エリレさんはようやく起きたようです。
時間は1300を回り、お天道様が天高く輝いている
気持ちのよい一日である。
広島県の呉にある鎮守府、呉鎮守府では
阿武隈率いる第一水雷戦隊所属の第六駆逐隊が、
気持ちの良い天気の中、訓練を行っていた。
「まだまだぁ!あとグラウンド10週!
顔上げろ!下げたらプラス10週!」
阿武隈は、第六駆逐隊を率いる形で
叫びながら走り込みを続けていた。
そして、第六駆逐隊の面々は息も絶え絶え、
汗だくになりながら、なんとか阿武隈に追従していた。
はたから見ても、返事をする余裕などないレベルである。
「第六駆逐隊!返事ィ!」
阿武隈は、第六駆逐隊がすぐに返事を返さないことに
鬼のような表情をしながら、怒号で活を入れる。
「「「「はい!(なのです!」」」」
阿武隈の怒号に反応したのか、
第六駆逐隊の面々は絞り出すようにかすれた声でありながらも大声で叫ぶと、
全員顔を上げ、四肢に力を入れ、阿武隈に追従していく。
「よろしい!それじゃあ残り9周!ペース上げるわよ!
第六駆逐隊、ついてこい!」
「「「「・・!?はいいっ!(なのでず!)」」」」
阿武隈の無茶ぶりに、絶望的な表情を浮かべながら
ペースを上げた阿武隈になんとかついて行く第六駆逐隊。
フォームは乱れ、息はさらに絶え絶えになりつつも
顔はなんとか上を向き、阿武隈になんとか追従して走っていた。
そして、当の阿武隈は尋常じゃない速度でグランドを駆け抜けながらも
(第六駆逐隊もようやくここまでついてこれるようになったわね。
明日からは、一段階上げて訓練しようかしら)
第六駆逐隊への訓練をより厳しいものにしようと思案を続けていた。
なお、阿武隈のフォームは陸上選手のように美しく
既に3時間、グランドの周回を続けているとは思えない姿であった。
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「訓練辞めっ!第六駆逐隊、しばらく休憩!」
グラウンドを合計4時間ほど連続で走りこんだ第六駆逐隊は
阿武隈の言葉に、その場で腰を落とし、息を整えていた。
「だらしないなぁ。第六駆逐隊。
まだまだ、第一水雷戦隊の一員とは言えないわよ」
阿武隈は涼しい顔で、第六駆逐隊の面々を見ながら
厳しい表情を浮かべ、鋭い声で叱咤していた。
そして、暁が、阿武隈の言葉に反応し
息も絶え絶えながらも、口を開いていた。
「そ、そんなこと、いっても。
阿武隈さん、半端ないペースすぎます」
阿武隈は暁の言葉に、呆れた顔を浮かべると
ため息をつきながら口を開いていた。
「いいえ、まだまだ、抑え気味なのよ?
最後のペースで8時間、走りこめるようになれば
一人前と言えるわ。特に菊月ちゃんとか、
走り込みだけにはなるけど、私を抜いて行ったしね」
第六駆逐隊の面々は、阿武隈の言葉に呆気を取られていた。
特に、最近呉から横須賀に栄転した菊月が
阿武隈の鍛錬についていき、あまつさえ、走り込みに至っては
異常なペースである阿武隈を抜き去ったという事実に驚きを隠せないでいた。
「何を驚いているのよ。
軽巡である私よりも、駆逐である貴方たちのほうが
速度が出るんだから当たり前でしょうに。
航続距離も、8時間程度走ったぐらいじゃ
艦である私たちは、まだまだ余裕のはずよ」
「たしかに、そうなのです、が・・・・。
陸上では、普通の、人間と、同じ、なの、です」
「何を言ってるの。陸上で海の上と同じように動ければ
海の上では、もっと動くことができるでしょうに。
金剛さんを見ならいなさいよ。
陸上でも戦闘能力が変わらないんだから。」
阿武隈はそこでいったん言葉を区切ると
第六駆逐隊を改めて見据え直し、言葉を続けていた。
「どこで深海の艦と接敵しても、常に戦えるようにすべし。
海の上だけと慢心していては、いつか後悔することになるわ。
いいわね?今日の弱音は、聞かなかったことにしておきます。
明日から、気合いを入れて訓練しなおすように。
・・・・頑張りなさい。」
第六駆逐隊は、阿武隈の言葉を受けて表情を引き締めなおした。
体は少女でも、心は誇り高き帝国海軍の艦である。
ここまで叱咤激励され、燃え上がらないわけがない。
まだ整っていない息のまま、第六駆逐隊は全員立ち上がり
阿武隈に敬礼をしながら、大声で叫んだ。
「「「「わかりました!ありがとうございます!阿武隈教官!」」」」
「よろしい。貴艦らの活躍に期待する。」
阿武隈も敬礼をしながら、姿勢を正し、敬礼を返していた。
そして次の瞬間、阿武隈は表情を崩し
「あは、まぁ・・・。でも、倒れそうになったら、言ってね?
あと、みんな喉かわいたでしょ。鳳翔さんに言って、ラムネ、もらってくるわ」
笑顔で、第六駆逐隊に話しかけていた。
第六駆逐隊の面々も、敬礼を崩しながら
「「「「ありがとうございます!阿武隈さん!」」」」
と、笑顔になりながらも、再度、その場に膝をつき
息を整えなおしていた。
「それじゃあ、ちょっと待ってて。
すぐにラムネと、あとタオル持ってきてあげるから。」
「「「「はーい(なのです)」」」」
阿武隈は休憩する第六駆逐隊に手を振りながら、
鎮守府の中にある、居酒屋鳳翔へと足を運んでいった。
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・・・さて、阿武隈が居酒屋鳳翔へ足を向けたころ
夜まで呑み、ダウンしていたエリレさんと金剛はというと
「アッタマ、イテェ・・・・。
顔モ、イテェ・・・・。」
「レ級も、デース・・・か。
というか、これ、呑みすぎだけ、では、ないデース・・・。
本気で、殴り合い、しすぎマーシたネ・・・。」
座敷で胡坐をかき、二人でテーブルに頭を乗せながら
ぶつぶつとつぶやき続けていた。
「シカタネージャン、酔ッテタシヨォ・・・。
・・・タダ、ババァハ言イスギタ。ゴメン」
「別に良いデース。実際一番年上ですシ・・・。
敵であるレ級からみたら、そうみえるのは仕方ないデス」
レ級のつぶやきに、金剛は片手を上げながら
苦しそうな声で返していた。
レ級は顔を上げて、正面を見る。
「ウゥゥ。それどころか、呉の旗艦として
敵のレ級とはいえ、恥ずかしい姿を、みせたデース・・・。
あぁぁ・・・・。そういえば、姫もいたデース。
敵とはいえ、まったく関係のない艦にあんな姿をぉ・・・・」
そこには、いまだ机に突っ伏している金剛が
苦しそうにつぶやきを続けていた。
「気ニスルナッテ。酒ノ席ダ。
私モキニシテナイシ。姫モ多分キニシテナイ。
ダカラ、私タチヲ起コサズニ、ドコカイッタンダト思ウゼ?」
レ級は首を左右に振り、誰もいない昼間の居酒屋鳳翔を見渡していた。
昨日の夜の酒宴はどこにったのか、食器はすべて片づけられていて
秋刀魚を焼いていた時の油の香りがわずかに残る程度である。
「うぅ、レ級。そういってもらえると助かりマース・・・。
それにしても、港湾の姫は、どこにいったのでショーカ・・・」
金剛はいまだ突っ伏したまま、レ級に口を開いていた。
レ級は少し考えると、突っ伏したままの金剛の
頭を撫でながら、口を開く。
「ソウダナァ。マァ、散策カナァ。」
「・・・レ級、頭撫でるの、うまいデースね・・・。
そうですカァ。姫は、散策、ですカ。・・・散策ゥ!?」
金剛はレ級に撫でられていた頭を、がばっと上げると
レ級に食って掛かる勢いで、顔を近づけ、叫んでいた。
「レ級ゥ!それはまずい!・・デースぅ・・・。大声響くぅでーす・・・。」
金剛は自分の叫び声に、二日酔いの頭がガンガンと響いていた。
そして、頭を押さえながらも小声で、さらに言葉を続けていた。
「ここは呉鎮守府デース。夜だったからみんな寝ていましたが
艦娘と、軍関係者が沢山いマス。
そんな中に姫が散策して、見つかりでもしたら、大問題どころじゃないデス」
「・・・ア」
「アッ、じゃナイデース!・・・うぅ。
とりあえず、私は姫を探してくるデース。
レ級は、鳳翔さんが戻るまでここでおとなしくしておいてくだサーイ」
そういうと、金剛はふらふらしながら立ち上がり
渋い顔をしながら、居酒屋鳳翔の出口へと歩いて行った。
「金剛、私モ協力・・・・」
「レ級まで勝手に出歩かれて、艦娘と軍の関係者に見つかったら
より一層面倒なことになりマス。絶・対・に、おとなしくしてるデス」
レ級を指さしながら、より念を押す金剛。
「・・・ハイ、オトナシクシテマス。ゴブウンヲ」
「よろしいデス。それじゃあ、探してくるデース」
金剛は、ひらひらと手を振りながら、居酒屋鳳翔を後にする。
レ級は、そんな金剛の背中をおとなしく見送りながら
「金剛イッチャッタ。
ッテイウカ、港湾、勝手ニ出歩クナンテ。ココ敵地・・。
・・・アァ、私モヒトノコトイエネーヤ。
大人シク、寝テ果報ヲマトウカネ。」
レ級はそう呟くと、大人しく居酒屋鳳翔の座敷で寝直すのであった。
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ガラガラ、と居酒屋鳳翔の扉が開く。
「鳳翔さーん!いますかー?!
飲み物いただきにきましたー!」
ジャージ姿の阿武隈が、元気な声を出しながら
居酒屋鳳翔の店内に、歩みを進めていく。
そして、居酒屋の中を見渡しつつ呟いていた。
「あっれー、いないのかしら。カウンターも・・・いない?
そろそろ開店準備してるかと思ったんだけどなぁ。」
カウンターを覗きこむも、鳳翔はどこにもいない。
「うーん、どうしよう。
明石さんところにラムネ、あったかなぁ・・・?」
首をかしげながら阿武隈は呟くと、
居酒屋鳳翔を後にしようとした。
その時である
「・・・・ンガッ!」
居酒屋鳳翔の座敷から、誰かの「いびき」が聞こえたのだ。
「・・・?誰、かしら。こんな時間まで寝ているなんて
提督かしら」
不思議に思った阿武隈は、居酒屋鳳翔の座敷へと歩みを進める。
そして、徐々に座敷に寝ている何者かの姿が見え始めていた。
足は馬を思わせる形をし
謎の尻尾のような物体が背中から伸び
そして、特徴的なパーカー姿の青白い人影が
大の字で、いびきをかいて寝ている姿であった。
「・・・・はい?」
戦艦レ級。
阿武隈にとって、忌まわしき相手が
居酒屋鳳翔の座敷で、大の字で寝ていたのである。
「・・・・・はいいいいい!?」
思わず叫びをあげる阿武隈。
そして、
「ンァァ?
金剛ォ?姫、ミッカッタノォ?」
むくりとエリレさんが、眠気眼をこすりながら
ゆっくりと上半身をおこしていく。
そして、エリレさんが完全に上半身を起こし終えると
阿武隈と目が合い、お互い、少しの間、固まっていた。
少しの静寂が、居酒屋鳳翔の店内を満たしていた。
そして、少しの間の後、
レ級と阿武隈は同時に、お互い口を開いていた。
「ンオ・・・?金剛ジャナイ?」
「・・・レ級ううう!?なんであんたがここにいるのよぉ!?」
阿武隈、魂の叫びである。
妄想、はかどりました。