TURN-1(前篇) HEROvs竜の軍勢
「さてと……荷物の整理はできたな。」
俺は入学式が終わった今、デュエルアカデミアのブルー寮の私室にて実家からまとめてきた自分の荷物の整理が一段落ついて、ベッドに腰掛けた。
「しかし、いくらなんでも生徒の部屋一つにどんだけの費用出すんだか……」
俺はあまりにも待遇が特別すぎるブルー寮の私室にちょっと、引け目を感じている。
俺の実の両親も養父母もかなり金持ちの人間であり、それなりの生活はしていたがさすがに少し裕福な一般家庭の生活を送っていただけなのでこの贅沢は慣れない。
どっちの両親も俺らには普通の生活を送って欲しいと言う願いからそう言った生活スタイルにしてくれたのだ。
本当に感謝してもしたりない。
そもそも、俺は前世でおそらく他人には理解できないほどの壮絶な毎日を送っていたことからベッドの上で寝ること自体にたまに涙が出そうになる。
朝昼夜に三食の食事がちゃんと出るだけでどれだけ幸福なことか。
「ダメだ……この部屋にいるだけで色々と辛いことを思い出す……
仕方ない、少し散歩するか……」
〝マスター……うぅ……御労しや……〟
俺の苦悩の日々を見続けていたドラゴン・ウィッチは涙を流していた
と言うか、こいつは俺の記憶が残っている最初の転生時代から俺のことを見てきた。元々、彼女との出会い自体がある意味では始まりだったとも言える。
かつてのこいつの持ち主は俺の事を忘れた人間で俺から愛するデッキを奪い去った挙句、こいつのこともあろうことか、屑カード呼ばわりして「お情けだ」と言わんばかりに、まるでゴミを扱うかのように俺の前にこいつを投げ捨てた。
俺とこいつは似た者同士だ。大切な者に裏切られ捨てられた。ある意味、彼女を『相棒』としたのはそのためでもあるんだろう。
同じ悲しみを知るからこそ、彼女を1人になどしたくなかった。同じ苦しみを知るからこそ、彼女に寄り添ってあげたかった。同じ怒りを知るからこそ、全てに反抗したかった。
「はあ……ほら、泣くな、ドラゴン・ウィッチ……
気持ちは嬉しいが俺はお前の涙なんて見たくないんだから。」
俺は自分の愛すべき相棒に声をかけた。
そうだ、俺はこいつの涙なんか見たくない。だから、俺はこいつを拾った。あの傷ついた彼女の姿なんか二度と見たくなかったから。
〝だって……マスターの人生を考えると……〟
ドラゴン・ウィッチが涙を流しながら、そう言ったきた。
だけど、俺はむしろ、彼女が過去を振り返って逆に自分の過去を思い出して悲しまないか不安だった。いや、彼女のことだ。多分、自分のせいで俺が不幸になったと背負わなくてもいい罪悪感を感じてしまう可能性もある。
だから、俺はあることを告げようと思った。
「なあ、ドラゴン・ウィッチ……確かにこれまでの人生は幸せだとはお世辞にも言えない。
だけど、俺にとっては君との出会いだけは幸せだった。
……はっきりとそれだけは胸を張って言える。」
〝うっ……!それは……〟
俺が心から思ったことを告げるとドラゴン・ウィッチは少し顔を曇らせて俯き、暫くすると彼女はゆっくりと顔を上げて
〝卑怯です……マスター……〟
彼女は俺に多少の文句を言いたげであったが、これ以上は何も言おうとしなかった。
「ま、とりあえず
外に行こうか?」
〝はい、マスター!〟
俺が部屋を学園を回ることを告げると彼女はいつものように明るい声で俺と一緒に歩き回ろうとした。
「さて、とりあえずどこに行こうか……
デュエル場でも行くか」
俺はブルー寮から出てからのことを考えたが、やっぱり先ずはデュエリストたる者、決闘場を見に行きたいところだ。
ちなみに俺はデュエルそのものは嫌いじゃない。
確かに長い転生の中で俺は裏デュエルで死んだ方がマシなことをしたり、文字通り命懸けのデュエルをしてきたが、それでも俺にとってデュエルは掛け替えのないものだった。
まあ、持っているカードを狙って裏社会の人間に殺されかけたり、実際に殺されたりはしたけど。
俺のデッキのカードたちは実際、普通の一般人が構築したらとんでもない費用がかかる連中が多い。俺がこの転生人生でこのデッキを再び作れるのはこいつらとの縁のおかげでパックをたまたま買ったら当たったので最低限度の額で集められるからだ。
それに俺のデッキには一枚で状況を覆せる強力なカードも何枚かいるので狙われる理由も理解できるが。
でも、俺はデッキのカード達を一度たりとも道具やコレクションだとは思ったことはなかった。
だから、死んでも俺はこいつらを手放すつもりなんかなかったし、そんな連中にこいつらを渡したくなんてなかった。
仮に俺がカードを譲るとしたらそのカードの実力を十二分に引き出せて、なおかつ大切にしてくれる人間以外に俺は絶対にカードは譲らない。
俺が殺された後にこいつらがどうなったのかがわからないのが転生における俺にとっての心残りだ。
俺が毎回、新しい転生を送るたびにそのことを聞こうとするとドラゴン・ウィッチは記憶がないらしい。
もしかすると、俺が死ぬことでこいつの精霊の力は失われるのかもしれない。
つまり、俺の死=こいつらの死に繋がる可能性もあるのだ。
「そうなると……余計、死ぬわけにはいけないな。」
〝マスター……?〟
俺は亡き両親に対する『約束』に加えて、彼女との『絆』のために生きる決意をさらに固くした。
そんなことを考えながら歩いているとデュエル場に着いた。
しかし、俺はどうやらゆっくりと見学できるような気がしない。
なぜなら
「何かしっくりこないな
じゃあお前俺と勝負しないか?
それなら良いだろう?」
「っ!誰かと思ったら…!」
目の前で俺と同じ中等部上がりの顔見知りのオベリスクブルーの生徒が3人、そして、オシリスレッドの生徒2人が揉めていた。
「あ……」
俺はその後者の2人を見て、先ず驚いた。
それはその内の一人が先日行われた入学試験の実技試験において、この学園の教員の中でも姉さんを除くと最も実力のあるデュエリストであるクロノス教諭を倒した人間だからではない。
彼は俺がかつて生きた未来においては初代決闘王である武藤遊戯、そのライバルの海馬瀬人、武藤遊戯の親友の城之内克也と並ぶ程の伝説のデュエリストとして歴史に名を残した人間なのだから。
「遊城……十代……」
俺の心は感動のあまりに打ち震えてきた。
俺は目の前で伝説の英雄を目にしているのだ。
かつて、俺の生きたこことは違う未来では多くの人間が本やネットや色々なメディアで彼のことを知って来ただろう。
だが、俺は誰も知りえなかった生の彼に出会うことができたのだ。
俺はかつて、生きるために汚いデュエルをしてきたが、それでも俺はデュエリストとしての意地や矜持は持っていると自負は持っている。
目の前の彼を見て、心が動かないはずがない。
そして、彼の隣には彼の影響を最も強く受けたとされる後に俺の生きた時代にも残るプロリーグを創設した俺よりも背丈の低い少年がいた。
「丸藤翔か……あの伝説である『カイザー』の弟……」
俺はあまりの感動にしばらく、固まってしまった。
そう、俺は中等部の時にかつて、この時代においてデュエル界に名を残した2人の人間と会ったことでこの出会いも想定できたがやはり、本人たちに出会えたことは嬉しすぎる。
まあ、1人はちょっと何と言うか実物を見て少し幻滅したけど。
ちなみにその本人も目の前にいる。俺に中等部の頃から噛みついてくるのはこいつだ。
でも俺は心のどこかで感じている。きっと、この三年間で彼も成長するのだろうと俺は考えている。
この感動は例えるのなら、子供の頃に見ていた特撮のヒーローそのものに出会ったような感覚だ。
だけど、とりあえずこの状況はマズイな。
「おい、万丈目。
何やってんだよ?」
「な、矢代……!?」
「げっ!?矢代さん……!?」
俺の介入にオベリスクブルーの生徒たちはせっかく出した切り札を奈落の落とし穴で除去された時のような顔で反応した。
「ん?あんた誰?」
俺と面識0の十代はキョトンとした顔で訊いてきた。
「お、お前……!?
万丈目さんだけでなく、矢代さんのことも知らないのか!?」
万丈目の取り巻きの1人が十代に噛みつく様にそう言った。
「いや、知らないも何も彼は外部から来た新入生だろう?
知らないのは当然だろ?」
「いや……ですけど……」
そもそも、万丈目と俺の知名度はデュエルアカデミア系列の学校限定のものだ。
確かに俺は新しく使われることになった3種類のカードを使うことで有名だけどさ。
「ところで、何を揉めていたんだ?」
俺が訳を尋ねると十代が訳を言った。
「いや、俺たちはここでデュエルがしたいんだけど……」
「はっ!だから、言ってるだろうが!
ここは俺たちオベリスクブルーのデュエル場だ!
お前たちのようなドロップアウトボーイのオシリスレッドが使って良い所ではない!」
万丈目は天井のオベリスクブルーの象徴であるオベリスクの巨神兵のレリーフを指差しながらそう言った。
まあ、万丈目の主張も確かに間違ってはいないところは多少はあるが、さすがにオシリスレッド全体を落ちこぼれ扱いは俺は納得できない。
「ふ~ん……
じゃあ、オベリスクブルーの生徒が使うのなら別にいいんだな?」
俺はあることをニヤリと笑いながら思いついてそれを実行に移そうとした。
「なに……?」
万丈目が訝しむが俺はそれを気にせず、十代にある提案をした。
「えっと……
遊城十代君だっけ?
どうだい、俺とデュエルしないか?」
俺は十代のことを知らない様になるべく演技をしてそう言った。
さすがにあまり有名でない頃の十代のことをさも知ってるかのように言い過ぎると変質者扱いされそうだし。
それに未来のことを過去の人間にあまり知らせるのは歴史をひどく歪ませる可能性もあるし、なるべく口に出すのは控えた方がいいだろう。
まあ、と言っても俺の生きた時代に普及されていたとは言え、この時代には存在しない筈である召喚方法を含めたカード群がこの時代にある時点で歴史がひどく歪んでいる可能性は高いけど。
「えっ!?本当か!」
「な!?矢代!お前!?」
「別にいいだろ?
オベリスクブルーの生徒が使うんだし
それに……俺はデュエリストとして、彼と戦いたい。」
俺は心の底からの言葉を口に出した。
俺は『伝説』を目の前にしている。
確かに今の十代は恐らく、俺の知っている『歴史』の中における十代ほど強くないかもしれない。
けれど、俺は純粋に彼とデュエルをしたかった。
この気持ちを例えるならば、十代や万丈目があの初代決闘王、武藤遊戯と戦いたい気持ちだ。
「いいぜ!ワクワクしてきたぜ!」
「ちょっ、兄貴!?」
十代は俺の提案に子どものように嬉しそうに乗ってきた。
俺はその表情に姉さんを見ている様な気持ちになった。
「よし、じゃあ
楽しいデュエルを頼むよ。」
「おう!こちらこそ
よろしく頼むぜ!
えっと……」
「矢代……矢代輝久だ。
この学園では輝久と呼んでくれ。」
「そうか、輝久!
よろしくな!俺の名前は遊城十代だ。
十代て呼んでくれ!」
俺がデュエル場に上ると十代も乗ってきた。
そして、俺が自分の名前を名乗ると十代も名乗ってきた。
俺の手はあまりの感動とワクワクに震えていた。
いわゆる、武者震いと言うやつだ。
〝マスター、あまり興奮しちゃダメですよ?
プレイングミスにつながりますし〟
ドラゴン・ウィッチは俺に対してそう忠告してくれたが
「大丈夫さ、ミスはしないよ。
そんなことしたら、相手に失礼だしね。」
俺のルールを口にした。
俺はどんな時でも最善を尽くす。
下手なミスなんて全力で戦う相手に失礼だからな。
そして、俺と十代は互いに向き合い
互いにデュエルディスクをセットすると
「「デュエル!!」」
互いにデュエルの開始を宣言した。
そして、デュエルディスクが先攻と後攻を決めた。
結果は
「どうやら、俺の先攻だね。」
俺の先攻だった。しかし、施行された新ルールによる先攻ドローがなくなったのは少し寂しい。
俺は自分の5枚の手札を確認した。
「いきなり来てくれたか……」
俺は手札を確認し終えると横にいる彼女に信頼を込めて視線を移した。
〝えへへ……〟
俺の言葉に彼女は嬉しそうに微笑んだ。かつて持ち主に捨てられた彼女からすれば、この言葉だけでも嬉しく感じるのだろう。
そして、俺自身も彼女のことを心の底から信頼している。
「いくよ、俺は手札から【ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-】を召喚しカードを2枚伏せてターンエンド。
いきなりだが頼むぞ、ドラゴン・ウィッチ。」
〝はい、マスター!!〟
俺がモンスターゾーンに彼女のカードを置くと、フィールド上に金髪のポニーテールに赤い瞳をした鎧を纏った竜の守護者の力を持つ彼女が元気な声で俺の言葉に応える様に現れた。
俺は手札にいる彼女を召喚し、最初の布石を準備して一度目のターンを終了した。
【ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-】
ATK1500
DFK1100
TURN―2
先攻 矢代輝久 LP4000 手札3枚 モンスターゾーン:【ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-】×1 魔法&罠:伏せ×2
後攻 遊城十代 LP4000 手札5枚 モンスターゾーン:なし 魔法&罠:なし
「おい、矢代!いくらなんでもそんなモンスター一体を召喚して終わりなのか?」
「何?」
「ん?どういうことだ?」
俺の初ターンのプレイングを見て、万丈目は噛みついてきた。
「いくらなんでも、そんなステータスも低くて効果も弱いモンスター一体だけしか用意しないのは油断しすぎだろ!」
「しょうがないっすよ、万丈目さん。」
「そうそう、オシリスレッドなんてあの程度のプレイで十分なんですよ。」
ステータスの低く、持っている効果も余り強いとは言えないドラゴン・ウィッチを召喚しただけでターンを終了したことに対して、万丈目は俺が手を抜いていると思ったのだろう。その万丈目の怒りを落ち着かせるのとそれに乗じて十代達、オシリスレッドを馬鹿にして優越感と虚栄心を満たそうと万丈目の取り巻き達は俺の対戦相手を侮辱しだした。
その言葉を聞いて俺は先ず、十代達の様子を見たが十代は全く動揺せずにいたが丸藤翔はやはり、落ちこぼれ扱いされたことにショックを受けていた。
しかし、この状況で最も深く傷ついたのは
〝………………〟
他ならないドラゴン・ウィッチだった。
かつての持ち主に捨てられた挙句、「屑」呼ばわりされた彼女にとっては使えないカード扱いされることにはとてつもない悲しみを覚えるのだ。
今の彼女は目に涙を溜めて泣きはしまいと堪えているがその姿はやはり見ていて辛いものだった。
何よりも俺は彼女の「痛み」を知っている。
俺は一瞬、万丈目達をジッと睨んだ。しかし、それは一瞬だけで良かった。
「大丈夫だ、ドラゴン・ウィッチ。」
〝マスター……?〟
俺はその言葉だけを彼女に伝えた。
「俺の今の言葉の意味はわかるよな?」
俺のたった一つのその言葉。それだけで俺は十分だと思っている。
俺のその言葉を聞くと、彼女は涙を流しそうになったことで俯いていた顔をそっと上げて
〝はい……わかりました。〟
ニッコリとした笑顔で俺の言葉の意味を理解してなんとか元気を取り戻した。
俺と彼女にとっては今の「大丈夫だ」と言う言葉だけでお互いに通じ合う何かがある。俺らにとっては今の言葉はそれほどの重さと意味がある。
「すまない……同じオベリスクブルーとして今の無礼を謝罪させてくれ。」
俺は彼女が大丈夫だと理解するとすぐに十代にオベリスクブルーを代表して謝罪した。
中等部の頃にこいつらは自分よりも弱い奴がレアカードを持っていると校内の規則で禁止されているアンティルールで相手のレアカードを強奪するようなことを裏で平気でしていた。まあ、それに関しては俺がその後にみっちりと嫌となるほどの屈辱な敗北を与えて奪われたカードも取り返したけど。
おかげで万丈目の取り巻き2人は俺に対してトラウマが残っているのか、俺を見るたびにデュエル中にスキル・ドレインや次元の裂け目を発動された瞬間みたいな顔をする。それに対して万丈目は俺に負けたことを根に持って何度も俺に怯まずに挑んできた。それに関しては俺は彼を尊敬している。彼が後に歴史に名前を残すのは多少なりと理解できるところがある。
だけど、俺は対戦者を馬鹿にされることをかなり嫌う。今、デュエルをしているのは俺と十代だ。それに対して、他人が野次を飛ばすことなど不快極まりない。だが、まず俺がすべきなのは今の野次で名誉を穢された対戦相手への謝罪だ。
俺が謝罪すると
「いや、大丈夫だ。気にしていないぜ!」
十代は何も感じていなかったかのようにケロッとしていた。
「え?」
俺はそんな十代の反応に一瞬、呆気に取られた。
「だってさ、デュエリストだったら皆全力で戦うもんだろ?
だから、お前がしたことだって意味があるんだろ?」
「……!」
これは彼がただ無邪気過ぎるからゆえの言葉なのか、それとも彼の何事にも囚われない器の大きさから来るものなのかはわからない。
彼は自然と見抜いていたのだ。一見、消極的にも見える今の俺のプレイング。その真意を理解したのかしているのかもわからない。
彼は心のどこかで俺の狙いを理解していたのだ。相手に自分の行動を見抜かれる。それはとても厄介なことで警戒すべきことだ。
「そうか、なら安心した……君の言う通りだよ。
俺はどんな相手にも常に全力を尽くす。それが俺の相手への最大の礼儀だと思っている。」
だけど俺はいつの間にか、そのことに笑っていた。
なぜか不思議とこの男を俺は嫌いになれない気がした。
そして、俺のデュエルに対する心意気を告げた。
「へへへ、じゃあいくぜ!」
「ああ、来い!」
俺の言葉を聞くと十代は山札に手をかけてそのまま
「ドロー!」
このデュエルにおける初めてのドローを行った。
十代の手札はこれで俺の元々の手札の枚数を超えて6枚になり、俺よりも多くの可能性を選択できるようになった
「よっしゃあ!輝久、いきなりだけど
俺のフェイバリットヒーローを見せてやるぜ!」
「……!本当か!?」
十代のその言葉を耳に入れた瞬間、俺は精神年齢からすれば年甲斐もなく心を踊らされた。
「俺は手札から魔法カード【融合】を発動し
手札の【E・HERO フェザーマン】と【E・HERO バーストレディ】を融合するぜ!」
そして、十代はその宣言を違えることはなく融合のカードを発動すると、フェザーマンとバーストレディが現れ融合によって生まれた空間に入りそこから輝きが生まれ
「来い!
【E・HEROフレイム・ウィングマン】!」
〝はっ!〟
その輝きの中から右腕に赤い龍の咢を持ち、左肩に白き翼を持つ緑色の肌のモンスターが降臨した。
【E・HEROフレイム・ウィングマン】
ATK2100
DFK1200
「いきなり、クロノス教諭を倒したモンスターだと!?」
「あ、ありえねえ……」
「すごいっす!兄貴!」
万丈目の取り巻き達は先程までとは打って変わってクロノス教諭を倒したモンスターであるフレイム・ウィングマンが一ターン目に召喚されたことに驚きを隠せずにいた。
丸藤翔はいきなりこのデュエルの勝敗を決するかもしれないモンスターの登場に自分の兄貴分に対して目をキラキラと輝かせていた。
「これが……フレイム・ウィングマン……!」
俺は今まで対峙することのなかったフレイム・ウィングマンの登場にワクワクするしかなかった。
俺の記憶に残る最も古い時代であるここよりも未来の世界ではシンクロが流行したことで融合使いが少なくなってしまった。
だから、フレイム・ウィングマンの実物を俺は見たことがなかったのだ。
そして、その実物を使役するのはそのモンスターの使い手として語り継がれることになる遊城十代本人なのだ。
それをワクワクしないでどうするんだ。
長い転生人生の中でこれほどの感動を覚えたのは久しかった。
それは子供の頃に誰もが感じたヒーローを見る様なものなのだろう。
「そして、俺はまだ召喚権を使ってないぜ
【E・HEROスパークマン】を通常召喚する!
来い、スパークマン!」
「……!」
【E・HEROスパークマン】
ATK1600
DFK1400
十代の言葉と同時に下級E・HEROの通常モンスターの中で最も攻撃力の高い雷を使う青と黄色をイメージした機械的なヒーローがフェールド上に召喚された。
融合を主軸としたデッキの強さは確実にモンスターをフィールド上に二体以上を召喚できるところだ。
シンクロやエクシーズを主軸としたデッキはフィールド上に下級モンスターを何体も並べるコンボが必要だが、融合は手札に融合カードさえあれば常に逆転の状況を作れるデッキなのだ。そして、何よりも融合は特殊召喚扱いのため召喚権は残る。
場にモンスターを用意してカードパワーで攻めるシンクロやテクニカルな動きを見せるエクシーズ、大量展開を見せるペンデュラムに対して融合はスピードとパワーに勝るデッキと言えるだろう。
「おい!矢代!
貴様、このままでは負けるぞ!」
万丈目は声を荒げてそう言った。
万丈目からしてみれば、自分たちと同じオベリスクブルーの生徒が自分たちが下に観ているオシリスレッドに負けることは嫌なのだろう。
それに万丈目は毎回、俺に負けている。
その俺が十代に負けたら自動的に十代より弱い扱いをされかねないからな。
実際、万丈目の主張は間違いではない。
十代のフィールドには相手のモンスターを戦闘で破壊することでそのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えるフレイム・ウィングマンがいる。
フレイム・ウィングマンの攻撃が決まれば、ドラゴン・ウィッチとの戦闘ダメージに加えてフレイム・ウィングマンの効果ダメージで俺のライフポイントは1900まで削られ、スパークマンの攻撃でさらに300にまで追いつめられるかなり危ない状況だ。
「一気に決めるぜ!
【フレイム・ウィングマン】で【ドラゴン・ウィッチ】を攻撃!
フレイム・シュート!」
普通ならな。
だけど、俺はそんなことは心配していなかった。
十代が攻撃宣言をして、フレイム・ウィングマンがドラゴン・ウィッチ目がけて自らの右腕を向けて炎を発射した。
普通なら、誰もが大ダメージを覚悟するが俺には余裕があった。
なぜなら
「来たか……!
頼むぞ、ドラゴン・ウィッチ!」
俺には
「はい!マスター!」
俺の言葉に応える様に彼女は自らの身体の前にバリアを形成して迫り来る火炎を防ぐことで自らの破壊を防いだ。
「ぐっ……!」
しかし、残りの熱は俺に当たり俺は戦闘ダメージを受けた。
矢代輝久 LP4000→3400
「なに……!?」
「馬鹿な!?」
「どうしてドラゴン・ウィッチは破壊されていないんすか!?」
「【ドラゴン・ウィッチ】の効果を発動したんだよ。」
戦闘終了後、無傷のドラゴン・ウィッチを見て十代と丸藤翔、万丈目たちは驚いている。
俺はそんな彼らのためにドラゴン・ウィッチの効果を説明しようとした。
「【ドラゴン・ウィッチ】は自らの戦闘、効果による破壊を手札のドラゴン族を墓地に送ることで回避できる効果を持っている。
これで、【フレイム・ウィングマン】の効果は不発だ。」
「【フレイム・ウィングマン】は
相手のカードを破壊して墓地に送らないと効果を発動できない。
やるな、輝久!」
十代は俺の説明に楽しそうに納得した。
「ああ、君に言ったからね。全力で勝ちに行くって。
俺は決して油断もしないし手抜きもしない。
今のプレイングはこれから始まる反撃のための下準備だ。」
「何?」
俺は十代にそう言って、今、確実に打った反撃への布石を説明しようとした。
「【フレイム・ウィングマン】の効果があることで必ず、最初に戦闘破壊を狙ってくることは予測できた。
常に相手が最善の道を狙うことを計算する……俺はこうすることで常に勝利と逆転の道を切り開いてきた。
ライフが0にならない限りは決して、勝利を諦めない。
俺のデッキのカード達はそんな俺に力を貸してくれる。
だから、決してドラゴン・ウィッチを始めとした俺のモンスターは雑魚なんかじゃない。」
「ぐ……」
俺は万丈目たちブルーの生徒たちのことを一瞥しながらそう言った。
どんなカードでも使い方次第では勝利の可能性をもたらす。確かにドラゴン・ウィッチのこの破壊耐性は手札のモンスターを犠牲にするという言う点は単体としては非効率的だろう。
だが、それは単体としての弱さに過ぎない。デュエルは決して、一枚のモンスターだけで勝敗を決するのではない。デッキの中に多くの仲間との連携こそが勝利をもたらすのだ。
だから、絶対にカードを馬鹿になんかしてはいけない。
〝マスター……〟
俺のその言葉にドラゴン・ウィッチは恥ずかしながらも嬉しそうに笑った。
「ほらな、お前は俺にとっては必要なカードなんだよ……
だから、安心しろ。」
俺は心の底から何の躊躇いもなくそう告げた。
〝……はい!〟
今度の彼女のその返事は強い自信が込められているものだった。
彼女が自信を取り戻したのを確認すると俺は今、墓地に送ったドラゴンに逆転への布石を託した。
「すげぇな……
だけど、俺にはまだスパークマンがいる!」
十代は俺が損害を最小限に止めて、なおかつ反撃の布石を用意したことに驚きながらもスパークマンでドラゴン・ウィッチを追撃しようとしてきた。
「いけ、【スパークマン】!
スパークフラッシュ!」
スパークマンが十代の攻撃宣言と同時にドラゴン・ウィッチに雷撃を浴びせようとした。
だが、俺はそれを見た瞬間
「……それを待っていった!」
「何……?」
今までのことが計算通りであったことにほくそ笑みながら
「行くぞ、【ドラゴン・ウィッチ】!」
〝はい!マスター。〟
「リバースカード発動、【竜魂の城】!1ターンに1度、このカードは墓地に存在するドラゴン族を除外することで自分フィールド上のモンスター一体の攻撃力を700ポイントアップさせる!」
「なんだって……!?」
場にいる相棒に反撃の準備が整ったことを告げて反撃のために打っておいた布石を展開すると、フィールド上に竜達が住まう居城が現れ、その竜の魂が仲間を助けるかのように場の【ドラゴン・ウィッチ】に貸す。
【ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-】ATK1500→2200
「行け、【ドラゴン・ウィッチ】!【スパークマン】を返り討ちにしろ!」
〝はああああああああああ!〟
「ぐっ……【スパークマン】……」
遊城十代 LP4000→3400
俺はそれを確認するといつもの様にそう言った。
そして、そのまま仲間の力を借りた【ドラゴン・ウィッチ】は強化された結界で雷撃を反射して【スパークマン】を返り討ちにし、十代と俺のライフは並んだ。
最初の攻防は互角と言える。しかし、俺は既に反撃の初手を確実に投じている。
そして、その激しさが残る序盤の戦いを終えると
「へへへ……
すごいな、輝久!
俺、ワクワクが止まらないぜ!」
十代は俺が既に猛攻の準備を整えていることに気づいたのか笑いながらそう言った。
今、それを理解しているのは互いに戦っている俺達だけだ。
こいつはデュエルを本心から楽しんでいるのだ。
だけど、それは
「あぁ、それは俺もだ。十代、今度は俺の番だ!
次のターンに俺はこの状況をさらに面白くするつもりだ!」
俺も同じだ。俺は直感でわかる。こいつは俺をさらに楽しませてくれる奴だと。
そして、俺は最初の自分の手札からいるあるモンスターに目を向けてそう言った。
「く~、なら俺も負けてられないぜ!ターンエンドだ。俺はリバースカードを一枚伏せてターンエンド!」
そして、彼はそう言ってターンエンドの宣言を行った。
そう、これから始まるのだ。俺と十代の本当の意味でのぶつかり合いは。
3ターン目
先攻 矢代輝久 LP3400 モンスター:【ドラゴン・ウィッチ-ドラゴンの守護者-】×1 魔法&罠:【竜魂の城】×1 伏せカード×1 手札1枚 墓地0枚 除外1枚
後攻 遊城十代 LP3400 モンスター:【E・HEROフレイム・ウィングマン】×1 魔法&罠 伏せカード×1 手札1枚 墓地4枚
とりあえず、少しだけ楽しそうな輝久君を書いてみました。
デュエルやっている時と平常時の輝久君の性格が多少、変わります