいいように。


「日蝕」

 その日の夕暮れ。

 アウレオルスは、冷や汗を背中に感じていた。

 吸血鬼の知人であるという少年たち。

 その規格外さを目の当たりにしたのだから。

 彼等の秘密の一端は知れたのだが、しかし聞く事と見る事はやはり違う。明らかに人が肉を殴打する音ではない金属音が肉体をぶつけ合う度に聞こえるではないか。それらは彼等の異形の腕と無数の回路のような痣が身体中に浮かんでおり、どちらもが普通の人間とはかけ離れている事を錬金術師に思い知らせた。

 もし仮に。

 魔術師への対応と同じように先制攻撃を仕掛けていたら、『彼女』を救う最後の砦である『幻想殺し』も知らず、この力によって蹂躙されていた事だろう。

 その時は、『黄金錬成』を仕上げた上での攻撃になった筈だ。過程の段階であれ程の重傷だった事を鑑みれば、確実に何度か彼等彼女等は死んでいた。幾ら後で蘇生すると言っても、それで正当化出来るとは思えない。まず間違いなく彼等は敵対しただろう。

 目の前で何度も往復される拳打の嵐。

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!! と凄まじい勢いでお互いの拳を受け流し、もしくは弾き、撃ち落としていく。

 まるで漫画のような格闘戦だ。

 しかしそれなのに二人は一切息を荒げてはいない。その理由も知ってはいるが、こうしてみればそれがどれ程の脅威なのかが簡単に理解出来た。

 単純に強化された人外の膂力と、人類では有り得ない耐久性に任せた力任せのラッシュ。

 しかしそれだけではない。

 彼等の動作は『ある思想』を組み込んだモノなのだと蝙蝠羽で単眼のそれは言う。

 サポート役である『バロール』と少年達に組み込まれたARMSの製作者である科学者は、何故か格闘術のパターンや思想を自身の作品にプログラムしていたのである。

 だが、木原連立がサンプリングした幾つかの武術の基礎しかプログラムされていない。そこからどう戦闘方法を組み上げるかは本人次第だ。

 大事なのは、寧ろ思想の方だと言えるだろう。

 その思想の名は、『水の心』。

 水は決まった形を持たず、注がれる器によって形を変える。

 それを体現する為の思想だった。

 喜びに浸らず、怒りに呑まれず、哀しみに陰らず、楽しみに染まらぬ――水面の如き心。その水面に相手を映しこめば、形に囚われる事なく、ただ相手の本質を知る事も出来る――らしい。

 言うなれば明鏡止水の極意とも言えた。

 故に高名な武術家ですらその域に到達するのは希なのだ。

 彼等は所詮十代の少年。その領域に踏み入るには何もかもが足りない――筈だった。

 しか彼等は、ARMSによって睡眠時に超圧縮された夢の中での訓練を何十何百何千時間と繰り返す事で、その領域に無理矢理踏み込んだのである。

 故にその所作は見る者が見れば明らかに我流が極まった武術家のそれだと看破出来るだろう。

 型も動きも歪つだが、しかしそれを貫き通した馬鹿だ。

 そんな裏事情を知らぬアウレオルスからしても、彼等の動きは達人のそれだと感じられた。東洋武術の精神に作用する思想は、魔術師としては面白いもの観点だと言える。

 しかし彼等は十代の少年。

 如何に精神を鎮めようにも、納得のいかない事は多いだろう。

 自分の行いにさえ、ああやって憤っていたのだ。

 冷静であろうとする事と、冷静である事は違う。

 どちらかと言えばこの思想は、仏教の教えに近いものがあるとアウレオルスには感じられた。

 そう思っていると、黒嶺が動いた。

 今迄は直線系の打撃ばかりだったのに、上条が拳を槍のように突き出すのを手で外へ払い、もう片方の手と足で彼の足を払ったのだ。上条が踏み込んだタイミングを利用しての足払い。

 拳と踏み出した足に全体重が乗った瞬間を見計らってからの残った軸足への攻撃。

 足を払われ、横に回転する上条だが、しかしそのまま回転の勢いを殺さずにそのまま蹴りを黒嶺へと繰り出した。それも黒嶺が一歩下がれば不発となり、地面にヒビを入れただけで終わった。

 拳打蹴撃の応酬は尚も止まない。

 更にそこにARMSにプログラミングされていた武道の型――最早原型も残っていないそれらも繰り出され、アウレオルスには視認出来なくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 だからアウレオルスは、先程吸血鬼のハーフである伊須那=トワイライトハート=白雪から教わった封印の魔法陣を地面に描く事に専念する事にした。

 彼女は言う。

『まずは、『吸血殺し(ディープブラッド)』の()の力を一時的に封じる事だね』

 その魔術の概要もアウレオルスは教えて貰い、こうして飛行場のある一般学生立入禁止の特殊な第二三学区の片隅で魔法陣を作成しているのだ。

 魔法陣自体は紙面に描かれたそれをトレースすればいいので、短時間で出来た。

 先程まで人外のような戦闘をしていた二人がまるで化物を見るような目で引いていたが、それはこちらの態度だ。

「果然。やはり衰えた。今の私ではこうも時間が掛かってしまうか」

 目の前に広がる魔法陣は精々が直径五メートル程度。オーソドックスとは間違っても言えないような複雑な構造ではあったが、所詮は小規模サイズの魔法陣だ。二時間もあればこの程度は仕上げられる。

 黒嶺が渦の向こうで待機している幼馴染に声を掛ける。

「……おーい、白雪。魔法陣、出来たぞ」

「嘘ぉ!?」

 驚いた様子で、黒渦の中から顔を出す白雪。

 そして、出来上がった魔法陣を見て――絶句した。

「ボクなんて一週間は掛かったのに、やっぱり教会関係者はおかしいよ!!」

 しかしそんな彼女に錬金術師は誇る事もせずに淡々と告げる。

「憤然。この程度で手間取っていては魔導書など書けるわけがない。二年前の私ならば一時間、もしくは一時間半でこの程度の魔法陣なら仕上げられた」

 無論それが出来たのは教会関係者でもアウレオルスだけであるのだが、そんな事を知らない三人は普通に引いた。

「それで、どうする?」

 アウレオルスがそう問い掛けると、

「ああ、うん。後は決行するだけだよ。その魔法陣は、その子の能力を封じるだけじゃないからね」

 白雪の発言で、アウレオルスも納得した。妙に精緻な術式だと思ったのだ。

 どうやらこの魔法陣には他の機能もあったらしい。

「成程。それ以外の機能もあるのか。――では、いつ儀式を行う?」

「今日の日の出の少し前。四時からスタート。だから今の内に寝とかないと辛いと思うけど」

 アウレオルスが懐から懐中時計を取り出し、時刻を確認する。

 現在の時刻は午後五時。今から戻って就寝すれば、十時間以上の睡眠は確保出来る。例の少女にも知らせておいた方がいいだろう。

「了解した。では、朝四時にまた逢おう」

 そう言うと錬金術師は、人払いの術式を刻んだ鏃をその場に突き刺して去っていった。

 白雪も黒渦に引っ込んだ。

 これで時間までここには人はやってこないだろう。

「俺等も帰ろうぜ」

「だな。メシ食って夜明けに備えねぇと」

 こうして、準備は終わった。後は日の出を待つばかり。

 上条たちはARMSの機能によって肉体を強化し、人外のスピードで自分たちが住んでいるマンションへと戻る事にした。

 自室へと戻った彼等は他の学生たちよりもひとまず早く眠りについた。

 この件に関わる人間は、全て。

 眠りに付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして三時五五分。

 一足早く現場に到着したのは黒嶺だった。転移系能力者である彼にとってこの距離はあって無いようなものだ。なんせ、玄関を開けずともこうして現場に到着出来るのだから。

 それに少し遅れて上条が空から落下してきた。こちらは右手のせいで転移出来ずとも、鍛えると共にARMSによって底上げされた身体能力をフルに使って超スピードでやって来たのだ。

 そんな二人の下に人影が二つ近付いてきた。

 スーツ姿の緑髪の青年と、巫女服を着た黒髪和風の眠たげな目をした美少女だ。

 恐らく、この場に姿を見せていないが土御門も到着しているだろう。今回の件にこの男は関わらない。

 後の禁書目録との遭遇まで、彼には伏せ札として動いて貰わなければならないのだから。

 黒嶺がスマホを取り出し、アパートに連絡する。勿論ハンズフリーだ。

 スピーカーから同年代の少女の声が聴こえた。

『えーっと、みんな揃ってるかな?』

 その声に黒髪の美少女がピクリと肩を震わせた。

 どうやらまだ少し怖いようだ。

 無理もない。彼女にとってはトラウマだろう。

 しかしこれはそれを打ち破る契機でもあった。

『じゃあ、早速始めよう。ええっと……『吸血殺し』の』

姫神秋沙(ひめがみあいさ)だ」

『OK、それじゃあ姫神さん、そこの魔法陣に入って。そしたらアウレオルスさんが術式を発動させるから』

 事前に説明を受けていたのだろう。

 姫神という名の少女は、緊張した面持ちで魔法陣の中心へと歩いていく。静かに、一言も発さずに。

 彼女が中心に立ったのを見計らって、アウレオルスは魔法陣を起動させる。

「――起きよ、封じの鎖。その戒めにて太陽を陰らせよ」

 その文言と魔力が魔法陣の発動のトリガーとなった。

 魔法陣が光り、その陣の至る場所から鎖が飛び出し、姫神の身体に巻き付いていく。しかしそれは彼女の身体に巻き付くだけで、自由を奪うものではなかった。というか、少女にとっては重さすら感じていないようだ。眉根を寄せて、腕を振るがその動きは決して緩慢ではなかった。

『さて、どうかなりゅーくん。きちんと発動してる?』

「まあ、光って鎖が同年代の女の子を拘束してるって光景が、発動してるって言うなら、そうだな」

 

『あ、なら大丈夫だね。それじゃあ、ボクもそこに行くよ。だからお願いしてもいいかな』

 幼馴染の言葉に黒嶺は、黒い渦を一つ生み出すことで返答する。

 その渦を通って、黒いドレス姿の銀髪碧眼の美少女が現れた。胸元から覗く肌はまるでこの世のものとは思えないような艶めかしさだ。

 あの夜。

 黒嶺と土御門が遭遇した、吸血鬼モードの白雪だ。

「初めまして、『吸血殺し』――ううん。『太陽の血(サンシャイン・ブラッド)』」

 理性を保ったままの吸血鬼の少女を見て、漸く姫神は安堵の息を吐いた。

 そこで気付いた。

 目の前の美少女は、『吸血殺し』ではなく『太陽の血』と呼んだ。

「それ。なに?」

 つい、話し掛けた。

 その瞬間、場の空気が張り詰める。

 しかし。

「その能力を持っていた人が昔にいたんだよ。で、その時にご先祖様たちがその人をそう呼んだんだ」

 白雪は、狂わない。襲い掛からず、平然と喋っている。

 魔法陣は正常に稼働しているようだ。

「んじゃあ時間もないし、そろそろ始めるよ」

 白雪の手にはいつの間にか黒鞘の日本刀が握られていた。

「なあ、白雪」

 そんな時だ。

 黒嶺が話し掛けた。

「なに?」

「お前さ、太陽の下を歩けるようになる術式だっつってたけど、デメリットは無いのか?」

 そう尋ねると、

「デメリット? 勿論あるよ。まず、吸血鬼の『伝承化』の魔術を使えなくなるね」

「――確か、弱点が増える代わりにアホみたく強くなるんだっけか」

「そそ。まあ、身体の機能全部が最低でも十倍になるね。寿命は四倍から五倍かな。一部の人は七百年以上生きてる人もいるね」

 普通の状態でも常人より強力な吸血鬼が更に十倍も強くなるのだ。欧州の魔術師が遭遇すれば軒並み死亡する理由も容易に理解出来た。

「元々ボクの使ってる霧を生み出す魔術や、蝙蝠や狼を生み出す魔術は吸血鬼特有の魔術でね」

 指先から蝙蝠を一匹生み出す、それに気を取られている内に霧が立ち込め、更にそれが晴れると銀狼が二匹白雪の横に侍っている。

「でも、ボク等の家族が求めているのは、『陽の下を歩く者(デイライト・ウォーカー)』の秘術だ。だから、この魔術は吸血鬼の魔術じゃないんだよね」

 そう言って白雪は蝙蝠と銀狼を一端消した。

 その発言に一番驚いていたのはアウレオルスだ。

「唖然。つまり、その魔術は我々でも使える、と?」

「そうだね。まあ、ちょっと日本式だから外国の人には難しいかもだけどね」

 その言葉に姫神が反応した。

「あなた。日本人なの?」

「うん。名前は伊須那=トワイライトハート=白雪。色んな意味でハーフだけど、日本人だよ」

「なら。私が殺したあの人たちは、親戚?」

 仇かもしれない。

 その事実に軽く動揺する姫神。しかし白雪は、

「まあ、縁遠かったしそんなに気にしてないよ」

 事実、里との縁は細く頼りなかった。

 基本的にあの集落は集落のみで完結しており、外にいる吸血鬼に対して排他的だったと聞いている。

 だから外国に住む吸血鬼から情報を仕入れず、恐怖に駆られて姫神を襲ったのだ。

 それを愚かだと白雪は言えなかったが、しかし残念に思ったのも確かだった。

 

「さて、話を戻すけど――デメリットはまだあってね。儀式に失敗したら、ボクは死ぬ」

 

 その知らされていなかったデメリットを聞き、黒嶺たちは固まってしまう。

 しかし白雪は何の気負いも無く――

「さて、それじゃあ始めるよ」

 魔法陣を踏みしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「太陽の化身は此処に」

 浪々と呪文を紡ぐ銀髪の少女。

「我が身は月の落とし児」

 呪文を耳にした瞬間、姫神の身体を覆う鎖が赤く染まる。

 まるで血で染まったかのように。

「我は望む」

 刀の鯉口を切り、抜き身の刀身に親指に刃を当てる。つぅ、と親指の皮膚が切れて血が流れた。

 その親指で空中にある図形を描く。

 すると、赤い血がその軌跡をなぞり、六芒星を形成する。

「陽の抱擁を」

 簡単な詠唱。

 それこそ、子供でも唱えられそうなそれ。

 しかし吸血鬼でなければ、魔術を知らねば、それはただの言葉の羅列でしかない。

「故に捧げる代償はここに」

 吸血鬼としての能力。

 眷属を作る能力。

 人間の血を吸い命をストックする能力。

 伝承にある吸血鬼へと変身する能力。

 他者を魅了する能力。

 そういった『吸血鬼の力』が白雪の身体から夜色の光となって抜き出た。恐らくこの黒い光が『吸血鬼の力』を視覚化したものなのだろう

 恐らくこれで白雪は太陽の下を歩けるようになった。

 姫神は、吸血鬼とこんな至近距離にあって殺していない事実に不思議そうな顔をしている。

 これにより、二人の少女は救われた。

 しかし、儀式はまだ終わっていない。

「我が夜の力を代償に、太陽の欠片をここに」

 姫神から鎖が解け、それらは黒い光を包み込んだ。

 そして、地面に描かれていた魔法陣が消滅した。

 魔法陣を「吸い込んだ」――ようだ。

 結晶化し、まるで卵のように変化した。

 ――直感的に全員が気付いた。

 悪意でも敵意でもない、純粋な飢えと破壊衝動。

 それが、黒い卵から感じられるのだ。

 じり、と誰かが足を動かす音が聴こえた。しかしそれは、後ずさりした音ではない。

 全員が、臨戦態勢を咄嗟に取ったのだ。

 上条黒嶺の両名に至っては、既に右腕を変異させているではないか。

 白雪も刀を構え、姫神は後方に下がる。

 アウレオルスは自然体で佇んでいた。その右手首には腕輪が嵌っており、赤い宝石が輝いている。

 瞬間。

 黒い卵に無数の亀裂が走る。そこから漏れるのは、更に濃密なそれの気配。

 視覚化されたレベルで高濃度の魔力の奔流。

 その気配は、吸血鬼のそれだと知らぬ者にすら叩き込む程の圧倒的な気配。

「どーいう事だ?」

 黒嶺の疑問の声。

 白雪はそれに淡々と答えた。

「うん。まず、アレはボクの『吸血鬼の力』であり、姫神さんの力なのさ。二つの力がお互いを喰らい合って、『日蝕の力』になるんだ」

 上条が訊く。

「こっからどうすればいい?」

「簡単だよ。日の出までの約三〇分、あの『日蝕の卵』から孵った化物の攻撃を凌ぎ切って。間違っても殺しちゃ駄目だからね」

 アウレオルスが疑問を投げかける。

「疑問。何故殺してはいけない? この威圧感、殺さなければこちらが死ぬぞ」

「ボク一人が『陽の下を歩く者(デイライト・ウォーカー)』になるのなら、殺したって構わないさ。でも、太陽の光で浄化すればアレは『太陽の欠片』になるんだ」

 姫神が、

「……『太陽の欠片』っていうのは?」

「簡単に言えば、血を与えた吸血鬼の血族を『陽の下を歩く者』にする宝石だよ。しかもそれは、一人の『太陽の血』につき一度しか生み出せない。だから血の古い吸血鬼の一族しか持っていなかったんだ。今現在、自然発生型の吸血鬼はいない。だから本来、吸血鬼は誰だろうとそうなれる筈だった。まあ、お偉方は秘匿しちゃってるから、こうして新しい宝石を用意しなくちゃいけないけどね」

 そして。

 黒い卵は風船のように膨張し――砕ける。

 その中にあった『黒い何か』が現れた。

 

 それは、狼だった。

 

 全員が見上げるような巨躯の銀狼。人型であり、背中には蝙蝠の翼が生えている。もしや飛べるのだろうか。

 鋭利な爪は、人など紙のように容易く切り裂けるだろう。

 口から覗く牙はまるで杭が乱立しているようにも見えた。噛まれれば命は無い。

 だが。

 誰も逃げ出さなかった。

 ここが望む未来への最初の関門だと解っていたからだ。

 力の有る無しではない。

 立ち向かうという意思が、恐怖に屈しようとする己を叱咤する。

 本来ならば、白雪は一人でこの化物と戦うつもりだったのだ。

 だが、ここには共に戦う馬鹿が三人もいる。

 可笑しな腕の高校生二人に、錬金術師が一人。それに白雪を太陽の下に導いてくれた姫神もいる。

 彼女は疑ってはいない。

 絶対に生き残れると確信していた。

 そんな彼女に、

「まあ、状況は理解した」

 黒嶺は苦笑する。本当なら、怒られると思っていたので少し驚いた。

「安心しとけ。誰にもお前を殺させねぇよ」

 その横で、上条は右手に宿る相棒に告げた。

「『全竜(リヴァイアサン)』、第二開放(レベル2)じゃ駄目だ。ここは第三開放(レベル3)で行くぞ」

「こっちもだ。『竜帝《バハムート》』。第三開放でいこうじゃねーのよ」

『『了解だ。相棒』』

 その言葉と共に、二人の左腕が異形化する。

 両の腕が変貌しているのだ。

 明らかに素の腕よりも一回りか二回りは大きい。

 その鉤爪の生えた手を握り締め、二人は――

 

「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――っ!!」」

 

 人狼へと殴り掛かった。

 こうして、『日蝕の人狼』との戦闘は開始される。

 アウレオルスも腕を振り、無数の鏃を召喚した。

 白雪もまた詠唱を開始している。

 そして姫神は――皆の後方で、見据えていた。

 夜明け前の最も暗い時間。

 

 

 今、太陽を迎える戦いが、始まる。

 

 




太陽の力。

月の力。

相反する力が混ざり、生まれた人狼。

力の塊。

ただ喰らい、ただ壊す。

そんな破壊の権化に馬鹿が向かう。

殺してはならない。

死んではならない。

たった三〇分。

されど三〇分。

まだ、太陽は昇らない。
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