ちょっと変わった酒飲みの深海の船。
今日はどこかで2人酒のようです。
深海棲艦、戦艦レ級。
そんな、珍しい艦種が、東京からわずか数時間の場所にある
伊豆諸島へと、その姿を現していた。
しかも、0100のド深夜の山の中に、である。
深海棲艦の攻勢により、住む人が少なくなった島ではあるが
艦娘や、未だ住民の行き来がある島に、わざわざ出向き
しかも山の中に静かに進入してまで、レ級さんは何をしているのかといえば。
「オヒタシィ、用ノォ。
明日葉ガァ、ホシイノォ。」
レ級は、自作の歌を歌いながら、伊豆諸島の名産である
「明日葉」を探していたのである。
ガサゴソと地面近くの草をかき分けていくその様は
戦艦レ級というよりも、野生のイノシシである。
しかも、この
「御神火」という焼酎の
「明日葉ァ、ノ、サワヤカナァ、香リガァ、オ酒トアウノォ♪
・・・・ンン?」
レ級はそこで何かを感じ取り、
一旦鼻歌を止め、鋭い目で周囲を見渡していた。
すると、レ級の視線の先に、レ級と同じぐらいの
背丈をした少女が、驚いた表情のまま固まって立っていた。
「オ?アレハァー・・・?
人間・・ジャナイナ。艦娘カ?
ウウン、丘ノ艦娘カァ。武装モシテナイ、カ。
ンンー。別ニ戦イニキテルワケジャアナイシナァ・・・・。」
レ級はそんな艦娘の姿を確認しつつ
一人ぼやいていた。
レ級は今、完全にオフモード。
呑む気はあるが、戦う気は全くないのである。
そして、何かを思いついたレ級は
両手を顔の前で合わせ、ニヒヒ、と笑うと
「ソコノ艦娘、デイイヨンダヨナ?。
私ハ今ハ別ニ戦ウ気ハナイ。
ッテイウカネ。明日葉ッテココラ辺ニ無イ?
明日葉ノオヒタシデ一杯ヤリタインダ!」
レ級は、未だ固まったままでいる艦娘に
酒瓶を見せつけながら、話しかけていた。
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≪山中で何か、人間じゃない化物をみた≫
その報告をうけた艦娘「瑞鳳」は
単身、山の中へと繰り出していた。
「せっかくの半舷上陸だけど
まー、仕方ないわよねぇ」
ぶつぶつ呟く瑞鳳の姿は、いつもの戦装束ではなく
ジーンズにシャツという、ラフな格好だ。
だが、見た目は人間だが、その実は船であるため
腕力や瞬発力は、人間は元より、
熊などの獰猛な動物よりも強いのだ。
それに、山の中であるため、深海の船がいるわけないと
安易な判断なものと、目的の山中へと到着していた。
するとどうだろう、確かに山の中にうごめく人影がいたのだ。
そして、その姿を確認しようと、物陰から近づいた時である。
瑞鳳は「ビシリ」という擬音が似会うほど
見事に体を硬直させていた。
何の間違いか、瑞鳳の視線の先には
戦艦レ級と呼ばれるパーカー姿の深海棲艦が、
何やらゴソゴソと山の中を蠢いていたのである。
そして、あろうことかこちらの姿に気づいたのか、
戦艦レ級は急に立ち上がり顔を瑞鳳の方に向けた。
(あっ・・・まっず・・・・!
っていうか、なんで、レ級がこんな山の中に・・・!
私だけじゃ対処できないっ。逃げなきゃっ!)
瑞鳳は頭の中でそう思うものの
恐怖か、絶望か、体は固まったままである。
だが、固まる瑞鳳の姿を見ても、レ級は特に何もせず、
ニヤニヤとこちらを見てくるだけである。
(なんでかしら、何もしてこないなんて。
海の上でこんな至近距離で出会ったら
間違いなく砲撃されてるのに・・・)
瑞鳳がそう考えていると
レ級は小脇に抱えた一升瓶を掲げ
「ソコノ艦娘、デイイヨンダヨナ?。
私ハ今ハ別ニ戦ウ気ハナイ。
ッテイウカネ。明日葉ッテココラ辺ニ無イ?
明日葉ノオヒタシデ一杯ヤリタインダ!」
ニヒヒと良い笑顔をして、瑞鳳に言い放ったのである。
(・・・・・はい?)
瑞鳳が、恐怖や絶望とはまた別の衝撃で
固まり続けたのは言うまでもない。
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先程戦艦レ級と、艦娘瑞鳳が出会った山中から
少し海側へと近づいた岩場の近く。
そこで、2人の人影がガサゴソ蠢いていた。
「明日葉ァー。オヒタシィー。」
上機嫌で自作の歌を歌いながら、明日葉を探す戦艦レ級と
「歌は良いから、手を動かしてくれないかなぁ・・・」
レ級の姿を横目に見つつ、少し呆れた顔で
プチプチと、明日葉の新芽をもぎ取っていく
ジーンズ姿の瑞鳳である。
レ級は、そんな瑞鳳の、
明日葉の発見速度と、採取速度に目を見張り
「オオォ・・・ヨクソンナニ明日葉ミツカルナァ。
私ナンカハマダ、3本ダケダゾ。
何カコツアルノカ?」
そういいながら、レ級は自分の取った、
3本の明日葉を瑞鳳に見せていた。
瑞鳳はそんなレ級を見ながらも、
明日葉を採取する手を止めずに、口を開いた。
「コツっていうか、そうねー。採り方になるけど。
明日葉って、一カ所にたくさん生えてるわけじゃないのよ。
だから、広く見て、大きい明日葉の葉っぱを見つけて
その根元にある、柔らかい新芽を数本とるの。
っていうかぁ。」
瑞鳳は、そこで言葉を区切ると
自身の腕いっぱいになった、明日葉の新芽をレ級に見せながら
「もう、私これだけ、腕一杯に明日葉とれちゃったから
そろそろ終わりにしない?
深海棲艦である貴方が、こんな人類の生活圏で
明日葉をとってるなんて、誰かにばれたらおしまいだよ?」
そうレ級に言い放った。
レ級は、そんな瑞鳳の言葉に
「キョトン」とした表情を浮かべつつも
「アァー・・・ソウイエバソウダッタ。
ソウダナァ。ソロソロ山ヲヲリヨウカナァ」
瑞鳳の言葉におとなしく従い、
レ級と瑞鳳は、明日葉を取る手を止め
山を下りる道へと歩いて行った。
だがしかし、そこまではよかったのだが。
「ソウダ、艦娘。
オマエッテ、コノ島、長イノ?」
レ級が、不思議そうに瑞鳳に尋ねたのだ。
そして、瑞鳳は上を向いて少し考えると
「えぇ、伊豆諸島の警備を任されて
そろそろ1年ぐらいになるかしらねー。
っていうか、艦娘じゃなくて、私は空母の瑞鳳っ!
ちゃんと名前で呼んでよね。」
質問に対して、答えてしまった。
その答えに、レ級はニヤアリと良い笑みを浮かべ
レ級の腕力全開でガッシリと瑞鳳の肩を勢いよくつかむ。
瑞鳳はそんなレ級の行動に驚き、
「って、ちょっとなにっ!?
いきなり肩をつかまないでよっ。
っていうかああ!痛いっ、痛いっ!」
瑞鳳は、レ級に肩をつかまれた驚きと痛みで叫んでいた。
だが、レ級はその手を瑞鳳の肩から離さず
じりじりと、2隻の鼻と鼻が当たる位置まで顔を近づけた。
そして、レ級はニヤリとした表情のまま、
痛みで顔をゆがめている瑞鳳に対して、口を開いた。
「ナァ、瑞鳳!
ココノ生活ガナガイッテコトハ
明日葉ヲ使ッタ料理、作レルッテコトダヨナァ!?
・・・・オ酒ニ会ウノ、ツクッテ?」
レ級はそういうと、瑞鳳から手を離し
ニコニコと瑞鳳を見つめていた。
瑞鳳はそんなレ級に、
「はぁあ。そういうことねー。
うーん、食べたら、すぐに島を出て行ってくれる?
あなたがいると、落ち着かないのよ」
困った顔で、レ級に話しかけていた。
それを聞いたレ級は
「オウ。イイゼ。
元々、私モ明日葉採ッタラ
拠点ニ戻ルツモリダッタシ。
ソンナニ長イスル気ハナイヨ」
笑顔でそう答えていた。
瑞鳳は、そんなレ級の姿に、
深いため息を付いてから口を開いた。
「わかったわ。作ってあげる。
でも、今ある食材が卵ぐらいだから
明日葉の厚焼き玉子でいいかしら?」
「オウ、イイゼ。ソッカー。厚焼キカァ・・・!」
そんな会話をしながら、レ級と瑞鳳の2隻は、山を下り
瑞鳳が暮らしている宿舎へと、静かに入って行った。
「さぁて。作りますかね!」
「私モテツダウゼー・・・・
オッ♪チーズト明太子もアルジャネーカ」
「あるけどさぁ。それ、厚焼きに使えないよ?」
「ナァニイッテルンダ。
メンタイチーズノ、厚焼キ卵ッテシラナイノカ?」
「えっ、なにそれっ!すっごい美味しそう・・・」
「知ラナインダナァ。酒トモ合ウゼ?
ソレジャア、セッカクダシ作リ方オシエテヤルゼ」
「本当?そしたらさぁ。
そこに明日葉いれて、明日葉明太チーズの厚焼き玉子にしない?」
「オホォ♪瑞鳳!イイアイデア出スネェ」
「でしょお?それじゃあ、作りましょ?」
「オウヨ。深海棲艦流ノ料理術。ミセテヤルゼ!」
深海棲艦と艦娘、案外、
戦争が無ければ仲良くできるのかもしれません。
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瑞鳳と2隻で作った厚焼き卵が
湯気を立たてまま、お皿にふわりと盛りつけられた。
美味しそうな厚焼き卵を見つめる、瑞鳳とレ級であったが
お互いに目を合わせると、にこっと笑顔を見せた。
そして、レ級が口を開く。
「ンフフフ、今日ノツマミ完成!
厚焼キ玉子ノ中心ニ、名産ノ明日葉!
ソシテ明太子トチーズヲイレタ。
名付ケテ!」
「「明日葉入りの明太子の厚焼き卵ぉー!」」
「完成ぇいー!さぁ、レ級っ。食べましょ食べましょ!」
瑞鳳も合わせるように口を開き、料理名を叫ぶ。
そして、すぐさま食べようと、
包丁で厚焼き卵に切れ目を入れていく。
そして、あろうことか、切れ目を入れた厚焼き玉子から、
トロォリとチーズと明太子があふれ出てきたのだ。
すると、レ級と瑞鳳は、思わず息をのんでしまった。
ジュルリ、と言ったのはどちらの口であったろうか。
厚焼き卵の美味しそうな姿に、レ級は直に
瑞鳳の宿舎の冷蔵庫で冷やしておいた、地酒「御神火」を取り出し
戸棚から勝手にグラスを2個取り出し
自分と瑞鳳用にと、トクトクっと
良い音たてながらグラスについでいく。
そして、レ級は並々と御神火をついだグラスを
瑞鳳に差し出しながら
「瑞鳳。乾杯ダ。オ前ノ分ダ!」
そう言い放ったのである。
レ級の行動に、驚きながらも
瑞鳳はグラスをレ級から受け取っていた。
深海と艦娘という違いはあれど瑞鳳も船である。
どうしたって、酒は好きではある。
(レ級って、戦闘中は鬼みたいだけど
それ以外って、意外と良い奴なのかしら?)
そう思った瑞鳳は、不思議そうな顔をレ級に向けながら、
一言尋ねていた。
「レ級も物好きねー。
艦娘と酒を交すなんて、
そんなことしてていいの?」
レ級はそんな瑞鳳の言葉に、笑顔で
「イイノイイノ。
今ハ、オフ。
戦場デデアッタラ容赦ナク、イクケドネー!
トリアエズ、料理冷メチャウシ。
難シイコト考エズニ、乾杯シヨウゼ!?」
そう返していた。
瑞鳳は、そんなレ級に笑顔を見せながら
「えー、少しは手加減してくれたらいいのに。艦載機とか。
そうすれば、私ももうちょっと、活躍できるのになぁ。
・・・ま、いいわ!とりあえずかんぱーい!」
「イエース!カンパーイ!」
カラン、というガラス独特の音が響き渡り
2隻は勢いよく、地酒の麦焼酎をストレートで
のどに流し込んでいった。
「「クウゥゥウ!」」
微かな甘みと、爽やかな香りが鼻に抜け
口の中を流れる麦のしっかりとしたコクに、
悶えるレ級と瑞鳳。
そして、その勢いのまま、厚焼き卵を箸で持つ。
食べようと厚焼き卵を持ちあげると、チーズが糸を引き
明太子のなんとも言えない良い香りが、
瑞鳳の宿舎を満たし始める。
そしてレ級と瑞鳳は、チーズでトロットロの
厚焼き卵を同時に頬張る。
「「ほうわぁ・・・うんまぁ・・・・・」」
口の中でほどける、程よい固さの玉子。
そして、チーズが口の中でトロトロと踊り
明太子の辛さと玉子の甘さが融和し
明日葉の食感と香りが、それらを全て包み込むという
最高のハーモニーを奏でていた。
瑞鳳とレ級は、玉子焼きに舌鼓を打ちながら
更に、地酒の麦焼酎を流し込む。
「「クゥウウゥゥウウウ・・たまんなぁい!」」
玉子焼の柔らかな味のハーモニーが奏でられる中に
流し込まれる麦焼酎のコクと旨さ。
レ級と瑞鳳は、言葉にならない呻きをあげ続けながら
延々、酒とツマミを楽しんでいた。
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翌朝、早朝0530。
伊豆諸島の食材を使った料理と、
地酒に酒に舌鼓を打った2隻は、
伊豆諸島を抜けて大海原へと繰り出していた。
「ここら辺まで来れば、お互いに安心ね。
今日は有難うね、レ級」
そういう瑞鳳の顔は、山中で出会った時とは違い
やわらかいニコッとした笑みを、浮かべていた。
「コチラコソ。
酒イッショニ呑ンデクレテアリガトナァ。
コッチジャ、酒ヲ楽シム船、イナクテナ」
レ級も、そんな瑞鳳を見ながら、笑顔で話しかけていた。
「こちらこそ。
玉子焼のいいアイデア頂いたわ。
また、一緒に作りましょうね!
それじゃ。また、どこかの戦場で。」
「オウ。戦場デ会ッテモ、今日ノ事ハ内密ニ頼ムゼ。
艦娘ト酒呑ンダトカ、ウチノ上司ニ粛清サレチマウ」
「はいはい。気を付けるわ。
レ級、手に持ったお酒と、明日葉、
落とさないように帰りなさいよね!
それじゃっ。ばいばい!」
「オウ。マタナー」
2隻は手を振りながら、
レ級は自身の拠点、瑞鳳は自身の鎮守府へと舵を切り
いつもの日常へと、戻っていった。
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その後、早朝の海を慎重に抜けたレ級は
無事に深海の都の拠点へと、帰ってきていた。
差即、瑞鳳と採った明日葉をお浸しにしたレ級は
机に座り、一人酒を楽しんでいた。
「明日葉×明日葉。最高ナリィ。酒ガススムゥ」
明日葉のお浸しに、生醤油をたらし
一口ぱくっといただく。
そうすると、程よい食感と共に
醤油の少しのしょっぱい味と
明日葉の独特の爽やかさが口の中に広がっていく。
そして、その味を楽しみながら
「御神火の明日葉湯割り」を、ちびりと口に含む。
「グゥウウーオオォ・・・・アハ」
レ級は、呻き、少し笑みを浮かべると
更に、明日葉をぱくりと食べ
明日葉のお湯割りを流し込んでいく。
深海棲艦、戦艦レ級。
人類にとっての最悪の敵。
「アァウンメェー、ヘヘヘ」
・・・とは思えないほどの幸せそうな顔で、
酒とつまみをかっくらう姿である。
捗りました。裏タイトル「明日葉入り、明太チーズ厚焼き玉子。焼酎で」