自由なエリレさん。   作:灯火011

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島風と響は、あんこう鍋を食べつつ、レ級に一つ提案をしてみるようです。


26 レ級と響と

もぐもぐ、と、響は、島風とともに

レ級が椀に入れたあんこう鍋を、淡々と食べ続けていた。

 

(あぁ・・・レ級と港湾棲姫、貴女達は何者なんだろう。

 お酒を楽しむためだけにこれだけの料理と酒を用意して・・・。

 深海棲艦とは一体なんだろう。ヲ級は・・・例外としても

 生粋の深海棲艦と思われるレ級と港湾棲姫に関しては例外だ。

 ・・・・それはそうとして。)

 

響はよく煮込まれ、溶ける寸前までとろとろになった白菜を箸で掴みあげていた。

 

(あんこうと白菜とネギ。あと・・・味付けで味噌、かな?

 あんこうを使ったドブ汁っていってたけれど、そうなると水を全く入れてないんだね。

 おかしいな、ドブ汁って茨城県の一部でしか食べられていない、郷土料理みたいなものなのに。

 ・・・なんで海にしかいない、この深海棲艦たちが、知っているのかな?)

 

はふはふ、と響は、あんこうの出汁と味噌の味が染み込んだ白菜を、ゆっくりと口に含んでいた。

 

(・・・・!芯まで熱が入ってる。しかも白菜の甘さに、あんこうの肝の味がしみ込んでて・・・)

 

「・・・美味しい。」

 

響はぼそりと一言呟くと、エールを手に取り、一口呑む。

 

(たしかこのエール、金剛さんが持ってきたイギリスのエールだったよね・・。)

 

あんこうと野菜の旨味が混じりあった濃厚な味と、

エールのきめ細やかでさわやかな風味が絡みあい、響の味覚と嗅覚に襲いかかる。

 

(美味しい・・・。しかも金剛さんのエールとレ級の鍋、相性ばっちりじゃないか。)

 

「っふぅ・・・・。」

 

思わず、響の口からため息が漏れる。

響は鍋を食べながらも、レ級についていろいろ考えてはいたのだが

レ級の鍋と、エールは、それを忘れさせるほどに旨かったのだ。

 

「本当に、美味しい・・・。」

 

響は笑みを浮かべつつ、心の底から、あんこう鍋と酒を楽しんでいた。

というのも、普段は横須賀付きの監査艦娘として、極秘に鎮守府に着任し

各地の鎮守府の実情を観察し、横須賀鎮守府へと報告する立場なのだ。

気が休まる空間など、普段の生活では全く無いのである。

 

「響、島風。まだまだ鍋はあるぜ。ドンドン食ってくれ。」

 

レ級は響を見ながら、笑顔で語りかける。

そして、そんな響の横では、恐ろしいほどの速度で島風があんこう鍋を食していた。

 

「おいっしーね!レ級ぅー!おかわりー!」

 

「あいよぉ!野菜とあんこう、どっち多めにする?」

 

「んー・・・。白菜多め!」

 

---呑み比べでは負けたが、食欲では負けない。---

 

島風の意地が見えてくるような食いっぷりである。

響はそんな島風を横目に、笑顔を浮かべたまま、レ級に椀を渡していた。

 

「ん、・・・うん。それじゃあ、もう一杯いただこうかな。」

 

骨以外、全て食いつくされた響の椀を見て、レ級は笑みを浮かべる。

 

「おぉ、ここまで綺麗に食ってくれるとはなぁ・・・!

 作った私としちゃ、感謝の極み、だぜ!ほい、おかわりな。」

 

レ級は手早くあんこう鍋を椀によそいながら、響に椀を手渡していた。

 

「ふふ。いままで食べたどんなあんこう鍋よりも美味しいよ。レ級。」

 

響はレ級から椀を受け取り礼を言う。

そして、思い出したかのように、

はっとした顔を浮かべると、レ級に向かって口を開く。

 

「あ、そうだ、レ級。ちょっと、レ級と港湾棲姫にお願いがあるんだ。」

 

「んぉ?そうなんだ。ほい、島風。白菜多めな。ゆっくり食えよ?

 しっかし、艦娘が私達深海棲艦にお願いって、なんか違和感あるな。」

 

レ級は不思議そうな顔を浮かべると、自分の椀にあんこう鍋をよそいつつ、

響の顔を見ながら呟いていた。

実際、艦娘が深海棲艦に頼みごとなど、絶対に有り得なことだ。

 

「うん、私も違和感しかないんだけれど・・・。それでも一つ、お願いがあるんだ。」

 その、時々、私と島風で、この拠点におじゃましていいかなって・・・。」

 

レ級は響を見たまま、固まっていた。そしてようやく絞りだすように、ひとことだけ言葉を発する。

 

「・・・・オゥッ?」

 

「ングッ・・・!?レ級、それは私の台詞だよー。真似しないでよー!」

 

島風は器を机に置きながら、レ級に叫んでいた。もちろん、器はすでに空である。

 

「・・・・いんやぁ、悪い悪い。にしても響さん?

 今、時折ここに来たいとか、とんでもないことが聞こえたんだけど、気のせい?」

 

レ級は腫れ物を見るような目で、響の顔を見つめていた。

そして、響は受け取ったあんこう鍋に再度箸をつけつつ、ゆっくりと口を開く。

 

「ん、まぁ、びっくりするのも仕方ないか。

 もう一度言うよ。この拠点に、時々酒を呑みに来てもいいかなって話さ。

 ・・・・あんこうの骨も結構いけるんだね。」

 

響はあんこうの背骨をモシャモシャと噛み砕いていた。

実際、あんこうの骨はそこそこ柔らかいので、食べられないことは無いのだ。

 

「いや、骨は流石にしゃぶったら吐き出せよ?

 それにしても変なこと言い出すなぁ・・・。しかも、島風も一緒に?」

 

レ級は響の隣に居る島風に視線を向けていた。

 

「うん。出来ればね。私も彼女も、ここでは詳しく言えないけど、結構な要職に付いてるんだ。

 鎮守府じゃ気が抜けないからね。少し、休む場所がほしいんだ。気兼ねなく・・・ね?

 酒とツマミもってくるから、時々でいいから・・・来ちゃだめかな?。」

 

「レ級ぅー。私からもお願い。私も横須賀からお酒とおつまみ持ってくるから。ね?

 海軍カレーとか案外お酒と合うんだよ?ね?時々でいいからさー・・・。」

 

島風と響は、レ級を見ながら、嘆願していた。

というのも、彼女たちは艦娘でありながら艦娘の立場ではない。

上位命令を受けた時、必要であれば提督をも裏切らねばならぬ立場なのだ。

彼女たちの心やすまる場所が、鎮守府にあるわけがないのである。

 

そしてそんなさなか、無理やり連れてこられた、港湾棲姫の要塞で

美味しいお酒、おいしい食事、広いお風呂を気兼ねなく楽しんでしまったのだ。

そしておそらくは、あったかい布団がこの後まっていることであろう。

しかも、無茶な命令を言う大本営も、監視すべき提督も居ない。

 

問題があるとすれば、深海棲艦の拠点という大問題を抱えてはいるが

その深海棲艦は、目の前で鍋を作って友好的である。

そして、姫級も、金剛と響を見て、酒を飲もうと誘う友好的な姫である。

ヲ級に関しては、昔から響の知り合いなので、問題がない。

 

(・・・島風、レ級はどう出ると思う?)

 

(んー、案外OKって言いそうだけど・・・。)

 

島風と響は、小声で話しながら、レ級の様子を伺う。

レ級は、鍋を混ぜる手を止めながら、顎に手を当てつつ、頭をフル回転させていた。

 

(んー、どうすっかなー。酒飲み増えるのはいいんだけど

 響は良いとして、・・・島風弱いしなぁ。

 あ、でも待てよ、さっき「ツマミと酒は持ってくる」って言ってたよな。

 ・・・いいね。こっちから出向かなくても、酒が手に入るのか!)

 

レ級は鍋を改めてかき混ぜながら、響と島風に口を開いていた。

 

「・・・ま。私はかまわんぜ?酒とツマミのあてが出来るのなら、

 こっちとしても最高の条件だしさ。」

 

響と島風はレ級に食って掛かる勢いで、口を開く。

 

「ほ・・・本当かい!?レ級、いいのかい!?」

 

「本当!?これからは艦娘でもここに来ていいの!?」

 

「おう。かまわんぜ。まー、港湾棲姫の許可貰わなくちゃいけないけどな。

 ダメでも、私の拠点があるし、最悪そっちもで良いだろ?」

 

島風と響は、お互いに顔を見合うと、笑顔で口を開いていた。

 

「「はい!問題ありません!お願いします!」」

 

「お、了解了解。っと、ほれ、あんこう鍋おかわり、よそっといたぞ。」

 

レ級は響と島風に、あんこう鍋の入った椀を再度渡す。

島風と響は、椀を受け取ると、笑顔であんこう鍋をかっこむのであった。

 

 

一方その頃、あんこう鍋を十分に楽しんだ金剛は、

港湾棲姫の要塞のデッキに繰り出していた。

 

「夜風が気持ち良いデース・・・。」

 

さらさらと、夜の少し冷えた風が、金剛の髪を揺らしていた。

そして、澄み渡る空気の夜空には、満天の星空が満ち満ち、

静かな海面には、空から落ちてきた星が、砕け散り、

輝きが波となって静かに拠点に押し寄せる。

 

「いい場所デースねぇ。港湾棲姫がここを修復させたのも、判る気がシまーす・・・。

 とと、それはそうとシテ。この場所なら、アレが使えマースネー。」

 

金剛はそう呟きながら、超長距離用の通信機を、懐から取り出していた。

そしてスイッチを入れると、ザザ、とノイズが走り、通信機から声が流れ始める。

 

『・・・首尾はどうか、戦艦金剛。』

 

声は、今回の作戦を指揮する司令官だ。

今回、金剛が作戦を遂行するにあたって、司令官から出された条件が2つある。

 

1つ目の条件、それは、神通と島風の安全が確保でき次第、連絡を取るということだ。

海軍内でも屈指の実力である金剛ではあるが、

言葉だけでは、司令官は納得行かなかったのである。

 

「無事に神通の安全を確認デースよ。

 間違いなく、明日には拠点に戻れマース!」

 

金剛は笑顔を浮かべながら、通信機に声を返していた。

 

『そうか、ならばよし。

 ・・・で?誰が神通と島風を?』

 

そして2つ目の条件。島風と神通を拉致した相手を判明させよ、ということであった。

深海棲艦であれば良いが、人間であった場合は対策を講じなければならないのだ。

だが、今回は幸いにも深海棲艦が艦娘を拉致したという事実である。

が、ここにきて金剛は、一つの懸念を、思い出していた。

 

(・・・この司令官、前の私と一緒で深海棲艦を必ず殺せ、というタイプデーシたね・・・。 

 本当の事を言って良いのか迷いますが・・・。)

 

金剛は少し息を吸うと、静かに、通信機に声を発していた。

 

「・・・港湾棲姫と戦艦レ級デース。」

 

『ほぉ・・・。駆逐艦達のたわごとかと思っていたが、本当であったか。

 ・・・それであれば、残存勢力をそこに向かわせて撃滅せねば。

 金剛、今そこにいるのは、神通、島風、そして敵勢力であるレ級と港湾棲姫で相違ないか?』

 

無線の先の司令官の表情は、おそらく、険しいものであろう。

金剛は想像を膨らませつつも、ゆっくりと口を開いていた。

 

「ヲ級、そして新たな姫をも加えて深海棲艦は4隻。

 しかも全員が極限の練度と言っても良いデース。」

 

『・・・そうか・・・。であるなばら、尚更のこと撃滅せねば。

 金剛。すぐさまに神通と島風を逃がせ。そして現在位置を知らせ』

 

金剛は司令官の言葉を、一字一句、間違いなく聞いていた。

だが、ここにきて金剛は、真面目な顔をすると、硬い口調で言葉を発していた。

 

「確かに、今ココを叩き、海から一隻でも深海棲艦を撃滅する。それが一番でしょう

 ですが、・・・それは無粋です。司令官殿。」

 

『・・・ほぉ?無粋、とな?

 金剛、船である貴様が、人間である私に意見するのか?』

 

明らかに不機嫌そうな司令官の声である。

 

「させていただきましょう。彼女たち港湾棲姫一派は、今回の作戦で我々に一切被害を与えておりません。

 そして、言葉通り、神通と島風は全くの無傷。であれば、特に攻撃を加える必要はないかと思われます。」

 

『はっ。どうした金剛。これは戦争ぞ?こちらに被害を与えてない?だからどうした。

 貴様は私の言うことを聞いていれば良いのだ。所詮は船であろう。』

 

(うわぁ・・・めんどくさい司令官デース。戦争とは言っても、撃滅戦ではないのデースが・・・。

 しかも私達を完全に兵器としかみていませんネー。これは、気に入らないデース。

 ・・・ま、『通信しろ』っていう命令は完遂しましタし。釘だけ打って切り上げますかねー。)

 

「確かに私達艦娘は、船でありますが、心は人間ということをどうか忘れないで頂きたい。

 司令官殿、そのようなお考えでは、いずれ不幸が起きるやも、しれませんので。」

 

『おい、金剛、貴様それはどういう・・・』

 

「通信終わり。命令は果たしましたので、失礼致します。」

 

金剛は通信機を海に放り投げる。数秒後、パシャリ、と小さな音が金剛の耳に聞こえていた。

 

「むぅ、出来ることなら、ショートランドに寄らずに呉に帰りたいデース。

 ・・・・提督、今頃何してるデースかね。」

 

そして、金剛は顎に手をおきつつ、水平線の彼方を見つめるのであった。

 

 

「・・・時々この拠点に、来たい?

 響、島風、貴方達、よっぱらい過ぎてない?」

 

レ級のあんこう鍋の〆、おじやをつつきながら、港湾棲姫は呟いていた。

 

「酔っ払ってはいるけれど、正気だよ。港湾棲姫・・・様。」

 

「正気だよー。のんびりする場所がほしいんだよー。」

 

響と島風も、港湾棲姫と同じようにおじやをすすっていた。

キメ立つ白米に、あんこうの油がからみ合っている見事なおじやだ。

 

「・・・様って艦娘から言われると、違和感が。

 それに、のんびりする場所って、鎮守府じゃダメなの?」

 

港湾棲姫は白菜とともにおじやを口に入れる。

噛みしめるごとに、優しいあんこうの出汁が、口の中に広がっていた。

 

「鎮守府は仕事場、だから。」

「鎮守府は仕事場なのー・・・。」

 

渋い顔をする島風と響。だが、その手と口はおじやを食べる手を止めない。

 

「・・・私とレ級、あとヲ級にとっては、ここが仕事場なのだけど。

 ま、私は問題ない。おつまみとお酒を持ってきてくれるのよね?。」

 

「うん。私は呉の、島風は横須賀のお酒とツマミを持ってくるよ。」

 

「そ、なら私は言うことなし。ヲ級はどうかしら?」

 

ヲ級は、会話など聞かずに、ガツガツとおじやをかっこんでいた。

すでに、〆のおじやの三分の一は、ヲ級の腹の中である。

 

「んまっ、んまっ!あんこうのおじやとか!最高ですっ!

 しかもこれ仙台みそじゃないですか!?

 レ級さんこれどうやって手に入れたんですか!

 あぁもう、〆のおじやに卵を入れることを考えた人は天才ですね!旨いです!

 あっ、無くなった・・・レ級さん!おかわり!」

 

「・・・ヲ級、落ち着けって。まだいっぱいあるから。」

 

「落ち着いていられませんって!だってレ級さんのあんこう鍋ですよ!

 〆しか食べてませんけど、レ級さんの鍋って美味しいって噂だったんですからぁ!

 しかもそれが噂じゃないってわかったんで、そりゃもう興奮しますって!

 さささ!早く次の一杯くださいっ!」

 

「お、おう。大盛り、でいいよな?」

 

「もちろんですよレ級さん!大盛り以外の選択肢なしです!

 出来ればあんこうの身を入れてください!白菜でも可能です!」

 

港湾棲姫は、ヲ級から目を外すと、ふっと一息、ため息をついていた。

そして、改めて響と島風を見ると、笑顔でゆっくりと、口を開いた。

 

「・・・ヲ級も問題ないから、時々来て構わないわ。

 私も任務があるときは不在だけど、少なくても、ヲ級はいるから。」

 

「うん。ありがとう。港湾棲姫。それにしても、こんなヲっちゃん初めて見るよ。」

 

「ヲ級がすっごく人間臭い・・・。ねぇねぇ、港湾棲姫。

 貴方達みたいな深海棲艦って、他には誰がいるの?」

 

港湾棲姫は顎に手をあて、少し考える。

そして、すぐに顔をあげると、島風を見ながら口を開いていた。

 

「そうねぇ・・・。飛行場姫一派、あとレ級のフラッグシップ改造・・・

 あぁ、貴女達がカメラのレ級、って呼んでるレ級の一派ね。

 あと、南方棲戦姫に北方棲姫も確か、人間に興味を持ってたわ。

 ただし、南方棲戦姫は立場上そういうわけにもいかなくて

 「カメラほしぃ・・・。あぁ、お酒飲みたい・・・」って

 私に愚痴って来るだけだったけど、ね。」

 

「あはは・・・そっかー。姫の中にも結構いるんだねー。」

 

島風はそう言うと、酒を一気に煽る。

 

「港湾棲姫、いい情報、ありがとう。

 ・・・次、南方棲戦姫と出会ったら

 ウォッカ持って声かけてみようかな。」

 

響も同じように、酒を一気に煽る。

そして、あんこうのおじやを、更にかっこむのであった。




妄想捗りました。〆のおじやは、なぜあんなにも、旨いのか。
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