ちょっと変わった酒飲みの深海の船。
たこ焼きと酒を港湾棲姫に全て食われたエリレさん。
再度、鳳翔さんにツマミを作ってもらおうと、鎮守府へと足を運ぶようです。
7 提督とエリレさん。
広島にある呉鎮守府。
時間は既に、深夜0時を過ぎようとしていた頃、
居酒屋鳳翔に、2隻の人影があった。
「鳳翔ゥー。ワタシってババァなんですカ?
戦艦レ級に面と向かって言われたんデース・・・ウゥ。
あれっ、もう飲み物がないデス・・・・!
ビールもう一杯お願いしマース。
まだまだ呑み足りないデス。」
鳳翔特製「ゴロっとしたジャガイモが入っているポテトサラダ」
を摘みつつ、ギネスビールを呑みながら、店主である鳳翔に絡む金剛と
「金剛さん、落ち着いて下さい。
といいますか、呑み過ぎは良くないですよ?金剛さん
そろそろ、呑むペースを落とされたほうがいいですよ」
そんな金剛を、心配そうな顔で見ながらも
少し困った声で、相手をしている鳳翔の2人である。
金剛は鳳翔に諭されながらも、赤い顔で、更に言葉を続けていた。
「ムゥウ。そうは言うんですけれどぉ・・・。
ババァとか言われタラ、呑まなきゃやってられないデース!
そりゃあ、呉鎮守府だと、ワタシが一番年上デース!
デモ、だからといって、なんでババァとよばれるんでーすかあー!」
金剛は立ちあがりながら、ドン、とカウンターに両手を付き、
上半身を傾け、鳳翔に一気に顔を近づける。
そして、酒臭い息を鳳翔に吹きかけていた。
「こ、金剛さんはお若いですよ。
敵のレ級も、きっと本当はそう思っていませんから。
大丈夫、大丈夫です」
鳳翔はカウンターから少し身を引くと、
戸棚から味噌汁用の椀を取り出し
作り置きのアオサのみそ汁を、
戸棚からとりだした椀に注ぎながら
困った顔で金剛に話しかけていた。
「ということで、ひとまずは落ち着いて下さい。金剛さん。
こういう時は、こちらの温かいお味噌汁でも飲んで下さい。
気持ちが落ち着きますから。ね?」
鳳翔はそう言うと、すかさずアオサの味噌汁を金剛に差し出していた。
金剛は、一瞬ぼけっとするも、カウンターに座りなおし
鳳翔から味噌汁を受け取るとズズズッ、っと味噌汁を口に運んでいた。
すると、金剛の舌と鼻に、アオサの海の薫りと味が広がり
そして、海の薫りを追いかけるように、味噌汁の出汁の薫りと、
味噌の風味が口の中にすぅっと広がっていった。
金剛は、鳳翔の味噌汁の優しい味に、ホッと一息つく。
「Oh・・・。良い海苔の香りデース・・・」
「落ち着かれましたか?金剛さん。」
鳳翔はそんな金剛を見ながら、
ほっとした表情を浮かべながら口を開いていた。
「落ち着きまーした・・・。美味しかったデース」
金剛は味噌汁を飲み切り、そう呟くと次の瞬間、
ゴンッと音を立てて頭をカウンターに打ち付けていた。
「ウゥウウ・・・、鳳翔に絡むなんて。
古参の戦艦として、恥の極みデース・・・」
そして、頭をカウンターに付けたまま、一人ぼやいていた。
戦艦金剛、完全に駄目な酔っ払いである。
鳳翔はそんな金剛を見ながら
(仕方のない方ですね。
お酒さえ入らなければ、真面目な方なのに・・・
そうですね。幸い、今日は他に誰もいませんし
今日はとことんお付き合いしましょうか)
そう考え鳳翔は、にこやかに金剛に声をかけていた。
「ふふ、金剛さん。お気になさらずに。
今日は先輩後輩という関係ではないんですから。
私は居酒屋鳳翔の主人。そして、金剛さんはお客様です。
絡み酒は勘弁ですが、愚痴はいくらでも聞きますよ?」
「・・・・本当デースカ!鳳翔ぅ!」
金剛は鳳翔の言葉に、酒で酔っているのか、
真っ赤な顔をガバッと上げ、鳳翔の顔を見る。
「ええ、とことん。
時には金剛さんも、そういう時が必要でしょうから」
そう言いながら、金剛を見る鳳翔の顔は、
菩薩のような優しい顔だった。
鳳翔の顔をみた金剛は、更に赤い顔で笑顔になりつつ
ビールグラスを勢いよく、鳳翔に差し出し
「それだったら!鳳翔もビールのむデース!
一緒に飲んだほうが楽しいデース!」
と、叫んだのであった。
「仕方の無い方ですね。
まぁ、幸いにも今日は金剛さんの他に誰もいませんし。
せっかくですから、頂いちゃいますね」
鳳翔はそう言いながら、自分用のグラスを戸棚から取り出した。
そして、金剛のグラスも受け取り、鳳翔は笑顔のまま2つのグラスに
ギネスビールを注ぐのであった。
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金剛と鳳翔が居酒屋でビールを楽しんでいる頃、
呉の提督は、桟橋でまたもや釣り糸を垂らしていた。
「ふふふ、今日は大漁だなぁ。いいぜ、いいぜ」
提督は釣り用の小さな椅子に座りながら、一人呟く。
その顔は、いつにもなく笑顔であった。
なぜならば、クーラーボックスの中に
「平目」、しかも30㎝越えの平目が
4匹も鎮座していたのだ。
そして、提督はクーラーボックスに入っている平目を
思い出しながら、今夜の酒の事を考え始めていた。
「あぁ、素揚げ、刺身、塩焼き・・・
鳳翔に料理してもらって、だ、
出来たてをビールで頂く訳だ。」
にやにやと笑ったまま一人呟く。
口元には、若干のよだれが見える。
そして、提督のその手は、
缶ビールが仕舞われているはずの
クーラーボックスへと伸びていた。
「いいねぇ、いいねぇ。
よし、前祝いだ。
ビールを一本・・・・あっれ?」
提督は缶ビールを出そうと、クーラーボックスを空けたのだが
驚くことに、缶ビールが一本も残っていなかったのだ。
「あっれ、おっかしいなぁ。
確か残り2本は間違いなくあったはずなんだが・・・?」
そう呟きながら提督は、平目をどかしたり、氷をかき分けたりと
クーラーボックスの中を隅々まで、缶ビールを探していった。
だが、やはりビールはどこにも見当たらない。
(もしかして、他の缶をとった時に
クーラーボックスから飛び出ちまったのか?)
提督はそう考え、ちらりとクーラーボックスの脇を見たときに、
更にあることに気づいたのである。
「むぅ。本当にビール、どっこにも無いな。
・・・あれ?なんで
クーラーボックスの脇に提督が置いておいたはずの
ツマミが跡形もなく無くなっていたのだ。
「・・・あっれ、これなんかデジャブ感があるな。
いや、
提督はそう呟きながら、海面をちらり、と一瞥すると
以前、深海棲艦にビールを盗られたときのように、
なにやら喋り声が聞こえてきたのである。
「ドウダイ、港湾棲姫。鎮守府ノオサケ、オイシイデショ」
「ウン。オイシイ。レ級、
ツレテキテクレテアリガトウ」
提督が喋り声の聞こえる方向を見ると
そこには、白い服を着て海面に立つ長身の人影と、
パーカー姿で海面に立つ、2隻の人影が、
あたりめ片手にビールを煽っている姿があった。
「タダ、レ級。コノビールチョット辛イヨ?」
「アァー。
湾岸ガ呑ンダ
「ナルホド。ビールモ色々種類アルンダ。
デモ、キライジャナイ」
提督は仲良く喋る2隻の光景に、一瞬固まりながらも
次の瞬間、両手にクーラーボックスの氷を掴み
海面に立つ人影に、思いっきり氷を投げつけていた。
「レ級、テメェ!人のビール何度盗めば気が済むんだバッカヤロォ!」
提督がそう叫ぶと、ゴンッという良い音が周囲に響き
投げた氷が直撃したのか、海面に立っていた2隻の人影が
パシャっと音を立てて、海面に倒れ込んだ。
そして次の瞬間、パーカー姿の人影
つまり、「戦艦レ級エリート」が立ちあがり、
「イッテエェナァ!氷ハヤメロッテ!提督殿ォ!」
レ級は提督に向かって大声で叫んだのである。
提督は眉間にしわを寄せながら、
レ級の叫びに負けないくらいの大声で、更に叫ぶ。
「だったら普通に声かけろっつーんだよ!
なんで一々ツマミとビール持っていくんだよ!
私の楽しみを返せっ!」
「声カケタケド、釣リニ夢中デ反応シナカッタジャン!
ダカラ気ヅクマデ港湾ト酒ヲノンデ・・・・
・・・アレ?港湾?」
レ級はそこまで叫んだところで、港湾棲姫が声を上げない事に気づく。
そしてレ級は、提督から目線を外し、自身の正面で酒を煽っていたはずの
港湾棲姫の方に首を向けた。
するとそこには、プカリプカリと海面に漂い
気絶している港湾棲姫の姿があった。
レ級は港湾棲姫の姿に驚き、一瞬固まったものの
すぐさま港湾棲姫に近づき、状態を確認していた。
「大丈夫カァ!港湾棲姫ィ!」
「・・・・港湾棲姫ぃ!?お前なんてモンを鎮守府に連れて来てんだよ!」
「ウルッサイ!チョット待ッテ!」
そう叫びながらレ級は焦った顔で、港湾棲姫を抱きかかえ
顔をペシペシと叩いていた。
「レ級。ダ・・・大丈夫・・・。
タダ、アタマガ痛イ、カラ、少シ、寝カセテ・・・。」
港湾棲姫はそういうと、カクリと意識を失った。
よくよく確認すると、港湾棲姫の頭には
大きなたんこぶができていた。
「港湾棲姫ィ!?アバババ、ドウシヨウコレ!
無理ヤリ鎮守府ニツレテキテ怪我サセタトカ
流石ニ他ノ姫ニブットバサレル・・・!」
レ級は珍しく焦りながら、港湾棲姫を優しく抱き抱えつつ
港湾棲姫の顔をペシペシ叩き、揺らし、意識を保たせようとしていたが
奮闘むなしく、港湾棲姫は全く反応をしない。
「レ級殿?」
そして、それを見ていた呉の提督は
戦艦レ級エリートに、声をかけていた。
「レ級殿、港湾棲姫を連れてきたのは頂けませんが
依然と同じように、酒を呑みに来たということで変わりありませんかな?」
その姿は、プライベートの状態から、
完全に提督モードへとスイッチしていた。
「ソウダヨゥ!今回、オ土産ニ秋刀魚モアルンダヨゥ!
アァー!港湾棲姫ィ、起キテッテバァ!」
レ級は提督の言葉に答えつつも、港湾棲姫に気をとられているのか、全く余裕が無い。
そして、提督はレ級の姿を見ながら、更に言葉を続けていた。
「であれば、港湾・・・いえ、お連れ様も
一緒に鎮守府内にいらっしゃってはいかがでしょうか?
幸いにして、今、呉の鎮守府には最低限の艦娘を残すのみです。
ドックも空いていますので、いざという時の治療も可能です。
ということで、お連れ様が気がつくまで、
提督は笑顔を少し浮かべながら、レ級に提案を行っていた。
つまりは、港湾棲姫を治療しつつ、酒を飲んでいかないか、ということである。
レ級は提督の言葉に対し、目をパチクリとさせ、無表情になっていた。
「ま、何よりですね。また仕事の愚痴を聞いて下さると有難いんです。
上にも、下にも、同僚にも、なかなか話せないものがあるんですよ」
「オ・・・オォ!?聞ク、聞ク、ソシテ呑ムヨ!
呉ノ提督殿。感謝ノ極ミデス。」
レ級は提督の言葉に、お辞儀をして答えていた。
そして、ジャブジャブと、港湾棲姫を抱えたまま桟橋の方へ
歩みを進め、桟橋の上へとあがり、口を開いた。
「呉ノ提督殿、感謝致シマス。少シノアイダ、オ世話ニナリマス。
迷惑ニナラナイ様ニ、早イウチニマタ、出立致シマスノデ・・・」
桟橋に上がったレ級は、小さくなりながら
提督に改めてお辞儀をしながら、お礼を言っていた。
そして、提督はレ級の言葉を受けて、口を開いていた。
「いえいえ、困った時はお互い様です。
・・・というか、ビールを奪われたとはいえ
氷を投げて港湾棲姫に危害を加えたのは私ですからね。
多少なりとも、補てんはさせていただきます。」
提督はそういうと、レ級と同じようにお辞儀を行っていた。
そしてお互いに顔を上げ、目を合わせる。
少しの静寂が桟橋を包むが、次の瞬間、
「ふふふ」「ハハハ」
と、姿勢を崩して、お互いに笑い声を上げたのである。
「それで?今日は何を摘みに来たんだよ、レ級」
笑顔のまま提督は、レ級に問いかけていた。
するとレ級も笑顔で
「インヤァ!港湾棲姫ガ鳳翔ノ酒ト料理ゼンブ食ッチャッタンダ。
ダカラ、ニモノト、後何カ美味シイモノガアレバナァッテ!」
そう答えていた。
提督はレ級の答えに、笑い声を上げながら口を開く。
「はははは!港湾棲姫が、鳳翔の料理を、ですか!
まぁ、気持ちはわかる。旨いからな。
それにしても、料理が無くなったから鎮守府に来るなんてよぉ!
そんな深海棲艦、聞いたことねぇよ。」
「ショウガナイジャン。無クナッタンダモン。
ッテコトデ、サッソク居酒屋鳳翔、イコウゼ?」
提督の言葉にレ級は、少し不機嫌そうな表情を浮かべながらも
港湾棲姫を抱えたまま、鎮守府内へと歩みを進めていた。
「レ級、お前なぁ・・・ここ私の鎮守府だぞ?
せめてここの責任者である私の、釣り具の片づけを手伝うとか
そういうちょっとした気遣いは無いのか?」
少し不機嫌そうな顔で、提督は鎮守府へと向かうレ級の背中に声をかけていた。
レ級は提督の言葉に、歩みを止めずに首だけを向け言葉を返す。
「ナイ、ダッテ敵ハ敵ダモン」
「この野郎、鳳翔の酒と料理食わせねぇぞ」
レ級は提督の言葉に、一瞬足を止め、振り向く。
そして、信じられない速度で桟橋に戻って来たかと思うと
「クーラーボックス持チマス提督殿!」
そう言って、港湾棲姫を背中におぶりながら
提督のクーラーボックスを持つのであった。
(・・・現金すぎるだろこいつ)
提督はレ級の姿を見ながら、呆れかえるも
すぐさま釣り具を片づけ、鎮守府へと足を進めていた。
「よろしい、それじゃあ参ろうか。
ひとまずは魚の仕込みもあるから
居酒屋鳳翔へ向かって、それからドックでいいな?」
「モチロンデアリマス!マム!」
提督海軍、呉鎮守府を纏め上げる提督。
それに付き従う、戦艦レ級エリートと気絶した港湾棲姫。
異質な2人(隻)が、肩を並べ歩く、鎮守府の夜であった。
傍から見れば、なんとも言えない混沌とした雰囲気であったことは、言うまでもない。
捗りました。裏タイトル「ポテサラとビール」