とある魔術の禁書目録にARMSを入れてみた(仮)   作:コウ・カルナギ

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人狼。

吸血鬼よりも起源が古い怪物。

そう言われている。

しかし実際、吸血鬼は人狼よりも歴史は古い。

ただ人狼の方が早く人の歴史に登場しただけなのだ。



元々その血の起源は違う。

狼と蝙蝠。

交わる部分などありはしない。

だが、現実に吸血鬼は人狼を従えている。

理由は簡単だ。

――吸血鬼が人狼の力を手に入れたのだ。




「悪魔」

 浜面仕上は眠っていた。

 最近の第七学区に存在する駒場利徳を中心とした「無能力者武装集団(スキルアウト)」が、幾つかの企業の新商品のテスターとして活動しており、その実働班のトップを任されてしまったからだ。

 今では友人となった『運び屋』の黒嶺が見せたあの電子制御式のローラースケート靴は、仮称である『スカイ・ギア』から『ライダーズ・ギア』と名前を変更して発売されるのが決定したのである。その専属テスターとしてスキルアウトの彼等は日夜その靴を使い潰す勢いで履きまくっていたのだ。

 浜面自身はそうは思っていなかったが、実はこの男、ありとあらゆる乗り物に愛される才能を持っていた。

 だからこの『ライダーズ・ギア』にも早い段階で慣れてしまったのである。

 それを知った企業は速攻でその動きをサンプルとするべく、開発途中だった専用プロテクターも貸し与えた。電磁式吸着装置のグローブを装着しても、「もしも」を考えての開発だった。

 勿論それは発売すれば高価な物だ。しかし、安全には変えられない。

 スキルアウトがそれを履いてちょっとした配達の仕事をし始めた事で、徐々に『ライダーズ・ギア』の知名度は上がってきている。

 中にはそれを奪おうとした別のスキルアウト集団と浜面たちの仲間が交戦した事もあり、これも撃退したと報告を受けた。その際にも装備していたプロテクターは効果を発揮したと聞いている。衝撃緩和吸収型のそれは、十分にスキルアウトの暴力に耐え切った。無論、『完璧に』ではなかったが。

 そういった事の報告書を書くのが最近の浜面の仕事だった。

 様々な状況下での使用状況を思ったままに書き連ねられた報告書は、各企業にとって正に千金の値があるものだ。変な脚色や誇張は新商品の開発には不要なのだから。

 そうなれば更に『駒場の率いるスキルアウト』への信用や信頼が厚くなっていくのは当然と言えるだろう。

 確かに彼等は不良だ。

 人の迷惑になるような事もやっていたし、裏ではエロ雑誌や漫画の販売も行っている。勿論前述の軽貨物の手渡し配送業も含めてだが。

 だが、彼等は真面目に働いていた。

 学業よりもそういった商売に興味を覚え、率先して学んでいく姿勢を企業の大人達は評価したのである。ここ最近の高位能力者のモラルの低下が嘆かれる実情を鑑みれば、多少後ろ暗い過去があろうと真剣に商売に打ち込んでいる『駒場の率いるスキルアウト』は大層な優良物件だ。荒事にも慣れているというのは充分なステータスなのだから。

 である以上、他の案件でもテスターを任せたいと考えるのは当然と言えた。

 だから浜面もまた、振り分けられる乗り物系のテスターとしてここ最近は忙しかったのである。

 しかも睡眠時は、ARMSによる圧縮された時間軸の中で戦闘訓練をしているのだ。

 元より浜面のARMSは群体における中距離からの波状攻撃が主であるのだが、やはり身体は動けた方が良い。だからこそ、浜面はARMSの操作方法の習熟と、戦闘訓練を行っていた。

 そんな時。

 

 

 

『仕上、仕事だ』

 

 

 

 夢の中。

 どこかの荒野のイメージ。その見渡す限り不毛の地で、浜面は戦っていた。

 睡眠時に圧縮された時間を利用して戦闘訓練を積んでいるが、しかし精神的に疲労は溜まるものだ。なので圧縮出来る時間にも限りがある。それが過ぎればそのまま疲労回復の為に「完全に」眠るのが常だった。

 己のARMSである『軍団(レギオン)』と時間の許す限り戦闘訓練を行っていると、そこに巨大な目玉が出現したではないか。いや、落下してきた。

 咄嗟に、自身の両脚をARMS化のイメージ。

 靴やらズボンやらを弾け飛ばして昆虫と人を合成したような脚が、浜面の身体を遠くに運んだ。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!!??」

 絶叫して逃げる浜面。

 真下にいた『軍団』の兵隊があっさりと圧壊したのを見て、夢の中とは言え絶句する。

 この野郎、夢だからってこんな巨大化する意味あんのか!?

 しかしそんな抗議を無視して目玉は言う。

『仕上、もう直ぐ当麻たちが怪物と戦う事になる。万が一の場合は当麻の右手でなんとかなるだろうが、それでも万全を期したい。協力してくれ』

 ここが所謂「精神世界」だからか、浜面は一瞬で『バロール』が寄越した情報を理解した。

 恐らく『軍団』を通して自分も理解したのだろう。

 どうやら黒嶺のヤツが吸血鬼の幼馴染の為に太陽を克服させる為に、大きな人狼と戦うとの事だ。他の連中も自分の目的の為に協力していると聞いた。

 事前に白雪から説明を受けたバロールは、もしもを考えて自分を参戦させる事を決めたと言う。

 しかもその連中は、後日に来るであろう『魔術』とか言う別の異能集団に喧嘩を売るような事をやらかそうとしている。

 確かに普通なら関わり合いにはなりたくないと思うのが当然だ。

 だが。

「解った。……こりゃ、今日は一日潰れるなぁ」

『なに、実戦の経験も大事なのだ。特に魔術などと言う異能との戦闘は新しい。充分に我等の糧となるだろう』

 あっさりと浜面は今回の一件に首を突っ込む事を決めた。

 力の使い方を教えてくれた恩がある。

 仲間に(不良的に)真っ当な生活を送る為の仕事を斡旋してくれた。

 それだけで、自分があの馬鹿連中に付き合う理由になる。

 制限時間もあるのなら猶更だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました浜面は、一瞬で飛び起きる。

 深夜に帰って来て四時間程度しか寝ていないが、『軍団』のお陰でそこまで辛くはない。

 それに私服のまま眠っていたから、態々着替える必要もなかった。

「んじゃあ、ソッコで行くぞ」

 浜面の言葉に、ふよふよと浮遊している『バロール』が応じる。

『解った。場所は教えた通りだ』

 黒嶺や上条仕込みの超速でのビルの屋上を移動していくパルクールを行えば、戦闘が終わる前には駆けつけられるだろう。

 浜面の脚が、バキバキと音を立てて変形していく。明らかに常人よりも太い硬質な脚となり、内側から破れてズボンが駄目になってしまう。

「ありゃ」

 袴のようなワイド系のズボンを履けば、こうした事にはならなかっただろうに。どうやらまだ頭は完全にシャキっとはしていないようだ。

『……ふむ。主よ』

 どこか時代掛かったような口調の『軍団』が、提案する。

『あの、『ライダーズ・ギア』というドクターの作品だが、壊れてもいいサンプルはあるか?』

「は? ああ、確か黒嶺が寄越した試作品なら、俺も持ってるけど……」

 部屋に転がっていたそれを見ながら浜面がそう言うと、

『よし、それを喰わせてくれ』

「はあ?」

 いきなりそんな事を言われて浜面は普通に唖然とした。

 しかし己の相棒はそんな事に頓着せず、説明を開始する。

『構造を理解し、それを取り込む。そうすれば、脚部に機械式の車輪を生み出す事も可能だろう』

 成程。

 確かにこのトンデモハイブリッド生命体なら、そういう事も可能だろう。

 強化した自分だと速度に不満があったから、パルクールで行こうと考えていたが、ARMSに取り込む事で魔改造されるのなら願ったりだ。

「解ったぜ。――ほらよ」

 試作品の『ライダーズ・ギア』を脚に押し当てると、脚が喰らい始めた。

 ものの数秒で全て喰らい尽くすと、足の裏に車輪が展開されたではないか。

『よし。これで現場まで短時間で移動出来るだろう』

 イメージすれば、車輪は高速で回転する。どんどんとその回転速度も上がっていくのが解った。

「んじゃあ、行くかね」

 そう言って、部屋を出た浜面はまだ夜明け前の街中を走り出した。

 異常とも言える速度で様々な場所に轍を刻み、まるで風の申し子だとでも言うかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の巨大な人狼。

 それを殴り掛かった黒嶺は、人狼の巨大な拳と打ち合う形になった。

 お互いの拳がぶつかり、弾き飛ばされる。体制が崩れたその隙を見計らい、黒嶺の背後から飛び出した上条の飛び蹴りが人狼の無防備な顔面を襲う。

 たたらを踏んだ人狼に巨大な黄金の鏃が数十本射出される。アウレオルスにより生み出された刺さった物を灼熱の黄金に変える魔術の鏃だ。しかしそれは全て空を切った。人狼が跳躍し、最も無防備だった姫神へと襲い掛かったからだ。

 しかしそれは、白雪によって阻まれた。

「飯縄大明神に帰依し奉る! オン・チラチラヤ・ソワカ!!」

 太腿に巻き付けてあった筒を三本引き抜き、呪言を唱える。

「『伊須那流法術』が初伝。《使役の法》が壱! おいで、太郎丸、次郎彦、三郎坊!!」

 半透明な首だけの銀狼が筒から飛び出す。

 本来、管に飼うのは狐や鼬が本流ではあるのだが、しかし白雪は吸血鬼の血筋。狐や鼬よりも狼の方が使役し易かった。……尤も、狐や鼬もいないではなかったが。

 銀狼たちは、その半透明の身体を大きくして人狼に噛みついた。

 更に白雪は片手で早九字を切ると、持っていた日本刀を鞘走らせる。剣術で言う居合いだ。

臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前(臨める兵・闘う者・皆陣列れて前に在り)!! 護法の風よ、刃と化せ! ――《威断ち風》!!」

 空中で体勢を崩した人狼に管狼の隙間を縫うように振り抜いた刃から生じた風刃が襲い掛かる。

 しかし人狼の身体を薄く斬るだけで、その斬撃は終わった。空中でバランスを崩した人狼はそのまま落下する。どうやら背中の翼は飾りだったようだ。

 手加減した斬撃だが、それで良かった。

 これでこの『人狼』は『蝙蝠の悪魔』へとその姿を変えるだろう。

 だから、警告を黒嶺たちに発した。

「多分、これであの子は、ボクたちを餌から敵に認識を変えるよ。だから――変身するから気を付けて」

 その言葉が終わらない内に巨躯の人狼の翼が巨大化し、全身を包んだかと思うと、収縮したではないか。

「……疑問。どういう事だ?」

 アウレオルスが手首の赤い宝石に触れながら訊ねる。しかしその顔は苦痛に満ちていた。

 事情を知っている皆はそんな緑髪の男の強靭な精神に瞠目する。『魔導書』を制御するなど、並大抵の魔術師には到底出来ないだろう。

 如何に血縁であれば難易度が下がるとは言え、それでも魔導書の毒は人など容易く廃人に出来るのだから。

 しかし今はヤツを労わるような状況ではない。

 日の出を迎えて初めてこちらは勝利するのだから。

 だから白雪は敢えて淡々と『吸血鬼の力の塊』である怪物について解説する。

「人狼――って言うか、『狼の使役』は欧州にいた人狼の因子をご先祖様が喰らったから出来るようになったんだ。だから、言うなればアレは一番弱い姿。次は、『蝙蝠の悪魔』が来るよ」

 事実。

 被膜が開かれた向こうには、人型の蝙蝠がいた。そのディティールは人型だが、しかし悪魔と形容するしかないような異形だ。

 身長は黒嶺よりやや高めか。

 女性型だが、しかし手足は人では有り得ない鉤爪があった。今の黒嶺や上条の両腕のような物々しさだ。

 しかしそれ以外はボディラインを際立たせるようなぴっちりとしたボディスーツに胸の谷間を強調するようなプロテクターらしき甲殻があった。その頭部も蝙蝠をイメージしたヘルメットのような甲殻に覆われており、その顔の美醜は判断がつかない。体形から察するに白雪と同程度か、若干の胸部装甲に増量が見受けられるが、それが微妙に白雪としては癪に障ったようだ。

 その揺れる双丘と己のモノを見比べて、小さく苛立ったように白雪は眉根を寄せる。どちらかと言えばその身体は、幼い頃に黒嶺が見た伊須那母のそれに近い。

 胸もそうだが、全体的な色気の桁が違う。

 そのせいで男三人は若干だがたじろいでしまい、白雪と姫神は白い目で彼等を見た。

 しかし次の瞬間。

 蝙蝠特有の甲高い鳴き声と共に悪魔は接近し、その長い脚による蹴りを見舞った。

 相手は黒嶺だ。

 咄嗟に防御の体勢を取った黒嶺。

 しかし。

「――ごあ!?」

 その防御の上から吹き飛ばされてしまう。

 どうやら吸血鬼特有の尋常ではない怪力はそのままのようだ。いや、人狼の時よりも強烈な感覚が黒嶺を襲う。

 咄嗟に地面に爪を立てて吹き飛ばされるのを防ごうとして、悪魔が追撃に入ったのが視界に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそれはアウレオルスによって防がれる。

「縛れ」

 一言。

 彼の口から放たれたその言葉通りに黄金の鎖が悪魔の進行方向の地面から射出され、その身を拘束した。彼の祖であるパラケルススによって創造された『魔導書』――その名も『賢者の石』。

 赤い石の形をした魔導書だ。

 今彼が右手首に嵌めている赤い石は言うなれば偽書でしかない。彼の祖であるパラケルススが作成した『賢者の石』は既に紛失しているが、しかし彼の子孫にはその作成方法は伝わっている。だからアウレオルスも『賢者の石』の作製が出来た。

 だが、前述にある通り、魔導書は人の精神を侵す。

 故にアウレオルスは『賢者の石』の影響により、今も精神を汚染されていた。

 ギリィッと歯を食い縛る。

 幾らこの魔導書が、パラケルススの家系の人間には悪い影響が少ないとは言え、その影響は決して無視出来ないものだ。記録にも血筋の者が不用意に『賢者の石』に手を出して、廃人になったと云う記述があった。

 才能が豊かであればある程に、その傾向は高い――との事だ。

 そしてアウレオルスは、『賢者の石』を再現出来るレベルの超天才。

 血筋に特化した魔導書にのめり込んでしまう。

 しかしそれでも彼が魔導書に溺れないのには、理由があった。

 『禁書目録』だ。

 救うと決めた少女。

 その少女が今も逃げている。

 嘗ての友を敵だと誤認し、誰とも交流を持たず、たった独りで。

 恐らく彼女は魔術から遠ざかるように動くだろう。

 ならば、行きつく先は『ここ』しかない。

 それが彼には理解出来た。

 だからこそ、彼は早くこの『魔導書』を使えるようにならなければならない。

 だが、極める事は出来ないだろう。

 『賢者の石』を極めるという事は、彼が『魔神』となる事と同義だからだ。

 恐らくこの頭痛とは、『賢者の石』を使う以上これからずっと付き合っていくのだろう。

 ある種の諦観のままに、アウレオルスはそれを受け入れた。

 しかしそれ以上に、彼の心には燃え滾るような強い想いがあった。

 

 ――彼女を必ず救う。

 

 そう心に決めているのだから。

 たかが頭痛程度で彼は諦めない。

 震える身体を叱咤し、アウレオルスは眼前の敵を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた黄金の鎖。

 即座に悪魔はその戒めを破壊する。

 アウレオルスがそれを認めなければそのまま拘束出来ただろうが、彼は敢えてその破壊を受け入れた。

 だが、それによって隙が出来たのだ。

 上条と白雪による追撃である。

 上条の右腕は今回使えないが、しかし残りは使える。だからこそ、彼の強化された蹴りと白雪の斬撃が悪魔を襲う。

 先に白雪の刀が悪魔の翼を一つ斬り飛ばし、上条の蹴りでもう片方の翼が折れた。

 

 

 

 ――そんな時だ。

 

 

 

 それに続くように、誰かの攻撃が悪魔の折れた翼を貫いたのである。

 穴だらけになった襤褸切れのような翼。

 地面には無数の弾痕が刻まれている。

 悪魔は無造作に攻撃された方向を向く。

 異形の脚と砲身化した右腕を構えている髪を金に染めている少年がいた。

 浜面だ。

「……なあ。上条、黒嶺」

 彼はどこか神妙な顔で、問い掛ける。

「間に合ったか?」

 二人は顔を見合わせ、そして佇んでいる悪魔を見て、再度浜面を見た。

 そして、

「「――まあ」」

 曖昧な顔で、そう言った。

 今でも過剰戦力なのに、更に人員が追加されたのだ。

 悪魔もそれを理解したのだろう。

 故に、悪魔は――爪を顔面に突き立てた。

 バキィッと甲殻にヒビが入る。

 その亀裂は全身に走り、そして――肌が見えた。

 




人狼の皮を剥がされ。

悪魔の翼をもがれ。

その甲殻は砕け散った。

砕け散った甲殻の中から艶めかしい肌が露出する。

その光景に男共は目を奪われる。

これにて太陽を巡る戦いは終幕を迎える。

夜明け前が最も昏いとは言えど、太陽はやって来る。
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