アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様   作:逆刄刀

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約3年ぶりに投稿してもいいじゃない。人間だもの


十五話 変化は突然に

「うーん……、しっかり寝たはずなのに、疲れが全然取れてないな」

 

 経験したことのない倦怠感に、榊は学校の階段を上りながら肩を揉んで対処していた。

 昨日は菜々と別れた後、鉛のように重い身体をなんとか家まで動かすと、母の言葉に返す余裕もなくベットに倒れ込んでいた。

 そして身体を動かすことも、思考を巡らす暇もなく眠りに落ちてしまった。

 晩御飯を無駄にしてしまったことを母は怒っていたが、そんなになるまで元気があるのは良いことだと満足もしていた。

……まあそれも、今回が最後だろうしね。

 昨日のあれで合格してる可能性があると思うほど自惚れてはいない。

 後悔はしてない。いきなりオーディションを受けることになった割には頑張った方だと思っている。

 ただ、心残りがあるのも事実だ。

……まあ、今更気にしても仕方ないことか。

 過ぎたことを気にしても意味がない。一瞬だけ非日常を味わえたが、これからはまた退屈で、寂しい学生生活がまっているのだ。

……そういえば、仮入部の届け出してなかったな。

 そんなことを思って教室の扉を開けると、

 

「…………!」

 

 教室にいる全生徒の視線が榊に集中した。

 あまりにも唐突な反応に、思わず榊は後退りしてしまう。

 これまで何人かの生徒に誰だ? と顔を向けられたことはあるが、それが榊だと分かるとすぐに戻していたはずだ。

 それが今回は全員が、それも榊だと分かっても誰も視線を外さないでいる。

 一体何があったんだ? と身構える榊に一人の女子生徒が近づいてくると、

 

「ねえねえ、榊君って名前は和巳で合ってるよね?」

 

 これまた唐突な質問が飛んできた。

 どうして今そんなことを確認するのか。疑問を抱きはしたが、秘密にしておくことでもないので榊は一度だけ頷いた。

 すると目の前の女子生徒は、より一層興奮した様子で榊に詰め寄り、

 

「もしかして、もしかしてだけど! 榊君土曜日のゆるふわタイムに出てた!?」

 

「え、なんでそれを……?」

 

 その発言は先の質問を肯定しているものであり、その言葉を聞いた教室内の生徒は盛り上がりを見せた。

 

「本当にオーディションを受けたの? アイドルのオーディションってどんな感じなの!?」

 

「なあなあ、十時愛梨と高森藍子どっちが可愛かった!?」

 

 男女問わず生徒が各々に質問を飛ばしてくる中、榊は自分が踏み入れた世界がいかに非現実だったのかを思い知っている。

……これはこれで、また面倒な事だな……。

 そう思いながらも、これが最後の非現実だ。

 榊は苦笑いを浮かべながらも、時間の許す限り生徒からの質問に答えていった。

 

「……榊君、どうかしましたか?」

 

 車の後部座席で卯月に問われ、榊はふと我に帰る。

 

「いや、分かっていた事ですが、やっぱり アイドル(この世界)は凄いんだなあって改めて思っていただけです」

 

 時間はすでに放課後を過ぎており、榊は卯月と一緒に、武内の運転する車で美城プロダクションに向かっている最中だった。

 

「私が教室に行った時も、榊君の周りはお祭り騒ぎでしたもんね」

 

 生徒からの質問に答える予定だった榊だったが、次から次へと溢れてくる質問は朝だけで無くなるわけもなく、それどころか昼休みだけでなく放課後になっても質問攻めが終わる様子はなかったほどだ。

 結局卯月が榊を車まで引っ張ってくれた事でひとまずの終わりを迎えたが、

 

「自分の振る舞いが原因なのは理解してますが、休みが明けてあんなにも態度が変わると複雑なのが本音ですよね」

 

 どうせ落ちてるのに、と小声で漏らすと、隣の卯月は大袈裟なリアクションをこちらに見せて、

 

「え? そんな事ありませんよ。私は榊君がアイドルになってくれたら嬉しいですよ。ね、プロデューサーさん?」

 

「私は立場上あまり言えませんが、榊さんがそこまで悲観するものではないと思いますよ」

 

 そうですか? と返す言葉にあまり感情はこもっていない。

 乗り気ではない榊の心情とは裏腹に、車は目的地である美城プロダクションに到着した。

  建物の入り口で二人を下ろすと、武内は先に事務所に向かってください、と言い残して車を駐車上へと走らせていった。

 

「島村先輩も、クラスだとあんな感じですか?」

 

 道中でこんな疑問を投げかける榊に、卯月は照れ笑いを浮かべた。

 

「私の場合、以前から養成所に通っていたのは知ってましたから。シンデレラプロジェクトの参加が決まった時は友達とかは喜んでくれてましたけど、

榊君程ではなかったですよ」

 

「まあ部活やってる人がプロに行くのと、素人がいきなりプロになるのではインパクトが違いますもんね」

 

「それに、アイドルって男性よりも女性の方が圧倒的に多いですから。珍しいって意味もあると思いますよ」

 

 まるで客寄せパンダの気分です、と答える榊の言葉に力はない。

 

「でもわざわざ結果を直接言われるなんて思いませんでしたよ。てっきり電話やメールだと思っていたので」

 

「今回は特別だそうです。どの子も素晴らしかったら直接言いたいって部長さんが言ってました」

 

 それはきっと自分の為だと思うのは自惚れだろうか。そんな疑問を決して口には出さず、榊はただ卯月との会話を楽しんだ。




お久しぶりを通り越して最早初めましてと言う方が正しいでしょうか。
前回の更新が2018年で、そこから3年以上の月日が経ちました。正直言いますと話の形は出来ていたのですが、完全にモチベが消失してしまいそのまま放置という形になっておりました。
ですが先日何となくマイページを覗いたら、まさか今年になって感想が書かれていたのを見て一気にモチベが戻ってきて投稿した次第であります(まぁその感想書かれたのも2月なんですがね……)
というわけで今回は生存報告も兼ねてなのでかなり短めです。しかもまたいつ失踪するかもわかりませんが、こつこつ投稿していけたらいいなと思っております。

では次の十六話がいつ投稿されるか、楽しみに待っていただけたら幸いです。次は流石に3年もかからないと思います。……多分

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