更には海軍へのお裾分けに牡蠣を大本営に届けるという
トンデモ深海棲艦、港湾棲姫とその部下のレ級。
今日も今日とて、マイペースに酒のツマミを集めるようです。
そして、その裏で、別のレ級と姫君もマイペースに過ごしているようです。
(前作のカメコレ級から出張です。数話続く予定です。)
28 レ級とレ級と姫と姫 その1
史実においてではあるが、アッツ島は激戦地であった。
「ランドクラブ作戦」と呼ばれた作戦において
攻め手のアメリカ側1万1千に対し
日本帝国陸軍は、陸と空の援護なく、僅か3000名以下で戦ったのだ。
もちろん、と言っては語弊があるが、
作戦の結果として、日本軍は全滅に近い玉砕。
アッツ島は、アメリカ軍の手へと渡ったのである。
さて、今、ここにあるアツ島においても、日本帝国陸軍が
島の防衛のために、約3000名の兵士を置いている。
もちろん、戦う相手は人間ではなく、深海棲艦だ。
特に北方の領土において、
飛行場・港湾型の深海棲艦が棲み付いてしまうと、
深海棲艦が日本国本土への攻撃の足がかりを得てしまうため
アツ島、そしてキス島の防衛は重要な任務であった。
しかしながら、日々、深海棲艦の無限の物量と戦うという、
並の人間では耐えられないほどの激務をこなす毎日である。
ただ、唯一の救いとして、
深海棲艦は陸に揚がると、人間以下の身体能力となるために
深海棲艦をうまく島の内部に引き込めれば
拳銃一つで戦艦ル級、空母ヲ級といった
「海上では強力な」深海棲艦を倒すことが可能なのである。
それ故に、史実では全滅と相成ったアツ島の陸軍将兵は
なんとか、アツ島を守ってこれたわけである、が
やはり、深海棲艦の物量と、近海の深海棲艦の勢いに
物資も、体力もつき始めていたのだ。
そして、今日、海軍と陸軍の共同作戦である
「キス島、アツ島撤退作戦」が、開始されようとしていた。
◆
そんなこととはつゆ知らず、戦艦レ級エリートは、北方の海へと繰り出していた。
いつものパーカーに、マフラー、そしてビキニ姿の、完全武装のレ級である。
ただいつもの違う点があるとすれば、
その尻尾の上に「港湾棲姫」を載せていることだろう。
「姫様、サムイナー。」
「サムイワネー。レ級。」
北海道を更に北上したアリューシャン列島まで来ているのだ。
並大抵の生物であれば、既に活動停止レベルの寒さである。
いくら深海棲艦と言えど、この時期の冬の海の寒さに堪えているようであった。
「ドテラ、モッテクルベキダッタカナー。」
「ソウネー。デモ、アノドテラ、水濡レ対策シテナイカラ、
海ノ水ヲカブルト、スゴクツメタクナッチャウワ。」
ここでいうドテラとは、港湾棲姫が己の趣味100%で修復し、
和室、炬燵、天然の温泉の露天風呂、マッサージチェア、そして
各種おつまみを作成できる本格的なキッチンとを備えた
コロネハイカラ島の要塞の「備品」である。
つまるところ、人間が使うドテラだ。
更に、この港湾棲姫とレ級は、
酒を呑めればそれでいいという思考の持ち主である。
酒のためであれば、たとえそれが人間の領土であっても、
ずけずけと土足で入っていく。
そして、そこで知り合った人間を巻き込み、面白おかしく酒を呑むのだ。
更に、一度味をしめてしまえば、
次からは、酒とツマミを持参してやってくるのだ。
そう、この港湾棲姫とレ級は、「人類の敵である深海棲艦」という、
この世界における常識が全く当てはまらないのである。
さてさて、なぜそんな
極寒の北の海へと繰り出しているのかといえば
それはもちろん、酒を呑むためである。
そして、ロシアに近いキス島、アツ島を含むアリューシャン列島において
港湾棲姫と戦艦レ級は、とある魚を捕まえようとしているのだ。
「ソレニシテモ、楽シミデスネェ。」
レ級は自身の尾っぽに載っている、
完全武装の姫君を見ながら、笑顔で口を開いていた。
「タノシミネー。焼イテモヨシ、煮テモヨシ、燻製ニシテモ、
乾燥サセテ保存食ニシテモヨシ。呉ニ持チ帰レバ、
鳳翔ガ料理シテクレルッテイウハナシダシ。ウフフ。」
港湾棲姫も、レ級の尻尾に乗りながらも、だらしなく笑みを浮かべていた。
既に妄想の中では、ツマミを喰らいながら酒を呑んでいるようである。
「デッスヨネェ・・・!フフフ。
アァ、待ッテロ!鳳翔ノ料理・・・っ!必ズ採ルゼ!」
ちなみにではあるが、ここでいう鳳翔とは、もちろん、
呉鎮守府の「居酒屋鳳翔」店主の艦娘、鳳翔である。
「フフ、私モ本気ヨ。チョット旬ヲハズシタケレド
必ズ、トッテカエルワヨ!」
港湾棲姫とレ級が、これほどまでに楽しみにする魚。
酒飲みどころか、一般人にも愛される美味しいお魚。
それは「鮭」。
刺し身にすればなめらかであり、
素朴でありながらもしっかりとした味を楽しる。
「油ノ乗ッタ刺シ身モイイヨナァ。」
煮物にすれば、ほっくほくの身と、これでもかというほどの
濃厚な出汁によって、鍋全体を一級品の料理へと昇華させる。
「デモ、鮭ノ出汁ガ効イタオ鍋モイイモノヨ?」
更に、切り身を焼けば香ばしい皮が楽しめ
余計な油が落ちた濃厚な味のする身を楽しむことが出来る。
「焼キ鮭ノ皮・・・アレガウマインダヨナァ・・・!」
「レ級、ワカッテルジャナイ。ヤッパリ皮ヨネェ。」
この深海棲艦達にとっては、焼き鮭とは皮であるようだ。
そう、酒に皮は外せないのである。
「チョットコガシタ、良ク焼キガ、マタ酒ト合ウンダヨナー。」
「アァー・・・、イイワネェ。皮ニツイタ少シノ油ガ、ワタシ好キ。」
レ級と港湾棲姫はそう言うと、お互いにスキットルから一口だけ
竹鶴を煽る。そして、ふぅ、と溜息をつくと、同時に口を開いていた。
「「・・・鮭、イイナァ。」」
その顔は、酒が入っているからか、だらしない笑みを浮かべていた。
全提督から恐れられる「戦艦レ級」そのエリート個体と、
そして、海域の主を勤め上げれる程の強さを持つ、深海棲艦の姫君、港湾棲姫。
彼女らは今、鮭を採るために、北方の海域に、進軍しているのだ。
「ソーイヤ、港湾棲姫。艦娘ニ出会ッタラドウスンノ?」
「決マッテルジャナイ。酒投ゲツケテ逃ゲルワヨ。」
もう一度言う、彼女らは今、鮭を採るために、
北方の海域に、進軍しているのだ。
艦娘など、全く眼中にはないのである。
「ア、ソウダ。横須賀ノ大本営ニモ何本カ鮭、オクラナクチャ。」
「ンォ?姫様、ソレッテ人類ノ大本営デスカ?ナンデマタ。」
レ級は疑問を港湾棲姫に投げかけていた。
港湾棲姫は、そんなレ級を見ながら、指を立てつつ、口を開く。
「ホラ、前ニ牡蠣ヲ横須賀ニオクッタジャナイ?
ドウヤラ、アレガ予想以上ニ好評デ。
マタオ願イシマスッテ。書面デイタダイタノ。
ソレニ届ケタラ、オ酒モラエルッテイウシ。」
そういうと、港湾棲姫は、一枚の書面をレ級に手渡していた。
レ級は書類を受け取ると、怪訝な顔をしながら、小声で読み始めた。
「エー、ナニナニ。
発、横須賀鎮守府臨時大本営。
寒中お見舞い申し上げます。
先日、そちらの駆逐イ級より頂きました生牡蠣、
大変美味しく頂きました。
あれほどの牡蠣、今まで食べたことがありません。
・・・ナンカスッゲェ感謝サレテンナ。」
レ級は呆れながら、更に大本営からの書面を読みすすめる。
「ソレデット・・・?
つきましては、横須賀鎮守府の酒保に置きまして
そちらの海産物を取り扱いたく思っております。
気が向いたらでかまいませんので、また何か
海産物を届けて頂ければ幸いです。
なお、返礼といたしまして、次回以降
横須賀鎮守府より、酒を提供したく思っております。
ご希望の銘柄がございましたら、一報をお願い致します。」
レ級は書類を読み終えると、無言で書類を港湾棲姫に返却していた。
「ネ?」
港湾棲姫は書類を受け取りながら、笑みをレ級に向けていた。
「・・・大本営マサカノ返答ジャナイデスカコレー!
ソッカー、届ケレバ届ケルホド酒ガノメルッテワケダナ。」
「ソウイウコト。ダカラ、気合入レテ鮭、捕マエルワヨ!」
港湾棲姫はそう言うと、自身の艤装から、
対潜装備を施した、大量の艦載機を発艦させていた。
「レ級。ワタシノ艦載機ニ、ソナーヲノセテオイタカラ、
海中ニナニカガイレバ直ニツタエルワネ。」
「オッケーデス。ソシタラワタシガ、ソコマデ進軍シテ
爆雷落トシテ漁ヲスレバイイワケデスネ。」
「ソノ通リヨ。サァ。マッテナサイ鮭!」
「オッシャー!目指セ!キングサーモン!」
港湾棲姫を載せたまま、戦艦レ級は最大速力へと体を加速させていた。
今ココに、深海棲艦による、漁が始まったのである。
◆
戦艦金剛を筆頭とする、アツ島攻略艦隊。
彼女らは今、作戦の拠点である、幌筵から、アツ島へとその足を進めていた。
そのメンツといえば、
旗艦として、日本帝国海軍きっての高速戦艦、金剛。
航空支援の要として、一航戦の片割れ、加賀。
加賀の護衛として、最近練度を上げてきた駆逐艦、菊月。
更に、打撃力の要として、戦艦武蔵。
そして、
深海棲艦の穴を突くために、海軍が用意したとっておきが2隻。
「戦艦レ級フラッグシップ改」。
更に、航空支援から、提督とともに謀略を巡らす参謀として
「深海棲艦の姫君 飛行場姫」。
合計6隻。これが、アツ島撤退作戦を支援する要である
「アツ島攻略艦隊」のメンツである。
「錚々たる面々だな。これは。」
自身の前を行く金剛達を見ながら、菊月は一人、呟いていた。
金剛、武蔵、加賀、そして敵の最高戦力であった、戦艦レ級。
更に、今ココにはいないが、アツ島撤退用の揚陸艇に棲み付き
対空、対潜、対水上警戒をしている、敵であった深海棲艦の飛行場姫。
「しかし、深海棲艦であるレ級と飛行場姫も引き入れるとは・・・。
正直、我が海軍の懐の深さには、驚いているよ。」
菊月の言葉に反応したのか、武蔵が口を開いていた。
その顔は、すこしばかり曇っているようである。
「それにしても、だ。レ級はまだしも、飛行場姫がこちらについた
ということが未だに信じられないな。」
続けて武蔵の口から、飛行場姫を疑う言葉が取り出していた。
いくら提督が信じろと言ったとしても、友好的な姿を見ているとしても
やはり、艦娘と深海棲艦では、根本で相容れないところがあるようである。
「まぁ、飛行場姫は仕方ないだろうな。私もだ。
それでも、レ級は良いのだな。武蔵。」
菊月は武蔵に対して、顔を見ながら、口を開く。
武蔵はレ級を指差しながら、菊月に言葉を返していた。
「当たり前だ。
あれは敵だの味方だのの前に、写真を撮るために命をかける馬鹿だぞ。
更に言えば、人類を守るために味方であるはずの深海棲艦をぶっ飛ばしたんだ。
それだけのことをされて、信じるな、という方が難しいだろう?。」
「そうだな。でも、そういう意味ならば、
最近飛行場姫も、写真を撮りまくっているという話だが。」
「飛行場姫は胡散臭いんだよ。常に人を喰ったような態度だろう?
常々裏切られるんじゃないかと思えてしまってな。」
武蔵とて、飛行場姫は嫌いではない。
レ級ほどとはいえないが、飛行場姫に何枚か写真を撮ってもらっているのだ。
ただ、その話し方と態度が、武蔵からシてみれば、どうも胡散臭いのであった。
「なーに難しそうな話をしてるデースかー?」
そんな会話の中、旗艦である金剛が、武蔵と菊月に話しかけていた。
「いやなに、武蔵が飛行場姫が信用できん、という話さ。な?武蔵。」
「その通り。」
武蔵は深く頷いていた。
そんな武蔵をみて、金剛は笑顔のまま武蔵に話しかける。
「ムー。確かに深海棲艦の姫デースから、怪しむのは仕方ないデースね。
でも、今こうして静かに進撃できているのは、彼女の警戒のおかげデースよ!
まー、難しいこと考えても仕方ないですよ。武蔵。
今は、アツ島からの陸軍の撤退が無事完了するように、
私達がしっかりとしなければいけまセン。無駄な事を考えてる暇はないデス!」
「確かにそうだ。すまん。無粋だったな。
感謝するぞ。金剛よ。それはそうとしてだ、レ級よ、さっきから黙ってどうしたんだ?」
武蔵はそう言いながら、レ級へと近づく。
すると、レ級はにやりと口角を上げて、武蔵だけでなく
金剛達にも聞こえるように、大声を上げていた。
「飛行場姫より通達!
進路上に敵深海棲艦の姿あり!
艦種は・・・「戦艦レ級エリート」と「港湾棲姫!」。
金剛、武蔵、加賀に菊月。協力、頼むぜ?」
レ級はそういうと、主機の出力を一気に上げ、目標である
戦艦レ級エリートと、港湾棲姫へと向かっていった。
「シット!進路上デースか!
加賀!航空部隊の発艦を!港湾棲姫デースから、一筋縄ではいかないデス!」
「了解したわ。」
「菊月はこのまま加賀の護衛をしていてくだサーイ!」
「了解した!。」
「武蔵は私と共に、レ級の援護を行いマース!」
「応よ!」
「よっし、皆さーん!?準備はいいデースか?
・・・さぁ、作戦開始デース!」
金剛はそう言うと、自慢の速力で、レ級の後を追従する。
武蔵も同様に、主機を最大にすると、全速力で金剛の後を追うのであった。
◆
レ級が金剛に指示を飛ばす直前。
飛行場姫は、アツ島撤退のための揚陸艇に棲付ながらも、
艦載機から送られてくる情報に、首をかしげていた。
「・・・妙ねぇ?」
もう一度飛行場姫は、自身の艦載機へと意識を集中させる。
そこには、自身の部下ではないレ級と、港湾棲姫の姿があったのだ。
しかも、どうも行動が怪しい。
艦娘を探すわけでもなく、哨戒をするわけでもない。
なぜかレ級は爆雷を投下し、港湾棲姫が指示を飛ばしているのだ。
「・・・艦娘の潜水艦なんていないわよねぇ・・?
何をしているのかしら。・・・本当、妙ねぇ・・?」
飛行場姫が首をかしげていると、背中から男の声がかかる。
「どうされました?」
飛行場姫は声に反応し、首を向ける。
そして、にこやかな表情を作ると、声の主に口を開いていた。
「あら、提督。艦内巡検は終わったのかしら?」
提督とよばれた人物は、飛行場姫に笑みを返しつつ、言葉を返す。
「えぇ、つつがなく。
ま、貴女が棲んでいるからか、皆浮き足立っていましたね。」
「別にとって食うわけでも、裏切るわけでもないのにね。
こちらは完全なる善意で協力しているというのに。
そうでしょう?横須賀鎮守府の、提督殿?」
飛行場姫に声をかけた人物こそ、この艦娘、深海棲艦混成艦隊をまとめ上げる
横須賀鎮守府の提督である。普段であれば鎮守府から指示を飛ばす立場であるが、
今回の作戦においては、陸軍と海軍の共同作戦という特殊性、
更に、深海棲艦と艦娘の混成艦隊という前代未聞の戦力を用いているため、
特例で、提督たる彼が、現場の司令官を任されているのである。
「そうは言いましても、飛行場姫殿。
海軍と陸軍は、ソロモン海でさんざ、
貴女に苦渋を舐めさせられていましたからね。
いくら友好的だ、と発表したとはいえ、
簡単には軋轢はなくならないものですよ。」
提督がそう言うと、飛行場姫は目に見えて落ち込んでいた。
そして、絞りだすように、小さな声で呟く。
「・・・今回の件で、軋轢が少しでもなくなれば良いのだけれど。」
飛行場姫の言葉に、提督は少し目を見開いていた。
普段、自信たっぷりに言動を行う飛行場姫である。
そんな彼女が、弱音を吐く姿を、提督は初めて見たのだ。
「深海棲艦の姫とは思えない発言ですね?何かあったのですか?」
その結果、当然として、提督は飛行場姫に質問を投げる。
飛行場姫は恨めしそうに提督を見ると、静かに口を開いていた。
「・・・レ級は良くて、私が入っちゃ駄目って言う場所、多すぎるのよ・・・。
どうがんばっても、憲兵とかに、止められちゃうし・・・。
ねぇ、提督殿。提督殿の権限でどうにかならないかしら?」
飛行場姫は、レ級が入っていった店などに、たびたび入ろうとしたことがあった。
が、その都度、憲兵や海軍関係者に、全力で止められていたのだ。
「私だってその、スタバ、とか、ハンバーガー、とか
お店に入って、ゆっくり楽しみたいのよ?」
まさかの飛行場姫の悩みに、提督は引きつった笑みを浮かべつつ、口を開く。
「はは、まぁ、テレビであなたの姿を見たとはいっても、
特に深海棲艦を束ねていた姫となれば、未だに世の中は反感が大きいですからね。
どうしても、危害を加えようとする輩も多いのですよ。
ま、つまり、彼らも彼らなりに、姫様を守ろうとしたのでしょう。」
飛行場姫は、提督の言葉を受け、苦笑を浮かべていた。
「・・・ま、そういうことなら納得できるわね。
あぁ、それにしても出入り禁止が多すぎるわ・・・。」
実際の所は、戦艦レ級も止められてはいるのだが、
レ級が全力でそれを掻い潜っているだけである。
【写真のためならどこまでも】
それが戦艦レ級フラッグシップ改の頭の中の全てである。
「ま、憲兵には少しそれとなく話をしておきますよ。
・・・それはそうと、飛行場姫殿。
先ほど気になることを申されてましたが。」
提督は雰囲気を引き締め、飛行場姫へと体を向ける。
飛行場姫も、先ほどとは違う提督の雰囲気を感じ取ったのか
表情を真剣なものへと変え、提督へと口を開いていた。
「えぇ、ちょっと妙な深海棲艦を見つけたのよ。」
「妙、と申されますと?」
「そうねぇ、艦種はレ級と港湾棲姫なのよね。
まぁ、北方海域に潜む深海棲艦としては、十分な戦力よ。
ただ・・・・。」
飛行場姫は言葉を区切り、口をつむぐ。
「ただ・・・?何かあるのですか?」
提督は飛行場姫の様子に、怪訝な顔をしながら、質問を投げていた。
飛行場姫は一瞬、言い淀んでいるようであったが、
提督の質問に、おずおずと、静かに語り始める。
「それがね・・・こちらの艦載機に気づく様子が一向に無いのよ。
姫級であれば、まずそれは絶対にあり得ないわ。
相当何かに集中しているか、大破していない限りは、
こちらの偵察機に気づくはずなのだけどねぇ・・・?。
更に言えば、時折海中に爆雷を投げ込んでいるのよねぇ・・・。」
そう、相手が港湾棲姫なら、既に気づかれていてもおかしくはない、
というか、距離で言えば気づかれていなければ行けないのだ。
基地型の深海棲艦であれば、その索敵の広さも、艦の比ではないのである。
だが、そんな基地型の深海棲艦である港湾棲姫が、近寄る艦娘に一切目をやらず
自分の頭上を飛ぶ艦載機にも気づかない。これは異常なことである。
「こちらに気づかない?更に爆雷を?
確かこの海域、我が海軍の潜水艦はいないはずですが・・・。
なんでしょうね?また妙な行動をとってますね。
飛行場姫殿、その港湾棲姫とレ級について、何かご存知ですか?」
飛行場姫は顎に手を当てつつ、
目をつぶり、自身の記憶の中から、一人の深海棲艦の姫を思い出していた。
常にレ級のエリート個体を側に起きつつ、
艦娘に対して「カエレカエレ」と連呼する個体。
ソロモン海域においては、
共同作戦を張ることすら合った旧知の仲であるその姫は
今まさに、自分の偵察機が観察している、港湾棲姫である。
「おそらく、ね。
レ級を連れているし、もしかすると、
知り合いの港湾棲姫かも知れないわね。
・・・ま、私と同じでかなり異端な姫よ。
基本的には人間と艦娘を襲うわけでもなし、
かといって深海棲艦と敵対しているわけでもなし。
・・・そんな感じかしらね。」
提督は、飛行場姫の言葉を受け、笑みを浮かべつつ、口を開く。
「ほほう、ということは、もしかすると、もしかするのですかね?」
飛行場姫も、苦笑を浮かべつつ、提督へと口を開いていた。
「えぇ、可能性は大いにあるわ。
戦わずに済むかもしれないわよ。提督殿。
とりあえずはレ級に仕掛けさせて、様子を見て見ましょうか。」
飛行場姫はそう言うと、
机においてある無線機を手に取り、レ級へと電信を送る。
『レ級、聞こえるかしら?』
『なんでしょーか姫様。』
「進路上で深海棲艦、それもレ級と港湾棲姫を発見したわ。
迂回すると時間がないから、対処してちょうだい。」
『了解です。・・・ってか姫様、港湾棲姫とレ級ってイイました?』
「えぇ、そうよ。この組み合わせ、もしかしたら、よっぱのレ級かもね?
ソレも含めて、確認してきてちょうだい。
・・・もし南方棲戦姫のところのレ級だったら、ぶっ飛ばして構わないわ。」
『了解っ!それじゃー行ってみるわー!通信おわりっ!』
レ級の言葉を聴き終えた飛行場姫は、
苦笑を浮かべつつ、無線機を机へと置く。
「レ級殿はいつもと変わりませんね。」
提督は、笑みを浮かべつつ、飛行場姫へと口を開いていた。
「まぁね。これがレ級のいいところよ。
ま、なんにせよ、出たとこ勝負でしょう。
金剛と我が隷下のレ級がいるんだから、
まず、負けることは無いでしょう。」
飛行場姫はそう言うと、自身が飛ばしている偵察機に意識を集中させる。
偵察機の視線の先には、未だ海中に爆雷を投下しているレ級と
レ級の尻尾の上で指示を飛ばしている港湾棲姫が、写っていた。
◆
一方その頃の、港湾棲姫とレ級はというと。
「レ級!次方位180!深度15!」
「アイヨオオオオ!」
レ級は爆雷を惜しげも無く、海へと投下する。
そして、爆雷が爆発した振動を感じ取ると
海中から、白い泡が大量に吹き出す。
そして、その泡と一緒に、気絶した魚達が一緒に上がってくるのだ。
「ッシャアア!ドンピシャアア!」
はしゃぐレ級の足元には、少し小ぶりのキングサーモンが浮き上がってきていていた。
そして、キングサーモンを手に取ると、港湾棲姫へと投げる。
キングサーモンを受け取った港湾棲姫は、流れるような動作で
自身の格納庫へと、キングサーモンを格納していく。
その手付きたるや、漁師真っ青な、見事な腕である。
「大漁、大漁。フフ。
コレデ呉鎮守府ト、大本営ヘノオミヤゲハ、大丈夫ソウネ。
オ酒、楽シミネェ。レ級。」
「デスネェー。ット、次ハドコデショウカ?」
「エエーット、チョットマッテネ?
次ハ方位270、距離2000。深度20!」
「アイヨォ!港湾棲姫、シッカリツカマッテロヨォ!?」
そんな鮭漁に夢中であるレ級と港湾棲姫は、
上空を飛ぶ、飛行場姫の偵察機に一切気づいていなかった。
そう、まさか、ここが日本帝国軍の作戦地域であるなどとは、
思いもしていなかったのである。
妄想捗りました。
人類に味方したカメコさん。そして飛行場姫。
そんなこととはつゆ知らず、
マイペースで酒とツマミを楽しもうとするエリレさんと港湾棲姫。
今、ここにそんな自由な連中が、集うのかもしれません。