南の港湾棲姫の拠点では、
のんべんだらりとした会合が開かれていたようです。
港湾棲姫とよっぱのレ級が、北の海で鮭を狩猟していた頃、
コロネハイカラ島の港湾棲姫の要塞の司令室である居間に、
炬燵に入ってのんびりと酒盛りをする数隻の人影があった。
「鮭楽しみです。氷頭の梅肉和えが好みなんです。
それにしても、戦いがないというのはいいものです。」
一人は、港湾棲姫が不在の間、要塞の守備を任されている軽巡棲姫である。
仮の要塞の主である彼女は、なまこ酢のコリコリとした食感を楽しみながら、
最近人類が開発した、「醸造家の夢」なるビールを楽しんでいた。
「まったく・・・深海棲艦の私は気楽でいいですね。
・・・ですが、氷頭は私も好みです。
梅肉和え、いいですよねぇ。」
炬燵を挟んだ軽巡棲姫の対面、そこには、艦娘である神通が
これまた缶ビールを呑みながら、なまこ酢を摘んでいる。
「美味しいよー、なめろうー。ブリもいいねー。」
そしてその右側には、これまた艦娘である島風が
ゆっくりとなめろうを摘みながら、
水の如し日本酒をこれまたちびちびと煽っている。
常に最速、と豪語する普段の島風からは想像もできない遅さではあるが
彼女なりに、酒を楽しんでいるようである。
「なめろうも、なまこ酢もいいね。
出来れば、熱燗がほしいところなのだけれど。」
島風の対面には、これまた艦娘である響が
水の如し日本酒を、文字通り水の如く飲み干しながら
なめろうとなまこ酢をつまみ続けていた。
「悪かったわね。気が利かなくて。」
響の言葉を受けて、軽巡棲姫が苦笑を浮かべながら口を開いていた。
「大丈夫。というか、私達が押しかけているんだしね。
で、どうかな?新作のビール。おいしい?」
「えぇ、とっても美味しいです。」
軽巡棲姫はそう言うと、ビールの瓶を片手に取り、
ラベルをじっくりと観察する。
「醸造家の夢、とは言い得て妙ね。
なんだか、ほっとする味だわ。」
軽巡棲姫はそう言うと、笑顔でビールを煽るのであった。
ちなみにではあるが、今日のツマミは「なまこ酢」と
ちょっとめずらしい、「ブリのなめろう」である。
なまこ酢。
材料はあの海にいる「なまこ」である。
捌き方が難しいと思われるが、
単純になまこの端を切った後、縦に割り
内臓と骨を取り出せばオーケーである。
そして、塩を振りよく洗えば臭みも取れるのだ。
下ごしらえをしたなまこは、数ミリの薄さにスライスし
ポン酢などで和えれば、簡単な酒のつまみの出来上がりである。
そして、ブリのなめろう、であるが
一般的にはアジを使うのが普通である。
が、実はブリはアジの仲間であるため、
なめろうにしても、かなりの美味なのである。
しかも、アジよりも油があり、身がしっかりしているため
食べた時に、口の中に濃厚な味と食感が広がるのである。
◆
響は日本酒を呑みながら、なまこ酢をコリコリと味わう。
実のところ、なまこにほとんど味はないのであるが、
食感が最高に良いのである。
コリコリ、コリコリ。
響は飽きずになまこ酢を摘み、噛む。
コリコリ、コリコリ。
響は食感に飽き始めると、
今度は食感はなまこ酢に比べると劣るものの
濃厚な魚の、ブリの味を楽しめるなめろうを、
ちびちびとつまみ始める。
そして、舌の上にブリの味が残る内に、
日本酒をさらりと飲み干すのである。
「・・・・ふぅ。」
響、思わずの笑みである。
そして、ひとしきりツマミと酒を楽しんだ響は
軽巡棲姫に顔を向けると、いつもの無表情のまま、
ゆっくりと口を開いていた。
「ねぇ、軽巡棲姫。さっき鮭って言ってたけれど、
本当に港湾棲姫とレ級は、北の海に鮭を捕りに行ってるのかい?」
「えぇ、本当ですよ。
ちょっと鮭食べたい!獲ってくる!
と、張り切って飛び出して行きました。」
軽巡棲姫はそう言いながら、ビールを煽りつつ、
なめろうをちびりちびりと口に放り込む。
「その本気度と言えば、港湾棲姫は自身の艦載機を対潜ソナー・・・
つまり魚群探知機を全機に装備させた上
格納庫を全て冷蔵と冷凍にする徹底っぷりでした。
さらに言えば、レ級も対潜装備である爆雷をガン積みでしたね。
・・・レ級と港湾棲姫の気が知れないです。
でも、美味しい鮭は楽しみです。」
軽巡棲姫は呆れた顔をしながらも、若干よだれを垂らしていた。
「・・・カリカリに焼いた皮。
氷頭のなます、梅肉和え。
石狩鍋、ホイル焼き、刺身。
タタキ、なめろう・・・・。」
両頬に手を当てながら呟くその様といえば
方向性はぶっとんでいるが妄想に浸る乙女のようである。
「あぁ、わかってますね。深海の私。
皮は良く焼き、身は粗塩。
軟骨は酸っぱく和えれば酒の肴。
鍋にすれば白米が進み、刺身にすればまた酒に合う。
・・・レ級と港湾棲姫さん、早く帰ってこないかしら。」
その対面では、これまたひどい思考だだ漏れの
神通が、これまた軽巡棲姫と同じように
両頬に手を当てながら、恍惚な笑みを浮かべていた。
2隻とも、心ここにあらずである。
「神通と軽巡棲姫が同じ存在だって、改めて思うよ。
遠目からみていると、双子の姉妹みたいだ。」
響はそんな2隻を見ながら、あきれつつ酒を口に運ぶ。
「「そんなこといって。響は鮭、楽しみじゃないんですか?」」
息もぴったりに、軽巡棲姫と神通の声が重なる。
「楽しみだよ。ボルシチに鮭の塩焼きが私の一番、かな。
皮がきつね色に成るまで焼くのが私の好みだよ。」
「「判ってますね。」」
「それほどでも。やっぱり皮が好きだよ。
そういえば、島風は鮭好きなのかい?」
鮭好きの3隻は、先程から黙っている島風に視線を向ける。
そんな島風はというと、酒とツマミで完全に油断していたらしく
なめろうを口に含んだまま、固まっていた。
そして、少しの間のあと、最速とは程遠い
緩慢とした動きで日本酒をちびりと口に含み
なめとうと、日本酒をしっかり味わいながら、
ゆっくりと嚥下する。
そして、鮭好きの3隻に視線を向けつつ
ゆっくりと口を開いた。
「おいしいねー。うん、最高だよぉ。
えぇっと、なんだっけ?鮭だっけ。
私も食べるー。好きー。
さけとばー。あれ炙ってたべたーい。
さけとば、あえて皮だけのこしてぇ。
皮を炭火でやくのー。おいしいよー?」
「いいね。島風。
それにしても、今日は速く呑まないんだね。」
「そりゃそーだよー。私、レ級と飲み比べてぇ、
お酒弱いのわかったしぃ。
潰れちゃったらもったいないもぉーん。
マイペースでのんびりとチビチビ呑むのー。」
島風はそう言うと、なめろうと日本酒を再開する。
満面な笑みを浮かべつつ、
ちびちびと日本酒となめろうを食べるその姿は
本当に幸せそうである。
「はは・・・。だめだね。出来上がっちゃってる。」
島風を見ながら、響はため息を付きながら
苦笑しつつ口を開いていた。
神通も、普段では見られない最遅の島風を見つつ
笑みを浮かべながら口を開く。
「まぁ、島風も普段気を張り詰めていますから。
この場だけでも、のんびりできるのはいいことです。」
神通はそう言いながら、ビールを口に含む。
そして、コリコリとなまこ酢を食べていると
対面の軽巡棲姫が、にやりといい笑みを浮かべつつ
神通に対して言葉を投げる。
「あら、私。この場っていうけれど、
ここ、深海棲艦の拠点なんですけれど。
艦娘がのんびりしちゃって良いのかしら?」
神通は軽巡棲姫の言葉を受けて、少しだけ目を見開いていた。
が、次の瞬間、軽巡棲姫と同じようににやり、と笑みを浮かべると
軽巡棲姫の目をみながら、ゆっくりと口を開く。
「あら、私。深海棲艦の拠点に艦娘が3隻も上陸してるけれど
対処しなくて良いのかしら?ね、響もそう思いますよね?」
「まったく。軽巡棲姫も神通も仲がいいね。
まぁ、私は押しかけてる身だからね。
なんとも言えないさ。」
響はそう言うと、ビールを煽るのであった。
◆
さて、なぜ艦娘と深海棲艦が酒を、
しかも深海棲艦の拠点で呑んでいるのか。
答えは単純。だいたい港湾棲姫とレ級のせいである。
まず港湾棲姫に関して言えば、場を提供してしまっている。
自身の拠点を魔改造し、外見は1トン爆弾にも耐えれる
堅牢な要塞であるにもかかわらずその中身たるや、
日本の銭湯と民家を融合させたような作りである。
執務室は総畳敷で、炬燵が完備されている。
執務室の隣には、キッチンが備え付けられ
日本の一般家庭のようである。
そして、風呂。
風呂は岩風呂の露天風呂である。
しかも、どうやったのか、白濁した天然温泉が
掛け流しになっている。
その他にも、夕涼みのための縁側や、
少し趣を凝らした中庭。
更に、あえて節の多い板材を使った
見事な総ひのきの板の間などが存在しているのだ。
なお、寝室は総畳敷であり
ふっかふかの綿100%の布団を完備してあるあたり
港湾棲姫の拘りの徹底っぷりである。
そしてレ級はといえば、酒とつまみを呑みたいが為に
鎮守府に乗り込み、提督と交流を持ち
更には自らの上司である港湾棲姫を酒好きにひっぱりこんでいる。
更に言えば、港湾棲姫とレ級は、恨みに引っ張られすぎていた
軽巡棲姫を抑え込もうと艦娘を拉致して宴会を開いたのだ。
そんなこんなで、今現在、コロネハイカラ島の要塞には
過去に拉致された艦娘である島風・響・神通、
そして、恨みに呑まれかけていた軽巡棲姫が、
争うわけでもなく、のんびりと
こたつを囲んで酒盛りをしているわけである。
なお、キス島撤退作戦については、響と島風はもちろん知っている。
が、今回は特に作戦に呼ばれなかったうえに
ソロモン海域の哨戒を、神通とともに命じられたため
ここぞとばかりに、港湾棲姫の拠点にさぼりにきているわけである。
艦娘と深海棲艦の一時の平和が、ここには有るのだ。
◆
「はぁー、生き返りますねぇ。」
白い肌、少し青みかかったサラサラの髪、
そして、フラッグシップであることを表す金色の瞳。
見とれるような造形美である彼女こそ、
決して忘れてはいけない、コロネハイカラ島の要塞の立役者である。
元艦娘である、やたら人間臭い深海棲艦、空母ヲ級。
今現在、要塞の露天風呂に、蕩けた顔で浸かっていた。
「それにしても、響さんたちがまたくるとは思いませんでしたねー。
ビールを持ってきてくれたのは嬉しいのですが
海軍内の立場的に大丈夫なのかなー?」
空母ヲ級は蕩けながらも、港湾棲姫の一派の中では
割とまともな思考を続けていた。
「まー、彼女たちもそこそこ偉い立場っぽいですしー?
お酒も持ってきてくれたので、ま、問題はないのかなー?」
ヲ級はそう言いながら、視線を上へと向ける。
するとそこには、空母ヲ級の艦載機が数機、エンジン音をひびかせながら、
くるくると円を描きつつ、空を舞っていた。
「今日も天気がいいですねぇー。風もない。
・・・それにしても。」
ヲ級はいったん言葉を区切る。
そして、少しだけ真剣な表情を作ると、
自身の艦載機へと、言葉を投げた。
「あなたたちまで
声をかけられた艦載機たちは、円運動を一瞬だけ辞め直線運動に移る。
そして、エルロンを動かし、翼を振ると、また、円運動へと戻ったのであった。
「・・・そうですか、ま、貴方たちが良いなら、私は良しとします。」
空母ヲ級はそういうと、お湯へと体を沈める。
そして、円運動をする艦載機を見ながら、
ゆっくりと、口を開いた。
「なんでしょうねー。艦娘に未練があるわけじゃないんですが。
・・・いけないいけない、一人になるとどーもネガティブに・・・!
あ、そうだ。確か冷蔵庫にスパムミートありましたよね。
なまこ酢とブリのなめろうだけじゃ、皆様そろそろ飽きるでしょうし・・・
何か一品、作りますかぁ!」
ヲ級はそういうと、勢いよく湯船から上がり、露天風呂を後にするのであった。
妄想はかどりました。