アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様 作:逆刄刀
「この間は、本当にすみませんでしまた!」
一週間ぶりに会った卯月から開口一番に謝罪の言葉が出てきたことに、榊はぽかんとした表情で相手を見ていた。
何を謝っているかは分かっている。おそらくは入学式での出来事に対してだろう。
……もう気にしなくていいのに。
謝罪の言葉ならあの時既にもらっている。榊としてはそれで十分なのだ。
卯月の性格として謝らずにはいられないのかもしれないが、一週間前の事を言われてもなんとも思わない。
だから榊は微笑で手を振って、
「気にしないでくださいよ。もう一週間も前の事じゃないですか」
「そうですけど、私後でお詫びするって言っていたのに何も出来なくて……」
あの言葉を卯月が覚えていたは意外だった。
それも仕方ない事だと榊は思った。なぜなら、
「それも大丈夫ですよ。島村先輩はアイドルなんですから」
「アイドルとか関係ないですよ。私が迷惑をかけたのは本当ですし、それなのに何も出来てないんですもん」
入学式の時でもそうだったが、卯月は基本的には優しい性格だ。しかしそれが仇となっているのか、かなり頑固な性格にも感じられた。
これは何かしないと話が進まない。そう察した榊はバックからマジックとノートを取り出して、
「それならせっかくなので、これにサインもらってもいいですか?」
「え! サインですか!? でも私サインなんて書いたことないですから上手くないですよ」
「別にいいですよ。俺だって色紙じゃなくてノートですし、練習のつもりでどうぞ」
そう言ってノートを差し出すと、卯月は渋々それを受け取った。そしてゆっくり、というよりはぎこちない動きで文字を書いていく。
世間ではペンを走らせるという言葉があるが、卯月のそれはどう見てもペンを歩かせてるようだった。
しばらくしてペンの動きが止まった。書き終わったと思い榊が手を伸ばそうとすると、
「…………」
無言でページをめくられた。そしてまたペンを動かす。
どうやら最初のサインに納得がいかなかったらしい。急いでるわけではないので、榊は黙ってその様子を眺めていた。
「…………」
「…………」
サインを書き終えてはぺージをめくり、またサインを書き終えてはぺージをめくるというループが五周目を終えたところで榊はたまらず、
「島村先輩……? そろそろいいのでは……」
「も、もう少し待ってくださいね! いいサインが書けるように頑張りますから!」
「いや、今は頑張らなくてもいいんじゃないかと……」
こちらの発言などお構いなしに卯月は黙々とノートにサインを書き続けている。
一生懸命なその姿はとても微笑ましい。だがいつまで続くか分からないこの時間は、待っている榊としては段々苦行に感じてくる。
サインループがとうとう二桁を超え榊の集中力も尽きかけてきた頃、
「卯月、そろそろ止めてあげないと」
「そうだよしまむー。彼も待たされて困った顔してるよ」
先ほどまで卯月と話していた二人がこちらに加わってくれた。
そう言われると卯月はたいそう驚いた顔をこちらに向けて、
「すみません! 入学式の時に続いてまた迷惑をかけちゃって!」
「大丈夫ですよ。急なお願いしたこっちが悪いんですから」
「いえ! 上手く書けなかった私がいけないんです。今度は上手く描けるようにしておきますから」
「じゃあ俺も、その時までには色紙用意してますんで楽しみにしてます」
なんだか締まらない形となったが、とりあえずは一つの区切りをつけることが出来た。
榊は改めて二人を見た。すると先に長髪の女の子が軽く頭を下げて、
「はじめまして、渋谷凛だよ。よろしく」
「よろしく、榊和巳です」
「さっき卯月から話は聞いてるから知ってるよ」
口調が若干冷たく感じるが、それは無意識なもので悪気がないのはなんとなく分かる。
すると、隣の見るからに元気っ子の女の子がこちらの肩を勢いよく叩いて、
「いやあ、階段から落ちそうになるしまむーを助けるなんて、まさに王子様って感じだね!」
「あ、うん。ありがとう。えっと……」
「私本田未央っていうんだ。気軽に未央ちゃんって呼んでもらって構いからね、かずみん」
「か、かずみんって俺の事?」
「そう。和巳君だからかずみん! なかなかセンスあるでしょ」
ドヤ顔で言われても、あだ名をつけたこともつけられたこともない榊にはセンスがどうとかは一切分からない。
あだ名をつけられるのは嫌われていないということだと思い、榊はそうだね、と同意を示した。
……部長さんの言う通り、みんなそれぞれ違うなあ。
至極当然のことが頭をかすめ、榊は視線の奥で撮影を続けるきらり達を見た。そんな榊を卯月達は見て、
「どうかしたんですか?」
三人を代表して卯月が問いかけてきた。
「何というか、今すごい不思議な気分なんです」
感慨深く、それでいて夢見心地のような気分で、
「ついこの間……、いや、昨日まではただの高校生だったはずなのに、今はこうしてアイドルになるチャンスをもらえてる。しかもそこには島村先輩もいて、それ以外のみんなもとても魅力的で──」
なかなかくさい台詞を言っている。それを自覚しながらも榊は言葉を止めるつもりはない。
テンションが上がってるせいもあるだろうが、何より彼女達に聞いてほしいのだ。自分の考えの変化を。
榊は改めて周囲のシンデレラ達を見る。そして納得を深める頷きをして、
「はじめてアイドルの話をもらった時には自分には無理だと思ったし、アイドルになりたいとも思わなかった」
「でも今は違うんですね?」
卯月からの問いかけに、榊は自信をもって頷く。
「今もアイドルに向いてるかは疑問しかないです。でも、今日はちょっとだけアイドルの仕事を覗いて、何よりここにいるみんなを見て確信したんです。向いてるかどうかはとりあえず置いといて、アイドルという夢舞台に挑戦してみたいって」
そうだ。決断出来たのは今西の言葉でも今までのアイドル達の言葉でもない。それらはきっかけにすぎない。
「俺、明日のオーディション受けます。受かる確率は低いかもしれないですが、それでも全力でオーディションに挑んで、島村先輩達とアイドルやってみたいです」
全てを言い終えて、榊は身体が熱を持ちはじめてるのを感じていた。
かなり恥ずかしい。そもそも卯月達にこの事を言う必要はどこにもなかったのではないのか。
しかし卯月達は、こちらの不安を一掃するように笑顔を見せて、
「はい! 私も榊君とアイドルできるように頑張ります!」
「卯月が頑張っても仕方ないでしょ。オーディション受けるのは彼なんだから」
「そうだよしまむー。それにかずみんアイドルとしては顔がイマイチだから、明日のオーディションは厳しいでしょうなあ」
未央、と凛が睨みをきかせる。
こちらを気遣ってくれている。それを嬉しく思いながらも榊は苦笑いを浮かべる。
……まあ事実だから仕方ないよな。
本気でアイドルを目指すと言っても、アイドルとしての容姿はイマイチという自覚はある。
自惚れるつもりはない。だけどそれぐらいで諦めるつもりもない。
アイドルに求められてるのは容姿だけではないと思いたい。何より、こんな自分をスカウトしてくれた今西の判断を信じたい気持ちが強い。
「いいんですよ。ルックスが微妙なのは自分だってよくわかってますから」
「うんうん。かずみんはしっかり自己分析ができてえらいねえ」
「未央、そろそろおふざけ止めないとプロデューサーに言いつけるよ?」
ちょっしぶりーん、と凛に泣きつく仕草を見せた未央は、しかしすぐにこちらを見て、
「でもかずみん、私どうせ一緒に仕事するなら、ただのイケメンより一緒にいて楽しい人がいいから!」
「わ、私もそう思います!」
「そうだね。あんまり気難しいとこっちもやりづらいしね」
その言葉がこちらへの気づかいではなく彼女達の本音であるのは分かる。
だがその場合、果たして自分は一緒にいて楽しいと思われているのだろうか。
……こんなの一言二言の会話じゃ判断できないよな。
それでも気になってしまうのは、やはり不安が頭をよぎっているせいだろう。
小心者だな、と思う榊の目の前に突如木の箱が差し出された。誰だ? とその木箱の持ち手を見ると、
「クッキー焼いてきたからよかったら食べて」
「え、うん。ありがとうございます。いただきます」
ショートヘアーの女の子に促されるままに、榊は木箱の中にあったクッキーを一つ口に含んだ。
「あ、おいしい……」
「本当!? よかったあ、卯月ちゃん達も食べてね」
わあい、とお菓子に群がる様子を見る限り、やっぱり彼女達も普通の女の子なのだと実感する。
そこでふと、榊はお菓子をもってきた女の子の後ろにもう一人いるのに気づいた。
薄い黄緑色のワンピースを着たツインテールの女の子は、榊の視線に気づくと慌ててお菓子を持った女の子の背後に隠れてしまった。
……あれ? なんか俺避けられてね?
卯月の時もそうだったが、自分は特に悪いことをしたつもりはない。ただ卯月の時とは違って、完全に今は怯えてるように見える。
まるで小動物、それもうさぎのような反応を示す彼女に榊が困惑した表情を浮かべていると、お菓子を持った女の子がこちらの不安を感じ取ってくれて、
「ごめんね、この子緒方智絵里ちゃんっていうんだけど、人より少し恥ずかしがり屋なの。あ、私は三村かな子です。よろしくね」
「はあ……、榊和巳です。よろしく」
「よろしくね和巳君。ほら、智絵里ちゃんも挨拶しないと」
かな子に促され、その背中から智絵里が恐る恐る顔を出してくれた。
こちらに警戒心全開の彼女は決してこちらには視線を合わせず、
「緒方、智絵里です……。よろしくお願いします……」
「うん。よろしくね緒方さん」
そう言って握手しようと手を差し出すと、智絵里はそれこそ手を差し出されたうさぎのようにかな子の後ろに隠れてしまう。
脱兎の如く隠れた事に、榊もショックを隠せない。ゆっくりかな子へと顔を向けて、
「これ、どうみてもアウトなやつですよね?」
「ち、違うよ! 恥ずかしがり屋だから! ね、智絵里ちゃん?」
「…………」
……否定してくれないじゃないですか。
「すみませーん! 次の人達お願いします!」
「は、はい! ごめんね和巳君、次私達の番なんだ」
「いえ、順番なんですからお気になさらず」
「また後でね。ほら智絵里ちゃん、撮影頑張ろ」
そう言ってかな子は智絵里を連れて行ってしまった。
……本当に、嫌われてないのかな……。
しかし智絵里の様子から、彼女が極度の人見知りなのは疑いようがない。
ならきっと、自分のことも嫌いではないのだろう。そう割り切ることにしたし、その方が楽に決まっている。
「それじゃあ私達も行きますね」
そう言う卯月に対して、榊ははい、と返事をしてから慌てて頭を下げた。
「サインありがとうございます。これ、大切にしますから」
「いえ! 今度は上手く書けるようにしておきますから。なんなら捨てちゃっても構いませんよ!」
「いや、そんなことするわけないじゃないですか」
ノートを開いてみると、そこには卯月の名前が何ページも書かれている。
それはサインと呼ぶには程遠く、書いてるのを見ていなければ島村卯月と書いてあるのかさえ疑わしいレベルだ。それでも、
「形はどうあれ、これは島村先輩が俺のために書いてくれたことには変わりはありません。それを俺はとても嬉しく思いますし、それは形で判断できるものじゃありません。だから、俺がこれを捨てるなんてあり得ませんから」
「榊君……」
「ちょっと、クサいセリフでしたかね?」
照れ笑いとともに言う榊に、卯月は大きく首を振る。
「いえ! すごく嬉しいです。それじゃあ私もすぐ上手に書けるようになりますから、それまでそれは榊君が預かっていてください」
「ええと、ここは待ってますって言った方がいいんですよね?」
はい! と満面の笑顔で頷く卯月を見て、榊は逆に自分が恥ずかしくなる感覚を得ていた。
……やっぱり島村先輩の笑顔はいいなあ。
入学式の時も思ったことだが、彼女の笑顔は純粋無垢の文字がぴったりなほど自然なものだ。
たかが笑顔。誰にでもできるはずのそれが、卯月がやるとそれだけで立派な個性として成り立ってしまう。
才能、というと少し語弊があるかもしれない。しかしあの笑顔が簡単にできるものではないのは間違いなかった。
こそばゆい感覚を内に残したまま、
「撮影、頑張ってくださいね」
「はい! 島村卯月頑張ります!」
最後にそう言い残して卯月は走り去ってしまった。
「ねえねえかずみん。ちょっとそれ貸してくれない?」
いつの間に隣まで来ていた未央が榊の袖を引っ張ってくる。
なんだろうと思いつつも、断る理由もなかったため言われた通りにノートを渡した。
すると、どこから取り出したのか、サインペンでノートの一ページに何かを書き込み始めた。そしてわずか数秒後、
「はい完成! 未央ちゃんの自信作」
そう言って返されたノートには、ローマ字で本田未央と書かれていた。それもただローマ字で書いているのではなく、MとHを同じ文字として書いていたり、Oを星型で書いていたりと未央のこだわりが見て取れた。
これが卯月のサインのすぐ隣に書いてあるのだから、なおさらサインの完成度が高く見えてしまう。
「本田さんのサインはこってて上手ですね」
「えへへ、私アイドルを目指すって決めてからサインはずっと練習してきたから。それと、私のことは名前プラス呼び捨てでいいんだからね。同い年なんだし、そういうかしこまったの嫌いだから」
「ああ、うん。次からは気をつけるよ、未央……?」
若干疑問形になってしまうのは恥ずかしさのせいだと割り切る。
こちらが名前で呼んだのに満足したのか、未央は最後にとびっきりの笑顔をみせて卯月の後を追った。
そうなるとその場に残っているのは榊と凛だけとなる。流れから凛も撮影に入る可能性は十分にあり得る。
しかし凛はなかなかあちらに行こうとしない。まだ凛の順番ではなかったのならそれでいい。ただ、
……なんか気まずいんですよねえ。
榊は自分自身を他人に対して自分から積極的に話しかけていくタイプではないと思っている。おそらくそれは凛も同じ気がする。
そんな二人が同じ場所にいれば、自然とだんまりしてしまうのも仕方ない。
だからといって、こちらが別の場所に行くのは相手に失礼だろう。
遠くで撮影に苦労しているかな子と智絵里を見ながら、何の話をふればいいだろうと頭を悩ましていると、
「榊……
「何ですか? 渋谷……さん」
向こうから声をかけてきた。
お互い歯切れが悪いのはまだ打ち解けてないからだろう。
「あのさ、なんでそっちはアイドルになろうとしたの?」
「え? 俺……?」
それは予想外の問い掛けだった。今日きいていこうと思っていた質問をまさか自分にされるとは思ってもみなかった。
どう答えるべきか。ここで素直に話してしまっていいのだろうか。そんなことが頭をよぎっていると、
「私はさ──」
また先に言われてしまった。
視線を合わせようとはしない。そうすると話しづらくなる気がするから。
「あそこにいるプロデューサーにスカウトされて、最初はやるつもりなんてなかったんだ」
「そうだったんですか」
……なんだか自分と似てるな。
だがそう口をはさまない。今は凛が話してる番なのだ。
「高一だけどアイドルなんて興味なかったんだ。プロデューサーは笑顔がいいとか言ってくれたけど、私はそうは思わなかったんだ。もともと笑うのが苦手だったしね。
それでもプロデューサーは差し伸べてくれたんだ。アイドルには、私が夢中になれる何かがきっとあるって。だから、今はまだよくわからないけど、アイドルをやってみようって思ったんだ」
「…………」
榊はどの言葉を返すべきか悩んでいる。自分が想像していたよりも、凛とは境遇が似ているのだ。
考えてもいなかった世界にいきなり誘われて、その理由も納得できるものではない。それでも、次第に心の内でやってみたいという思いは強くなっていく。
運命なんてロマンチックなことを言うつもりはない。ただ偶然にしてはよくできているとは思った。
「俺はさ──」
だから榊も口を開いた。その始まりは凛と同じもので、
「オーディションには参加するけど、別に俺が自分で応募したわけじゃないんだ。知り合いが勝手に応募してて、それがたまたまここまで受かっちゃってさ」
それは藍子達にラジオで話していたことだ。
少し偽った、しかし榊にとっては事実の話を淡々と続けた。
「後でその人になんで俺を応募したのってきくと、その人は思いやりがあるからって答えたんだ。はじめそれを聞いた時は拍子抜けだけだったよ。そんなのは誰にでもあるものだし、それ以外は特にないみたいなんだもん」
「それで、榊君は納得したの?」
「どうだろう、とりあえず割り切ってはいるけど、本心はまだ納得してないだろうな」
でもさ、と榊は軽く目を閉じた。
まぶたの裏には今日の出来事が再生される。
「ある人はアイドルには自分の心を熱くする何かがあるはずって言ってた。ある人はアイドルは怖くないものだと教えてくれた。それである人は、言葉とかはなかったけど、とにかくすごいと思った」
そう、今日出会ったアイドルの人達は皆自分がアイドルになるのを進めてくれた。なにより、
「そのアイドル達の誰一人、俺がアイドルになろうとしてることに否定しなかったんだよなあ」
「否定してほしかったの?」
どうだろう、と曖昧な返事を返しながらも思うところはある。
誰も否定しなかった。だからこそここにいるわけで、もし誰か一人でも向いてないと言ってくれればきっぱり諦めることもできたのにと考えるのはずるいだろう。
ゆっくりまぶたを開けば、これからアイドルになろうとしている彼女達がいる。理由はきっとばらばらのはずだが、目指す場所は同じはずだ。
「まあ何が言いたいかっていうと、俺もだいたいは渋谷さんと同じ理由だってことだよ」
「ふうん。なんだか私達って似てるね」
「そんなことないさ。渋谷さんは誰が見ても美人だってわかるけど、俺はイケメンとかじゃないからね」
自虐気味に言うと、凛の眉間にシワが寄っているのが見えた。
「もしかして未央の言ってたこと気にしてる? 悪気はなかったと思うんだけど」
まさか、と榊は否定してみせる。
「さっきも言ったけど、アイドルとしてルックスが微妙なのは自覚してるからね。でもアイドルに必要なのはルックスだけじゃないはずだから、俺は他のところをアピールして頑張るつもりだよ」
そっか、と素っ気ない返事を最後に、凛はまた黙り込んでしまった。
印象が悪かっただろうか。だいぶネガティヴな発言が目立った気もする。
だがそれは事実だと考えている。それ以外に言葉が出てこなかったし、出てくるとも思わなかった。
また沈黙が続くのかと思った。その時だ。
「凛ちゃーん、どうしたんですか?」
「しぶりーん、もう私達の撮影始まるよ!」
「うん。すぐ行くよ」
凛が呼ばれていることに榊は素直に驚いた表情をつくった。ここに残っているということは、てっきり撮影は後だと思っていたからだ。
こちらの顔を見た彼女は、照れ笑いにも見える微笑をみせて、
「ちゃんと話してみたかったんだけど、未央がいるとまた茶化してきそうだったから」
「それはいいけど、なんで俺と?」
凛の興味を引くようなことでもあっただろうか。困ったように頭を掻くこちらに対して凛は、
「なんでだろうね?」
どうやら凛もはっきりとはしていないらしい。
その気持ちはわからなくもなかった。理由は特になくてもしてみたい、それは誰にでもあることだ。
榊自身も特に理由はなかったが社内を回っていたら偶々ここに辿り着いたのだ。
だから榊はそっか、と簡素な返事をした。
「でもね──」
凛が初めてこちらと視線を合わせてきた。
まだ幼さの残る、それでいて強い意志を感じる顔立ちはまるで楓のようだと思った。
……高垣さんって確か二十五歳だから、十歳ぐらい歳が離れてるのか。
なら凛も、十年後は高垣さんのようになっているかもしれない。その素質は十分にあるように思える。
……でもまあ、ダジャレは言わないだろうな。
そんな感想を持った榊に、凛は満足そうに頷いて、
「話してよかったとは思ってる」
「そうかい? あまり大した話は出来なかったと思うけど」
「そんなことないよ。私って結構動機がみんなと違ってたから、榊君のように似た人がいるとすごく安心する」
「引き目でも感じてるの?」
「そういうわけじゃないんだ。ただ、ちょっと思うところはあってね……」
そう言われてみればそうかもしれない。スカウトされる子は多くても、そのことに喜びを感じないのに続ける人は珍しいだろう。
最低でも、シンデレラプロジェクト内ではそういった子は凛くらいしかいないかもしれない。
それは捉え方によっては、アイドルに対する情熱がみんなとは違うと思ってしまうだろう。
考えすぎと言ってしまえばそれっきりだが、こればかりは凛の考え方の問題で、いくら似た境遇とはいえこちらがとやかく言うのは筋違いに他ならない。
でも、
「別にいいんじゃない。動機なんてなんでも」
「え……?」
つい口を挟んでしまう。
凛が何か言ってほしいと望んでいるように思えたから。たとえそれが気のせいでも別に構わない。だってそれは、自分自身に言ってることでもあるのだから。
「そりゃあ俺と渋谷さんはみんなとは動機が違うかもしれないよ。
でもさ、動機はしょせん動機じゃん。それが他の人とは違うからって努力しないわけじゃないんだし。それとも渋谷さんは、みんなとは動機が違うからって手を抜いたりするの?」
「そんなことするわけないじゃん」
「だったら尚更だよ。プロデューサーだって渋谷さんがアイドルになった以上動機は過去でしかないし、それよりもアイドルとしてのこれからを重視してるんじゃないかな」
今日は色んな人に諭されたせいか、自分の口調も若干生意気に感じる。もしかしたら、他人に諭そうとしている自分に酔っているのかもしれない。
アイドルじゃない俺がいうのもあれだけどね、と付け足すが、凛はその部分を聞き終えるよりも早く頷いて、
「ありがとう、やっぱり話してよかったよ。榊君の長所が思いやりって言った人の気持ちがわかった気がする」
「そうかい? 俺としても唯一の取り柄だと思ってるから褒めてもらえるのは素直に嬉しいけど」
「だけどそれだけじゃ多分駄目だろうから明日は頑張ってね。榊君と仕事できるの楽しみにしてるから」
それだけ言って、凛は駆け足で卯月達の元へ行ってしまった。
……やっぱり足りないものがあるのかな。
それは奇しくも楓と言っていたことに近かった。意味まで同じかは定かではないが、結果は同じなことに変わりない。
わざとらしく説教する未央に苦笑いする凛を見て、榊はまた頭を掻いた。
七話一週間ぶりの先輩はサインが苦手はいかがでしたでしょうか? 若干渋凛の性格が変わってる気もしましたが、この程度は許容範囲かと思い続行しました。何よりこれ以上投稿が遅れるのは避けたかったですしね。
そして遅れましたが、みなさんあけましておめでとうございます。正直年内には投稿出来ると思ってましたが、年末は職場の忘年会やコミケ行ったり友達と神田明神に初詣行ったりデレステやったりと、知らぬ間にこんな時期になっておりました。今度からはなるべく時間をつくってやっていきたいですが、年度末はまた仕事が忙しいんだよな……。
ともかく暗いお話はここまでにしておいて、この星々の王子様ですが、いつの間にかお気に入りが240、UAは一万を超えていました。正直UAについてはよく知らないので一万と言われてもあれですが、お気に入り240超えは素直に嬉しいです。四話投稿時点で100を超えたので、ここまでは順調?に増えていると思っています。お気に入りされているということは、少しでもこの作品を気にかけてくれているということなので逆刃刀としてはおみくじで大吉を引くよりも嬉しいことです。
2016年になり、ヴァイスシュバルツのモバマス第二弾と五十嵐や飛鳥達のCDが早く出るのを心待ちにしつつ今年もちまちまと投稿を続けていきます。
今年もこの作品がみなさんの楽しみの一つになれるよう逆刃刀も気を引き締めてやっていきますので今年も応援よろしくお願いします。
……ちなみに逆刃刀は昨年末にデレステで10連ガシャを引いた際に、社員にしか出ないと思ってたSSR二枚取りをして今年の運勢を全て使い果たしたと確信しました。