ちょっと変わった酒飲みの深海の船。
前回、提督と艦娘達と飲み明かしたレ級。
鳳翔さんに、少しお世話になるようです。
呉鎮守府内にある居酒屋鳳翔。
艦娘 鳳翔が、特別な許可を得て
鎮守府に勤める人向けに作られた
居酒屋形式の酒保である。
主に深夜に営業している居酒屋鳳翔は、
様々な艦娘や、鎮守府の従業員、
海軍の兵士や、はたまた商船の乗組員まで
鎮守府内にいる様々な人や船が利用する場所だ。
その半面、営業時間外である朝や昼間は、
出入りする人や船の数は、全くと言っていいほど少ない。
日中出入りするのは、せいぜい、
店主である鳳翔が、店の準備に入るぐらいだ。
もちろんそれは常時の話。
今日、居酒屋鳳翔は、
ちょっとした異常事態が起こっていた。
呉鎮守府内、1230の昼下がり。
居酒屋鳳翔の座敷に、パーカー姿の深海棲艦が
四肢を投げだし、気持ち良い顔をしながら爆睡していた。
「ウィー・・・。ウゴッ・・・・」
ポリポリとおなかをかきながら眠る深海棲艦の周りには
オリオンビールの空き缶が散らばり
座敷の机の上には、空になった皿が散乱していた。
窓から気持ちのいい太陽の光が差し込み
空調が聞いた居酒屋の室内で、
更にアルコールが入っているためか
深海棲艦は一向に目を覚ます気配が無い。
「タコヤキィ・・・。ビールァ・・・」
夢の中で酒でも飲んでいるのか
深海棲艦は、時折ぴくぴくと指を動かし
口をもにょもにょと動かしながら
寝言を吐いていた。
居酒屋鳳翔のお座敷で気持ち良く寝る深海棲艦。
その正体は、もちろん「戦艦レ級エリート」である。
「ンンー・・・ンン?」
レ級は、何かに気づいたのか、目を空け
上半身だけを起こしていた。
レ級が寝ぼけた顔のまま、居酒屋のドアを見ると
「あら、レ級さん。起きてらっしゃったのですね」
店主である鳳翔が、ドアをガラガラと空け
笑顔を浮かべながら、店内に入って来たのである。
その手には、何か食材の入った袋を持っていた。
「ドモ・・・オハヨウゴザイマス・・・。
タコヤキト、ニモノ、アトビール。
アリガトウゴザイマシタ。オイシカッタレス・・・」
レ級は、そんな鳳翔に、寝ぼけた顔のままお礼を言っていた。
鳳翔はレ級を見ながら、居酒屋のカウンターに入りつつ口を開く。
「いえいえ、こちらこそ。
昨日は提督の御相手をしていただいて、本当に助かりました。
提督、今日は気分よく業務をこなされていましたから
レ級さんのおかげですよ。
・・・そのお礼ってわけでは、ないのですが」
鳳翔はそこで一旦言葉を区切ると
ガサゴソ、と鳳翔は手に持っていた袋から
豆腐と味噌とネギを取り出し
「酔い覚ましに、葱の味噌汁と、
揚げだし豆腐なんていかがですか?」
と、笑顔でレ級に訪ねるのであった。
レ級はそんな鳳翔を見ながら
ボーッとしていたが、状況を理解してきたのか
座敷の上で佇まいを正し、頭を下げ
「オ願イ致シマス。頂キタイデス」
と、神妙な顔で答えていた。
レ級のそんな姿に、鳳翔は笑顔を浮かべながら
「かしこまりました。少々お待ち下さいね」
そう答えるのであった。
レ級と鳳翔のそんな姿は
傍から見れば、駄目亭主と良妻のような姿である。
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トントントントン、と居酒屋鳳翔の店内に
葱を切る心地よい音が響き
火にかけられている3つの鍋には、
揚げだし豆腐と、味噌汁に使うだし汁、
そして、揚げ出し用のごま油が入っており、
なんとも言えない良い香りを醸し出していた。
そして、料理を作る鳳翔は
額に少しの汗を浮かべながらも
手際良く、切った葱と細かく切った豆腐を
沸騰した出汁入りの鍋に放りこんでいく。
「ミゴトナ手際ダナァ・・・」
レ級は、完全に眠りから覚めたのか、
居酒屋のカウンターに座り
しみじみと、鳳翔の手際を観察していた。
「そんなことはありませんよ。レ級さん。
慣れれば誰でもできるものです」
鳳翔はにこやかにレ級の言葉に答えながらも
水切りをして大きめに切った豆腐に、小麦粉を塗していく。
そして、ごま油を熱した鍋に、小麦粉を塗した豆腐を入れると、
ジュウウという良い音と共に、豆腐とゴマ油の良い香りが店内に充満していく。
「オォ・・・オ見事。オイシソウダナァ・・・」
レ級は思わず、豆腐の揚る香りに
笑顔でジュルリとよだれを垂らしながら呟いていた。
鳳翔は、そんなレ級に
「ふふ、もうちょっとですから。」
語りかけると同時に、葱と豆腐を入れた味噌汁鍋の火を止め、味噌を溶いていく。
そして、味噌が溶けきったところで、再度火にかけ、
沸騰する直前まで加熱していく。
味噌汁で一番難しいのがこの、味噌を投入した後の加熱のタイミングである。
加熱しすぎて煮立たせても辛くなって、味噌の風味が飛んでしまい
加熱が足りないと、味噌のもっさりとした風味が残ってしまう。
鳳翔は火加減をしっかりと見ながら、
味噌汁が一番美味しいタイミングを見計らいつつも
ゴマ油に投入していた豆腐を皿に上げ
その上から、用意しておいた、だし汁をかける。
すると、ジュウという音と共に
豆腐に出汁がしみこみ、なんとも言えない香りを醸し出していた。
「オォオ・・・・!オイシソウダー!」
レ級はその光景に、思わず叫ぶ。
鳳翔は、レ級を尻目に、最後の仕上げとして
揚げ出し豆腐に葱と生姜、そして大根おろしと鰹節を乗せていく。
それと同時に、味噌汁の鍋の淵が少しだけ泡立った事を確認すると
鳳翔はサッと火を止め、小皿に味噌汁をとり、少し味見をする。
(うん。いい味です)
自分のみそ汁の味に納得した鳳翔は
味噌汁を器に移し、完成した揚げだし豆腐と共に
カウンターに座るレ級に、声をかけながら
「ふふ、お待たせしまた。
葱と豆腐のお味噌汁と、揚げだし豆腐です。
両方とも熱いので、気を付けてくださいね?」
鳳翔は、レ級に笑顔で料理を差し出していた。
「オォー!アリガトウ!
ソレジャアサッソク、イタダキマス!」
レ級は料理を笑顔で受け取ると
パキっと良い音で割り箸を割りながら
早速、味噌汁を頂いていた。
ズズズ
レ級が静かに味噌汁をすする音が店内に響く。
鳳翔は、その姿を少し緊張した面持ちで見守っていた。
自分の作った料理が、深海棲艦の口に合うのかが心配だったのである。
(タコヤキと煮物がお口にあっていたようなので
大丈夫だとは思うのですが・・・)
心配しつつ、レ級を見る鳳翔を横目に、
当のレ級は淡々と、味噌汁を飲んでいく。
そして、ある程度味噌汁を飲んだレ級は、
無言のまま、揚げだし豆腐をつつき初めていた。
レ級が、割り箸で揚げだしの豆腐を割ると
断面から湯気が立ち、豆腐の良い香りがレ級の鼻を突く。
レ級は豆腐の香りに、思わず笑顔になりながら、
出汁をたっぷり含んだ衣と
薬味である大根、葱、生姜、鰹節を乗せ
揚げだし豆腐を口に運んだ。
するとどうだろう。優しい出汁の味と
とろり、とした豆腐の味が融和しつつも、口の中に広がるだけではなく、
ネギや生姜といった薬味が、アクセントとして揚げだし豆腐の味と絡み合い
何とも言えない旨みを醸し出していた。
そして、その味を堪能したまま、レ級は味噌汁を飲む。
すると、味噌汁の出汁と、香り立つ味噌の香りが
揚げだし豆腐の味と絡み合い、なんとも言えない旨みを更に、醸し出す。
「・・・ッ、ハァー・・・・」
レ級は、鳳翔の料理に、思わずため息をついていた。
その顔は、穏やかであり、それでいて満足そうである。
鳳翔は、満足そうなレ級の姿を見ると
「お口に合ったようで、なによりです」
と、安心したような笑顔でひっそりと呟いた。
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カチャカチャと、食器を洗う音が響く居酒屋鳳翔。
レ級は、鳳翔の料理を完全に食べつくしていた。
「インヤァー。オイシカッタ。
鳳翔ガ深海棲艦ニナッテクレタライイノニナァ」
居酒屋鳳翔のカウンターに座りながら
レ級は一人ぼやいていた。
鳳翔は、そんなレ級の言葉に
「ご満足していただけて何よりです。
ですが、深海棲艦になるのは無理ですよ。
ここにいる艦娘や、提督に料理を出せなくなりますから」
食器を洗いながら鳳翔は、苦笑を浮かべながら
レ級の言葉に答えつつも、逆に一つの質問をレ級に投げかけていた。
「そういえばレ級さん。
今晩はいかが致します?
もし今晩も呑みたいというのであれば
提督に話しを致しまして、配慮しますけれど」
鳳翔の言葉に、レ級は少し上を見て
「ソウダナー。呑ミタイ!
ッテノガ本音ダケド・・・」
そこまで言うと、鳳翔の方を向き
「艦娘ノ憩イノ場ニ、イツマデモ
深海棲艦ガイチャダメダロ。
今日、2300グライニナッタラ
大人シク帰ルヨ。
ソレマデハ、ココデオトナシクシトク」
と、レ級は笑顔で、手をひらひらさせながら答えていた。
「そうですか。ちょっと残念です。
ですが、わかりました。
それでしたら、出立するまでに
たこ焼きと煮物、あと揚げだし豆腐・・・
あとは珍しいビールを用意しておきましょうか」
鳳翔はそんなレ級に、少し苦笑しながら話すのであった。
「オォ?予想外ノオミヤゲガ!
アリガトウ、鳳翔サン!」
レ級はそう叫びながら、鳳翔の手をとり
カウンター越しに握手を無理やりかわしていた。
鳳翔も少しだけ困った顔をしながら
それに応じ、手を握り返していた。
「お礼には及びませんよ。
また、いつか呑みに来ていただければ、それで。」
鳳翔は握手を返しながら、笑顔でそうレ級に話しかける。
レ級も、その言葉を聞いて
「オウ。絶対クルゼ。
鳳翔ノ料理ト酒、ウマイカラナァ。
マ、提督トカ艦娘ニトッテハ迷惑ダロウケドナ!」
良い笑顔をしながら、鳳翔にそう言い放ちつつ
お互いに目を会わせ、再度握手をする。
すると、お互いに我慢できなくなったのか
フフフフと、鳳翔とレ級の笑い声が
呉鎮守府、居酒屋鳳翔の店内に響いていた。
そしてその日の2300。
何事もなく、呉鎮守府から、無事にレ級は撤退を開始することとなる。
提督と隼鷹と龍驤、そして居酒屋の店主である
鳳翔の4人が、見送りに桟橋まで来ていたという。
もちろん、お土産用として鳳翔特製の料理である、
「揚げだし豆腐」「高野豆腐の煮つけ」「たこ焼き」
そして、珍しいビール・・・「コロナビール」が
撤退するレ級の両手いっぱいに、抱えられていた。
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レ級はその後、艦娘の攻撃を受けることなく
呉鎮守府から無事、深海の拠点へと帰還していた。
実は、ツマミとビールをゲットしたことにより浮かれていたレ級は
周囲警戒を怠ったせいで、夜戦帰りの呉第一艦隊の艦娘に発見をされていたのだが
『・・・なんなんデース?あのレ級。
フードとビールを両手に抱えテ・・・。
マー、こちらモ夜戦帰りデス。
レ級に戦意は無いようデスし、手は出さないでおきマース。
皆さーん。レ級に警戒しつつ、鎮守府へと舵を切ってくださいネー!』
という、艦隊旗艦の判断で、見逃されていたのである。
そんなこととはつゆ知らず、
レ級は早速、拠点の机に座りながら、酒を飲み始めていた。
「クァー!ウマイッ!揚ゲダシ豆腐トビール最高ッ!
メキシコノ、コロナビールテイッタッケ。
日本ノビールヨリ、優シイケド、味ガシッカリシテル」
ビールを呑みながら、鳳翔の料理をつつくレ級の顔は
たまらなく幸せそうな笑みを、浮かべていた。
そしてレ級は、たこ焼きを一つつまみ、口に放り込むと同時に、
コロナビールを瓶のまま一気に呑んでいた。
ゴッゴッゴッゴッゴッ
という音と共に、レ級の喉に、
ホップの香りが心地よいビールが流れ込んでいく。
「クゥー・・・・ウマイッ」
そう叫ぶと、レ級は更に鳳翔の料理をつまんでいく。
鳳翔の料理は酒の味に負けず、
出汁がしっかりと効き、冷たくなっても美味しさを保っていた。
「冷タイケド、鳳翔ノ料理ハ本当オイシイナァ。
アァー。コレデ、他ニ呑メル深海棲艦ガイレバナァ」
レ級は、鳳翔の料理と酒で笑顔を浮かべつつも、ぼそりと呟いていた。
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酒を飲むレ級を影から覗く深海棲艦の姿が一つ。
その視線は、レ級が呑むコロナビールと
ツマミであるタコ焼きに、釘づけになっていた。
「オイシソウ・・・
アノレ級、ドコデアンナ料理トオサケ、手ニイレテルンダロウ?
・・・コンド、一緒ニ戦場ニデテミヨウカナ」
そう指を咥えながら呟く姿は、白い姿に小さな体の、
とある北方に潜む姫の姿によく似ていた。
妄想、捗りました。裏タイトル 揚げだし豆腐とコロナビール。