ちょっと変わった酒飲みの深海の船。
今日もまた、自由に酒を飲むようです。
※男から人間に変更。
まむ。
呉鎮守府、深夜0000。
今日は珍しく、戦闘や演習、遠征といった任務もなく
当直以外の艦娘や職員が夢の中にいる時間である。
「くっそ・・・釣れねぇなぁ」
そんな深夜の鎮守府の桟橋に、クーラーボックス片手に、
一人の人間が釣り糸を垂らし、ぼそりと呻いていた。
「餌が悪いんか?いやでも、
上質なのを用意させたんだけどなぁ」
キリキリキリとリールの心地よい音を響かせ
一旦海の中から餌を引き上げ、確認していた。
餌は小さな蟹。
そのまま素揚げで食べても美味しい蟹である。
「フヤケテるわけじゃあねぇな。
ポイントも、あいつらから聞いてるから
悪いわけじゃねぇしな・・・」
はぁ、と人間はため息を付いて
餌である蟹を、海中へと戻していく。
トポンと、釣り餌が海面に落ちる小さな音が、
深夜の静かな、桟橋に響いていた。
「まぁ仕方ねぇか。
酒でも飲みながら、
といいつつ、人間はいったん竿を置き、
手元にあったクーラーボックスを開け、
中にあった酒を出そうとるするが、
クーラーボックスの中を見た瞬間、顔を顰めた。
「あれ?たしか酒・・・
オリオンビール、
なんで
・・・どーこいきやがった」
人間がクーラーボックスに入れていた
オリオンビールが消え失せていたのである。
人間は、クーラーボックスの氷の下や
クーラーボックスの周りを念入りに探すが
1本たりともビールは見つからない。
「ちっくしょう。記憶違いか?
・・・って、まて、ツマミの柿ピーまで
開けられてんじゃねーか!?」
人間は驚愕し、周囲を見渡す。
「確実に自分以外の何物かが周囲にいる」
という事実に、警戒を高めていく。
「おい誰だ!?俺のビールとつまみもっていったのは!
隼鷹か!?それとも夜戦バカか!?出てこい!」
そう叫ぶ人間であったが、誰もいないのか、全く反応がない。
人間は周囲を注意深く見るものの、はやり、誰もいない。
「なんだってんだ。畜生。
俺の楽しみを持っていきやがって。馬鹿どもが」
仕方なく、人間は悪態を付きながら、オリオンビールを煽る。
プシュッ。ゴクゴクゴクゴク。
良い音と共に、人間の喉は何とも言えない爽快感に満たされていた。
「・・・くううう~!いいねぇ・・・。
それにしても、本当に誰がもっていったんだか・・・。」
ビールの爽快感に笑顔になりながらも、
人間は、酒とつまみをもっていった犯人を思い浮かべる。
「第六駆逐隊、なわけねぇな。いつもこの時間は寝てるもんな。
じゃあ、阿武隈か?いや、あれは欲しいときは直接言うよな。
・・・金剛か?いや、あいつだったら
テイトクー!とか、元気な声で声をかけてくるはずだな・・・」
首を傾げて考えるものの、誰一人として
思い浮かぶ相手がいない。
そして、人間が、
(まぁ、誰もいないなら、考えても仕方ないか)
と、置いてあった竿を握り直し、ふと海面を見つめ直した。
その時である。
「柿ピーモイイネェ。
ッテイウカ、コノビールドコノダロ・・・?
オリオン?」
ゴクッゴクッ。
「クゥー・・・!イイモン飲ンデルナァ、人類。」
海面に立ち、柿ピーをポリポリしながら
ビールを勢いよく飲んでいるパーカー姿の何かがいた。
「・・・・」
人間は無言でパーカー姿で海面に立つ何かを見つめ続ける。
そして、その手に握られているのが自分のビールだと認識した瞬間
竿を置き、クーラーボックスを開け、中にあった拳大の氷を取り出した。
「ざっけんなこの盗人がぁ!」
叫びながら人間は、氷を持ったまま勢いよく振りかぶり
氷をパーカー姿の何物かにぶんなげたのである。
ゴッ、っという鈍い音が周囲に響き、
パーカー姿の何物かがよろめいた。
「ゴフッ、イッテェ!ナニスンダ!」
ジャブジャブと、海面に立つパーカー姿の何物かが、
氷を投げた人間に近づいていく。
人間も、パーカー姿の何物かを、睨みつけていた。
「なにすんだはこっちの台詞だろうが!
人の持ってきたビール勝手に飲みやがって!テメェ誰だ!
パーカーなんかで顔かくしてんじゃねぇよ!」
そう叫ぶと、人間は更にクーラーボックスの中の氷を投げていく。
ゴツッ、ゴッと、鈍い音が更に周囲に響き
パーカー姿の何物かは、完全によろめき、
「イテェ・・・・。
ソレニシタッテナゲスギダヨ。イタイ。
ビール4本ト、柿ピーモラッタダケジャンカァ。
ソンナニ氷ナゲナイデヨォ・・・」
涙目になって、若干泣きそうになりながら、人間にうったえていた。
人間はパーカー姿の何物かのその姿に、
「・・・わりぃ、流石にやりすぎたわ。
っていうか、お前誰だよ。言えば最初から一緒に飲んでやったのに」
罰の悪そうな顔で、そう話しかけていた。
パーカー姿の何物かは、人間の言葉に
「ウウン、私モ悪カッタ。ソリャア、酒、カッテニナクナッテタラ
オコルヨナア。ゴメンナサイ」
と、素直に謝り
「ソレジャア、隣デノンデイイカ?
マダノミタリナイ」
人間にそう尋ねたのである。
「構わねぇよ。っていうか、お前誰だ本当に。
パーカー姿の艦娘なんて、うちにはいなかった気がするんだけどなぁ?」
人間は頭の中で、自身の
そんな人間に、パーカー姿の何物かは不思議そうな顔をして
「アァー・・・・
イヤ、私艦娘ジャネーヨ?
・・・ソウカー、私ヲ見テ、
逃ゲナカナッタノハソウイウコトカ」
「は?艦娘じゃねーだと?じゃあなんで海に立っていられるんだよ?」
「アァ、ソレハネェ・・・・」
そういうと、パーカー姿の何物かが、人間に近づいていく。
桟橋のライトに照らされ、パーカーの中にある顔が、
徐々に鮮明になっていく。
「私ハ、深海棲艦ノ、レ級ダヨ。
オシサシブリダナァ、呉ノ提督殿」
パーカー姿のレ級が、ニヤリと笑みを浮かべていた。
それを見た人間は若干逃げ腰になるも
姿勢を正し、レ級を見据えて
「ははぁ・・・そう来ましたか。レ級殿。
南方海域では、いつもお世話になっております」
若干引きつった顔で、レ級に挨拶をするのであった。
---------------------------------------------------
深夜0100.呉鎮守府の桟橋。
そこに、呉の提督と、エリレ級さんが2人で
柿ピーをつまみに、オリオンビールを飲みながら座っていた。
「それにしてもレ級殿。よくここまでバレずに乗り込みましたね」
呉の提督は、さっきまでの、
乱暴な口調のプライベートモードから一転
完全に仕事モードへと切り替わっていた。
「何カ言葉ガ固クナイ?気ノセイナラ、イインダケド。
・・・マァ、私タチ、深海ノ船ッテダケアッテ、
潜ッテコレルンダゼ?哨戒モ少ナイ今ナラ、全然楽勝ヨ」
レ級は、いつものとおりである。
話しながらも、ポリポリ、ゴクゴクと
柿ピーとオリオンビールを手放さない。
「そうでしたか。それならば、
明日からは対潜強化しておかなければなりませんね。
そして、言葉が堅いのは気のせいですから
お気になさらずに。」
提督は釣竿を持ちながらも、険しい顔で
レ級の言葉から、対策を組み立てていた。
何せ、呉鎮守府の中に、深海棲艦を侵入させてしまったのだ
今回の被害はビールと柿ピーだけだったから良いものの
本格的に攻め入られたら、その被害は尋常ではなくなるのである。
「イヤァー。ソコマデキニシナクテイイトオモウゼ?
基本的ニ私達ハ、鎮守府ニ手ハダサネーシ。
好キ好ンデ、コンナ敵ノ本拠地ニ来ルヤツイネーッテ」
レ級はにやにやとしながら、提督の考えを否定していた。
提督は、そんなレ級を見ながら、険しい顔で言葉を続ける。
「そうは申しましても、レ級殿が侵入してます。」
そして提督は、レ級の目を真っ直ぐ見ながら、尋ねていた。
「レ級殿、好き好んで本拠地に乗りこまないのであれば
貴君はなぜ、呉鎮守府に侵入してきたんですかね?
スパイ、という奴ではないのかな?」
レ級は、その言葉に一瞬キョトンとしながらも
「アハハハ、私ガスパイ?
ナイナイナイ。私ハ南方海域ニ来タ、
強イ艦娘トタタカウノガスキナンダ。
ソンナマネハシナイヨ」
笑いながら、そう答えたのである。
困惑したのは提督だ。頭の中ではぐるぐると
考えが廻っていた。
(わざわざ呉の鎮守府に侵入したレ級。
その目的は、鎮守府の破壊でも
鎮守府のスパイでもない。となれば
このレ級は一体なんのために・・・?)
提督は、更に険しい顔になりながら、レ級に尋ねる。
「それであればレ級殿。なぜ、今貴君はここにいるのです?
まさか、オリオンビールと柿ピーを食らいにきた
とか言うのではないでしょうね?」
「ンー・・・・。ソレ半分正解。」
レ級の回答に、若干呆気にとられる提督。
そんな提督を尻目に、レ級は更に言葉を続けていた。
「目的ハネ。提督殿。
・・・・タコヤキ。タベタクナッテネ?
デキレバ、タコヤキ摘ミデ、ビールッテ思ッテ。
夜ノ鎮守府ノ食糧庫ナラ、誰モイナイカナァッテ
・・・・・アハ」
レ級は少し苦笑しながら、目的を提督に話していた。
そんなレ級に、提督は
「はぁー・・・・。そうですか、そうですか。」
と、竿を見ながら、呟いていたが
「そうですか・・・じゃねえよ!
レ級!お前ばっかじぇねぇの!?
ここ、鎮守府だよ!?お前らにとって敵の本拠地だろ!?
なんでたこ焼き摘みにビールのみてぇって理由で来てんだよ!」
提督はレ級を見据え、大声で叫んでいた。
呉の鎮守府の深夜の桟橋に響く大きな声は
間違いなくレ級の耳に届いていたはずである、が
「タコヤキナイノ?」
レ級は、そんな提督の叫びとは関係なく
「タコヤキ」のことが気になっていた。
しかもレ級の顔は、すごくさびしそうな子犬のように
ショボーンとした表情を浮かべていた。
提督は、レ級のそんな姿を見て
「はぁ・・・わかった、わーったよ。
たこ焼きとビールのめりゃ、お前、帰るんだな?」
と、言ってしまっていた。
それを聞いたレ級は、表情を一気に明るくさせ
「オォ!カエルカル!
タベサセテクレテ、ビールモノマセテクレルナラ
・・・ア、オミヤゲ用ノモホシイ」
と、まさかのお土産まで要求してきたのである。
「わーった。わーった。
それじゃあ、釣竿の片付け手伝え。
そうしたら、呉鎮守府の特製たこ焼き、作ってやる。」
「ワーイ!ヤッタゼ!タコヤキダ!ビールダ!
提督の言葉に、レ級は笑顔のまま、ぴょんぴょんと跳ねていた。
「うるせぇ。片付け手伝わねぇならたこ焼き、作らねぇぞ?
さっさとクーラーボックス持って、後ろから付いてこい。」
提督が、険しい顔で、レ級に対してそう呟くと
「イエスマム」
レ級はすぐさま、クーラーボックスを抱え持ち、
提督の後を追って、鎮守府の中に消えていくのであった。
妄想捗りました。裏タイトル「柿ピーとビール」