『勇者』…勇気のある者と書いて勇者。しかし、この世界において勇者とは困難に立ち向かう者におくられる称号でも、偉業を成し遂げた者に与えられる実績でもない。
ー勇者とは職業である。
この世界において最大の国家『ドムノン』。活気だつその国のど真ん中にそびえ立つ現在世界一大きな建築物である王宮。
それに次いだ規模を誇る聖堂。
その地下には砦を模した建物がある。
厳重に閉ざされたその建物の中にあるのはひとつの転移装置ワープゲートそれをくぐった先には鍵穴のひとつついた『封印の扉』と密かに呼ばれる大きな扉がある。
とある目的のために、その時代の最有力国家が握る扉の鍵。
その鍵なし・・に、いま封印の扉が開かれた。
「これが…封印されし勇者の剣ですか」
部屋の中に存在するのは台座に突き刺さる剣とその前に立つ少女。
「そいやっ!」
少女の掛け声とともに解き放たれた勇者の剣はその薄暗い部屋をくまなく照らす光を放ち、やがて一筋に収束する。
「それでは…」
少女はその背丈に合わない剣をそっと地面に置いた。
「消しましょうか!」
「ちょぉぉぉっとまてぇぇぇぇい!」
部屋に鳴り響く悲鳴のような叫び。急に発せられたそれにボクは手を止めてその声の発生源を見た。
といってもこの部屋にあるのはもぬけの殻の台座にボク。そしてこれから潰す勇者の剣もとい聖剣だけだ。
一体どこから声がするというのだろうか…。
「落ち着こう、うん、一旦落ち着いてその握られた拳を開放しようか」
良く見れば置いたはずの聖剣が立っている。立掛けられたわけでも突き刺さっているわけでもない。切っ先を地面に向けて立っているのである。
「剣が…喋った?」
自分で呟いてなんですがそんなことがあるわけ無いでしょう。この世に生まれて早十五年。聞いたことすらもありません。
「剣?あー、まぁ、そのなんだ、珍しいかもしれないが、世の中そういうことがあってもおかしくないだろう。魔法なんてもんがあることだしな」
「いかに高い魔力を持つものでも、意思をもつほどの付与魔法エンチャントはできないと聞きましたが…うーむ、これは困りました。まさか自律して動けるとは。不覚です」
「え?あー、いやいやこうなんとか立つ?みたいなかんじに起き上がることはできるんだけどさー残念ながらここからは動けないんだよね…移動できたらなぁ…」
今にも泣きそうな声色で同情を誘う聖剣。ですが、それなら早い話です。
「では、遠慮なく…消します!」
「ストァァァァァッッップ!どんとえりみねいとみー!やだ!殺さないで!」
「むぅ、やはり喋られるとやりにくいですね。」
まったく、一体どこから発声しているのでしょうか。さすが勇者の剣。そこらのモノとはひと味違います。やりがいがありますね。
「落ち着けェェェ!とりあえずあれだ!腰を下ろせ!話し合いをしようじゃないか」
「なぜですか?」
「…逆に聞きたい!なんで消そうとするの?!俺君になにかしましたか?!」
「脅威は消しておくと安心できます」
「脅威?え、俺が?」
「はい」
だって…
「魔王を圧倒する力を持った剣なんて、ボクにとって天敵じゃないですか!」
あたりに沈黙が走る。
「…いやぁ、魔王を倒せる剣なんだから『希望』と言われるならまだしも『脅威』って…あー、うん」
剣に表情なんてありませんが、どうにも可哀想な奴と思われている気がします。
「…バカにしていますか?」
「いやぁ、だってあれだぞ?魔王ってもっとでかくて禍々しいおっさんだからな…その、憧れるなら他にいろいろさ」
「そもそも、ボクはこの部屋には入れているんです。つまりですね」
「えええええ!お前解いたのか封印!スゲェェ!あっ、そういえば俺台座から抜かれてる!」
気づくのが遅いですね…なんか、この剣からとっても残念な香りがします。
「やめろ!そんな目で見つめるな!…今何年だ?」
「何故、そんなことを?」
「いいから」
「国歴なら419です」
はてさて、こんなことを聞いてどうするのでしょうか?
「…お前何歳だ」
「むっ、仮にもボクは女の子なのですが」
「いや、女の子と言えるかどうか怪しいからな」
「まぁ、いいでしょう。15歳です。ピチピチですね」
女の子といえるかどうかって…いったいどんなことを考えているのでしょうかこの剣は!
「確かにピチピチだな!見た目と差異なくて安心したわ」
「それでは、ホッと一息ついたところでさよならのお時間です」
「ツッコむのもめんどくせぇ!何回言わせるんだ!はやまるな!お前魔王の娘だろ!」
わざわざわめきたてるこの剣もよほどめんどくさいと思うのですが…
「そうですが、なにか?」
「こんなところで何してるんだ!」
「ボクがここでなにかすると問題があるのですか?」
まったく、剣ごときにここまで時間を取られるとは思いませんでした。全く困った物です。
「まぁ、お前が今やろうとしていることは全体的に俺が被害を被るから問題しかないんだが、それ以前に魔界はどうした!今の魔王はお前なんじゃないのか?!ほったらかしか?おい!」
むむっ、人間の皆さんは全くなんで魔界と呼ぶのでしょうか『ミルバ』というれっきとした国名があるというのに!
「ほったらかしではありません!ボクは何も悪くありません!ただちょっと乗っ取られただけです!」
「乗っ取られただとォ?!」
「ボクもまだ小さかったんです!仕方ないでしょう!5歳相手なら宰相もさぞやりやすかったんでしょう!」
「な、なんでキレてんの?おちつけよ!」
これが落ち着いていられますか!父の形見ともいうべき国を乗っ取られたのですから!
「せっかくパパが平和に治めてたのに!人間の皆さんは攻めてくるし、いざパパが死ねば重鎮の方々は葬儀もしないで侵略のことだけをかんがえるし!ついでにボクの力を封印するし!」
「おちつけ!つか、封印?お前なんかされたのか?」
「えぇ、なぜかね!なぜか魔法が使えないんですよ!」
ボクはどちらかというと魔法の方が専門なんです!それが14歳になったとたん使えなくなりました!きっと宰相です!あの人が何かやったんです!
「ああ!もうなんかむしゃくしゃしてきました!壊します!」
「あったまるな!落ち着けェェェェェ!!」
「うおりゃぁぁ!」
ごつっ
「痛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ」
「弱あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ」
「おい!あんだけプレッシャーかけといて剣一つも折れねえのかよ!か弱いなお前!」
「だから、ボクだってれっきとした女の子なんですっっ!」
体術については絶賛お勉強中です!
「お、おいそんなウルウルした瞳で見つめるなよ…」
魔力には自信があるんです…魔法だったら誰にも負けない(ようなきがする)んです!!
「憎い!宰相が憎い!ボクはなんにも悪いことしていないのに!」
「お前は存在自体がもうなんか悪の塊だけどな」
ぐっ、そういえばそうでした…でもボクはまだ人っ子一人殺してはいません!まだ潔白です!
「結局お前の目的って何なの?」
「宰相をぶっ殺してミルバをボクの手に取り戻します」
「お、おう…ぶっ殺すねぇ…そのあとは?」
「ミルバをなんとなくいい感じに治めます!」
「なんとなくねぇ…よし」
「組もうじゃないか、宰相潰し、一役買うぜ」
「はい?」
何を言ってるのでしょうかこの剣は
「俺の力があれば封印されたお前の力でもそれなりの敵は倒せるようになる…と思う。それで封印を解いていけばいい」
「勇者の剣がボクに手を貸すと?」
「まぁ、そんなところだ。お前は憎き宰相を、俺は諸悪の宰相を。利害は一致してるってもんだ!!」
心なしか剣がにやにやしているような気がします…いや、顔はないんですけどね。
「まぁ、いいです。そこまで言うなら協力を認めましょう」
「よし、じゃあさっそく行動だ」
「はい、早いとこ宰相を」
「「ぶっ殺すか(しましょう)!!」
いやあ、まったく変な設定の物語を書きはじめたもんだなぁ(白目)
感想お待ちしております・・・