せっかく北の海っていう、肴の旨い海に来てるんだぜ?
酒を呑まなきゃ。嘘ってもんだ。」
----な、そうだよなぁ?----
彼女はそう言いながら私に顔を近づけると、
口角を上げて、憎たらしい笑みを浮かべたのです。
【海軍発行:文庫 港湾水鬼の手記】より
「ニシテモ、港湾棲姫。勢イデトビダシタケドサ。実際ドウスンノ?スキットルコワシタノハ倒シタシ。」
港湾棲姫を尻尾に載せたエリレは、最大速度で海の上を滑りながらも、港湾棲姫へと声をかける。
「ソウネ。・・・頭ヒエタラ、ナニシテンノワタシタチ、ッテカンジネ。」
港湾棲姫は、表情を変えぬままで口を開く。ただし、その目は、敵の姫らしき船の方角を見つめたままだ。
「マァデモ?相手ハカナリ、アバレタイヨウダシ。ホウッテオクト、我々深海棲艦ニモ被害ガオヨビソウダシ。・・・カメコノト金剛達ノ援護ヲシテイキマショウ。」
「了解。ニシテモ、ココノル級ハツヨイッスネェ。カメコト金剛ガウチマケテマシタヨ。」
エリレはそう言うと、ちらり、と目だけを動かし自身に追従する金剛とカメコを見る。
金剛はまだ砲雷撃戦で少し煤けているだけであったが、カメコに関しては尾っぽが完全に潰されていた。
「本当ネ。マ。近距離デハ私ガパワー負ケスルワケナイカラ大丈夫。ダカラ、レ級。移動ハタノムワネ。」
「ヘーイ。ソレジャアマァ、手身近ナル級ニ、チカヅキマスネ。」
エリレはそう言うと、主機を最大限に発揮させる。そして、一番近いル級に突撃していくのであった。
「ハッ!不用意スギルゾ!」
その姿を見て、敵のル級は叫びながら砲撃を港湾棲姫達に加えるものの、エリレと港湾棲姫は、砲撃をまったく気にせず、全速力でル級へと突撃する。
「不用意ナノハアナタヨ。」
そしてすれ違いざま、港湾棲姫は自慢の腕力と、鋭い爪で敵のル級の首を切り取っていた。
「ソウイウコトダゼ。ジャーナ!」
エリレは追撃とばかりに、首が無くなったル級の身体に砲撃を加え、完全に木っ端微塵にする。
この2隻のコンビネーションは、どうやらこの海域においては無双といってもいいようである。
◆
港湾棲姫とエリレが敵のル級を無双していた頃、カメコは一つのピンチを迎えていた。
敵の親玉、港湾型の姫らしき艦と対峙していたのだ。
「コレハコレハ、飛行場姫ノトコロノ、レ級デハナイカ。」
どうやら相手の港湾型の姫は、カメコを知っているようである。そして、それに応えるように、カメコもゆっくりと口を開く。
「・・・なるほど、戦艦ル級をまとめていたのは、港湾水鬼様でしたか。」
「アァ、マトメルトハ少シチガウガナ。アレラハ全力デタタカイタガッテイタ。私ハソノセナカヲオシタダケダ。」
「ずいぶんとまぁ・・・めんどくさいことを。あなたは確か、インド洋の守備を任されていたのでは?」
「インドデハ全力デタタカエズニ逃ゲタノダ。ココヘタドリツイタトキ。奴ラガイタ。恨ミデハナク、後悔ノ念ニシズンダ彼ラガイタノダ。ソシテナニヨリ、ワタシガタタカイタカッタノダ。方向性ノ一致ダ。」
「なるほど。それでアツ島とキスカ島を攻撃したわけですか。」
カメコは言葉を発しながら、腰を落とす。
それを見た港湾水鬼も、同じように腰を落とした。
「・・・エェ。マサカ深海棲艦ガ相手ニナルトハオモッテイナカッタガナァ!サァ、カメコ!人間ヲスクイタケレバ私ヲシズメテミセロ!」
港湾水鬼は、一気に体を加速させる。合わせて、カメコも叫びながら全力で体を前へと加速させていった。
◆
「いいねぇ!じゃあまずいっぱああつ!」
カメコは尻尾ではなく、しっぽを振った反動で、右足を港湾水鬼に叩きつけた。
だが、港湾水鬼は、びくともしない。それどころか、カメコの足を無造作に掴んだのだ。
「甘イワ。パワーダケナラ、ワタシノホウガアルノダ。カメコ。」
カメコの一撃を軽くいなし、海面へと叩きつける。そして、カメコの体を足で押さえつけた。
「ぐふッ・・・!?」
「・・・ソレニシテモコノシッポハ、ジャマダナ。」
港湾水鬼は、倒れ伏したカメコの体を足で押さえつけながら、その尻尾を、掴みあげた。そして、そのままカメコの尻尾を、千切ろうと力を加え始め、カメコの体からギチギチと嫌な音が立ち始める。
「ガアアアア!」
体を足で押えられているカメコは、身動きが取れないまま、叫んでいた。
そして、港湾水鬼は、カメコの尻尾を掴み直す。そして。
「フンッ!」
その一言と共に、カメコの尻尾を、カメコの体から引きちぎったのだ。
「------------!」
カメコは声に成らない叫び声を上げる。と同時に、尻尾と体から、おびただしい量の鮮血が流れ始めていた。そして追い打ちをかけるように、港湾水鬼は、カメコの胴体をその足で踏み潰そうと、片足を天高く持ち上げた。
「ッソオオイヤアア!」
瞬間、港湾水鬼の後方から、エリレの尻尾が襲う。だが、港湾水鬼は手慣れた手つきでその尻尾を掴みとっていた。
「馬鹿ノヒトツオボエダナ。」
港湾水鬼はそう言うと、エリレを水面に叩きつけようとする。だが、そうは問屋が卸さない。港湾水鬼は知らないのだ。ここに、港湾の名を冠する、もう一人の化け物がいることを。
「アナタモ、ヒトノコトハイエナイワ。」
港湾水鬼は、足元から聞こえた声に、思わず顔を向けていた。
その目に写ったものは、海面下から拳を突き出し、勢い良く海面から飛び上がる、港湾棲姫の姿であった。
「ナ!?」
水鬼は驚愕の表情を浮かべ、拳を避けようとするも、時は既に遅し。
港湾棲姫の拳を、顎からまともに受けたのだ。
「ナイス港湾棲姫ィ!」
「レ級。カメコヲツレテ撤退。あぶくまニハ、バケツアルカラ。」
「アイヨォ!サーイクゾカメコォ!」
エリレはそう叫びながら、ぐったりとしているカメコを担ぎ、未だ倒れ伏す港湾水鬼の元から、撤退していった。
「サァテ・・・ト。」
港湾棲姫は水鬼を見下すと、ボキリと、一回だけ拳を鳴らす。
「港湾水鬼、オヒサシブリネ。インドノ海ニ沈ンダノカトオモッテイタワ。」
「・・・港湾棲姫。アナタコソ、コンナキタノウミデナニヲシテイル。
ソシテ、ナゼ我々トタタカウノダ?ナゼカメコヲタスケタノダ。」
「ア?キマッテンデショウ。アンタガキニイラナイカラヨ。
マッタク、マッタク。酒トオツマミヲタノシミニ、ココマデキタノニ。
貴女ガスキカッテヤッテイルカラ、コンナコトヲシナクチャナラナイ。」
ボキリ。港湾棲姫の拳が、もう一度、鳴る。
「戦スルノハケッコウ。アレラトイッショニ戦ヲ楽シムノモケッコウ。
戦闘狂ノキサマハ、ナニヲシテモイイワ。タダ、タダ。」
「私の酒を邪魔し、スキットルを壊したことだけは許さない」
港湾棲姫はそう叫ぶと、水鬼へと右拳を繰り出していた。
「ハッ!ナニヲイッテイル。酒!?スキットル!クダラン!」
水鬼も負けじと叫びながら、同じように右拳を繰り出していた。そして、衝突した拳からはすさまじい音と衝撃音が響き渡るも、お互いに全く微動だにしない。
「・・・クダラナイ?酒ガクダラナイ?」
だが、港湾棲姫の拳が少しだけ、港湾水鬼の拳を押し始めていた。
港湾水鬼は、その力に抗おうと、青筋を立てながら腰を入れるも、港湾棲姫の拳は未だ進み続ける。
そして。
「フザケンナァ!酒ト肴ガワタシノタノシミナンダ!ソレヲブッコワシテオイテ、オトナシク沈メルナンテ、オモッテンジャネーゾォ!」
港湾棲姫はそれはもう大声で叫んだ。そして、思いっきり拳に力を込める。すると、港湾水鬼の拳を完全に押し切り、水鬼の顔に、港湾棲姫の拳が突き刺さっていた。
「ゴフゥッ・・・!」
港湾型の拳は、凄まじく重い。
何せ、その質量は本気を出せば戦艦をも超えるのだ。
その2隻の本気の殴り合いは、下手をすれば1撃で決着がついてしまうほどだ。
だが、未だ水鬼は立っていた。鼻血を垂らしながらも、立っていた。
その瞳には歓喜を浮かべ、口元は釣り上がり、未だに戦意はあるようである。
「・・・水鬼、流石ニ頑丈。ダケド、コレデ、オワリ。」
「ハ・・・私ハマダ、倒レテハイナイゾ・・・!」
と、その時、港湾水鬼の後ろの海面が、盛り上がる。そして、そこからなんと、エリレが飛び出てきたのだ。
「ッソイヤッサァー!」
エリレはそんな掛け声と共に、拳を水鬼の背中に突き刺していた。
「グフッ・・・何ッ!?貴様、カメコト撤退シタハズ・・・!」
「アハハハ。水鬼ィ。油断シスギダッツーノ!コチトラ近クニ仲間ガイルンダゼ?マ、呑ミ仲間ダケドヨ」
エリレはそういうと、港湾水鬼に足払いをかける。そして、そこからアッパーカットを繰り出し、港湾水鬼を空中に放り投げる。
「チェックメイトォ!」
そして、エリレは最後の一発に、隙だらけの港湾水鬼の頭部に全力で尻尾を叩きつけた。
「スキットルゥウ!」
と、同時に、港湾棲姫も水鬼の顎を全力でかち上げる。
戦艦の重量に勢いを加えた一撃と
港湾型の馬力と重さのある一撃に挟まれた
港湾水鬼の頭部は、鈍い音を立て、潰れた。
そして、港湾水鬼の体は、力なく崩れ落ち
海面下へと、沈んでいく。
・・・ことはなかった。
次の瞬間、港湾水鬼の体を、港湾棲姫が担ぎあげたのだ。
そして、エリレは、格納庫から、緑色の「修復」と書かれた
バケツを取り出し、中身を港湾水鬼へとぶちまけた。
「・・・げはっ!?ごほっ、ごほっ。」
いきなり体が修復され、驚きのあまり咳き込む港湾水鬼。
「ヨォ?オ前、タダデシネルトオモウナヨ?」
「ソウヨ。ココマデアバレテオイテ。
自己満足デ沈モウナンテ。」
そして、レ級は憎たらしい笑みを浮かべると、
ゆっくりと、港湾水鬼へ語りかけたのだ。
「・・・テメーハ鹵獲サレタンダヨ。
ダカラ、ワタシタチノ指示ニシタガッテ動ケ。」
港湾水鬼は表情を歪ませる。
「なにを、させるのだ。」
好き勝手暴れ、沈むことすら許されない。
であれば、拷問でも受けさせられるのか。
そう考えた港湾水鬼であったが、
次のエリレが発した言葉で、あっけにとられてしまう。
「マ、何ガイイタイカッテイエバダ。戦イオワッタシ酒呑ムゾ。」
「は・・・?」
「戦い終わったらなにをするか?決まってんだろ。
せっかく北の海っていう、肴の旨い海に来てるんだぜ?
酒を呑まなきゃ。嘘ってもんだ。」
----なぁ?港湾水鬼?
----あぁ。もちろん。あっちの艦娘達にぼっこぼこにされたル級も一隻つれてくぞ?
----ククク。死んで逃げられるなんて、思うなよ?
◆
深海棲艦を避け、ついにアツ島へと錨を下ろした護衛艦達は
次々に揚陸艇を使いながら、人員をどんどん島から護衛艦へと
移動させていく。
「見事な手並みだねぇ。」
エリレはそんな彼らを、あぶくまの甲板上から
じぃっと、見つめ続けていた。
「どうされましたか。エリレ殿。」
その後ろから、いつの間にか立っていた
横須賀鎮守府の提督が声をかけていた。
「おっ、横須賀の提督じゃん。撤退の指揮してなくていーの?」
「私達鎮守府の面々は、あくまで撤退艦隊の護衛です。
撤退作戦に関しては、自衛隊に一任しているのです。」
「そっか。」
エリレはそう言うと、改めて引き上げを続ける
自衛隊と、アツ島防衛部隊の人員を見つめ続ける。
「・・・本当に見事な手並みだね。
これなら、30分とかからずに撤退終わるかもね。」
「えぇ。そのために自衛隊には、精鋭を、と
依頼してありますからね。何よりも、人命が掛かっています。
1分1秒。無駄には出来んのです。」
「なるほどねぇ。餅は餅屋ってところかね。」
エリレはあぶくまの甲板上から動く気配は一切ない。
提督は、そんなエリレに対して、姿勢を正すと
真面目な顔で、口を開き始めた。
「それにしても、エリレ殿。今回は誠に感謝致します。」
提督は深々と頭を下げる。
「我が金剛艦隊と、飛行場姫だけでは、今回の作戦は成功できませんでした。
貴女がたの協力のお陰です。誠に、誠に感謝致します。」
提督は更に腰を折り曲げ、これでもかというほど頭を下げる。
「・・・・気にすんなって。
私はスキットルを壊されたから相手をボッコボコにしただけだから。
お前らを助けるっていう考えは、これっぽっちもねーよ。
だから、私たちに感謝するのは、間違ってる。」
エリレは、そう言うと、そっぽを向きながら手をシッシッと振っていた。
「ま、ただ。」
エリレはそう言いながら、提督へと体を向き直す。
そして、苦笑を浮かべると、ゆっくりと口を開いた。
「感謝してるってんなら、礼としてスキットル作ってくんねーかな?
ル級の砲撃でぶっこわれちまってさぁ。
私と港湾棲姫で2個。海軍の印が入ってる奴がほしい。」
「・・・はは、そのくらいならお安いご用です。
すぐさまにご用意致しましょう。
それこそ、砲撃に耐えられる、頑丈なものを。」
「頼んだぜ?」
エリレと提督は、軽く微笑む。
そして、エリレは、その右手を差し出していた。
「なんだ、その。
一緒に戦った仲だし、握手ぐらいはしてもいいだろ。
えーと、なんだ。・・・作戦成功おめでとう。提督。」
「まだ貴女達、深海棲艦の領海ですから、油断はできませんがね。」
「ハッ。この船にゃぁ、私と港湾棲姫、それに飛行場姫がいるんだぜ? 無粋な輩を近づけさせるわけねーだろ。」
それに、とエリレは言葉を続ける。
「それに、私は酒呑みたくてこの船に乗ってんだ。邪魔する奴がいたら、港湾棲姫を引き連れて、ぶっとばしてやるから安心しろ。」
口角を上げ、にやりと、笑みを浮かべるエリレ。
提督は一瞬、呆気にとられるも、同じようににやりと笑みを浮かべる。
「それは心強い。・・・賛辞の言葉、受け取りましょう。 ありがとうございます。」
提督はそう言うと、エリレの手を握り返していた。
「そういやカメコは大丈夫なんか?」
「えぇ、幸いにして命に別状はありません。
ですが・・・尻尾については、再生は無理ですね。諦める他ありませんでした。」
「あー、ちぎられてたもんなあ。ま、生きてるんならいいや。
それじゃー提督。私は食事と酒の準備するから。またなー。」
エリレはそう言うと、甲板を後にするのであった。
◆
撤退を終えて、あぶくまはアツ島から離れる。
と、同時に、港湾組、飛行場組、そして調理班が酒と肴を配り始めていた。
深海棲艦が、作戦に参加していたとは聞いていたがまさか食事まで用意しているとは、と呆気にとられるアツ島撤退の面々。
「ほら、遠慮するなー。アラ汁だぜ。暖かいぜー。」
そういうのは、尻尾の生えているレ級、よっぱのエリレである。
笑みを浮かべながら、汁物を配っていく姿は、様になっていた。
「上手くバランスとれねーな・・・。
っと、ほい。ハイボールな。日本酒がいい?贅沢だなぁ。
ウィスキーしかねーから勘弁してくれ。」
こちらは尻尾が港湾水鬼に千切られた戦艦レ級フラッグシップ改、カメコである。
体をふらつかせながらも、器用にハイボールを配っていた。
そして、そんな面々を尻目に、提督は深海棲艦と人類の新たな希望として、
カメコとエリレに、ささやかな食事と乾杯の音頭を頼んだのであった。
◆
エリレと尻尾が無くなったカメコは2人で甲板の先端へと移動する。
アツ島からの揚陸人員、あぶくまの乗員、
そして、飛行場姫、港湾棲姫、そして1隻の戦艦ル級と
今回の騒動の発端である、港湾水鬼はそんなレ級達の姿を
ただただ見守っていた。
「それじゃあそうだな。
乾杯の前に、せっかくだ。一曲皆で歌おう。」
「レ級さん、何を謡うんですか?」
最前列の兵士が、困惑の表情を浮かべながらレ級に問うていた。
レ級達は、兵士へと笑みを浮かべると、さも当然のように口を開く。
「はは、皆知ってる曲さ。
つーか、今ここで謡うつったらこの曲しかねーだろう?
陸軍海軍関係ねぇぜ。さて、では皆様。お手と声を拝借!」
レ級達は、そういうと、軍属であれば誰でも知っている
ある歌を、大音声で謡い始めた。
---守るも攻むるも黒鐵の----
2隻のレ級の声が、あぶくまの甲板を支配する。
人間や艦娘達は、まさか、深海棲艦が
「軍艦行進曲」を歌い始めるとはおもわなかったのか、
甲板上、誰も口を開いてはいなかった。
「・・・面白い。」
それに最初に便乗したのは、今回の撤退作戦で
金剛達と死闘を繰り広げた、戦艦ル級であった。
戦艦ル級は、にやりと口角を上げると、大声を張った。
---浮かべる城ぞ頼みなる---
戦艦ル級が歌い始めると同時に、飛行場姫、港湾棲姫、
そして港湾水鬼が、口を開き始める。
---浮かべるその城日の本の皇國の四方を守るべし---
深海棲艦とはいえ、美しい女性たちの謡う、軍艦マーチ。
艦娘や提督たち人間は、一瞬呆気にとられるも、
次の瞬間、彼らは、深海棲艦と同じように、
笑みを浮かべながら、大声で歌を謡い始めたのだ。
---眞鐵のその艦日の本に仇なす國を攻めよかし!---
そして、つぎつぎに人々は口を開け始め
あぶくまの甲板上で、大合唱が始まる。
---石炭の煙は大洋の龍かとばかり靡くなり!---
更には、周囲を囲む、撤退作戦全ての艦からも歌い声が上がり始め
ついには、撤退作戦に関連する、全ての人間達に大合唱は伝播していった。
---彈撃つ響きは雷の聲かとばかり響むなり---
そして、人々と艦達は、深海棲艦と、人間と、艦娘を繋ぐ
妙な深海棲艦2隻を見ながら、最後の一節を謡う。
---萬里の波濤を乘り越えて
そう。
このとんでもなく、垣根なく、自己中心的で、それでいてクソのように人間臭くて、
敵味方関係なく戦場を引っ掻き回し、とことんにまで非常識な、
・・・
「・・・さぁて。一曲歌ったこったし!それじゃあ!
酒は持ったな?ツマミの鮭は持ったな!?いくぜぇ!」
エリレは、自身の持つ角瓶を高々と掲げていた。
そして、オモイッキリ息を吸い込むと、大音声で
それこそ、周辺の船へと聞こえるくらいの大音声で
乾杯の音頭を、あげた。
----かんぱあああああい!-----
そして、レ級の音頭と同時に、空気が割れるほどの
漢共の大音声が響き渡った。
---かんぱあああああああああい!
撤退成功!万歳!万歳!万歳!---
そして、キス・アツ島撤退作戦は、全員撤退完了。
深海棲艦である戦艦ル級と、港湾水鬼を鹵獲するという大金星を上げた上に
被害は、旗艦あぶくまだけの小破に留まるという、大成功を、収めたのでった。
◆
皆が騒ぐ中、鹵獲された港湾水鬼と、戦艦ル級は
甲板の隅っこで、静かに酒を煽っていた。
「海を往くなら、水に漬かる屍となろう。
山野を往くなら、草の生える屍ともなろう。
天皇のおそばに、この命を投げ出しても、けして後悔はしない。」
港湾水鬼は、静かに、歌を口ずさむ。
そして、隣に座る戦艦ル級を見つめながら、ゆっくりと口を開き始めた。
「はぁ。結局、生者に泥を塗った挙句、
私たちはなんで生き残ってるのかしらね。」
港湾水鬼は自嘲気味に呟いていた。
戦艦ル級は苦笑を浮かべつつ、港湾水鬼へと言葉を返す。
「まぁ、提督。生き残ってしまったのは何かの縁ですよ。
それに、まさか、生きてまた日本の土を踏めるとは。
・・・散っていった仲間には悪いですがね。」
「そうね。まったくよ。 何が桜の丘で、よ。
あれだけの演説をしておいて、このざまじゃ、我ながら情けない。」
「・・・それならば、納得いかぬのであれば、
今この場で暴れますか?」
「それは無粋よ。何より、彼らは皆満足して逝った。
そして、私たちは生かされた。この結果を、台無しには出来ない。」
港湾水鬼はそう言いながら、薄い角瓶の水割りを呑みながら、
エリレが作った、鮭のアラ汁を、少しだけすする。
そして、喧騒に包まれる、あぶくまの甲板を見渡すと
少しだけ笑みを浮かべ、自身に言い聞かせるように、呟いた。
「うん。・・・・うん。・・・・悪くは、ないわ。」
「えぇ。そうですね。」
戦艦ル級も、相槌を打ちながら、酒とアラ汁をすする。
「・・・あぁ。久方ぶりだ。
温かい食事とは、これほどまでに旨いものであったか。
酒とは、これほどまでに染み渡るものであったか。」
鹵獲された深海棲艦の2隻は、喧騒の中、
静かに酒と鮭を煽りながら、穏やかに笑う。
日本の本土までの道のりは未だ長い。だが。
70年ぶりの、帰朝を果たす彼女らの表情は、明るい。
◆
大成功を収めた、アツ島撤退・攻略作戦から数日たったある日。
日本近海の全ての海の戦人に、差出人が不明の次の手紙が届く。
---秋の日の ヴィオロンのため息の ひたぶるに 身にしみて うら悲し---
---我らの始まりの地、赤レンガの桜の下で----
---
深海棲艦・艦娘・人間、種族と勢力を超えて配られたソレには
見慣れた深海棲艦が、海軍刻印のスキットルを持っていい笑顔を浮かべる写真が、一枚だけ挟まれていた。
「ハハァーン・・・。あいつデースねぇ!」
「あいつだな。赤レンガってことは・・・横須賀か。 金剛どうする?いくか?」
「もちろんデース!」
呉鎮守府では、酒飲み仲間がウキウキになり準備を開始する。
「・・・あいつかぁ。」
「えぇ、あいつでしょうね。提督殿。コレはもう断っても来るわよ?しかも、私たちにも直接連絡が来ているあたり、姫たちも何隻かは来るかもね。」
「・・・・判っています。間宮に会場の準備をさせなければ。いや・・・それとも大本営を開いたほうが・・・。」
会場にご指名された横須賀鎮守府では、これから来るであろう、大所帯の対応に、追われていた。
「・・・イッテミルカ。」
深海棲艦、南方海域をまとめる南方棲戦姫も、例に違わず、手紙を受け取っていた。
彼女は、その重い腰を上げると、ゆっくりと口を開いていた。
「往クノデスカ?」
「アア。戦ウワケデハナイカラナ。敵情視察サ。」
南方棲戦姫はそう言うと、足早に拠点を後にする。
そして。
「ダーレガキマスカネェ!」
「サァ?マ、サケトバ一杯準備シタシ。 オサケハ、横須賀ニアル。ナントカナルワ。」
「ソウデシタネ。ト、ソレジャア飛バシマスヨ? シッカリツカマッテテクダサイネー!」
手紙を送った張本人、エリレと港湾棲姫は横須賀へと歩みを進めていた。
この2隻が考えていることは単純。
艦娘、人間、深海棲艦。そんなものは関係なく、楽しく酒を呑むことだけだ。
謀略・知略、そんなものとは縁遠い、自己満足の酒呑み。
彼女たちは、これからも、戦場を引っ掻き回しながら、なんだかんだ酒を呑み、なんだかんだ仲良くなり、なんだかんだで喧嘩をするのであろう。
そしてこの先も、波乱は少しあるであろうが、代わり映えのしない、彼女たちの日常は続くのだ。
◆
さて、さて。
レ級の宴会は一旦ここで〆とさせていただきますので、
この先は未だ酔って居ない方だけお付き合いを。
ここから先は2次会。呑むも食べるも自己責任です。
ご気分が悪くなっても、介抱は致しませんので、どうか、ご自愛下さいませ-----
さぁ宴会だ。さぁ宴会だ。敵味方なく宴会だ。
恨みを忘れ、憎しみを忘れ、笑顔溢れる宴会だ。
鮭を食え、マグロを食え。日本酒を飲め、ウィスキーを呑め。
古今東西全てを酒で呑め。
そう、今ここは、敵味方、上司部下が入り交じる、真の無礼講だ!
【戦艦レ級エリートの手記】より。
ということで、今回で最終回、〆でございます。
リアルの時間が少々取れなくなってきましたことと、
ストーリー的に結局は酒を呑み、のんべんだらりとした日々が続くエリレさんです。
これ以上描いても、おそらくは酒を呑んでいるだけですので
一次会は〆とさせていただきました。
加えて新作に時間を割きたいと思います。
ここまでご覧頂きまして、ありがとうございました。
これからは、2次会・3次会(短編)は、カメコと同様に描いていくと思います。
ご気分の良い方だけ、お付き合いくださいませ。