NERO ~MAKAI SENKI 魔界戦鬼~   作:sibaワークス

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guest 葛氷見子(逆転検事)


 第二話 「縁魔」

  孤児院の院長室。

 

 中庭で小さい子供の面倒を見るパティを、じっと見詰める初老の女性の姿があった。

 「院長先生、いかがしました?」

 「いえ……パティ、あの子の様子が少しおかしかったものですから」

 女性――孤児院の院長は、パティが先日から突然思いつめた表情を浮かべたり、かと思えば、以前は見せなかったような満面の笑みを浮かべるなど、

 以前と違った表情を見せているのを気にかけていた。

 「そうですか? 普通に見えますが……そういえば、院長先生宛にお手紙が」

 「私に……?」

 と、院長は職員から手紙を受けとった。

 

 「弁護士さんから――ええっ!?」

 

 

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 「アハハハハッ!! チョロイ! チョロイもんだわ! アハッ!!」

 とある、弁護事務所――。

 弁護バッジをつけた女性が、酒を飲みながら高笑いを上げていた。

 

 ヒミコ・カズラ。

 日系の弁護士で、長い黒髪を蓄えている。

 

 だが、高笑いを上げるその姿は、弁護士というよりは――悪党そのものである。

 

 「アハッ! 皆、真実より、簡単なものを信じるからね――お金っていう――アタシもそうだけど――」

 と、ヒミコは脳裏にある女性の顔を浮かべた。

 「ユウコ――アンタもバカ。 姉に逆らうから死んじゃうのよ」

 ヒミコはグラスの酒を飲み干して高笑いを再びあげた。

 

 床には、様々なものが転がっていた。

 自分に刃向かった妹から取り上げた、金、宝石、そして――美術品か何かであろうか、奇妙な仮面もあった。

 

 

 「バカよね! みんな本当にバカッ!」

 「そうよね! 貴方って本当に最高ッ!」

 

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!! 私って最高!」

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!! 貴方って最高! ――最高の邪心の持ち主だわ」

 

 「そうかしら? アハハッ――」

 「そうよ! 私の体にぴったり! キャハハッ!」

 「そう! キャハハハハ――って、えっ!?」

 

 ヒミコはあたりを見回した。

 「ちょ、今の声、なに!?」

 

 

 事務所には、今自分しか居ないはずなのに、なぜかもう一人分の声がしたのだ。

 

 

  

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!!」

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!!」

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!!」

 

 すると、辺りから、けたたましい笑い声が聞こえた。

 

 ――それも、自分の声でだ。

 

 「イヤァアア!? 何!? 何!? なんなの!?」

 パニックになって、周囲を見回すカズラ――だが、誰も居ない。

 

 

 

 しかし、ふと、ヒミコは、まだ見ていないある方向が気になった。

 ――真上だ。

 

 「ヒィィッ!?」

 

 そこには――自分の顔があった。

 

 いやちがう、自分の顔そっくりな、残忍な、作り笑いを浮かべた――仮面。

 

 

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!!」

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!!」

 「アハハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハッ!!」

 

 「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 そして、ヒミコの顔に、仮面が張り付いた。

 

 無我夢中で、仮面を引っかき、引き剥がそうとする、ヒミコ。

 だが、仮面からは邪悪な気があふれ、ヒミコの胎内へと侵入していく。

 

 「イヤアア!! イヤアアア!! ギャアアアアアアアアアアアアッ! アッ! アアッ!!」

 

 ヒミコは痙攣を起こしたかのように、体を震わせて、仮面を引き剥がそうとのた打ち回った。

 そして、胸と喉が張り裂けんばかりの絶叫を震わせると――体の動きをぴたりと止めた。

 「あっ! アッ! アアッ!!」

 すると、ビクンビクンと、ヒミコの体が揺れた。

 

 そして――。

 「アッ! アッ……アハッ! アハハハッ! アハハハハハハハハッ!!」

 仮面をつけたヒミコは笑い出した。

 

 そして、仮面はヒミコの皮膚を食い破って、顔の中に入っていった。

 

 そして、そこには、ヒミコの満面の笑みが残っていた。

 目を、怪しく魔性に輝かせながら。

 

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 街を歩くバージルは、ふと思い立ったように、ショーウインドウの前で足を止めた。

 開店休業状態のバイクショップだ。

 

 平日の昼間。

 スラムから少し隔てただけの閑散とした商店街には、自分以外の誰も居ない。

 

 磨かれたウィンドウには、自身の姿が映っている。

 そこに、ギルバをそっとかざす。

 「悪くないバイクだな」

 「……」

 

 バージルはギルバのセリフを相手にせず、だまってウィンドウにギルバを近づけた。

 

 ――すると、ショーウィンドウが怪しく光り始めた。

 そして鏡状のガラスに吸い込まれるようにして、バージルの姿は消えた。

 

 

 

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 魔力で繋がった異次元の路を通して、魔剣所は現世と繋がっている。

 

 ――魔剣所。

 魔界騎士たちが所属する、一種の組織である。

 

 彼らは、悪魔と人が戦いを始めた古代から存在し、宗教団体や政治結社を装って、人知れず悪魔達と戦い続けていた。

 

 

 魔剣所の作りは、カトリックの教会によく似ていた。

 

 元々は、神を信仰する人々が、悪魔と戦う為に作った組織であるからだ。

 

 しかし、その礼拝堂の中心にあるのは、神の姿ではなかった。

 

 ――悪魔。 

 

 それは、原初に存在した二人の魔界騎士、魔刻騎士と呼ばれた悪魔の剣士スパーダと、彼と共に戦った人間族の光の騎士の像であった。

 

 かのものに正義の心ありき。

 かくして悪魔、その身を弱きものの剣とせん。

 光の騎士は魔剣をふるい、闇の鎧と光の刃となりて、邪悪を滅するものなり。

 言い伝えにはそうあった。

 

 さらに礼拝堂の片隅には、憂鬱そうな女性の像もある。

 それは、一説には哀れみを請う悪魔の像だという。

 

 人に憑依し、人間を魔人にして操るデビルたち――。

 時に魔界騎士は、自分が愛した隣人の姿をした悪魔を斬らねばならない。

 

 その因果を断ち切るべく、この像は存在していた。

 

 

 憂鬱そうな女性の像の心臓部には、剣を突き刺すための穴があった。

 魔界騎士たちは、その穴に、悪魔を斬った剣を突き刺すのである。

 一切の慈悲を、悪魔に与えない覚悟と共に――。

 

 バージルもまた、自身の閻魔刀を女性像に突き刺した。

 女性像に幾度となく下される死の宣告。

 

 すると、バージルが突き刺した閻魔刀から黒い煙が――。

 

 ジュワァアア!!

 

 女性像の内部で、閻魔刀が光を発した。

 悪魔の返り血で受けた穢れが、浄化されたのだ。

 

 閻魔刀を元とした、彼ら、魔界騎士の持つ剣は、衝撃鋼ギルガメスという、特別な金属で作られている。

 それは、悪魔の穢れを祓う、強烈な浄化作用を持っているが、触れれば呪いを受ける穢れた悪魔の血を斬るのである。

 穢れが溜まれば、やがて剣は呪いを受け、悪魔に対する効力を失ってしまう。

 そのため、特殊な魔術が施された魔剣所の女性像を使って、定期的に剣を浄化するのである。

 

 

 と、バージルの閻魔刀だけでなく、女性像の側にも変化がおきた。

 目にあたる部分から、血の様な赤い涙が流れ出した。

 

 そして、涙は滴り、たまり、雫となって――凝固した。

 涙はルビーのような真紅の塊となった。

 いや、それは辛苦の塊。

 その塊は、人の顔にも見える形――泣き叫ぶような慟哭の表情を浮かべているようにも見えるからだ。

 

 それは敗れた悪魔達の血が固まった魔力の結晶――レッドオーブ。

 その正体は、閻魔刀に斬られ、その魂を封印された悪魔そのものだった。

 

 

 「――さすが、魔人(デビル)化した”ドッペルゲンガー”。 かなり純度の高いレッドオーブになったな」

 「……これで十二体ね」

 「……」

 

 すると、礼拝堂の奥から、三人の男女が出てきた。

 モノグラスをかけた大きくアゴの張った男性。

 褐色の肌に斬りそろえた銀髪をした女性。

 そして最後に、剣を携えて、長髪を後ろに流した屈強な男性である。

 

 

 彼らは、この魔剣所を統率する三幹部であった。

 

 

 「十二は悪魔を制する数字、早速儀式を執り行って、魔界に封印しておくわ」

 銀髪の女性が言った。

 「フフ、それにしても、さ、さすがネロの称号を持つ男だなぁ? 弟以上かもしれん」

 モノグラスの男もそれに続く。

 

 「……フン」

  バージルは三人には目もくれず、その場を立ち去ろうとした。

 が、

 「待て」

 長髪の男性が、そんなバージルを引きとめた。

 「返り血を浴びた少女を斬っていないそうだな」

 その声には、どこか威圧の様なものが込められていた。

 「――囮としてつかう。 返り血を浴びたものは、悪魔にとってやがて極上のエサになるからな」

 バージルは鬱陶しそうにそれだけ呟いた。

 「フフ、そうかそうか。 弟よりは利口だな――だが、情はかけるなよ?」

 「あなたの弟、魔哭騎士ダンテのように死にたくなければね」

 モノグラスの男の大きなアゴが動くと、隣の女性の妖艶な唇も動いた。

 

 「……フンッ」

  バージルは背を向けて、魔剣所を後にした。

 「まったく、いけ好かない連中だな。 なぁ兄弟?」

 ギルバが、そんなバージルに軽口を叩いた。

 バージルは返事もしなかった。

 

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 バージルがDMC事務所に帰ると、ポストは手紙の山であふれていた。

 「売れっ子は違うねぇ。 前任者とは大違いだぜ」

 「……」

 適当に抱えて事務所の机の上に置いた。

 

 すると。

 「――だれだ!」

 「キャッ!?」

 バージルが鋭い眼光を部屋の片隅に向けた。

 

 「あ、あの……開いてたから……窓だけど……」

 おずおずとした表情で、金髪の少女が物陰から現れた。

 「……おまえは」

 「この間のお嬢様か、探す暇が省けたな」

 

 そこに居たのは、以前森で”ドッペルゲンガー”から助けてやった、金髪の少女だった。

 「わ、わたしパティ・ローエル! この間助けてもらったお礼がしたくて」

 「……何故此処がわかった?」

 「あ、あのある人に聞いて」

 「誰だ……?」

 「そ、それは秘密なんだけど」  

 

 バージルは探るような目つきで、パティを見た。

 すると、

 

 シュボッ!!

 

 「え?」

 パティの瞳に、バージルはライターの様なものを翳し、火を点した。

 蒼い魔性の炎が、パティの瞳に映る。

 

 パティは真っ直ぐそれを見詰めた。

 「――違うか」

 バージルは火を消して、その道具を仕舞った。

 「おいおい。 魔道火を使うことは無いだろ」

 ギルバが呆れた様に言った。

 

 この行動は、魔界騎士にとって重要な意味を持つのである。

 

 「あの、騎士様! わたし、あなたにお願いもあってきました」

 「騎士様……?」

 「わたし、夢の中で、貴方そっくりの悪魔に、お母さんが斬られる夢を見たの! それで、私のお母さん、悪魔に追われているらしくって」

 「……俺に似た、騎士?」

 「最初は蒼白い炎を出してた騎士に、お母さんが斬られていると思っていたの! だけど、最近その夢の続きを見る様になって、お母さんを斬ってしまうのは、蒼い光を出す騎士じゃなくて――黒い炎を出す悪魔だった」

 「……母親を斬った……黒く、ネロに似た悪魔……?」

 「フッ、面白い話だ。 ――どこかで聞いた事ある話だな、バージル」

 「……」

 ギルバがパティの話に興味深そうに食いついた。

 

 「バージル、さん? だからね、私、お母さんとずっと離れて暮らしているの。 貴方なら、騎士様なら、お母さんを救ってくれるって――」

 「くだらんな。 夢だろう」

 ぴしゃり、とバージルは言った。

 「あぅっ……」

 冷たい物言いに、目に涙をためながら、パティが小さく悲鳴を上げた。

 「お嬢さん、悪魔は夢を見せるもんだ。 人に不安を与え――その心を喰らう。 だから悪魔の夢なんて気にしちゃいけねぇ」

 ギルバが、そんなパティに優しげに言った。

 「指輪さんは……悪魔じゃないの?」

 「俺は、”いい悪魔”だ。 ”悪い悪魔”じゃない。 こう見えてギルバと呼ばれているからな」

 ギルバは、自身の名前が、古い魔界の言葉で”兄弟”というんだ、と自己紹介も兼ねて言った。

 

 「――パティとか言ったな」

 「え、はい!?」

 「……すぐには手を貸せんが、俺は悪魔を狩るのを仕事にしている」

 と、バージルは、屈みこんで、子供であるパティの目線に、自身の目線を合わせた。

 

 そして、パティの左手をとった――。

 「えっ……」

 そして、左手の薬指に、指輪をはめた。

 「約束の印だ。 いつか、お前の母親を助けてやる。お守り代わりにつけていろ」

 「えっ……これって……」

 パティが顔を赤らめる。

 「それがあれば、いつ悪魔が現れても、必ず俺が助けてやる」

 「……う、うん、ありがとう! 騎士様……!」

 パティは慌てたように、事務所から出て行った。

 

 

 「……おいバージル。 なんで薬指なんだ?」

 パティが居なくなったあと、ギルバが、何かを疑うようにバージルに尋ねた。

 「……?」

 「なんで左手の薬指につけたんだ?」

 「……? 母が、父から貰ったお守りを決まってその指つけていた。 そういうものなのだろう」

 

 ――特に、バージルにとっては、特別な理由は無いようであった。

 「……あっそ」

 ギルバは笑いを必死で堪えた。

 

 

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 「どうしましょう、この孤児院が――」

 「で、ですが、借りた先はシーナ・カンパニー。 聞いた事ない会社です。 先代の院長――亡き貴方のご主人が、とてもそんな借金を作る方とは思えません」

 「でも、この借用書は本物――」

 「……ともかく、弁護士の方に相談しましょう、わ、私は調べてまいります」

 「ええ」

 院長の女性は途方にくれた。

 

 まさか、この孤児院が――慈善事業者たちによる僅かながらの出資と、国からの補助金で成り立っているというのに。

 

 こんなことになっては、あの子達はどうなってしまうのだろうか。

 

 

 すると――。

 

 

 「アハハ! どうも~」

 「あなたは……」

 ドアを開けて一人の女が入ってきた。

 「弁護士の……カズラと申します、院長先生、お困りでしょう? 私が債権整理、お手伝いさせていただきますわ」

 黒髪を揺らして、ヒミコは言った。

 

 

 (手筈どおり――フフッ!)

 「アハハハハッ!!」

 ヒミコは院長が持つ債権書を見て高笑いを上げた。

 「あ、あの……」

 その様子に、院長が訝しげな様子で見る。

 「あら、ごめんなさ~い? 私、笑いの沸点が低くて」

 ヒミコが、真面目な顔に戻って、院長に向きなおす。

 「大丈夫ですわ、私に任せておけば……」

 ヒミコは院長の手をとって、瞳を覗き込んだ。

 「はい……」

 不思議と院長は、その瞳を見ていると、何故か信じてしまう気持ちになっていた。

 

 ヒミコはその様子を見て満足そうにうなずいた。

 そして、院長室の窓から見える、孤児院の中庭を眺めた。

 (――おいしそうな子供が一杯、選り取りみどり――えっ!?)

 と、ヒミコは、中庭に遊ぶ、パティの姿を見つけた。

 

 その瞬間、ヒミコは直感する。

 (返り血を浴びた――腐肉のドルチェ!)

 悪魔、デビルの返り血を浴びて呪われた人間は――古代には悪魔への生贄に捧げられた程の、悪魔にとって最高の馳走である。

 パティがそうであるとヒミコ――悪魔に憑依され、融合し、魔人(デビル)となった彼女にはすぐに分かった。

 

 「アハハハハハハッ!!」

 ヒミコは、口からよだれが垂れて、思わず笑った。

 「ヒィィッ!?」

 ヒミコの異様な様子に、院長も正気に返る。

 「あら、院長先生、ごめんなさーい! キャハハハハハ!!」

 

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 「なんと、あの孤児院が?」

 「――うん、私たち、新しい孤児院に引き取られちゃうんだって」

 「厄介なことになった……」

 

 パティは、院長達が話している内容を聞いてしまっていた。

 自分たちのいる孤児院がなくなってしまう。

 

 誰にも相談できず、パティは真っ先に教会のアーカム神父の下を訪れていた。

 

 そうすれば、孤児院で暮らす仲間達は皆離れ離れだ。

 そして自分は――。

 

 (あそこを離れたら、お母さんが私を見つけられなくなっちゃう……)

 その、心配をしていた。

 

 「私も教会に勤める身、子供たちを助けてあげたいのですが……そうだ」

 「えっ!? 何か方法があるの?」

 「この間お話した――」

 

 アーカムはそっと、その内容の話を、パティに告げた。

 

 

 

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 「バージル、実はちょっと表の仕事のほうを頼みたいんだが」

 魔界法師――魔界騎士をサポートする職業についているモリソンが、ふらりと、バージルの事務所を訪れた。

 「断る」

 内容も聞かずにバージルは断った。

 苦笑するモリソン。

 「おいおい、聞いてくれよ。 魔界騎士の仕事も兼ねているんだ」

 「……何?」

 バージルがこめかみをピクリ、と動かした。

 

 赤い封筒が、バージルの手に渡される。

 ライター状の魔道具、魔道火から出された蒼い炎が、封筒を燃やした。

 途端に、封筒からルーン文字が飛び出していく。

 「善の顔で人を欺き、裁いて食う悪魔――か」

 「ああ、最近このあたりの孤児院やら病院やらで、子供が失踪しているらしい」

 「子供の魂ってのは、悪魔にゃパーティーメニューだからな」

 ギルバが、モリソンの話を聞いて呟いた。

 そのギルバの一言が、バージルにパティの顔を思い出させていた。

 そして……「これが、表の仕事の分だ」と、モリソンがある封筒を手渡した。

 「……この孤児院は」

 「知っているのか?」

 封筒に書かれた、ある孤児院の住所と名前を見て、バージルは驚いた。

 「コイツは驚いたぜ? あのお嬢様の家だ。 バージル。 運命かもな?」

 「……クッ」

  

 バージルが奥歯を噛み締めた。

 

 「――コイツに連絡しておいてくれ」

 と、バージルは、机から一枚の名詞を取り出した。

 「メイ・カルマってこいつは……」

 モリソンが出された名詞の名前をみて驚いた。

 

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 「お話が違うじゃありませんか! こんな!」

 「アハッ! そうだったかしら?」

 

 既に日が暮れて、夜を迎えた院長室。

 縋るようにする院長を振り払うようにして、ヒミコは笑った。

 

 「アハハハハッ! でもざんねーん、私の力及ばずでぇ、この土地はあの会社のものよ、ごめんなさーい。 お代は結構です」

 「そんな、あの子達は……」

 「大丈夫、とってもいい引き取り手がいるわよ……例えば、私の経営する孤児院なんてどうかしら」

 「ええっ……!?」

 驚愕に顔を歪ませる院長。

 「とっても幸せになれるわ! きっと幸せになれるわ――私がね! キャハハハハハハハ!!」

 

 

 ヒミコは、高笑いを上げた。

 院長室の隅では、おびえるパティの姿があった。

 

 「アハッ! パティー・ローエルちゃん! まずは貴方から新しい孤児院に行きましょうねぇ?」

 「えっ……!?」

 「とってもいいところよ……あったかくて、嫌な事や悲しい事もすぐわからなくなるわ~……そう、お母さんのお腹の中みたいに――アハハハハハハハ!!」

 「ひぃっ!?」

 パティは悲鳴をあげた。

 

 なぜならそのヒミコの顔は――悪魔のように見えたからだ。

 いや、間違いない、この間襲われたときと同じ感じだ。

 この人は、悪魔――。

 

 「騎士さま――!!」

 パティは指輪に、必死で祈った。

 

 

 

 

 「 待 っ た !!」

 

 そのとき、院長室に声が響いた。

 

 「そこまでだ、ヒミコ・カズラ――」

 現れたのは――グリーンのスーツに身を包んだ、バージルだった。

 

 「騎士様……!? ううん……今は、弁護士……さま?」

 コートやネロの鎧を身に纏ったバージルの姿も格好よかったが、

 普段とは違うスーツ姿を (かっこいい……)とパティはうっとりとした様子で見詰めた。

 

 「な、何言っているの貴方!? その格好、お、同じ弁護士かしら!? この案件は私が院長先生から受け持ったのよ! 横槍はやめて頂戴! ま、まあ、シーナ・カンパニーのほぼ言い分どおりになってしまったけど」

 明らかに狼狽するヒミコ。

 しかし、バージルは続ける。

 

 「 異 議 あ り !」

 ビクッ、とヒミコの体が震えた。

 「一つ聞かせてもらおう、そんな会社、あるのか?」

 「なっ……」

 「ええっ……!?」

 ヒミコと院長が驚き、絶句する。

 

 「調べさせてもらった。 そして既に、捜査令状も出ている」

 「――バカな!?」

 ヒミコが目を見開いて叫んだ。

 バージルは令状の写しを投げつけた。

 「メイ・カルマ――こ、こんな最高クラスの検察官が動いて――」

 その名前は、法廷なら知らぬものはいないという敏腕検察官の名前である。

 「お、お前は……」

 ヒミコが、恐ろしい怒りの形相で、バージルを睨んだ。

 「……魔界騎士を舐めるな」

 バージルは動じた様子も見せずに、ヒミコにいった。

 

 そして、バージルは魔道火を、ヒミコに突きつけた。

 

 ボゥゥ!

 蒼い炎が、彼女の瞳に映った。

 

 すると――。

 

 黒い、刻印の様なものが、ヒミコの瞳に浮かび上がった。

 ――悪魔に憑依されている、魔人(デビル)であることの証明であった。

 

 

 「プッ、ププッ――ア、アハハハ」

 「……?」

 「アハッ! アハハハッ! アハハハハハハハハッ!!」

 すると、突然、ヒミコが高笑いを上げだした。

 

 

 「――チッ!?」

 

 そしてヒミコの目が妖しく光ると、彼女の体から、怪しい煙が噴出した。

 

 

 そうして、凄まじい瘴気があたりを包んだ。

 吸った人間の体を腐らせるほどの、猛烈な毒ガスである。

 

 「フンッ!」

 と、咄嗟にバージルは、十字の剣の形に切った紙――札を院長に投げつけた。

 「あっ……」

 それを受けた院長は、気を失って倒れた。

 しかし、院長の体を魔力で作られたバリアーが包んだ。

 いわゆる、結界というものである。

 

 これで、事が済むまで安全な状態で眠っていてくれるだろう。

 

 そして、そうなれば後はもう一人。

 「クッ!」

 バージルは、パティを抱えて中庭に飛び出した。

 

 

 

 

 夜の中庭には、月が差し込んでいた。

 

 月光の中、バージルを追ってヒミコも中庭へと飛び込んできた。

 

 「アハハハハハハハハッ!!」

 高笑いを浮かべて。

 とヒミコは体から再び瘴気をだした、すると、瘴気は今度は広がらずに彼女の形を包むようにした。

 すると――彼女の黒髪は光り輝く銀髪のボブカットになり、黒いファーと背中をくっきりと出した妖艶なドレス姿になった。

 そして、目にはサングラス。

 「アハハハハハハッ!!」

 

 「フン、悪魔らしい格好になったな。 その下品な格好のほうが、あんたの本性にあってるぜ」

 ギルバが言った。

 「サングラスは、似合って無いな」

 バージルが呟いて、閻魔刀を構える。

 

 

 そして、バージルと、魔人らしく姿を変えたヒミコが対峙する。

 近くに、パティを置いて――。

 

 「フウゥン!」

 先に仕掛けたのは、バージルだった。

 ヒミコは、それを真正面から受ける――。

 

 「っ!?」

 グサリ、と閻魔刀が深々と体に突き刺さる。

 が、ヒミコは全く気にならない様子だ。

 「アハハハッ!」

 そして、彼女はバージルが鎧を虚空から呼びだすように、自身も武器を虚空から召還する。

 「離れろ! バージル!!」

 「クッ!?」

 ブウウン! と風を切る音がした。

 バージルは後ろに跳ねた、しかし、その影は切り裂かれる――。

 

 「騎士様!?」

 パティが思わず叫んだ。

 

 しかし。

 

 「……」

 バージルは無事だった。

 切り裂かれたのは、彼のダークグリーンのスーツだけだった。

 

 バージルはいつものロングコート。

 魔法で防御力を強化した魔法闘衣を身に纏っていた。

 

 「あーあ、仕事着が台無しだな」

 「フン」

 ギルバのセリフに、バージルが鼻で笑って返した。

 

 「アハハハハ! ウツセミノジュツってやつかしら」

 ヒミコが嘲るように言った。

 

 その手には今しがた召還した、巨大な鎌が握られている。

 

 「さすが日系の弁護士、ニンジャにも詳しいらしいぜ」

 「実体は無い――か、となれば」

 そのギルバの言葉にバージルは思い当たることがあるらしかった。

 

  

 「アハハハ! 何をやっても無駄よ、ムーダ! プッ! キャハハハ!!」

 「どうかな?」

 バージルは、閻魔刀を抱えて跳んだ。

 鞘に刀を入れたまま走る。

 

 

 

 それは一撃必殺の居合いの構えである――――一閃!!

 

 

 バージルの剣撃が、今度は、ヒミコの胴体を一直線に両断した。

 

 ――筈だが。

 

 「キャハハハハッ!」

 

 効果は、無い。

 

 そして――。

 

 「じゃ、あなたはおしまいねぇ! キャハハ!」

 一撃必殺の威力を持つ居合いには、ある弱点があった。

 鞘から抜刀する剣の鋭さ、予測のつかなさから、不可避の一撃を放つ居合いであったが――一撃を放った後は、ほぼ無防備なのだ。

 「じゃあね、魔界騎士さん?」

 ヒミコが、鎌をバージル目掛けて振り下ろそうとする――が。

 「そうだな」と、

 バージルはつまらなそうに言った。

 

 

 「キャハッ――うげええぇ!?」 

 

 醜い、嗚咽の様な声を、ヒミコは上げた。

 

 

 彼女の顔面に、閻魔刀の鞘の一撃が直撃していたのである。

 サングラスが、粉々に吹き飛んだ。

 抜刀は、最初から、相手を油断させるための攻撃であって、鞘での攻撃こそが、バージルの狙いであった。

 

 「――魔界の霊木とギルガメスで作られた鞘だ、十分に効くだろう? ――”シン・サイズ”!!」

 「ぶげええええええっ!!」

 ヒミコは、うめき声をあげながら、数メートル吹っ飛ばされた。 

 

 「やはりな、仮面以外はヤツの影――ヤツは邪悪な仮面を触媒にこの世に降臨した死神を模したデビル、シン・サイズだ」

 ギルバが言った。

 「死神なんかの善神を気取って、人に近づいたりする。 憑依した人間をあそこまで操るとは驚きだが、正体が分かれば大した悪魔じゃない。 やっちまえバージル」

 

 「コケにするなぁあああ!!」

 吹き飛ばされた、ヒミコが、起き上がり、鎌を携える。

 と、人間としての体は崩れ、顔の皮膚も崩れ落ち、中から仮面と、襤褸切れで出来たような悪魔が現れた。

 正にその姿は、人のイメージする、死神そのものであった。

 

 「妹ヲ殺シタワタシニ――全テヲステテ笑顔ニナッタワタシニ――ダレモカナウモノカァアアアアア!!」

 絶叫して、”シン・サイズ”は突っ込んできた。

 

 「兄弟殺しか、それは大層な業だな――ならその陰我――」

 対して、バージルは閻魔刀を構える。

 

 そして、頭上に掲げ、円を描く――。

 

 「殺してやるよ (You shall die)!!」

 

 円は光り輝いて、虚空からネロの鎧を召還する。

 

 

 

 

 バージルが、闇を身にまとって現れる存在。

 つややかな、緑がかかった漆黒の鎧。

 涅槃への路をいざなうもの、闇哭騎士・ネロである。

 

 ネロは、閻魔刀を一振りすると、その刀身を両手持ちの大剣へと変化させた。

 

 

 

 「ワタシハエガオナンダァアアハハハ!!」

 「お前の笑い声は――聞き飽きた」

 ネロは、剣を一振りした――蒼い炎が、光線のようにシン・サイズヘと向かう、がそれをシン・サイズは難なく避ける――が、

 「アハハハ! ――アッ!?」

 

 「同じ手に引っかかるとは、笑えんな」

 炎の一振りは、フェイント――シン・サイズの眼前に、いつの間にか接近していたネロの拳が迫っていた。

 

 

 「フゥウウウウンン!!」

 ネロのストレートが、シン・サイズの顔面――仮面を貫いて、粉々に粉砕していた。

 

 

 

 「ギャアアアアア!! アハッ! アハァアアア!!」

 最後に、乾いた笑いを残して、シン・サイズの仮面は砕け散った。

 

 

 

---------------------------

 

 

 ――そして、ボロキレの中から、ヒミコ・カズラの元の姿が現れた。

 

 「アハハ! アハッ!!  ああぁ……もう、笑えないわ……ユウコが……いなくなってから、ちっとも、本当は……おもしろくないんだもん……わらってなきゃ、やってられない……」 

 

 

 

 ヒミコは、目に、うっすらと涙を浮かべて――闇に消えていった。

 

 

 

 「似合わない仮面とサングラスはしないことだ」

 ネロの鎧が、体から剥がれて虚空へと消えていく。

 バージルは、閻魔刀を鞘に仕舞うと、ぽつりと呟いた。

 

 「――騎士様」

 「……?」

 パティが、バージルに駆け寄った。

 「やっぱり、来てくれたんだ、神父様の言ったとおり!!」

 「神父……さま?」

 

---------------------------

 

 「ああ、バージル、あんたの言ったとおりだよ。 この地区の魔剣所が極秘任務ばかり請け負っているのは知っているがね。 出所が妙だ」

 魔界法師のモリソンに、無理を言って依頼の経緯を調べてもらった。

 彼の表の仕事は情報屋のようなものであることもギルバから聞いていたからだ。

 「まるで、あんたに仕事が行くように事が運んだみたいだ」

 「そうか……」

 

 事務所でモリソンの報告を聞きながら、バージルは口元を押さえて、考えをめぐらせた。

 

 「その、神父ってのはもう街はずれの教会には居なかったんだろ? 匂うな――あのパティって娘が襲われたことも含めて」

 「……」

 「まあ、魔剣所の幹部達が何か隠しているのは確かだが……アンタの寿命を縮めることにもなる。 事が分かるまでは動かないほうがいい」

 「ああ……」

 モリソンの言葉に、バージルはうなずいた。

 「君のフィアンセも哀しむだろうからな?」

 

 「……?」

 モリソンの言っている意味が分からず、無言のバージル。

 「騎士様!」

 そんなバージルの困惑を他所に、元気な声が、事務所に響いた。

 パティが今日もやってきたのだ。

 「フフッ、アハハハハ」

 

 その顛末が途轍もなく可笑しくて、ギルバは一人爆笑していた。




 


 『チャック・グリーン曰く、
  どんなにいい手札を持ってても、
  出しどころを間違えちゃ意味がない
  次回、『切札』!!
  何?手札すらない?話にならんな』
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