自由なエリレさん。   作:灯火011

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横須賀鎮守府のアツ島撤退・攻略部隊と合流する暴挙に出た
酒が好きな深海棲艦、戦艦レ級エリート。通称「エリレ」さん。

そんなエリレさんは、護衛艦あぶくまの調理場で
幾つかの料理をつくり上げるようです。


30 レ級と鮭とおにぎりと

キス島撤退作戦の旗艦、護衛艦あぶくまの料理場では、

未だかつて無い、珍妙な光景が繰り広げられていた。

 

「レ級さん、三角おにぎりはこうするんです。

 手のひらをくの字に曲げて、右手は上に、左手は下。

 ・・・・そうそう、ほら、三角になってきたじゃないですか。」

 

料理場の料理人達と、戦艦レ級が、一並びになって

練り梅とほぐし鮭のおにぎりを握っていたのだ。

 

「ヌウー。難シイナー。

 アリガトウナ。オカゲデ上手イコトオニギリガ出来ソウダ。」

 

レ級はぼそぼそと呟きながらも、おにぎりとひとつ、ふたつと完成させていく。

料理人達は、レ級の数倍という速度でおにぎりを握りながらも

笑みを浮かべつつ、レ級へと声をかけていた。

 

「いやいや、こちらも戦闘食をどうしようかと思っていたんですよ。

 レ級さんが鮭を持ってきてくださって、非常に助かりました。」

 

別の料理人も、続けて声を上げていた。

 

「本当ですよ。梅だけじゃ皆飽きてましたからね。

 新鮮な鮭を持ってきてくれて、助かった。」

 

レ級は、料理人達の声を聞きつつも、おにぎりを握り続ける。

そして、苦笑を浮かべながら、ゆっくりと口を開いていた。

 

「別ニ礼ヲイワレル筋合イハナインダケドナ。

 私ハ鮭食ベタクテ、ココヲ借リテルダケダカラ。」

 

「いやいや、それにしたって、ですよ。

 汁物・・・。アラ汁としもつかれも用意していただいちゃって。」

 

料理人はちらりと巨大な寸胴鍋を見つめていた。

グツグツと煮立つ鍋の中には、大量の鮭が入った

鮭のアラ汁が作られていたのだ。

 

おそらく、「あぶくま」の搭乗員、そして艦娘達に振る舞っても

十分足りる量である。加えて、しもつかれも完成しているため、

ちょっとした鮭のフルコース料理である。

 

なお、しもつかれは、今回は鮭の頭だけを使ったようだ。

 

「皆寒ソウダッタカラナー。ツイデダヨツイデ。

 ナニヨリ、私ガタベタイダケダカラネ。」

 

といいつつも、巨大な寸胴鍋に並々と作られた

鮭のアラ汁と、しもつかれを横目に見ながら、

レ級は照れくさそうに笑みを浮かべていた。

 

なお、しもつかれは、鮭の頭を圧力鍋で骨まで柔らかく加熱。

そして、鬼おろしですりおろした人参、大根をふんだんに使用し、

それに加えて大豆と酒粕を入れて、ドロドロに煮込んだものだ。

見た目は悪いが、味と栄養価は良い。

 

おこのみで油揚げを入れたり、塩で味を整えたり

生醤油をかけて食べるのも実に酒と白米に合う。

 

そして、アラ汁であるが、ここにもレ級の技が光る。

普通に煮てしまうと、魚独特の臭みが出てしまうため、

アラを塩でもみ、臭み抜きを行った後に、

更に一度グリルで皮を加熱しているのだ。

 

そして、これまた大根、人参をイチョウ切りにした後、

これでもかと大量に投入する。

隠し味にちょっとのしょうがと、ネギを入れる。

味噌で味を整えると、香ばしい鮭の薫りのする、

美味しいアラ汁の出来上がりである。

 

この2つの汁物は、煮込めば煮こむほど旨くなる。

それ故に、おにぎりを全員で握っている間も

弱火でとろとろと煮込み続けているのだ。

 

「うまそうだなぁ・・・。」

 

レ級の造るアラ汁と、しもつかれの良い匂いに、

料理人達は多大なる誘惑を受けつつも、

お握り握り大会は続くのであった。

 

 

一般的な深海棲艦のイメージは「海から来る謎の化け物」である。

出生、目的、全てが不明。ただ確定しているのは、人類を

艦娘を攻撃する敵であるということだけであった。

 

だが、目の前にいる戦艦レ級という深海棲艦はそうではない。

 

急に料理場に突入してきたと思えば

いきなり鮭を捌き、料理をし始めたのである。

 

更には、料理をしながらも、人間に話しかけていたのだ。

 

「ネェネェ、ソコノ人間。

 戦闘食デ、コウ、手軽ニタベレル

 イイノナイカナー?」

 

「あ・・・え・・・・。

 おにぎりとかですかね。」

 

「オニギリカー!イイネソレ。イヤー。焼鮭モッテイコウカト

 オモッタンダケド。金剛達戦闘中ダシサー・・・。

 ネェネェ、オコメワケテモラッタリデキナイ?」

 

「あぁ・・・それでしたら。

 今ちょうど梅干し握りを作ろうかと・・・。」

 

「オッ。ソレナラチョウドイイヤ。

 今鮭ガヤケルカラサー。ソレ具ニ加ナイ?」

 

・・・などと会話があったかは不明であるが、おそらく

これに近いことをレ級は行ったのであろう。

 

 

「それにしても、レ級さんを目の前にこんなこと言うのも変ですが。

 深海棲艦って、もっとこう、恐ろしい物かと思ってましたよ。」

 

そして、おにぎりを握り終えた料理班とレ級は

お互いにコーヒーをすすりながら、談笑を行っていた。

 

「もしかして、深海棲艦って、そこそこ友好的な者も多いのですかね?」

 

「ンー。ソリャードーダロナ。

 私モ別ニ艦娘ト戦ワナイッテワケジャネーシ。」

 

「え、そうなんですか?」

 

「オウヨ。マー今ハ、肴ト酒優先ダケドナ。」

 

レ級はそう言うと、笑顔を作りながらもコーヒーをすする。

「アッチィ!」などと、若干の猫舌であることを匂わせつつ

レ級は料理人たちに口を開いた。

 

「ソレハソートシテ。スゴイナコノ料理場。

 調味料、野菜。ナンデモアルジャン。」

 

「そりゃあ、そうですよ。

 この船はこれから400名は載せなきゃならんのですから。

 その分の食料は揃えてるつもりですよ。」

 

料理人はそう言うと、所狭しと置いてある箱を指差していた。

なるほど確かに、そこには人参、大根、ジャガイモ、ほうれん草などなど、

多種多様の野菜が取り揃えられていた。

 

「ソウイヤソウダッタナ。撤退作戦ダッケ?

 飛行場姫カラ聞イタケド、大層ナ作戦ヲ考エルナァ。」

 

「まぁ・・・、助けられるのなら助けたいのが人間ですから。

 ・・・それにしても、レ級さんは深海棲艦ですが

 邪魔をしないのですか?」

 

「ン?今日ハ全然ソンナ気ハネーヨ。

 鮭ガホシカッタンダ。鮭。

 戦ウ気ハ一切ネーッテノ・・・。」

 

レ級はそこまで言うと、何かを思いついたのか

真剣な顔を料理人へと向けていた。

 

「ソウイエバ、ダ。コノ船ニ魚ハツンデアルノ?」

 

「いえ、基本的には長持ちする野菜と、

 冷凍の肉ですね。缶詰もありますが、400名の食料となると・・・。」

 

料理人は、眉間にしわを寄せながら、苦しげに呟く。

そんな表情を見ながら、

レ級はニヤニヤと笑みを浮かべつつ、口を開く。

 

「ナルホド。ソレダッタラヨ。

 私達ノトッタ鮭、少シ渡スワ。」

 

「えっ・・!?

 こちらとしては、非常にありがたい申し出ですが・・・。」

 

料理人は明らかに困惑していた。

というのも、深海棲艦からまさか、食料の提供があるとは思わなかったのだ。

レ級も料理人が困惑している空気を感じ取ったのか

ニヘラと表情を崩しながら、口を開いた。

 

「キモチハ判ルケド、困ッテルンジャネーヨ。

 マ、所詮オ裾分ケッテヤツダ。今日ハ私達、

 戦イニキタワケジャネーッテイッテルダロ?

 海デ戦ウヨシミサ。ソレニ、正直仲間内ダケジャ、

 処理デキネー量ヲ獲ッチマッタシナ。」

 

レ級の言葉に、料理人は表情を柔らかくする。

実際問題、野菜と冷凍の肉しか無い現状で

新鮮なタンパク源がいただけると言うのは、非常にありがたいのだ。

 

「はは、そういうことでしたら。ぜひ頂きましょう。

 それにしても貴女も物好きだ。深海棲艦なのに

 我々を助太刀するような行動をとるとは。」

 

「ンー。マ、飛行場姫ト、カメコモオセワニナッテルヨウダシ。

 ット、ソレジャア私ハ金剛達ニ、オニギリ届ケテクルワー。」

 

「あぁ、すいませんね。引き止めて。

 よろしくお願いしますね。」

 

「ヘーイ。場所ト米、アリガトナー。鮭ハ後デモッテイクワー。」

 

レ級は料理人の言葉を受けながら、オニギリを持って料理場を後にする。

そして、そのままの勢いで、甲板から飛び降りたのであった。

 

 

おにぎりを配り終えたレ級は、港湾棲姫と共に、

護衛艦「あぶくま」の居住区の一室で、

机を囲みながら、のんびりと鮭を味わっていた。

 

「おいしいわー・・・。」

 

「おいしいなー。」

 

気づけば言葉遣いは流暢に、手元には竹鶴ストレート。

そして、酒の横には「しもつかれ」「鮭のアラ汁」、

鮭の身の塩焼きが鎮座していた。

 

「なによりレ級。これ、ナイス。」

 

「でしょ。鮭のおにぎり作った余りだぜ。

 ・・・ほぐし身よりも、こっちが目的だったんですよねー。」

 

そして、極めつけに「鮭の皮のフライ」が

机の中央に鎮座していた。

 

「鮭の皮のフライ」

実は、レ級がおにぎりを作った理由の一つでもある。

 

というのも、おにぎりは通常、鮭のほぐした身だけを使う。

となれば、そこで余るものが2つ出てくるのだ。

 

一つ目は鮭の骨が余る。

こればっかりは固くてどうしようもないので

捨てるか、圧力鍋で煮て柔らかくしていただくか、

フライにしてサクっと食感を楽しみながら食べる。

つまりは、鮭の骨せんべいである。

ただし、今回は骨はしもつかれに投入され

箸で押すと、折れるほどに柔らかく煮込んである。

 

二つ目として、鮭の皮が余る。

実は、レ級はこの皮が楽しみなのだ。

焼鮭では少ししか鮭皮を楽しめない。

それに、戦闘中故に、焼鮭を食べる暇は無いのだ。

 

故にレ級は、戦闘食として鮭のおにぎりを作ったのだ。

 

そして、合法的に、レ級は鮭の皮を、大量にゲットしたわけで。

その大量にゲットした鮭の皮を、塩コショウで味付けし

油でカラッと揚げたのである。

 

つまり、鮭好きにはたまらない、鮭皮のフライ。である。

 

レ級と港湾棲姫は、早速と言わんばかりに

無言で「鮭の皮のフライ」に手を伸ばす。

 

そして、それを口に放り込むとサク、っといい音が響き渡る。

 

「さっくさく。いい揚がり具合。」

 

「いいでしょー。」

 

だが、「鮭の皮のフライ」の真の楽しみはこの後である。

 

噛めば噛むほどに、鮭の皮の濃厚な味が染み出してくるのだ。

レ級と港湾棲姫は、無言で鮭の皮を噛み続ける。

 

「「・・・・」」

 

無言の時間が少しだけ続く。

そして、おもむろに竹鶴を手に取ると、

チビリ、と少しだけ口に含む。

 

「・・・・!」

 

「んんー・・・!」

 

すると、口の中では、竹鶴の濃厚な樽の香りと

焼かれ、カラッと揚げられた「鮭の皮のフライ」の

濃厚な香りと味が、交じり合い、お互いの旨味を引き出すではないか。

 

レ級と港湾棲姫は、静かに握りこぶしを作ると、

静かに、拳を突き合わせていた。

 

「・・・良い鮭と、良い料理ね。レ級。」

 

「えぇ。これはココに来たかいがありました。」

 

お互いに静かに鮭と酒を楽しむレ級と港湾棲姫である。

 

「それじゃあ、もう一切れ・・・。」

 

「私もー。いやー。

 まさかこんな北の大地でのんびり出来るなんて。

 いい時に鮭捕りにきたもんですねー。」

 

レ級は続けてサクリ、サクリと鮭の皮フライを食べ続ける。

港湾棲姫も負けじと鮭皮フライを食べつつ、口を開いていた。

 

「えぇ。本当に。それに、作戦が終われば

 また金剛達と呑みたいし。ちょうどイイ。」

 

「本当ですねー。あぁ、旨い。」

 

「美味しいわねー。

 そういえば、こっちのしもつかれはどうなのかしら・・・?」

 

港湾棲姫は、フライから一旦離れ、どうやら汁物へと

手を伸ばすようである。

 

「・・・見た目はすごい。」

 

しもつかれを目の前に、港湾棲姫は眉間にしわを寄せていた。

何せ、しもつかれの見た目はドロドロに溶けた野菜と鮭の煮物だ。

見た目からでは、食べようと思う人は少ない。

 

「あー、見た目はすごいけど、味はいいぜ?」

 

レ級はそういいながら、しもつかれを難なく口へと運んでいた。

そして、そのままの勢いで、竹鶴を口の中へと放り込む。

 

「・・・クゥー!これよこれ。

 野菜と鮭の旨味とウィスキーの香り!」

 

レ級は笑顔で、握りこぶしを作りながら、叫んでいた。

 

「・・・本当に?」

 

港湾棲姫は、未だにしかめっ面である。

 

「本当だって。とりあえず食べてみろって。

 間違いじゃないから!」

 

レ級は続けてしもつかれを食べつつ、竹鶴を煽る。

その表情は、これでもかと言わんばかりに、にっこにこである。

 

レ級の表情をみた港湾棲姫は、しもつかれを改めて見る。

どろどろに溶けた野菜。鮭の頭、そして骨。

 

「むぅ・・・。」

 

呟きながらも、港湾棲姫は一口分のしもつかれを

器用に箸でつまむ。そして、意を決したように、口へと運んだのである。

 

「むっ・・・?」

 

最初の舌への衝撃は、少しの酸っぱさであった。

これは、しもつかれの味付けに使われる

「酒粕」の酸味である。

一瞬、港湾棲姫はしもつかれを吐き出しそうになるも

酸っぱさを超えた瞬間、次に舌を襲ってきたのは、野菜の甘味であった。

 

(・・・あら?)

 

港湾棲姫は、もごもごと口を動かし続ける。

そのさなかに、少しだけ残っていた野菜の繊維と

鮭の骨と思わしき、やわらかくなり、簡単に砕ける

固形物を噛みしめる。

 

すると、今度は野菜の甘みの中に、

鮭の旨味が溢れ出してきたではないか。

 

そして、鮭の旨味が表に出てきた瞬間

酒粕の酸っぱさ、野菜の甘味、鮭の旨味が絡み合い

やさしい味となって、港湾棲姫の口中を覆い尽くす。

 

「・・・あら、おいしい。」

 

港湾棲姫はそう呟くと、今度は竹鶴へと手を伸ばしていた。

そして、ゆっくりとグラスを傾けつつ、口の中へと竹鶴を投入する。

 

するとどうであろうか。

しもつかれの優しい味と、ウィスキーの濃厚な味が

見事に絡みあうではないか。

 

しかも、酒粕という発酵食品を使っているからか

しもつかれは酒と一緒に味わっても、味に違和感が全く無いのである。

 

「・・・ふぅ。しもつかれ、いいわね。」

 

港湾棲姫、満面の笑みである。

 

「いいだろー?ドン!っと濃い味がくるわけじゃねーんだけどさ。

 しもつかれって、酒と本当に合うんだ。」

 

レ級はそういいながら、笑顔で、しもつかれを楽しむのであった。




妄想捗りました。

・・・鮭が戦闘食料に出ると聞いてびっくらこきました。
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