アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様   作:逆刄刀

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八話 猫耳とロッカーはにわか?

「ちょっといいかにゃ?」

 

 凛を見送った榊に真っ先に声をかける人物がいた。

 自分に話しかけるなんて誰だとも思ったが、語尾に”にゃ”とつけるアイドルなんて、榊の記憶の中では一人しかいない。

 榊は声の主に努めて笑顔をつくって、

 

「何か俺に用ですか? 猫、さん……?」

 

「なんにゃ、その馬鹿にした感じは。みくは前川みくにゃ」

 

 いい年して猫語を使ってる人を馬鹿にするなという方が難儀ではないだろうか。

……菜々さんはそう感じなかったんだけどなあ。

 菜々の場合はあの年であれだけのことを真面目にやれている。見た限りでは高校生が猫耳付けてとりあえず語尾に”にゃ”とつけてるみくと比べると、菜々さんは尊敬に値するかもしれない。

……設定に対しての菜々さんの認識が甘い気もするけどね。

 だがきっと、ファンにとってはそこがまたいいのだろう。

 菜々への尊敬を再確認したところで、榊はみくに苦笑を見せて、

 

「ごめん、悪気はなかったんだ。ただ前川さんと似たアイドルに会ったからつい」

 

「みくと似てるアイドルって、もしかして猫ちゃんアイドルかにゃ!? それは困るにゃ、これはみくだけの個性にゃ!」

 

……被るのを気にしてる割には、キャラが安易じゃないですかね。

 しかしそれを言うと、みくはくってかかりそうな予感がする。キャラの設定はともかく、この場でも猫語を使うあたり、それなりにこだわりを持っているのだろう。

……そういう意味では菜々さんに似てるんだよな。

 榊はみくのような性格は苦手な方だ。生意気とまではいかなくとも上から目線に感じてしまうその態度が、榊はあまり好きじゃない。

 だからって毛嫌いするわけではない。あくまでみくの性格は苦手なだけで嫌いではないのだから。

 そう自分に言い聞かして、榊は口を開く。

 

「そういうわけじゃなくて、前川さんと同じくらいキャラを大事にしてる人でさ。安倍菜々って言うんだけど、よかったら覚えておいてよ」

 

「安倍菜々……? よく知らないけど頭には入れておくにゃ。──って、そうじゃにゃくて」

 

 みくは頭を左右に振ると人差し指をこちらに向けてくる。

 そういえば、みくは榊に用があるから話しかけてきたのに話が脱線していた。一体なんの用だろうかと思う榊に、みくは威圧的な視線を送ったまま、

 

「猫ちゃんとわんちゃん、どっちが好きにゃ!?」

 

「…………は?」

 

 あまりにも拍子抜けな質問に、それこそ榊は相手を馬鹿にするように聞き返してしまった。

 

「だーかーら! 猫ちゃんとわんちゃんのどっちが好きかきいてるにゃ!」

 

「え、ああ……、猫か犬ですか……」

 

 どうしてこのタイミングでその質問をしてくるのか。榊には全く理解できなかった。

 そもそもこれだけの猫キャラが目の前にいたら、その質問をされても答えを迫っているようにしか思えない。

 だから考える仕草を見せず即座の回答として、

 

「俺はどっちかと言うと犬派かな」

 

 相手が望んでいるものと逆のものを答えた。

 

「な、なんで猫ちゃんじゃないにゃ!」

 

「なんでって、単純に猫より犬が好きだから」

 

「ありえないにゃ! 猫ちゃんの方がキュートで可愛いにゃ!」

 

 みくが怒鳴ったことで周囲の注目が一気にこちらに集中している。はたから見れば、自分がみくに怒られているように見えるに違いない。

……可愛いとキュートは同じじゃないのかな。

 自分にしては珍しく周囲の視線を気にせず呑気な事が頭に浮かんでいる。ただそれを素直に言うと、また眼前の猫が毛を逆立てるかもしれない。

 榊はなるべくみくを刺激しないように言葉を選出しながら、

 

「もちろん猫も可愛いと思うけど、俺は男の子だから、ただ可愛いよりかっこよさもある犬の方が好きなんだよ」

 

「うにゃ……、それはそうかもしれないけど。でも、猫ちゃんだって高い所を登っていくのはかっこいいにゃ!」

 

……あ、やっぱりこの人の性格嫌いかも。

 榊としては誰が何を好きだろうと構わない。人によって感性は違うわけで、犬と猫だって好みは分かれるに決まっている。

 みくがどれだけ猫が好きなのかは分かったし、それだけ何かを好きになれるのは羨ましいとさえ感じる。

 ただ、好みが他人と違ったからって自分の好みを強要してくるのは気にくわない。というよりも相手の器が小さいように思えてしまう。

 ここにいるみんなとは仲良くしないといけないのは百も承知だが、やはりみくとはどこか馬が合わない。

 榊は他人に合わせようとすることが多いが、みくは他人を合わせようとしている。この正反対とも言える性格が、みくに対して壁をつくっているとも考えられる。

 

「ど、どうしたのみくちゃん。そんな大きい声出して」

 

 見かねたように一人の女性が歩み寄って来た。長い黒髪に大人びた容姿はみくとは正反対で、それだけで榊は安堵を覚えていた。

 

「あ、美波ちゃん聞いてにゃ! この子、猫ちゃんよりわんちゃんの方が好きって言ったにゃ。信じられないにゃ!」

 

「この子じゃなくて榊君ね。それに、犬だって可愛いじゃない」

 

「そうだけど、それでも猫ちゃんより上はありえないにゃ!」

 

 全く引こうとしないみくに、美波は苦笑いを隠しきれていなかった。ただそれも、こちらが思う呆れよりも困ったという面の方が強い。

 そう思っていると、美波は苦笑いから笑みへと変えた顔をこちらに見せて、

 

「紹介が遅れちゃったね。私は新田美波、十九歳の大学生でシンデレラプロジェクトの中では最年長なんだ」

 

「榊和巳です。よろしくお願いします」

 

 こちらこそよろしくね、と返してくれる美波を見て、榊は先ほどのみくに対する反応に納得した。

……最年長なだけあって、みんなのリーダー的存在なのかな。

 発足して間もない段階だからまだリーダーとかは決めていないかもしれない。だがもしリーダーを決めるなら、それは美波が最適だろう。

 最年長というのに加えて一目で責任感が強いのが感じ取れる。それに何より、

……この人普通そうだもんな。

 もちろんいい意味としてだ。ここまで個性的なアイドルが集まっていると、それをまとめるには美波のようなあまり個性の強くない人の方が向いてる気がする。

 

 美波との簡単な挨拶をすませると、頃合いを見計らったようにみくがまた声を荒げる。

 

「呑気に挨拶してる場合じゃないにゃ! この子はみく達の敵にゃ」

 

「敵って、みくちゃんいくらなんでもそれは言い過ぎよ」

 

「そんな事ないにゃ。それに、美波ちゃんだって猫ちゃんの方が好きでしょ?」

 

「えっ、私……?」

 

 不自然に驚いた反応に、榊だけでなくみくも察していた。

 気持ちはわかる。その場の空気で正しい選択肢があったとしても、不意にふられると本心が出てしまうものだ。

 

「うう、美波ちゃんも犬派なんて、裏切り者ー!」

 

「ああ待ってみくちゃん! そんなつもりじゃなかったの!」

 

 最早味方がいない事に気付いたみくは、撮影そっちのけでどこかへ走ってしまった。

 そしてすぐさまみくを追いかける美波を見ていると、だいぶシンデレラプロジェクトの先が心配になる。

……主に新田さんの負担だけど。

 

「ソーラー……喧嘩してたんですか?」

 

「ん……?」

 

 癖のある話し方に、首を傾げた榊が振り返ると、そこには見るからに外国人がいた。

 雪のように白い肌とシルバーに近い髪色は榊に北国の人を連想させた。

 見た限りでは年はそう離れていないだろう。だが相手が外国人というだけで、こうも人にプレッシャーを与えるものなのか。

 おまけに先ほどの言葉、日本語も少しは話せるようだが、その前のソーラーが何語か全く見当がつかない。

 だからといって黙っているのはよくない。相手はこちらがみくと喧嘩していると思っているのだ。

 どの程度かわからないが、ある程度日本語わかるようなので、榊はなるべく簡単な日本語を選択しながら、

 

「そうじゃないんだ。ただ、お互いの考えが上手く伝えられなくてね」

 

「ニードラズミーヤ……勘違いですか?」

 

「うーん……。そうだけど、そうじゃないかも」

 

 あれはみくがこちらの話を聞き入れようとしないだけだから、勘違いという言葉は不適切だと思う。

 ならどんな言葉が適切かときかれると榊も思い浮かばず、結局曖昧な回答になっしまう。

 それでも相手は困ったようすを微塵も見せず、

 

「それなら、後でみくと話せば大丈夫ですね」

 

「話し合って上手くいくかな」

 

「みくは優しいです。それに、和巳も優しそうだからきっと大丈夫です」

 

 みくが優しいと言われてもピンとこない。最初の手応えとしては、自己中の塊のようにさえ思える。

 それを目の前の相手に漏らしたところで仕方ない。だから榊は肩をすくめると、

 

「わかった。今度会った時はもう少し分かり合えるように努力してみるよ」

 

「ウダーチ……頑張ってください」

 

「うん、ありがとう。そういえば、まだ名前を聞いてなかったですね」

 

「ダー、私の名前はアナスタシアです。アーニャと呼んでください」

 

「アーニャさんは見たところ外国人のようだけど、日本語上手ですね」

 

「あー……ちょっと違います。お父さんはロシア人だけど、お母さんは日本人です」

 

 ハーフかあ、と榊は納得半分驚き半分の感想を持った。

 最近ではテレビでもハーフタレントを見る機会も増えたためハーフ自体はそう珍しくない。

 だが、アナスタシアの場合はよく言われるハーフ顔という感じではなく、かなり父親の影響を受けているのだろう。一目見るだけではハーフよりもロシア人と言われた方が納得出来てしまう。

 

「十歳までロシアにいました。まだ日本語話すのはちょっと苦手ですけど、聞き取るのは大丈夫です」

 

「へえ、つまり日本語とロシア語両方話せるんですか」

 

「あと、英語も話せます」

 

 まさかの三カ国語である。

 アナスタシアのことを知れば知るほど、また自分に自信がなくなってくる。

 

「ねえねえ、そこの君」

 

 また声をかけられた。聞き覚えのない声ということは、まだ挨拶をしていない相手ということだ。

 榊がそちらを見れば、ショートカットの女の子がいる。首にヘッドホンを掛けてるのを見る限り音楽が好きなのだろう。

 相手の女の子はおもむろに人差し指をこちらに向けて、

 

「榊君、だっけ? 君なかなかロックだね」

 

「俺がロック? どうして?」

 

「だってさっきみくの前で平然と犬が好きって言ったじゃん。あれだけ猫推しな人を前に犬派って堂々と言えるなんて、ロック以外ありえないでしょ」

 

 また反応に困る相手が現れた。榊はあまりロックに興味がないので、ロックが何を指すのかはよく知らない。

 ただ一々反抗してるのをロックと言われると、それは違うだろと素人ながらに思う。

……その考えだと、極端な話反抗期の子はみんなロックになると思うんだけど。

 

「あのさ、君にとってロックって何?」

 

「ロック? そんなの、ロックだと思えばそれがロックなんだよ。それと、私の名前は多田李衣菜だからよろしく」

 

 よろしく、と挨拶を返しながらも榊は伏し目がちになるのを我慢しようとは思わなかった。

 ロックと思えばそれがロック、言う人によっては深く感じるのに、李衣菜が言うと不思議なことに安っぽい言葉に早変わりしてしまう。

 李衣菜に足りないのは単純に実績なのだろうか、そう榊が思うと、アナスタシアがダー、と前置きして、

 

「ロック……ロシアでも有名な人たくさんいます。李衣菜は、どのロックが好きなんですか?」

 

「わ、私!? そうだなあ、色々あるけど、どれもみんなの知らないやつばっかりかな……」

 

……実績どうこうよりも、まずは知識が先に必要みたいだな。

 このにわかロッカーはどうして知識もまともにないのにロックを謳うのか。キャラ作りのためとしても、これだけ無知だとまだみくの方がマシに見えてくる。

 

「次の方撮影お願いしまーす!」

 

「あ! 次私の番だ。じゃあね、ロックの話はまた今度!」

 

 助け船に乗っかるように、李衣菜は早足で去っていく。

 逃げたな、と思うこちらに、アナスタシアは顔を向けて、

 

「私も李衣菜と一緒にスティルバ……撮影なんで、行きますね。榊君は、もうみんなと話しましたか?」

 

「え? ええと、島村先輩に、渋谷さん、それと……。あ、まだ一人話してないや」

 

「ダー、それなら多分それは蘭子ですね」

 

 蘭子? と疑問を返す榊に、アナスタシアはある方向を指差した。

 人差し指の示す方に視線を送れば、スタジオの端に榊がまだ知らない女の子がいる。しかし、

……これはまた、癖の強うそうな子で……。

 真っ先に榊の視界に入ってきたのは黒一色だった。

 リボンやフリルをあしらったドレスのような洋服に、足は厚底のブーツ。そして手に持つ傘もレースついた黒い傘だ。

 ゴスロリファッション。正式名称はゴシックアンドロリータ・ファッションだったと思うが、今はそんな事はどうでもいい。

 ファッションは人それぞれに好みがあるのだから、ゴスロリでもおかしいとは思わない。ただ見慣れないものに対して警戒心を持ってしまうのもおかしいことではないとも思う。

 猫耳を付けてるみくとどちらがマシかときかれたら、それはまた難しい選択だ。

 あれもキャラのなのだろうかと口をへの字に結ぶ榊に、アナスタシアは耳打ちするように、

 

「ザスティンチビー……恥ずかしがり屋なんで、和巳から話しかけてください」

 

「あの子が恥ずかしがり屋? あんな服装してるのに?」

 

人前であれだけの服装するのもそれなりに勇気がいると思うが、と漏らす。

 

「服装は好きだから出来ます。でも、人前だとすごく勇気がいります」

 

「わかるようなわからないような……」

 

「わからなくても大丈夫です。ただ、仲良くしてくださいね」

 

 最後は念押し気味に言って、アナスタシアも撮影に向かってしまった。

 また一人残された榊は困ったように頭を掻いた。

 蘭子の元へ一人で行くには少し勇気がいる。本当なら誰か付き添いをお願いしたいところだが、それはできそうにもない。

……なんかさっきからちょくちょくこっち見てるんですよねえ。

 少なからずこちらに興味を持ってもらえてるのは幸いだが、これだと誰かを誘ってから話しかけにいくと、あからさまに一人では無理ですと相手に言ってるようなものだ。

 榊は言葉にならないため息をこぼした。覚悟を決めろということだろう。

 これまでゴスロリの人と話すことなんて一度もなかった。榊にとって未知との遭遇は好奇心を掻き立てるが、それ以上に不安を与えてくる。

 

「はあ……」

 

 不安と一緒に出るよう、今度はため息を声にして落とす。

 よし、と気合を入れて、榊は蘭子の元へ歩みを進めた。




八話 猫耳とロッカーはにわか? はいかがでしたでしょうか?
皆さんお久しぶりです。丁度一カ月ぶりの更新となりました。一応遅れた言い訳をしますと、詳しくは言えないですが一度病気みたいのになってしまいまして、そのせいで進まず、また仕事も休んでいたためその分を取り返すのに忙しくてなかなか書くことが出来ませんでした。ですがその間にも皆さんからは暖かい感想等いただきありがとうございました。
とりあえず健康にだけは気をつけてやっていきたいと思います。これから高校・大学受験を控えている方もいますでしょうが、健康には本当に気をつけてください。もちろん社会人もですよ。

それでは今度こそ早めの更新を目指していきますので応援よろしくお願いします。
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