アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様   作:逆刄刀

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六話  目つきが悪いのは自分も同じ?

 今西と別れた榊が最初に訪れたのは明日のオーディション会場だった。

 346プロダクション内の見学。今西に言われた時は特に何も見ずに帰ろうとも思っていた。

 しかしよく考えてみれば、オーディション会場の下見ぐらいはしてもいいかもしれない。

 オーディションは別館で行われるが、ここは階数がかなりある。考えたくないが 迷子(万が一)の事もあり得る。

 それなら下見をするのは決しておかしくない選択だ。高校受験の時にも、進路担当の先生が会場の下見はしておけと口酸っぱく言っていた。

……俺はしなかったけどね。

 

「ここか……」

 

 そう声を漏らして右側をみれば、明日のオーディション会場となる会議室がある。

 耳を澄ましても音がしないので、きっと中は無人なのだろう。中に入ろうとは思わない。だがそうなると、当初の目的が早々に達成したことになってしまう。

 後は入館証を受付に返して帰ればいいのだが、いざとなると勿体無く感じるのは自分勝手だろうか。

 明日のオーディションに落ちればここに来る事も、ましてやアイドルに会う事など二度とないのだ。

……もう少しぐらいはいいかな。

 そう思考をまとめた榊は歩を進めた。

 行くあてはない。今は六階にいるので、とりあえずはこの階を見て回って、後は下の階を順に見ていこうと思ってる。

 ほとんどの人が中で仕事しているのか、廊下を開いていてもすれ違う人は少ない。

 中には榊のような男子高校生が社内にいる事に違和感を持った社員もいたが、首からさげてる入館証を見ると一応納得の色を示してくれた。

 とにかく堂々としていなくてはならない。挙動不審な態度をしていると余計に怪しまれてしまう。

 

 六階は一通り見終わったが、この階はだいたいが会議室の類で中が見えないため特にめぼしい場所はなかった。

 幸か不幸か他のアイドルに会う事もなかった。

……この時間はみんな外で仕事してるのかな?

 疑問を確かめるすべもなく、榊はとりあえず下の階へ向かった。

 

 

 五階は先程楓が撮影していた階であり、あそこ以外にも何箇所か撮影場所があるようだ。

 これだけあるなら一つは何かしらやってるだろう、そんな考えで回っているが、どこも片付けの最中で撮影をやってる所はなかった。

 残すは奥の部屋のみ。だが、

……他が終わってるなら奥も同じだろうな。

 大した期待もせずにその部屋に近づくと、意外にも扉の上では撮影中のランプの点灯している。

 一体何の撮影だろうか、と扉の横に貼ってある紙を見れば、

……シンデレラプロジェクト宣材写真……!

 その文字に、榊は自身の鼓動がはっきり認識出来るほど早く、そして強くなっているのを感じていた。

 この扉の向こうには、自分と仕事をするかもしれない人達がいる。その事実は榊の好奇心を大いにくすぐっていた。しかし、

……さすがに中に入るのは駄目だよな。

 今西も中に入るのは難しいと言っていた。それに撮影中に突然入ってくるのはいくらなんでもマナー違反だろう。

 幸いな事に、扉には小さな円形の窓がついていた。背伸びしなくても中を覗けるそこに、榊は自分の顔を近づけた。

……いた……。

 確かにいた。スタッフ達のさらに奥側、そこに彼女達がいる。

 数は十四人、初めて今西から彼女達の事を知らされた時に見た資料の通りその年齢層はばらばらだ。

 様々な身長や髪型、そして雰囲気を醸し出しながら、しかし榊はある人の存在だけははっきりと視界に入っていた。

……島村先輩……。

 集団のやや端の方、そこに彼女はいた。他の女性二人と楽しいそうに話をしている。

 本当にアイドルだったんだ、と至極当然の事を思った時だ。

 

「あっ……」

 

 一人の男性と目が合ってしまった。

 スーツ姿から彼がスタッフではないのは想像がつく。なら一体誰なのか、そんな疑問を抱くよりも早く、その男性はまっすぐこちらへと向かってきた。

 遠目でよく分からなかったがその人はかなり長身だった。そしてなによりも、

……ちょっ、なんかめっちゃ睨んですけど!

 一重の無表情が早足でこちらに来る。

 どう見ても怒っている。逃げるべきか迷うが、逃げたら確実に怪しまれる。

 もしかしたら不審者だと思われて追いかけられるかもしれない。早足でもあの威圧感なのに、走られたら恐怖体験以外の何物でもない。

 だから榊はあえてその場に留まった。その姿は蛇に睨まれた蛙に例えられるかもしれない。

 

「あの──」

 

 扉が開くのと声が聞こえたのはほぼ同時だった。

 間近に見ると、威圧感が五割増しに感じるのは決して自分だけではないはずだ。

 だが黙っていては何も始まらない。そう思った榊はとっさに口を開いた。

 

「こ、こんにちは」

 

 なぜそこで挨拶なんだ、と自分の発言ながら呆れる。

 眼前の男性も面食らった表情を見せる。しかしすぐにあの無表情に戻すと、

 

「こんにちは。関係者の方……、ではないようですが」

 

「はい。あの、これ」

 

 榊は言葉で説明するより今西の書いた承諾書を渡すのを選択した。

 男性の正体は依然として分からない。しかしあの場にいたということは、何かしらの形でシンデレラプロジェクトに関係しているに違いない。

 なら言葉よりこの紙の方が意味を持つ。そう榊は判断した。

 榊から紙を受け取った男性は中身を確認すると、さらに驚きの表情を濃くした。しかし今度は納得の色を示して、

 

「貴方が……」

 

 どうやら彼は自分の存在を知っていてくれてるようだ。

 

「はじめまして、榊和巳です」

 

「はじめまして、シンデレラプロジェクトのプロデューサーをしている武内と言います。今はお一人なんですか?」

 

「部長さんは仕事があるから何処かへ行ってしまいました。まだ時間もあるから社内を見学してきなってこれを」

 

 そうですか、と武内は悩み事をしてるのか首に手を当てた。

 そして決心したように頷くと、

 

「よかったら見ていきますか? 彼女達を」

 

 予想外の申し出に、榊は目を丸めた。

 

「え、いいんですか? 一応俺、明日のオーディション受ける可能性あるのにその前に会っちゃって」

 

 それは他の人達と不公平になってしまう気にもする。

 だが武内は、構いません、と前置きして、

 

「決まってるわけではないならただの見学です。それに、おそらく部長さんもこうなる事を見越して榊さんにこれを渡したんだと思います」

 

 言われてみれば、今西ならここで宣材写真の撮影をしてる事は知っていたに違いない。

 そしてここは、先程まで今西や楓といた現場と同じ階なのだ。

……こうなるのが分かってたんだろうなあ。

 自分だけでなく同じ職場の武内が言うなら、きっとそういう事なのだろう。

 

「俺が行っても邪魔にならないですか?」

 

「見学なら特に問題はありません。さあ、どうぞ」

 

 武内は扉を開いて促してくれるが正直まだ戸惑いはある。

 彼女達が自分を見た時にどんな反応をするのかすごく不安だ。

 十四人の女の子中にただ一人の男の子入るのに、それが可能性としても自分になるかもしれない。

 自分が彼女達だったらどう思うだろうか。

 

「どうしましたか?」

 

 武内の声に意識を戻すと、目の前で彼がまた首に手を当てて、

 

「気がすすまないなら、無理にとは言いませんが」

 

「いえ、ちょっと考え事をしていただけです」

 

 考えるのはもうよそう。

 もし彼女達に微妙な反応をされたのなら、明日のオーディションを諦めればいいだけの話だ。

 それに、今ここで彼女達を避けたところで何も変わらない。

 そう割り切って、武内が開いてくれてる扉に榊は足を向けた。

 

 

 

 中は楓の時より賑わっており、入った瞬間に彼女達の話し声が聞こえる。

 宣材写真のためかセットは簡素だ。しかし十四人分の撮影となるとそれなりにスペースを確保している。

 彼女達に近づくと、まず近場にいた二人がこちらに気付き側までやってきた。

 一人は長い金髪で、いかにも今時のギャル風の身なりだ。

 そしてもう一人は、ミディアム程度の黒髪をツーサイドアップにしている明るそうな女の子。

 二人とも榊より幼く、小中学生くらいだろうか。

 

「ねえP君、その後ろの人誰!」

 

「もしかして、新しいお友達かな?」

 

 開口一番に大声で言われ、周囲の視線は一気にこちらへと向かってきた。

 それは他の彼女達も例外ではない。みんなが一様に誰? と首を傾げたり隣と人と話したりしている。

 しかしその中で、卯月だけはこちらの存在に気付き目を丸くしている。

……島村先輩、俺の事覚えてくれてたんだ。

 とりあえず卯月に対して軽く頭を下げると、相手はわざわざ踵を合わせて深々と頭を下げてきた。

 両隣の女の子が卯月に話しかけているが、多分あの人知り合いなの? と聞いているのだろう。

 

「落ち着いてください。今ご説明しますので。──みなさん、ちょっと集まってもらってもいいですか?」

 

 武内が二人にたじろぎながらも声をかけると、彼女達はすぐに集まってきた。

 半円状に並んだ彼女達に武内は一歩下がってこちらを押し出すようにして、

 

「撮影ですが、今日はこちらの榊さんが見学する事になりました。みなさん仲良くしてください」

 

「Pちゃん、みくは別に見学は構わないけどその子誰にゃ?」

 

 武内からの紹介に、猫耳を付けたショートヘアの女の子がこちらを指差してきた。

 語尾ににゃと付けたり、頭に猫耳を付けたりとなかなか個性の強そうな子だ。

……あれだな。菜々さん程じゃないけど、似たようなもんだな。

 それなら何も問題ないと思えるのは、きっと菜々のおかげに違いない。

 

「彼は明日のオーディションに参加するかもしれない人です」

 

 武内がそういうと、おお、という声と共に周囲の関心はさらに強くなっていく。

 想像してたより反応は悪くない。その事に榊は胸をなでおろす。

 ここで一人でも渋い顔をされたら、きっと自分は回れ右をして帰っていただろう。

 

「ではみなさん、撮影の方に戻ってください」

 

 武内の指示にそれぞれが返事を返して戻っていった。

……これが、部長さんの言っていたシンデレラ達か……。

 シンデレラというだけあって素人の自分が見ても、全員がアイドルとしての素質が十分なのは分かる。

 彼女達とこれからアイドルをしていく可能性があると考えると、それだけで胸が熱くなる。

 段々と心が高揚してきている。それを自覚して榊は武内の後をついていった。

 

 

 

 武内とカメラマンの後ろにいた榊へ最初に話しかけてきたのはあの幼い二人だった。

 ツーサイドアップの女の子が嬉しそうに両手を上げて、

 

「こんにちは! 私赤城みりあって言うんだ。よろしくね!」

 

「こっちこそよろしく、赤城さん。さっき武内さんも言ってたけど、俺は榊和巳っていうから」

 

「みりあでいいよ! ねえねえ、和巳君って、私達の王子様になるかもしれないんだよね。すごいね!」

 

……すごいのはその年でアイドルになってる君の方じゃないかな。

 目を輝かせながらこちらを見上げるみりあに榊は微笑を見せるのが精一杯だった。

 すると、今度は隣の金髪の女の子が人差し指をこちらに向けて、

 

「でも、このカリスマギャルアイドルになる私の王子様としては、ちょっと顔がイマイチかな」

 

 顔に自信がないのは違いないが、こう面と向かって言われるとさすがに応えるものがある。

 

「莉嘉ちゃん、そういう事言ったら駄目だにぃ」

 

 三人の会話に割って入ってきた人物。声がしたのはみりあ達の後ろであり自分よりも上の方、そちらに顔を向けたら、

……うお、大きいな。

 自分の身長は百七十ぐらいはあるが、それよりも頭一つ分高い。

 確実に百八十は超えている。女の子でこれほどの高身長は滅多にお目にかかれない。

 武内に負けず劣らずの高身長にも関わらず、彼女には武内ほどの威圧感を感じなかった。それが彼女の服装によるものだと、榊はすぐに検討がついた。

 パステルカラーを基調とした可愛さを重視した服装と腰まである軽くウェーブのかかった髪。何より愛嬌ある笑顔が彼女の人柄を表している。

 武内の時とは違ってなるべく愛想よく笑みを見せて、

 

「はじめまして、榊和巳です。今日はよろしくお願いします」

 

「おにゃーしゃー。諸星きらりだにぃ。それでこっちが──」

 

 そう言ってきらりが下から持ち上げたのは、

 

「双葉杏ちゃんだよ!」

 

 もう一人のアイドルが出てきた。

 かなり小柄なためみりあ達の後ろにいる事に全く気づかなかった。

 それより榊の目を引いたのは、

……働いたら負け……。

 白のティーシャツのど真ん中にプリントされたその文字に、杏の人間性を見た気がした。

 

「脱力系……?」

 

 疑問を投げかけると、きらりに抱えられた杏は面倒そうにこちらを見て、

 

「無気力系」

 

「アイドルにあるまじき発言だな」

 

「事実だから仕方ないでしょ。それに頑張ったって疲れるだけだしね」

 

 ここまで堂々と言われてしまうと寧ろ清々しいとさえ思えてしまう。

 周囲を見渡しても他の子達は撮影を楽しみにしていたり緊張していたりしてるが、杏だけはそれとは別の無関心に近いものを感じる。

 これが彼女のスタンスだとするなら、それをアイドルとして売り出そうとしている 346(ここ)はやはり侮れない。

 アイドルとしては異質の存在に、榊は物珍しく視線を送っていると、

 

「すみません! それではそちらの四人から撮影お願いします!」

 

 スタッフさんの声はこちらへ向けられていた。

 すると真っ先にみりあが、はーい! と返事をして、

 

「じゃあね和巳君! 終わったらまたお話ししようね!」

 

 こちらの返答を待たずにみりあは駆け足で向かっていく。

 

「あ、みりあちゃんずるい! 私が最初だよ!」

 

 みりあに追いつこうと、莉嘉は走って後を追う。

 

「みりあちゃんも、莉嘉ちゃんも、走ったら危ないよ!」

 

「私は置いてっていいよ」

 

「駄目だよ。杏ちゃんも一緒に、撮影するんだにぃ」

 

 そう言って最後に、杏を抱えたきらりが二人を追う。

 置いてけぼりとなってしまった榊は周囲を見渡した。すると、

……あ、いた。

 榊の左前で、卯月が他の二人と会話していた。こちらの視線を感じ取ったのか、卯月もこちらを見た。

 視線が交わったその瞬間、相手は目を逸らしてきた。

 理由は分からない。視線を逸らされるようなことをした覚えもない。

 ただ卯月を見ていただけ。本当にそれだけだ。

……もしかして、俺の目つきがよくなかったのか。

 可能性としては十分あり得る話だ。榊だって武内に見られた時、その鋭い目つきから目を背けてしまった。

 話しかけに行った方がいいのか。お互いに顔見知りなので話しかけに行くのは別におかしな事ではない。

 それでも目を逸らした相手に近寄るのは、さらに卯月の気持ちを害してしまうのではないだろうか。

……島村先輩に避けられてるなら、ゲームオーバーだろうな。

 どうしたものかと榊は頭を悩ませる。すると、現場に乾いた音が連続した。

 それはローファーが床を蹴る音であり、同時に卯月がこちらに近づいてる音でもあった。

 

「あの……!」

 

 こちらに声をかけてくれるのを聞いた榊は再度卯月と目を合わせる。

 赤面というよりは紅潮している頬を見て榊は、

……どうやらコンティニュー可能みたいだ。

 そう思い、また頭を下げた。




六話目つきが悪いのは自分も同じ?はいかがだったでしょうか?
やっと話がアニメに追いついてきました。シンデレラ達の撮影順番はこちらの都合で変更してますので、それはご了承ください。
そしてまた、今回も投稿が遅くなってしまいました。なかなか仕事しながらだと書く時間も限られて、その上デレステのイベントも絶え間なくやってくるので、なかなか更新速度が向上しません。
そしてそんな中、逆刃刀は先日モンハンクロスを買ってしまいました。友達に誘われてかったのですが、モンハンはPSPの時以来だったので、懐かしい事もありこの週末はほとんどモンハンやってました。本当に申し訳ない……。
ゲームは1日1時間をしっかり守ってやりますので、どうか許してください(デレステはゲームと言ってない)

さて話は変わり、これから榊はオーディションを受けるかもしれませんが、受ける場合には当然他のアイドル候補も登場します。当初はサイドMから誰か引っ張るか? とも考えましたが、残念ながら逆刃刀はやってないのでキャラを全く知りません。
ですので、もし皆さんの中にサイドMのこいつを出してみてというのがありましたらぜひ教えてください。もし何もなかった場合にはオリキャラで対応する予定です。

それでは七話はきっと早く投稿したいと思ってますので、皆さん変わらぬ声援をお願いします!
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