アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様 作:逆刄刀
人は人生の中で、たくさん緊張する場面に遭遇する。
習い事の発表会や部活動での大事な大会。大学受験や仕事のプレゼンテーションなど、人によって様々な場面がある。
榊もその例に漏れず、現在緊張する場面にいる。しかし、その場面は普通の人なら体験出来ないものだと思う。なぜなら、
「それじゃあ皆さん、これからシンデレラプロダクション・男性アイドルオーディションを行います。よろしくお願いします」
武内が挨拶するのに合わせて数人の男の子が挨拶を返す。榊もワンテンポ遅れてそれに
昨日下見をした会議室。白と青を基調基調とした広い部屋で、榊を含めた六人の候補者は横一列に並んでいる。
左端に位置する榊は、武内に促されて座る時にそれとなく右側を見た。
自分より背の高い人に低い人、歳が上の人に下の人。色々な人がいるのは当然のこと。ただ、その五人に共通して言えることは、
……何で皆さんそんな自信満々なんですかねえ。
不安な顔より自信に溢れている顔の方がいいのは承知の上。ただ実際にやるのは、最低でも榊にとっては難題である。
それを榊以外の全員が問題なく行えている。おそらく皆が養成所でレッスンを受けているだろう。それに加えて自発的に応募しているのだから、自信があるのは当たり前なのかもしれない。
意気消沈となりそうな気持ちをなんとか奮い立たせる。
……大丈夫、俺にだってあの人達よりアドバンテージが取れてるものがある。
そう自分を励ます視線の先、榊達と対面する形で置かれた椅子に腰掛けているのは、今西や武内といったシンデレラプロジェクトの関係者。それに、
「なお今回のオーディションでは、私達関係者だけでなく、シンデレラプロジェクトの皆さんにも審査員として参加していただきます」
そう話す武内の両隣には七人ずつの計十四人の女の子達が座っている。
その全員を見知っているのはきっと自分だけだろう。そう思うだけで、小さな優越感と確かな自信が持てる。
「ではオーディションを始める前に、今回のオーディションの責任者でもある今西部長からお話があります。──よろしくお願いします」
武内に促されて、今西は重い腰を上げた。
よっこいしょ、と前置きしてから簡単に挨拶を済ませると、目元にシワを寄せた笑みを見せて、
「みんな今日はわざわざ来てくれてありがとう。君達も分かっているだろうけど、今日のオーディションは普通のとはちょっと違う。このアイドル業界には様々なアイドルグループが存在するけど、十五人もいて男の子が一人なのはおそらく
だから正直僕は今も悩んでるいるよ。
というわけだから、と今西は改めてこちらを見渡して、
「今日は普通のオーディションのように無理に自分をアピールする必要はない。その代わり君達が僕達に提案してほしい。自分がここでどういった存在になれるのかをね」
今西の言葉は、榊の傾いた気持ちを立て直すのには十分すぎた。
……ああ、そうだよね。無理する必要なんてないんだよな。
無理に自己アピールをしようとしてもどうせボロが出てしまうのは目に見えている。
だったら着飾らない自分を見せた方がきっとよく見えるしその方が楽だ。
目線を泳がせれば昨日話した女の子達がいる。彼女達は昨日自分と話してどう思っただろう。今、他の人達と並んでどう思われているだろうか。
確認する必要はない。ただこのオーディションが終わった後に、少しでも自分がいいと思ってもらえれば幸いだ。
頑張ろう、昨日から何度も繰り返した思いを念頭に置き、榊は前を見据えた。
◆
「────」
どうしてこうなってしまったのだろうかと、昼食のサンドイッチを口に含みながら榊は長考していた。
時刻は既に十二時を過ぎており、周囲では各候補者達が、女の子と小さな集団をいくつか作って各々の昼食を食べながら談笑している。
榊もその例に漏れず、卯月、凛、未央と昼食を食べている。ただ他のグループと違うのは、
「榊君、その……大丈夫ですか?」
「────」
気を利かせて卯月が話を振ってくれるが、今の榊に返事をする余裕はない。
……散々だったなあ……。
今思い返してみても、面接は悲惨としか言いようのないものだった。
面接は武内からの質問に順々に答えるというシンプルなもので、質問の内容も決して難しいものではなかった。ただ榊に誤算があるとするなら、
……六番目って、普通に考えると結構不利ですよね。
不利というよりは大変という言葉の方が正しいだろう。六番目となるとあらかたの回答は出尽くしている。だからこそ、そこでの回答は大きなアピールになることもある。
ただし榊には、そのチャンスを掴むことができなかった。
昨日の面接練習でも、菜々から回答は複数用意しておくのがいいと助言は受けていた。
それでも用意しているのはせいぜい二、三個程度だ。
途中で順番を変えても……、と考えるのはいささか身勝手に違いない。
なぜなら自分の一つ前の人はしっかり答えられているのだ。こういう機転の良さも、きっとアイドルには必要なのだろう。
思わず出そうになるため息をぐっと堪える。
ここには卯月達がいる。彼女達はオーディションの最中もこちらを気にしてフォローしてくれた。
それなのに目の前でため息をつくのは失礼になるだろう。
「ちょっと、お手洗いに行ってきますね」
その場から逃げるように席を立つ榊に、卯月達はあえて声をかけなかった。
◆
「あれ? どうしたんですか、こんなところで」
トイレの前に置かれた長椅子にうつむき座る少女に、榊はそっと声をかけた。
「──天界からの使者か」
昨日と変わらない漆黒の衣装に身を包んだ蘭子は、一瞬こちらを見上げると、またすぐに視線を落とした。
……うわあ、無視できないじゃんこれ。
こんな人目のつくところで落ち込んでいるのは、もしかしてわざとじゃないだろうか。
仮にそうだとしても、ここで素通りするわけにはいかない。別にトイレは行こうと思ってきたわけではないし、時間潰しにはちょうどいい。だから榊は、蘭子の側まで寄ると、
「面接で疲れちゃったかい?」
その言葉に蘭子は再度顔を上げる。すると今度は、きちんと視線を交わらせた後に首を横に振った。
「天より墜ちし堕天使は、現世でも異端児ということか」
未だに蘭子が言っていることを全て理解はできないが、彼女が落ち込んでいる理由はわかる。
……面接のことだね。
面接では武内や今西などのスタッフ以外にも、シンデレラプロジェクトのみんなに一人一回質問することができていた。
内容は好きなアイドルやスイーツ、中には猫の種類など様々な質問があった。
だがそのどれもが、答えるには単純なものばかりだった。……蘭子以外は、
『我は漆黒の堕天使、神崎蘭子。我の贖罪に汝達の意を問おう!』
はい、何言ってるかわかりません。
それは当然榊だけでなく、他の候補者全員が言葉を失うほどだ。
誰もが失笑だけで答えられるわけもなく、最後は他のスタッフが先に進めてしまう始末である。
「ごめんね、面接の時上手く答えられなくて」
順番があったので榊が勝手に話せるわけではなかったが、仮に自分の番だとしても答えられなかったに違いない。
だから謝罪の言葉を述べる榊に、蘭子は小さく首を振って、
「いや、全ては我の驕りなり。堕天使は蔑まれるもの。たとえ純白の衣装を身をまとい、天界への昇天を望もうとも、それは不変の真理」
そっか、とそれとなく返事を返すが、やはり蘭子が何を言っているのか理解できない。
どうしたものか、と頭を悩ませていると、
「あら榊君、どうしたの? 二人揃って困った顔して」
どこか聞き覚えのある声に視線をやると、榊は自然とその人物の名前を口にしていた。
「高垣さん……」
どうしてここに? と疑問が浮かぶ榊に、楓は蘭子が座っている長椅子を指差して、
「隣に座っても、いーすか?」
昨日と変わらぬダジャレに、榊は真顔でどうぞ、と言うのが精一杯だった。
十二話 練習はあくまで練習はいかがでしたか?
みなさん本当にお久しぶりです。覚えて方もそうでない方も逆刃刀でございます。前話で早期の更新を宣言しておきながら、蓋を開けてみればまさかの10ヶ月……。失踪したと思われた方もいらしたでしょうし、私自身もこのまま失踪するのでは、とどこか他人事のようにおもっておりました。本当にすみません。
ちなみに今回の話は約3300文字となっており、それを10ヶ月で日割りすると、1日10文字程度しか進んでおりません。これは酷い……
これからは1日100文字を目標に頑張っていく所存ですので、もし見捨てないのなら応援宜しくお願いします。
ちなみにこれまでの後書きは私の言い訳やそれまでのモバマス情報などについてコメントしてましたが、このようにある程度間隔が開くこともありますので、次からはちょっと別のことを書いていこうかと思います。内容は次回からお書きしますので、それまで楽しみにしていただけたらと思います。(今度は1年後、なんて事にならないようにしなければ)