アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様   作:逆刄刀

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週一以内の予定でしたが、
書き置きの分は早く投稿することにしました。


二話 頼りなあの人は十七歳?

 土曜日だと言うのに依然としてサラリーマンが行き交う道を、榊は流れに沿うように歩いていた。

 昨日今西に指定された346プロダクションの本社ビル向けて、スマートフォンのナビを頼りに歩を進める。

 服装をどうするか悩んだが、見学と聞いているので学生の正装である制服にしてある。

 

『間もなく目的地に到着します。案内を終了します』

 

 ナビのガイドは当然ながら正確で、予定時刻の十分前には目的地に着くことが出来た。

 

「やっぱり天下の346プロダクション。会社の方もご立派ですなあ」

 

 346プロダクションの本社ビルは正にお城そのものだった。調べてみたらこの本社ビルは映画やCDのPVにも使用されることが度々あるらしい。

 明らかに場違いだよな、と思いながらも榊は自動ドアを通っていく。

 ちなみに、榊が346プロダクションと思っていたのは実際には美城プロダクションと書くそうだ。

 渡された名刺にも346と書かれていたので間違いではないのだろうが、覚えておいて損もないだろう。

 

 中に入り受付に行くと、二人の受付嬢が出迎えてくれた。

 

「おはようございます」

 

「あ、お、おはよう、ございます……」

 

 受付嬢らしく凛とした挨拶に、榊は思わずたじろいてしまう。

 今西は受付に名前を言えば分かるようにしておくと言っていたが本当に大丈夫なのだろうか。高校生である榊にはこういった場所に来た経験がなく、名前を言えば分かると言われてもどう言うべきなのか。

 

「あの、榊、和巳なんですけど……」

 

「はい、榊様。本日はどういったご用件でしょうか?」

 

 流石は大手会社の受付嬢。こちらが挙動不振な事をしても表情一つ変えず対応してくれる。

 機械的と言えば失礼にあたるが、その方が榊としても気持ちが楽だ。

 彼は背負っていたリュックの中から名刺を取り出して、

 

「すみません、今西部長に用がありまして、受付に言えば分かると聞いてるのですが」

 

「そうでしたか。少々お待ち下さい」

 

 そう言うと、受付嬢は内線の受話器に手を伸ばした。

 

「こちら受付ですが、……はい、只今榊様がお見えに。……はい、かしこまりました」

 

 受話器を戻した受付嬢は榊に一礼してから、

 

「お待たせしました。今西がすぐこちらに参りますので、あちらにお掛けになってお待ち下さい」

 

 どうやらちゃんと話は通っていたようだ。

 榊は受付嬢にお礼を言うと、言われた通り近くにあったソファーに腰掛けた。

 建物内を見渡すと、それだけでテレビで見た事がある人が何人もいる。だがその誰もが女性であり、男性は大抵マネジャーか各業界の関係者だ。

……例え数パーセントでも、ここの関係者になるかもしれないんだよな。

 なんだか場違いな気がして榊はそわそわしてしまう。すると、

 

「やあ榊君、待たせたね」

 

 声のする方を見れば、いつの間にか今西が側まで来ていた。

 榊はすぐに立ち上がり、

 

「あ、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく。じゃあ早速で悪いんだけど、今日の打ち合わせと書いてほしいのがあるから、近くのカフェに行こうか」

 

 打ち合わせと言われると、何故かそれだけで心が躍るような感覚を得る。

 榊は期待に胸を膨らませて今西の後を追った。

 

 

「…………」

 

 カフェについて榊が最初に見せたのは戸惑いだった。

 榊達が着いたカフェは会社内にある建物だ。昨日来た場所よりはモダンな雰囲気が強く、内装も割と落ち着いた造りだ。

 カフェには全く問題ない。なら、何故榊が困惑した表情を浮かべているかというと、

 

「おかえりなさいませ、ご主人様。キャハっ!」

 

 カフェの雰囲気にはあまりにもミスマッチしたメイドが眼前にいるからだ。

 店内には他にも女性従業員がいるが、その人達の場合はカフェの雰囲気に合わせたウェイトレスのイメージを持たせる服装ばかりだ。

 だがこの人だけは違う。服装に黒と白を基調としているところまでは同じなのだが、この人のはやたらフリフリしている。ポニーテールを大きめのリボンで結っているせいもあってかメイドらしさが強調されている。

 こんなのが許されるのは榊の浅はかな知識では秋葉原のみで、この場では異彩を放ってると言っても過言ではないはずだ。

 いきなりの未知との遭遇に榊は目を丸めるが、今西は全く気にした様子を見せず、

 

「やあ菜々君、今日も元気そうだね」

 

「あ! 部長さんでしたか。はい、歌って踊れる声優アイドルとして、安部菜々は今日も頑張ってます!」

 

 そう言って菜々は目の横でピースサインをつくる。

……それはさすがに痛くないだろうか……。

 今西が随分落ち着いていたので、こういうのが好きなのだろうかと一瞬頭によぎったが、どうやら彼女も346所属のアイドルのようだ。

 とりあえず二人は昨日と同じアイスコーヒーを注文する。菜々がまたピースサインをつくって去るのを見送ってから、榊は思い出したようにリュックからファイルを取り出す。

 

「あの、これ忘れてましたよ」

 

 それを見た今西は驚いた表情を見せた後、恥ずかしそうに頭を掻いてファイルを受け取った。

 

「いやあ、本当に助かったよ。無くしたって上に知られたら、僕部長でいられなかったよ」

 

「だったらこういうのは、あまり他人に見せない方がいいですよ」

 

 気をつけるよ、と苦笑して今西はファイルを鞄にしまった。

 そこで終わるかと思いきや、そのまま別の紙を取り出して、

 

「それじゃあ、僕から代わりにこれをあげるよ」

 

 渡された紙を受け取って、表裏を見渡してみる。

 紙には名前や生年月日等、様々な項目があり、

 

「これってもしかして……」

 

「あ! 面接カードじゃないですか!」

 

 ちょうどアイスコーヒーを運んできた菜々が榊の持っている紙を見て大声をあげる。

 榊の何かを訴える視線など一切気にせず、彼女は素早くグラスを置いて今西に対し、

 

「部長さん! この子 346(うち)のオーディションを受けるんですか!?」

 

「受けるかどうかを、今日色々見学して決めてもらうんだよ」

 

「そうだったんですか。──あれ? でも346に男性アイドルなんていましたっけ? ナナのウサミンメモリーにはそんなの存在しないのですが」

 

 ウサミンメモリー? と聞き慣れない単語に、榊は意味は分からずとも納得する。

……この人、外見だけじゃなくて中身もこういう人か……。

 アイドルになるのにこれだけの個性が必要なら、中々自分には厳しそうだ。そんなことを思うと、今西がアイスコーヒーを口に含んでから、

 

「男の子は初めて採用するんだ。でもこれ、まだ秘密案件だからよろしくね」

 

「わかりました! それならウサミン星から来たこの安部菜々が、面接カードの書き方をレクチャーしてあげます。ええと……」

 

「ん? あ、榊和巳です」

 

「それなら榊君! 先ずはペンを持ってください! ナナにかかれば面接カードで好印象持ってもらえること間違いなしですよ!」

 

「それはいいね。僕は立場上アドバイスできないから」

 

 何故受ける前提なのか、疑問に思うがこういったものに経験がない榊には経験者のアドバイスは心強い。

 

「それはすごく有難いんですけど、安部さんまだ仕事中じゃないですか」

 

「まだ開店したばかりなので少しなら大丈夫ですよ。それに、安部なんてよそよそしい呼び方は止めてウサミンと呼んでも平気ですから! キャハっ!」

 

……ああ、それはちょっと無理ですわ。

 何かが許さない。おそらくちっぽけなプライドか何かだと思うが、それぐらいは大事にしておきたい。

 とりあえず後半部分は無視して、前半部分で言われた通りペンを持つ。

 最初は名前や生年月日などでスラスラ書ける。生年月日のところで椅子に座った菜々が、

 

「わあ、榊君ってまだ十五歳なんですか」

 

「まだって、菜々さんは何歳なんですか?」

 

「な、ナナはピチピチの十七歳ですよ」

 

「…………」

 

「十七歳ですよ!」

 

「……菜々さん、制服の下はどうしてます?」

 

「ミニスカにルーズソックスに決まってるじゃないですか。ナウいでしょ!」

 

「……なんか、本当にすみません」

 

「どうして謝るんですか!?」

 

 どうやらこの事については深く言及してはいけないようだ。

……誰にだって秘密の一つや二つはあるよな。

 だから気にせずペンを進めた。

 最初の方は基本情報と呼べるものなので問題なかった。しかしそれが終わり、次の質問形式のところで榊の手が止まった。

 

「ん? 何か分からないとこでもありましたか?」

 

「いや、分からないというか、志望理由なんですが……」

 

「それなら深く考えないで、ありのままを書けばいいんですよ。あまりよく書こうとすると、返って不自然になってしまいますからね」

 

 菜々の言ってる事は最ものことだ。しかしそれだと、スカウトされたからになってしまう。

 それだと、お前オーディション受けに来たんだろ? と面接官に突っ込まれること間違いない。

……昔からアイドルに憧れてたからが無難だけど、それだと色々聞かれたら言葉に詰まっちゃうだろうしなあ。

 どう書こうか悩んでいると、それまで黙ってた今西が、

 

「僕がスカウトしたからって書くと色々面倒だろうし、今は空白のままでいいよ。今日は見学してる中でそこも考えてみてよ」

 

 そう言ってくれるとこちらとしては助かる。

 

「菜々さん、特技とかってどういうのがいいと思います?」

 

「そうですねえ。女の子なら料理とか裁縫とか、中には楽器演奏とかもありますけど。男の子なら無難に何かスポーツを押せばいいじゃないですか? ちなみに榊君は運動神経の方は?」

 

「一応スポーツテストでは上の方でした」

 

「ならここはスポーツとだけ書いておくのがいいですね。そうすればきっとオーディションの時に何のスポーツが得意ですか? って聞かれるはずですから」

 

 菜々のアドバイスは榊が思っていた以上に的確で、結果としてほとんどの項目で菜々の助けるをもらう形となってしまった。

 悪戦苦闘しながら三十分程で書き終わった後は、菜々に読んでもらって細かい箇所を添削する。

 それを再び菜々に読んでもらって、面接カードの記入は終了した。

 

「うん。 志望理由は空白のままですけど、これならナナ的には合格だと思いますよ」

 

 菜々から返された面接カードを榊自身も見返してみる。

 各項目には文字がびっしり書かれている。とても榊一人ではここまでは書けなかったはずだ。

 面接カードだけあって、項目には自分の長所や自分のアピールポイントを体験談を交えて書くところがある。日本人の性質として、あまり自分の長所を書くのが苦手だったりするのだが、

……菜々さんが上手く引き出してくれたから思ったより楽だったな。

 榊が他人との輪に入るのが苦手と言うと、

 

『それはきっと、あえてみんなと距離を置いて冷静に物事を見れてるって事ですよ。リーダーには欠かせないポイントです』

 

 また、何かをすると周りが見えず空気が読めない人間と呼ばれると言うと、

 

『それはあれです。一つの事に対しての集中力が高いんですよ。ナナは正直羨ましいぐらいです』

 

 と言うように、榊が思う短所を菜々はことごとく長所に変えてくれる。

 榊一人ならこれだけで半日潰れても不思議ではなく、菜々の存在は本当に有り難かった。

 書きあがったものを今西に渡すと、彼は一度流し見するだけで鞄に仕舞ってしまう。

 どうやら特に問題はないようだ。だから榊は菜々に向き直すと頭を下げて、

 

「菜々さん、今日はありがとうございました。おかけで面接カードもまともなレベルになれました」

 

 率直なお礼を述べると、菜々は目が回るのではないかと思うほど首を振る。

 

「何言ってるんですか。あれは榊君にそれ程の魅力があったからですよ」

 

「百万歩譲ってそうだったとしても、それを引き出してくれたのは紛れもなく菜々さんです。菜々さんって意外と出来る人ですね。伊達に長くは生きてません」

 

「意外ってなんですか! それに、ナナと榊君は二歳しか違いませんよ!?」

 

……菜々さんもブレないなあ……。

 それだけプロ意識が高いのだろう。

 自分がもしこの業界に入る事になったら、きっと彼女を先輩として敬うに違いない。どういう意味でかは聞かないでほしいが。

 

「おや、もう十時前ですか。すみませんが、惜しまれつつもナナはお仕事の方に戻らせてもらいますね」

 

「あ、待ってください菜々さん」

 

 立ち上がった菜々に対し榊は腰を上げて、

 

「最後に、一つだけいいですか?」

 

「何ですか? あ! もしかしてナナのサインが欲しいんですか!? お気持ちは嬉しいんですが、それは仕事が終わった後にお願いします」

 

「いや、そんなのはどうでもいいんです」

 

「ナナのサインがそんなもの!?」

 

 おっといけない。思わず本音が出てしまった。

 普通の人ならアイドルのサインなら喜ぶべきところなのだろうが、榊はやはりまだアイドルにそこまでの興味を持つ事が出来てない。

 気付けば菜々がカフェの隅の方で一人うずくまっている。

 

「そうですよね……。ナナのサインなんて”そんなの”ですよ。いい年してウサミンとか言ってるアイドルのサインなんか……。どうせなら川島さんとかの方がいいに決まってますから……。ナナなんか、菜々なんて……」

 

 いけない。あれだけウサミンキャラを押し通せる精神力があるのに、妙なところで打たれ弱い。

 

「ああ菜々さん? もちろんサインは欲しいですよ。でもこれから見学もあるので、終わった後にお願いしようと思ってたんですが……」

 

「……本当ですか? ナナなんかのサインでも大丈夫ですか?」

 

「大丈夫なにも、菜々さんのサインが欲しいんですよ」

 

 なぜ年上相手に気を使わなくちゃいけなのかとは思う。しかし菜々に助けられたのは事実なわけで、

……これで五分。いや、そもそも俺が発言を間違わなければこうならなかったのか。

 ならば五分ではなく菜々にはまだ貸しがある状態である。

……いつかお返ししなくちゃな。

 そんな事を思い、榊は微笑する。

 

「だからとりあえず、今出来るお願いがあるんですけどいいですか?」

 

「今出来るお願いですか? 何かは分かりませんが、ナナは構いませんよ」

 

 立ち上がる菜々に手を貸して、よかった、と榊は安堵する。

 そして口から出るのは一つの疑問。それは、菜々がアイドルだと知ってからずっと抱いていた疑問だ。

 

「──菜々さんは、どうしてアイドルになったんですか?」

 

「ナナがアイドルになった理由ですか? 言っておきますけど、榊君の志望理由の参考にはならないと思いますよ?」

 

「もちろんそれは分かってます。男女だと違いがあるのは百も承知です」

 

 でも、と榊は前置きして、

 

「 よく分からないんです。一応事前に下調べはしてますけど、まだ全然アイドルがどういったものなのか理解しきれてないんですよね。

 だから、って言うと変かもしれないんですが、今日部長さんに色々見せてもらって、もしアイドルの方にお話する機会があるなら聞いてみようと思ってたんです」

 

「それが、アイドルを目指した理由?」

 

「はい。スポーツ選手とか公務員とかなら、志望理由って結構限られるしある程度は想像も出来ると思うんですよ。だけど、アイドルってそれこそ十人十色でなりたい理由や、実際になった経緯も変わってくると考えてます」

 

 最後の言葉を、榊は照れくさそうに頬を掻きながら言う。

 

「だからそれを知れば、今はぼんやりとしか見えないアイドルも、少しは色がはっきりすると思ってるんです」

 

 言い終えた榊は、菜々が唖然とした顔でこちらを見てるのに気付いた。

 考えてみれば、かなり恥ずかしい事を言っていたかもしれない。

……なんだよ色がはっきりするとか、まるで中二発言じゃん。

 ウサミンとかキャハっと言ってるよりは幾分かはマシだと思う。だがもし、その張本人である菜々から”痛い”など言われたら、立ち直れずそのまま帰宅する自信がある。

 しかし、榊の予想に反して、菜々は顔の向きを今西に合わせると、

 

「部長さん、榊君は良い子ですね」

 

「そう思うでしょ。僕も改めてそう実感したよ」

 

 なぜか褒められてしまった。

 褒められるのは素直に嬉しいが、どうして褒められたのかわからないと嬉しさも半減してしまう。

……アイドルを知ろうとしてるから? でも、知らないものを知ろうとするのは当たり前だよな。

 当然、インターネットを使えば情報はいくらでも入ってくる。その中にはアイドルになりたかった理由や経緯も書かれているが、

……やっぱり生の声は違うはずだよな。

 紙という媒体を通して見るのと、相手の表情や声のトーンを通して聞くのとでは、訴えかけてくる質が違うと榊は考えている。そして今、それを聞くことが出来る数少ないチャンスなのだ。

 最近の子はそこまでしないのだろうか。恐るべしゆとり世代……あ、自分もゆとり世代の一人でした。

 などと一人突っ込みをしていると、菜々が咳払いを一度して、

 

「ナナの場合はありがちなんですけど、小さい頃から憧れていたんですよ」

 

「確かに、小さい頃から憧れるのは一番多い理由かも──」

 

「──魔法少女に」

 

……魔法少女のどこがありがちなんですかねえ。

 だけどあれだ。男の子だって小さい頃は戦隊ヒーローなどに憧れるものだから、女の子が魔法少女に憧れるのは別に変わったことではないはずだ。

 

「ええと、魔法少女に憧れると言ってますが、そこからどう心境が変化したんですか?」

 

「? ナナの気持ちはずっと変わりませんよ? ずっと魔法少女に憧れていたナナは、高校生でついに魔法少女になる事を決意したんです!」

 

……さすがにそれは変わってるだろ。

 榊の身近には、高校生にもなって戦隊ヒーローになりたいと言ってる人間はいない。いや、そもそも高校でボッチな自分にそんなのを話す人がいるはずもないのだ。

 自分で傷口に塩を揉み込むんでるような気持ちになる。急降下しそうになるモチベーションをなんとか持ち直し、榊はゆっくり言葉をつくる。

 

「菜々さんは、高校生になってもいつか魔法が使えるようになるとか本気で考えてたんですか?」

 

「え? ち、違いますよ! ナナが言う魔法少女っていうのは、そんな直接的なものじゃなくてもっと間接的な魔法少女です!」

 

「魔法少女に直接も間接もないと思いますけど……」

 

 若干引き気味に言うと、菜々は頭を掻きむしって、

 

「ああもう! ナナが言ってるのは、声優としての魔法少女ですよ!」

 

「ああ。そういえば、最初に声優アイドルって言ってましたね。でもそれなら、アイドルじゃなくて普通の声優でよかったんじゃないですか? アイドルも兼任だと、声優の仕事もあまり出来ないじゃないですか」

 

 榊にとっては何気ない発言のつもりだった。

 しかしそれを聞いた菜々の目の焦点が段々と合わなくなっていく。

 

「それぐらいナナだって分かってます。でも、何事も上手くいかないのが世の中なんですよ」

 

 あかんこれ、完全に地雷踏んだパターンだ。

 菜々だって声優一本の方が、自分のやりたい事を出来るのは理解しているはずだ。それが現在声優アイドルをしているというのは、結果的に声優にはなれなかったのだ。

……高校生から目指してるって事はもう何年も……あ、まだ十七歳だから長くても二年ですね。

 ふざけている場合ではない。自分は菜々のトラウマを(えぐ)ったと言われても間違いではないのだ。

……こんなんだから、クラスでも浮いちゃうんだよ。

 藁にもすがる思いで榊は今西に視線を送る。しかし彼は、普段と変わらない笑みを見せるだけで助けてくれる様子はない。

……しかもなんで嬉しそうなんですかねえ。俺の困った顔がそんなに楽しいですか?

 講義の視線を今西に送ろうとした。すると、

 

「でも、でもですね!」

 

 不意打ちとも言える菜々の大声に、榊は反射的に意識を菜々に戻した。

 彼女は、周囲の注目など一切気にせず、

 

「ナナはアイドルになって良かった思ってますよ! 確かに、声の仕事はなかなか貰えませんし、貰えても一回限りの 所謂(いわゆる)モブキャラばっかりです」

 

 だけど、と菜々は胸に手を当てる。

 その仕草は何かを思い出してるようで、

 

「ナナがあのままは声優を目指していたら、多分モブキャラの仕事やCDデビューも出来なかったと思うんです。アイドルのナナだからこそ、今は魔法少女の仕事もくるって信じられるんです」

 

「アイドルと言うよりは、ウサミン星人だからですよね」

 

 もう! と赤面して言うが、強く言わないという事は少なからず自覚しているのだろう。

 

「とにかく、とにかくですよ! ナナが言いたいのはですね! 榊君がもしアイドルになるのを悩んでるなら、とりあえずなってみるべきです。アイドルにならないと普段出来ない事だってたくさんあります。それにきっと、榊君の心を熱くする何かがあるはずですよ!」

 

 明らかにウサミン星人とはキャラが違う熱血発言に、榊も思わず後ずさりしそうになる。

 だがそれはしていけなき事だ。こちらの質問に対しての答えとしては主旨がずれているが、相手が真剣に答えてくれているのには違いないのだ。

 

「安部! いつまで休憩しているつもりだ。早く仕事に戻りなさい!」

 

 厨房の方から店長と思われる声が聞こえてくる。

 すぐ行きます! と返す菜々を見て、榊は二度目となるお辞儀をして、

 

「さっきも言いましたけど、今日はありがとうございました。本当に助かりましたし、すごく参考になりました」

 

「いえ、ナナもアイドル関係で他の人に教えたのは初めてだったので楽しかったですよ。それに、最後の質問だって、榊君の求めていた答えとは違っていたでしょうし」

 

「そんな事ないですよ。確かに質問の主旨とはちょっと違った答えだったですけど、アイドルは菜々さんを必死にさせるものだというのが分かっただけでも十分な収穫ですから」

 

「うう、榊君は本当に良い子ですね 。ぜひアイドルになってくださいね。その時にはナナはいくらでもアドバイスしますから!」

 

 そう言って、今度こそ菜々は仕事に戻った。

 

「それじゃあ、面接カードも書き終わったし、僕達もそろそろ行こうか」

 

「え? 打ち合わせはしないんですか?」

 

「うん。あまり時間もないからね。それは車の中でしよう」

 

「すみません。俺が余計な事きいてたせいで」

 

 思ったより早く面接カードが書き終わったから調子に乗ってしまった。

……最初に時間を確認しておくべきだったな。

 そうすれば菜々に質問などせず打ち合わせ出来たはずだ。

 しかし今西は、とんでもない、と言って、

 

「君が菜々君にあの質問をしたのは、少しでもアイドルに興味を持ってくれたからでしょ。それなら、スカウトした僕としては嬉しい事だよ。打ち合わせと言っても今日の予定を伝えるだけだから、それは車の中でも十分さ」

 

「そう、ですか……。そう言ってもらえると助かりますが」

 

「何かに興味を持って、それをちゃんと行動に移すのは決して悪い事じゃない。今日は他にも何人かのアイドルに合うと思うけど、菜々君にした質問は気にせずした方がいいよ。346の子は皆優しいから、きっと答えてくれるさ」

 

 はあ、と榊は空返事にも似た反応を見せる。

 正直菜々に聞けたからって、他のアイドルにも聞けるわけではないと思ってる。

……菜々さんには不思議と親近感があったからなあ。

 それが他の人にも湧いてくるかと言うと、榊としては”無理”と返答する。あれは菜々の人当たりの良さがあってこそであり、その菜々相手でさえ質問した時は緊張していたのだ。

 菜々には他のアイドルと話す機会があれば聞いてみようと言ってはみたものの、実際に目の前にいたら上手く話せる自信はない。

……でも、知ろうとするのは悪い事じゃないんだもんな。

 菜々はその事で良い子だと言ってくれた。今西も菜々の言葉に同意してくれた。

 それなら別に臆する事はない。

……スリーサイズとか、そういう変なのを聞いてるわけじゃないからな。

 最後は開き直りにも近い思考を持って榊は頷いた。

 

 カフェを出る直前、厨房へ向かう菜々と目が合った。

 彼女は口パクで”頑張って”と手を振ってくれる。

 女子から手を振られるという榊には縁のなかった出来事に、戸惑いながらも手を振り返す。

 自分でも照れてる自覚があるのだ。当然菜々もそれを察し、くすりと笑って厨房に消えた。

 

「榊君も、まだまだだねえ」

 

 今西の言葉に反論出来ず、榊の顔色は照れくささから恥ずかしさに変わっていった。

 




 二話 頼りなあの人は十七歳?いかがでしたでしょうか?
 菜々さんはデレステのイベントで分かるように、下の子の面倒見がいいのでこういう立ち位置にしてみました。
 残りの書き留めは一話なので週末が金曜日にでも投稿しようと思ってます。

 さて話は変わりますが、デレステは新しいガシャですね。ときかなのどちらかをお迎えするべく、とかく10連×2しましたが、Sレア小梅が限界でした。
 両方とも嫁ではないですが、限定と言われるとどちらかは欲しいもので……。か、課金したいけど、それで外した時のショックが怖いでござる(チキン)


 第一話で早速感想をくださいました紅葉さん、七人さん、渚 湊さんありがとうございました。後書きで改めてお礼を言わせてもらいます。
 それでは皆さん、第三話でお会いしましょう。
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