自由なエリレさん。   作:灯火011

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※前回、感想と評価を多量に頂きまして感謝の極み。 
 エリレさんも、酒瓶片手に喜んでおります。

人類と艦娘の特殊作戦の情報を得た港湾棲姫とレ級エリート。
しかも物資の中に酒があると知ってしまった彼女たちは
どうやら、酒瓶欲しさに人類の輸送船を襲撃するようです。



18 レ級と輸送作戦 その2

「戦艦レ級エリート」 

 

深海棲艦の中で特に上位種に位置する艦種であり

エリートは、更にレ級の中でも上位の実力を持つ艦である。

 

南方海域で数多くの艦娘を沈め、

多くの艦娘や提督を苦しめている最悪の敵と言って良い。

なにせ、開幕の航空戦、そのあとの魚雷、そして砲雷撃戦、対潜戦闘と

全てにおいて高水準で纏まっている敵であるからだ。

 

そして、空気が澄み渡る月夜の今日。

戦艦レ級はコロネハイカラ島近くの海上に

一人でぽつんと佇んでいた。

 

だが、その装備は、何時ものレ級ではない。

艦娘を瞬殺する41センチ主砲や

魚雷、そして航空機は全て基地に置いてきているのだ。

 

その代わりに、完全防水のアモボックスを3つほどを尻尾に括りつけ、

更に肩からは大型のショルダーバッグを2つ垂らし、

そして格納庫には、大量の緩衝材が入っていた。

そう、このレ級は今、完全に武装解除をして

コロネハイカラ島近くの近海で佇んでいたのである。

 

「オッ・・・アレガウワサノ輸送船団カナ?」

 

そんなレ級の視認範囲に、大船団が現れる。

艦娘が6隻確認出来るあたり、

港湾棲姫が話していた、コロネハイカラ島への輸送部隊と

輸送部隊を護衛する艦娘達で間違いないであろう。

 

「オォー。コレハコレハ厳重ナ警備ダコト。

 ンーム、正攻法ハ、ヤッパリ無理ダナ。」

 

レ級は、大船団を確認すると顎に手を当てながら

静かにつぶやいていた。

そうしている間にも、船団はどんどんレ級が立つ海域へと

進軍を続け、近づいてくる。

 

「フフフ。サァテ。正面ノドアガ、艦娘デイッパイナラ。

 銀蠅ラシク、ココハ下カラ行ッテミマショウカネェ。」

 

レ級は、にやりと笑みを浮かべると。

機関出力を最大にして、水中へと加速していく。

そして、レ級の姿が完全に海中に没すると

まるで誰も居なかったかのような静寂が

周辺海域を包んだのである。

 

 

レ級は静かに、海中から、輸送船団に近づいていた。

ゆっくりゆっくり、輸送船のペラがの白波に紛れながら

ゆっくりと、船体へと接舷していく。

 

そして、輸送船団のタンカーの中の一隻に接舷すると同時に、

レ級は顔を半分だけ海面に出し、艦娘と船団の配置を把握していった。

 

「船団正面ニ神通カ。

 左右ニ駆逐艦2ヅツ、後方ニ駆逐1。

 ナカナカ厳重体制ダコト。マァ、関係ナイケド。」

 

レ級はそう言うと、一旦海中深く潜り込む。

そして、自身の尻尾でイルカのように水中を加速し

そのまま一気に、海面から飛び出ていた。

 

「イヤッフー!」

 

水族館のイルカのように、高いジャンプを見せるレ級。

レ級は海面から飛び出ると、その勢いのまま

タンカーの甲板へと飛び込んでいた。

 

ストン。

 

驚くほど小さい着地音を立てたレ級は、直ぐ様物陰に隠れ

周囲を確認していった。

 

「フムフム、甲板上ニサーチライトハアルケド

 警備ハスクナイナ。コレナラ・・・・」

 

レ級は物陰から出ると、さささっとゴキブリのような動きで

格納庫へと降りる階段を素早く、手早く降りていった。

 

そして、レ級の嗅覚は、酒の匂いを確実に嗅ぎ取っていた。

A-1と書かれた格納庫に迷うことなく向かったレ級が

格納庫の扉を開くと、そこには、格納庫イッパイの

ボウモアと、特級角瓶が鎮座していたのである。

 

「・・・ココハ、天国カ。

 ヨシ、ジャアサッソク頂キマショウカネ!」

 

レ級はそう呟くと、格納庫から大量の緩衝材を取り出し

角瓶とボウモアを丁寧に包んでいく。

そして、アモボックスと肩からかけていたショルダーバッグに、

丁寧に、かつ迅速に、詰め込める分だけの酒を詰め込んでいくのであった。

 

 

艦娘、軽巡神通は、その日、隷下の駆逐艦を率いて

コロネハイカラ島への物資輸送任務についていた。

ただし、その表情は全く冴えない。

 

「70年ぶり、ですか。感慨深いですね。」

 

神通は、護衛任務につきつつも

自分が船だった時の、任務を思い出していた。

 

【コロンバンガラ島沖海戦】

 

1943年7月12日、ソロモン諸島で発生した

日本の輸送部隊と、アメリカ・ニュージーランド連合軍との戦い。

 

その時、神通は探照灯と照らし

敵の砲撃を一手に引き受けるながら戦い

最終的に神通の船体は真っ二つに折れるも

隷下の駆逐艦隊により、日本側の勝利となった海戦である。

 

「神通さん、どうかされました?」

 

考えに浸り、ついついぼーっとしていた神通は

自身の真横にいた雪風からの問いかけに、

ハッとし、表情を引き締めた。

 

「ありがとう、雪風。

 少々昔のことを思い出していました。」

 

「・・・あぁ、1943年7月12日の海戦ですね。

 神通さん、今回は何があっても貴女を守らせていただきます。

 目の前で仲間が沈むのは、もう見たくありません。」

 

雪風は、真剣な表情で神通の目を見つめていた。

神通は笑みを浮かべると、雪風に優しく語りかける。

 

「大丈夫ですよ。

 今回は沈む気は全くありませんから。 

 それに、今回は露払いで大和さんたちが

 深海棲艦を駆逐してくれています。

 我々は油断せずにことを進めれば、何も問題はありません。」

 

「そう、ですか。

 それならば大丈夫ですね!

 神通さん。コロネハイカラ島まで護衛、やりきりましょう!」

 

「えぇ。雪風。」

 

神通は笑みを浮かべたまま、

コロネハイカラ島へ続く進路へと、目を向けていた。

 

「今回も油断は出来ませんが。 

 ですが、大和さん達もいるのです。大丈夫、大丈夫。」

 

雪風に聞こえないように、静かに神通はつぶやいていた。

 

そんな神通の目の先には、月夜に照らされ

静かに美しく輝く、南方の海が広がっていた。

 

 

輸送船での銀蝿も終え、やることもなくなっていたレ級は

甲板に出たまま、ゆっくりとのんびりと時間を過ごしていた。

 

本来であれば、撤退したいところであったが

予想以上に神通たちの護衛が厚く、甲板上から動けないでいたのだ。

 

「ドースッカネー。戦闘デモ始ハジマッチマエバ

 混乱ニ乗ジテ逃ゲレルンダケドネェ・・・」

 

とつぶやいた次の瞬間、レ級の乗っていた輸送船、タンカーに

砲弾が直撃したのである。

 

「ウォットゥ!?」

 

レ級は思わず叫びながら、船から振り落とされないように

手すりにしっかりと捕まっていた。

 

「敵襲ッ、ッテカコノ場合ハ、味方ノ攻撃カ。

 ・・・アレ、デモ、港湾棲姫ノハナシダト

 コノアタリハ誰モ配置シテナカッタヨウナ・・・?」

 

レ級は首を傾げながら、砲撃を行った深海棲艦を確認していた。

 

「・・・誰ダ、アリャ。」

 

そこには、黒い服に仮面を被った

艦娘、神通によく似た、レ級が見たこともない

深海棲艦が立っていたのである。

 

 

神通は、コロネハイカラ島近海に近づいた時、

航路上、静かに輝く波間に、人影を見つけていた。

 

「・・・あれは?」

 

「どうしたの?神通さん。」

 

雪風とポジションを変えた島風が、神通の言葉に反応する。

神通は、島風を見ながら、人影を指差していた。

 

「いいえ、あの人影なんですが。

 先程からずっと此方を見ている気がするんです。

 でも、電探にも反応無いですし・・・」

 

島風も人影を確認する。

どうやら、謎の人影も、此方と同航路で、少しづつ近づきながら

平行して進んでいるようであった。

そして、島風は電探を起動させるも

そこに人影があるにもかかわらず、全く反応がない。

 

「・・・?妙ですね。

 なんで姿が見えるのに電探に反応が無いんでしょう。」

 

「島風もですか。となると、これは気のせいでは無いですね。

 駆逐隊、左舷の人影に注意。深海棲艦の可能性もあります。」

 

神通は、主砲を動かし、海面に立つ人影に照準を合わせていた。

島風を含む駆逐艦たちも、同様に人影に照準を合わせる。

 

そして、徐々に航路が近づき、人影が視認できる距離になった時である。

黒い服、顔を隠す仮面の人影。

見たことはない人影であるが、深海棲艦であることは確かだ。

 

だが、それ以外にも、神通を含めた艦娘は

全員が、ありえないことを目にしていた。

神通が装備している探照灯をと、神通と同じ主砲を持っていたのだ。

更に言えば、今この場所は、軍艦神通が沈んだ場所である。

 

そして、こちらが神通らしき深海棲艦を確認した瞬間に、

神通らしき深海棲艦、軽巡棲姫は、激高した声で、叫びを上げていた。

 

「クチオシヤ……ニクラシヤ……!

 ナゼ、ワタシガソコニイル。ジンツウ!」

 

深海棲艦の声を聞いた瞬間、艦娘全員に衝撃が走る。

 

----あれは、神通だ----

 

姿形が違うけれども、あれは、神通だ。

 

「なっ・・・あれは、ワタシ・・?

 いえ、あれは深海棲艦、でも、ワタシハワタシ?」

 

神通は混乱の極みに居た。

 

自身は神通である。だが、目の前の深海棲艦も神通である。

直感がそう言っている。ではワタシハナニモノナノカ。

それは駆逐艦達も同じである。

深海棲艦であるが、神通であると感じてしまっているのだ。

誰もが、正常な判断を行えないでいた。

 

「アハハハ・・・!沈メェ!!」

 

その隙を突いて、軽巡棲姫は一発、船団へと砲撃を行う。

 

ドゴン

 

という音とともに、一隻のタンカーへと攻撃が加わり

行足が止まる。

 

そして、軽巡棲姫は次に、神通へと照準を合わせ

にやりと口角を上げ、攻撃を加えようとしていた。

が、次の瞬間、ドゴン!という音とともに、

軽巡棲姫の体は、海面に転がっていたのである。

 

「・・・みんな、反応おっそーい。」

 

軽巡棲姫を最速で蹴り飛ばした島風は、

険しい顔で、神通を見る。

 

「島風、あれは・・・あれは・・・!

 ワタシの、ワタシの怨念・・・!ここで沈んだワタシノ・・・」

 

神通は、軽巡棲姫を見ながら、

苦しい表情を浮かべてつぶやいていた。

 

「神通!目を覚ませ!」

 

島風は険しい声で叫ぶと、神通を思いっきり蹴り飛ばす。

神通は島風の最速の蹴りを顔面に受けるも

体をよろめかせるだけで、ダメージはない。

だが、ケリを受けた神通の顔は、驚愕に染まっていた。

 

そして島風は、大音声で神通に叫んでいた。

 

「神通!

 今貴女は過去の怨念に縛られてる場合じゃない。

 貴女は輸送作戦を完遂させなければいけないんです!

 ここはこの島風に任せてください。

 ・・・あんな過去に縛られてる、怨念まみれの時代遅れの船なんて

 私が最速で海底に叩き込みます。」

 

神通は島風の言葉を受け、鋭い目を島風に向ける。

島風の蹴りと言葉を受けて、神通はもう、狼狽えては居なかった。

 

「・・・わかりました。ありがとう、島風。

 みっともない姿をお見せしましたね。

 ここはお任せします。私を、お願いします。」

 

「うん。神通さんも、コロネハイカラ島に

 無事に物資を届けてくださいね。

 それでは、またショートランドで。」

 

「えぇ、またショートランドで。」

 

神通と駆逐艦4隻、そして輸送船団は軽巡棲姫を横目に見ながら

最大戦速で、月夜の海を駆け抜けていった。

そして、島風は、未だ倒れ伏している軽巡棲姫を見下している。

 

「神通さんと同じ存在なのに、腑抜けね。」

 

島風は険しい顔をしながら、軽巡棲姫へと口を開いていた。

軽巡棲鬼は島風の言葉に反応し、立ち上がる。

その顔は、血まみれでありながらも、壮絶な怒りを浮かべていた。

 

「貴様ァ!・・・貴様ァ!

 私ィ・・・私自身トノ決着ヲ!邪魔ヲスルナ!シマカゼェ!」

 

軽巡棲姫はそう言うと、砲弾を撃ちながら島風へと突撃していった。

が、島風はどこ吹く風。軽巡棲姫の砲弾を全て避け

一気に軽巡棲鬼へと肉薄する。

 

「舐メルナァ!」

 

軽巡棲姫は、肉薄してきた島風に、強烈な拳を繰り出していた。

だが、島風は表情一つ変えず、軽巡棲姫の拳をさらりと躱す。

 

「クソガァッ!ナンデ、ナンデアタラナイノヨ!」

 

「貴女、神通さんと同じ存在なのに、私を知らないの?

 ・・・・島風って名前はさ、帝国海軍最速の艦の名前なんだ。

 先代から受け継いだこの名前はね、私が最速であることの誇りなの。

 ・・・だからさ。

 あなたみたいに、過去に縛り付けられた、時代遅れの艦の攻撃を

 私が、今代最速の島風が!一撃足りとも食らうわけが無いでしょう!」

 

島風はそう叫ぶと、全体重と速度を乗せ

軽巡棲姫の顔面を蹴りぬいていた。

 

「ガァッ・・・・!」

 

軽巡棲姫は、島風の蹴りを避けようとするも

あまりの蹴りの速さに、防御すら出来ずに

海面を勢い良く、転がっていった。

 

「過去の神通さん。・・・貴女って、遅いのね。」

 

島風は倒れ伏す軽巡棲姫を見下しながら、

静かな声で、口を開いていた。

 

 

レ級は、行き足が止まった輸送船の甲板上から、

島風と軽巡棲姫の戦いを見物していた。

 

「流石島風、早イネェ。」

 

レ級は、先ほど船室で見つけたボウモアの瓶を早速傾けながら、

また別の船室で見つけた御摘み、コンビーフをちびりちびりと突いていた。

 

「酒ノ肴ニハナルナァ。

 ・・・ソレニシテモ、アノ深海棲艦、初メテミタケド・・・・。」

 

レ級が知るかぎり、2種類の深海棲艦がいる。

まず、ひとつ目は艦娘と同じように建造された深海棲艦だ。

レ級や戦艦棲姫、空母ヲ級などはこれに当たる。

もうひとつも艦娘と同じではあるのだが

少々、扱いに困る深海棲艦で、俗にいうドロップ艦である。

 

なぜ深海棲艦のドロップ艦が扱いに困るのかと言えば、

怨念が強すぎて、深海棲艦にすら危害を加える事があるのだ。

 

---動くものは全て憎い、殺せ、死ね。---

 

そして、いま目の前にいる深海棲艦は

確実に、動いているもの全てに、恨みを抱いているようであった。

 

「・・・アノ深海棲艦、ヤッパリ天然物ダヨナァ。

 港湾棲姫ガ私ニ伝エナイッテノハアリエナイシ。

 ナニヨリ、神通ニ、艦娘対シテ執着ガ過ギル。」

 

レ級は、ぐいぐいとボウモアを煽りながら

一人つぶやいていく。

一口一口ボウモアを煽るたびに、

泥炭の独特の香りが、口の中に広がる。

そして、御摘みとして食べているコンビーフの塩気と合わさり

レ級は思わず、笑みを浮かべていた。

 

「ンー。本場スコッチウイスキー、ダッケ。

 飲ミヤスイシ、美味シイナ。

 今度鳳翔ノトコロデハイボールニシテモラオ。」

 

レ級は未だ、島風と軽巡棲鬼の戦いをツマミに

ボウモアの瓶を早速傾けている。

 

軽巡棲姫が砲撃をしながら雷撃を行うも

島風は涼しい顔のまま、最低限の動きで全て躱す。

そして、目にも留まらぬ速さで、軽巡棲姫の背後を取り

軽巡棲姫の髪の毛を無造作に掴みながらジャンプする。

そして、その勢いのまま、軽巡棲姫の後頭部に膝蹴りを加えていた。

 

「ウワー、アリャアイテェゾ・・・」

 

レ級は思わず、自身の後頭部を抑えながら、呟く。

 

その間にも、軽巡棲姫は後頭部から血を垂らしつつ、

叫びながらも島風へと裏拳を繰り出していた。

が、軽巡棲姫の背中には既に島風は居ない。

気づけば島風は軽巡棲姫の真横に陣取り、

魚雷15射線を軽巡棲姫へと放っていた。

 

軽巡棲姫は見失った島風に気を取られているのか

魚雷に全く気づかず、なすすべもないまま、魚雷の餌食となっていた。

 

「・・・決着カナコリャー。

 サッテ、ソロソロ行キマスカ。

 怨念マミレノ深海棲艦トハイエ、見捨テルノモ気持チワルイシ。」

 

レ級はそう呟くと、甲板から飛び降り海面に立つ。

そして、主機の出力を上げ、海面を蹴り、島風の元へと向かっていった。

 

 

島風は自身の攻撃で海面に転がる軽巡棲鬼を見下ろしていた。

 

「・・・おっそーい。本当に神通さんと同じ存在なんだよね?

 私に勝てないで、どうして神通さんに敵うと思ったのかな・・・」

 

島風はそう言うと、軽巡棲鬼の頭に自身の足を置き

力を加えていく。

 

「・・・ガァアアア・・・」

 

ミシミシという、頭蓋骨がきしむ音とともに、

軽巡棲姫が苦しげにうめき声を上げていた。

 

「呻いたって無駄。

 貴女は危険な存在だよ。過去の神通さん?

 おとなしく、藻屑となりなさい。」

 

島風はそう言うと、軽巡棲姫の頭を砕こうと

更に足に力を込めようとしていた。

 

が、その時、島風は軽巡棲姫から飛びのき

一気に距離をとった。

島風の視界の端に、飛来する物体が見えたのだ。

 

同時に、直前まで島風がいた海面に

大きな水柱が立ち上る。

 

「ヤァヤァ島風サン。良イ戦イヲミセテモラッタヨ。 

 タダ、我ガ深海棲艦ヲ没セシメヨウトシタノハイタダケナイナァ。」

 

「・・・誰?」

 

(普通の深海棲艦ならば、蹴りぬいて、

 神通の怨念と一緒に沈めてやる。)

 

島風はそう考えながら、険しい顔のまま、

謎の声がした方を振り向いていた。

 

すると、そこには

巨大なしっぽを持ちながら、パーカー姿で

赤いオーラを滾らせる悪夢の敵、戦艦レ級が立っていたのである。

 

(なっ!?戦艦レ級!?なんでここにいるのっ!?)

 

島風は戦艦レ級の姿を確認すると、弾けるように自身を加速させていた。

肉薄し、戦艦レ級の顔面を蹴り抜こうとしたのである。

ジグザグに動きながら戦艦レ級に肉薄する島風は流石の練度と言えるであろう。

 

(でも私について来れる船は居ないっ。私が最速なんだもん!)

 

だが、侮るなかれ。

島風が狙う相手は、過去の怨念と現在の趣味を

ハイブリットにした結果生まれた酒飲みであり、

今現在のある意味最先端を走る、戦艦レ級のエリートである。

 

島風は、自身のケリの範囲にレ級を捉えると

常人では避けきれない速度で、確実にレ級の顔面を捉えていた。

 

(とった!レ級でも、流石に私には、ついてこれないよね!)

 

島風の足が中を舞、風を切る音が響き、

そして、蹴りの打撃音がレ級と島風の間で響き渡っていた。

 

「ホォ、良イケリジャネーカ。

 ダガ、マダマダ。速サガタンネーヨ?」

 

レ級はニヤニヤとした笑みで

島風の足を、腕一本で受け止めていた。

レ級は、島風の動きを見切っていたのである。

思わず、島風は驚愕の表情を浮かべていた。

 

(ウソッ!?渾身の蹴りだったのに・・!?)

 

「ナーニ驚イテンダ。私ダッテ結構速インダゼ?

 ソイジャア、島風。一発ハ一発ダ。」

 

レ級はそう言うと、自身の尻尾を振りぬいていた。

島風の蹴りと謙遜ない、下手をすれば島風の蹴りより早い一撃であったが

島風は間一髪、レ級の攻撃を避け、一気に後退する。

 

「くぅうう・・・!」

 

レ級ほどの戦艦の攻撃を至近距離で避け、

海面を転がらないバランス感覚は、さすが島風である。

そして、一気に100メートルほどレ級から離れると

島風はゆっくりと体制を立て直しながら、レ級を睨みつけていた。

 

(まずい。まずいよ・・・。)

 

島風はレ級を睨みつけながらもレ級の強さに内心、絶望を覚えていた。

----自身の最速が通じない。----

そのことだけでも、島風の心は折れそうであった。

 

が、ここで島風は、レ級が

「いつものレ級」とは違うことに気づいたのである。

 

100m先に対峙している戦艦レ級。

人類と艦娘にとって最大級の脅威。

島風自身も何度も苦渋を舐めさせられている敵である。

 

そんな敵であるレ級が、酒瓶を片手に持ち

首からスキットルを下げた挙句、よくよく観察すれば

尻尾には主砲の代わりにアモボックスが取り付けてあり、

そして更に言えば、

両肩からは若干酒瓶がはみ出しているショルダーバッグが2つ、

しっかりと抱えられていた。

 

そして、あのレ級のバックからはみ出している酒瓶は

輸送船団に運び込まれた、特級の角瓶とボウモアではなかったか。

 

「レ級、ごめん。一つ、質問いい?」

 

島風は、顔を手に当て、まさかと思いながらレ級に話しかけていた。

深海棲艦が、輸送船から酒瓶を盗むなんてこと、あるわけがない。

 

「イイゼ。ナンダヨ。」

 

「・・・その酒瓶、何?」

 

「アァ、オマエラガ運ンデルノチョット銀蝿シテテナ。

 ボウモアト特級角瓶ハイタダイタ。アト鯖缶トコンビーフ。」

 

レ級は、アモボックスの中から缶詰を

ショルダーバッグの中から角瓶とボウモアを取り出すと

これみよがしに島風に見せていた。

 

(・・・間違いない、あれ、ショートランド泊地で見た。

 コロネハイカラ島への補給物資だ!嗜好品だけど・・・。)

 

島風は唖然としてしまっていた。

深海棲艦が、こちらに存在を感知させないまま

輸送船団に忍び込み、酒瓶とツマミを盗んでいたのである。

しかも、島風の前にいるレ級は、それはもう嬉しそうに

酒瓶を抱えていた。

 

島風は、二の句が告げないでいた。

深海棲艦が人間と艦娘に被害を与えずに酒だけ盗む。

そんな、ありえない衝撃に、完全に固まっていたのだ。

レ級もそんな島風に合わせてか、何も言葉を発せずにいた。

 

静寂が広がるコロネハイカラ島近くの海。

そして、先ほど島風を襲った水柱の根本には

「ボウモア 12年」と書かれた酒瓶が浮かび上がってきていた。

 

「ナァ、島風。」

 

沈黙に耐えられなくなったのか、レ級がゆっくりと口を開く。

 

「何よ。レ級。」

 

「私ハ別ニ戦ウ気ナインダガ。

 ドウスル、マダヤルカ?コチラトシテハ酒ト摘ミ持ッテイケレバ

 他ノモノハドウデモイイゾ。」

 

島風はレ級の言葉を受けて、心底呆れていた。

酒と摘みが好きな深海棲艦なんて、聞いたことがない。

そしてなにより、このレ級、重要な事を一つ忘れている。

 

「・・・そこに転がってる深海棲艦は?」

 

「ア。ウン、コレモ持ッテク。」

 

レ級は今思い出しました、と言わんばかりに

ポリポリと頭をかきながら口を開くと

軽巡棲姫の首根っこと、海面に浮かぶボウモア12年を掴みあげ

ゆっくりと、島風から距離を取り始めていた。

 

「デ、島風。私ハ撤退シテイイノカナ。

 ダメダッテイウノナラ、戦ウケド。」

 

「・・・まぁ、そうね。私じゃ、レ級。貴女に敵わないし。

 それに、貴女に首根っこ掴まれている深海棲艦のせいで

 行足止まった船を曳航しなきゃいけないし。

 レ級が撤退してくれるのであれば、私は追撃しないことにするわ。」

 

島風はそう言うと、レ級に背中を向ける。

 

「オー。了解。ソレジャアナー島風。

 ア、ソウダ。オ前酒ノメルノ?」

 

島風はレ級に首だけを向けると口を開く。

 

「うん・・?呑めるよ。」

 

「ソッカ!ワカッタ。マタソロモンデ戦オウゼー。」

 

レ級はそう言うと、ゆっくりと水面下へと沈んでいった。

島風は、レ級の姿が消えたのを確認すると

ゆっくりと、輸送タンカーに歩みを進めていた。

 

「ううん・・・?何だったんだろう。あのレ級。」

 

ぶつぶつつぶやきながら、歩みをすすめる島風の表情は

これでもかというほど、困惑に満ち満ちていた。




妄想捗りました。
はっやーい。
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