アイドルマスターシンデレラガールズ 星々の王子様   作:逆刄刀

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九話 最後の刺客は中二病?

 蘭子の元へ向かう榊は、表情こそ変えていないが内心では緊張を隠せずにいた。

 意を決したと言っても、いざ行動となると心は落ち着かないものだ。自然と拳は強く握られ、額からは汗がにじみ出ている。

 アナスタシアが蘭子は恥ずかしがり屋と言っていたが、そんなことはどうでもいい。

 むしろ榊自身も人と話すのは得意ではない。ましてや相手がゴスロリファッションの人となれば、それが際立ってしまうのは仕方のないことだ。

……誰か助けを呼びたい。

 思わず口に出てしまいそうになる本音を、榊は一歩ごとに飲み込んでいく。

 他のアイドル達は撮影前のメイク直しをしている人や、逆に撮影後の写真チェックをしていたりと手の空いてる人はいなそうだ。武内もスタッフと打ち合わせをしている有様だ。

 なぜ蘭子を最後まで残してしまったのか。知らなかったとはいえ、少し前の自分を叱ってやりたい。

 しかしいくら悔やんだとしても所詮は過去の出来事だ。頭を左右に振って不安を取り除き、本日何度目となる笑顔を作る。普段は動かす機会の少ない表情筋が悲鳴をあげている。

 アイドルを目指すなら笑顔の練習も必要だな、と新しい課題を見つけた榊は片手を差し出して、

 

「はじめまして、蘭子さんだよね? 今度オーディションを受ける榊和巳です。よろしくお願いします」

 

「な! 我の真の名を知っているとは、汝は預言者か!?」

 

「真の名、名前の事? それならさっきアーニャさんから聞いただけだよ」

 

 我とか汝とか独特な単語が聞こえたが、菜々、みく、李衣菜と立て続けにキャラの強い人と会って抵抗が出来たのか、多少の言葉遣いでは気にせず会話できるようになっている。

……慣れって大事ですね!

 己の中の小さな成長に感激する榊の目の前で、蘭子は日傘を肩に当て直して、

 

「なるほど、ならば汝は、我と共に堕天へと堕ちようとするものか」

 

「え、堕天? 堕ちる?」

 

「よかろう。汝が天界より参じようとする使者なら、この 邂逅(かいこう)に祝福の音を響かせようぞ!」

 

……あ、違う。これ俺の知ってるやつじゃない。

 菜々達のキャラがかすんで見えるほどに、蘭子の存在は異彩を放っていた。ゴスロリファッションがおまけに見える。いや、ゴスロリファッションが蘭子の存在を際立ているのか。この際どっちでもいいだろう。

 まだ数回しか言葉を交えてないが、これほどに第一印象で脳内に様々な言葉が浮かんでくる人は後にも先にも出てこないだろう。

 出だしで不意打ちを食らった榊が思わず言葉を発せず固まっていると、蘭子は逆におどおどし始める。

……あれでも一応恥ずかしがり屋、なんだよな。

 挙動を見る限りでは智恵理と似ている部分がある。アナスタシアの言っていた恥ずかしがり屋という情報も嘘ではなく、どちらかというと人見知りの方が正しいかもしれない。

 ただ、いかんせん話し方があれである。コミュニケーションを取ろうにも、会話のキャッチボールが成立出来ない。

 こちらが普通にボールを投げたら、あっちはノーサインで変化球を投げてる感じだ。

 しかもあそこまで堂々と話されると、まるで話を理解していないこっちがおかしいのではないかと思ってしまう。もちろんそれはないのだが。

 

「ええと……、とりあえず歓迎はしてくれてるのかな?」

 

「うむ、汝が天界の門を通ることに成功した暁には、共に魂の共鳴を図ろうぞ……」

 

 歓迎はしてくれてるみたいだが、蘭子は上手く意思疎通が出来てないことを感じ取っているようだ。

 ここで引き下がるのは得策ではないかもしれない。しかしこちらが蘭子の言葉を理解出来ないなら、これ以上無理に会話を続けるのは悪手でしかない。

 

「それじゃあ俺はもう行きますから、蘭子さんは撮影頑張ってください」

 

「ふふふ、我の無垢なる姿を、真実を映し出す鏡に召喚しよう。汝も来たるべき試練のために、その身を灼熱の業火に晒すがよい!」

 

 そう言い残すと、蘭子は高笑いをしてみんなの方へと行ってしまった。

 結局最後も何を言ってるのかほとんど分からなかった。状況とニュアンスから察するに、撮影頑張りますので貴方も明日のオーディション頑張ってください、といったところだろうか。

……悪い子ではなさそうだよな。

 話し方こそ奇想天外ではあるものの、その言葉や表情からこちらを邪険にする様子もない。そこそこキャラの強いみくと比べてみても、現段階では蘭子の方が印象はいい。

 それでも蘭子とまともに会話出来ていなかったのは事実だ。

 明日までになんとかしないといけない、しかしインターネットで調べようにも、どう検索すればいいのか見当もつかない。

……中二病、とは違うよなあれって。

 とにかく頭を整理したい。榊の記憶ではスタジオの外に長椅子が一つあったはずだ。

 一度そこに座って考えよう、そう思いながらスタジオの扉を開けて椅子の方を見ると、そこには先客がいた。

 

「あれ、島村先輩」

 

 榊が声を発すると、先客である卯月もこちらの存在に気付く。

 

「榊君? こんな所でどうしたんですか?」

 

「いや、一通り挨拶も済んだんでちょっと一休みしようかと思いまして」

 

「そうだったんですね。あ、隣どうぞ」

 

 そう言って卯月は身体を奥に動かしてスペースを作ってくれる。言葉に甘えて隣に腰を下ろすと疲れが一気に襲ってくる。

 短時間に十四人との挨拶、中にはキャラが濃すぎる人も何人かいたのだ。

 

「────」

 

 意図せずため息が零れ落ちる。

 

「疲れましたか?」

 

「そうですね。普段はこうして女性と話さないせいもありますが、なかなかみなさん個性がお強いようで」

 

「それちょっと分かります。みくちゃんは猫語を話してたり、蘭子ちゃんは話し方が特徴的ですもんね」

 

 どうやら自分が思っていたことは間違いではなかったようだ。自然と二人の間に苦笑が漏れる。

 

「それより島村先輩はどうしたんですか? 他の人はまだ中にいるみたいですけど」

 

「私は……、気分転換ですかね」

 

 妙に歯切れの悪い言葉に、さすがの榊でもなんとなく予想はつく。

 

「撮影、上手くいきませんでしたか?」

 

 そう質問すると、卯月ははにかみの表情を見せる。

 

「恥ずかしいんですけど、どうやらぎこちないみたいで、みんなが終わった後に撮り直しです」

 

「なんだか意外ですね。島村先輩は緊張とは縁がなそうですけど」

 

「そ、そんなことないですよ! 私も緊張ぐらいはしますよ」

 

 だって、と今度は照れ笑いをこちらに見せて、

 

「やっと夢だったアイドルになれたんですよ。緊張しないわけないじゃないですか」

 

 夢かあ、と榊はどこか懐かしい響きに耳を傾けた。同時に、自分の夢はなんだろうかと自問もしていた。

 アイドルになるという目標ならある。だけど榊にとってそれはあくまで目標であって夢ではない。高校受験の時だって、自分の学力と通学距離から今の学校を選んだぐらいだ。

 高校生なんてそんなものだろう、そう思う反面、卯月が夢を持っていることに素直に羨ましいと思った。

 

「私小さい時からアイドルに憧れていて、養成所に通ってレッスンしてたんです。だけどなかなかオーディションに受からなくて、その間に同期の友達も止めて私一人だけになっちゃって私ってアイドルに向いてないのかなって思ってたんです。

 でも、そんな時にプロデューサーさんが声をかけてくれて、やっと夢だったアイドルになれたんです」

 

 だから、と卯月は榊のよく知るあの笑顔を見せてくれる。

 

「頑張ります! このくらいでへこたれていられませんから」

 

「……なんだか羨ましいですね」

 

「羨ましい? 私がですか?」

 

 意外をそのまま表情に出す卯月に、榊は頷きを返す。

 夢を持っているのもさることながら、それに向けてひた向きに頑張れるのは尚のこと羨ましい。

 自分もそれだけ頑張れるだろうか、と頭に疑問が浮かぶが、即座に否定する。

……俺の場合は、今回駄目だったらそれまでだろうしな。

 今でさえ自分はアイドルに向いてないと考えている。それを明日オーディションを受けようと決意したのは、今西の勧めがあったこそだ。

 だから今回が駄目だからって他のオーディションを受けようとは思わない。あくまでも自分を必要と言ってくれた今西のいるプロダクションでアイドルをしたいのだ。

 わがままだと言われてしまいそうだ。これでは夢どころか目標と言えるかもあやしいかもしれない。

 苦笑が溢れるのをぐっと堪え、榊は言葉をつくる。

 

「島村先輩、ちょっと笑ってみてください」

 

「え? 笑うって、今ここでですか?」

 

 あまりにも唐突なお願いに、卯月が予想通りの反応を示した。

 

「何でもいいんですよ。自己紹介みたいな形でも、島村先輩の笑顔を見せてください」

 

 笑顔を見せてくださいとは、自分の発言とはいえかなり危ない発言をしてる気もする。

 それでも卯月は、じゃあ、と嫌な顔など微塵も見せず前置きする。

 

「島村卯月、トップアイドル目指して頑張ります。ブイ!」

 

 卯月が両手でピースサインをつくったその瞬間を榊を見逃さなかった。

 すかさずスマートフォンを取り出すと、カメラ機能でその笑顔を撮影した。

 

「ふえ……?」

 

 すぐに卯月は笑顔を崩すが、スマートフォンには卯月の笑顔がばっちり記憶されている。

 最近のはすぐにカメラモードになるため、少しの時間さえあればすぐに撮影出来てしまう。

……それが良いか悪いかは、人それぞれなんだろうけど。

 などと悠長なことを考えながらも、榊は早速撮影した画面を卯月に見せる。

 

「この笑顔、どう思いますか?」

 

「この笑顔って、私の笑顔ですよね?」

 

「当たり前じゃないですか。今撮ったんですから」

 

 当然のように言う榊に、さすがの卯月も困ったような顔をした。

 自分の笑顔を本人が評価するのはとても難しいだろう。だから、榊が先に口を開いた。

 俺は、と前置きして出る言葉は、

 

「この笑顔が、とても羨ましいです」

 

 出した言葉に、榊は微塵も恥ずかしさを感じなかった。なぜならそれは、初めて卯月と出会った時から思っていたことだから。

 恥ずかしくないのに、身体は熱を帯び始めている。これではすぐに頭が回らなくなってしまう。

 だから榊は言葉をまとめるよりも早く口に出す。身体に溜まり始めてる熱も一緒に出てくれと願いながら、

 

「入学式の階段で島村先輩と会った時、俺もああいう笑顔が出来たらいいなと思いました。昨日島村先輩がアイドルをしてるって聞いた時、俺はあの笑顔なら島村先輩がアイドルなのにも納得しました」

 

 そして、

 

「今この笑顔を見て。正確にはアイドルを目指すと決めたからこそ、島村先輩の笑顔は、アイドルとして嫉妬してしまうほど魅力的だと分かったんです」

 

「榊君……」

 

 やっぱり駄目だ。身体は熱を放出するどころか、まるでエンジンがかかったかのように溜まっていく。

 やはり慣れないことはするものではない、と片手で顔を扇ぐ榊に卯月は、

 

「くすっ──」

 

 小さく笑った。だがそれはこちらをあざ笑っているわけではなく、今度は榊が疑問を表情に出した。

 

「や、やっぱりおかしかったですか? 自分でも恥ずかしいことを言ってる自覚はありますが」

 

「いえ、すごく嬉しいです。ただ、前にも似たようなことを言われたのでちょっとおかしくて」

 

「似たようなこと、ですか?」

 

「ええ、プロデューサーさんが、私の採用理由は笑顔だって言ってくれたんですよ」

 

「あのプロデューサーさんが……」

 

 なんか意外ですね、と言うよりも早く扉が開く音が耳に届いた。誰だ? と向ければ、そこには話していた武内がいた。

 噂をすればなんとやらはこのことだろう、榊が無言で頭を下げると、武内も同じ反応を示した。

 

「島村さん、みなさんの撮影が終わりましたのでよろしいでしょうか?」

 

「はい、分かりました!」

 

 元気な返事で立ち上がる卯月の姿は、こころなしか最初の時よりも自信に満ちてるようにも見えた。

……これなら大丈夫そうだな。

 素人ながらにそう思う。そもそも卯月ならただ笑っていてれば、それだけで宣材写真としては合格点のはずなんだ。

 それを本人が難しく考えてしまうから、彼女の魅力が十分に伝わらなくて撮り直しになってしまうのだ。

 再び撮影セットへと向かう卯月を見送ると、武内がおもむろにこちらを見て、

 

「榊さんはどうしますか? もう少し見学していきますか?」

 

「そうですねえ……」

 

 正直卯月の撮影を見てみたい気持ちはある。撮影中も他の子と挨拶していたのでゆっくり撮影を見学してる暇もなかったのだ。だけど、

 

「この辺で失礼しようと思います。今日は、明日のためにやらないといけない事がたくさんありそうなので」

 

「では、オーディションを受けるのですね」

 

「はい。生意気かもしれませんが、アイドルに興味を持ちました」

 

 だけど、と榊は視線の奥でカメラマンにあの笑顔をつくる卯月を見つめながら、

 

「いい笑顔ですね」

 

 はい、と武内が同意してくれる。誰とは言ってないが、それくらいは理解してるだろう。

 だから榊は、それを前提として話を進める。

 

「隣の芝生は青いって言葉がありますけど、あの笑顔は本当に羨ましいです。アイドルにとって笑顔は必要不可欠でしょうけど、彼女のそれは人を幸せにする力がありますから」

 

「榊さんは、あまり笑うのが好きではありませんか?」

 

 どうでしょう? と榊は苦笑いを浮かべる。

 

「好き嫌いというよりも、苦手なんですよ。武内さんはアイドルには笑顔が必要と考えているようですが、残念ながら俺の笑顔には、人を幸せにする力はありませんよ?」

 

「確かに島村さんの笑顔は素敵ですし、それはアイドルにとって必要なものだとは思います」

 

 ですが、と武内はこちらを見た。

 相変わらずの無表情は、榊に威圧感を与える。だがそれには高圧的なものは感じない。

 むしろその目はなぜか安心感も与えてくれる。まるで今西のようだ。こちらの心を読み通して、それでいて最善の答えを返してくれる。

 それを証明するように、武内は言葉を続ける。

 

「人それぞれによって目指すアイドルは違ってきます。島村さん達が目指すアイドルには笑顔は不可欠ですが、榊さんが目指すアイドルがそうとは限りません」

 

「俺が目指すアイドル……」

 

 それは考えてもいなかった。アイドルには多少の違いはあれど、みんな同じものだと思っていた。

 だから必然とアイドルに求められるものは共通してるとさえ考えていたし、榊は自分をアイドルに向いてないと判断していた。

 それを武内は否定してきた。プロデューサーが言うなら本当だと信じようとする反面、ただのお世辞ではないかと疑う心もある。

 

「俺の目指すアイドルってどんなアイドルなんでしょう?」

 

「私にはまだわかりません。それは榊さんが決めることですから」

「え? プロデューサーなのに分からないんですか?」

 

「私はあくまでお手伝いをするだけです。シンデレラでいう魔法使いのようなものです。シンデレラがお城で踊りたいと思えば、私はそのための魔法をかけます」

 

……俺男なんだけどなあ。

 一瞬シンデレラ衣装を着た自分の姿が脳裏をよぎり、榊は吐き気にも感覚を得る。

 嫌なイメージを頭から払拭する榊は、武内の言葉を聞いて納得することもある。それはシンデレラプロジェクトの個性の強さだ。

 武内がシンデレラだからこういうアイドルだと決めつけるのではなく、一人一人希望や夢に沿ったプロデュースをしてくれる。

 だからこそ、同じプロジェクト内でもあれだけの年齢差で蘭子やみくのような癖の強いが集まるのかもしれない。

 本当にいい職場だ。改めて思うと、なおさら明日のためにやることがあるだろ、と自分を叱咤する。

 

「すみません武内さん。もうそろそろ行かせてもらいます。今はずっと先の事よりも、目の前の事で頭が一杯のようです」

 

「そうですか。明日のオーディション、楽しみにしています」

 

 あまり期待しないでくださいよ、と弱音を覗かせるが、武内は全く気にした様子を見せない。

 ただ一言、頑張ってくださいと榊に言うと、武内をお辞儀をしてスタジオに戻る。

 一人になった榊は意味もなく天を仰いだ。自分が目指すアイドル、アイドルを目指すと決めた以上今日はそれも考えないといけない。

 

「俺が目指すべきアイドルってなんだろう?」

 

 不意に出た疑問に、無機質である天井が答えるはずもなく、ただ虚しく自分の疑問が耳に響いた。




九話 最後の刺客は中二病?はいかがでしたでしょうか。
これでとりあえずの挨拶回は終了ですかね。やはり十四人もいると否応にも長くなってしまいますね。
そして熊本弁が難しい……。楓さんのダジャレとどっちが難しいか判断し難いですがとにかく難しい。
一応訳は載せてません。皆さんならきっと分かりますよね?もし気になるところがありましたら、感想などで聞いてもらえればと思ってます。

さて、明後日にはいよいよCDの発売ですね。皆さんは買われますかね?私は飛鳥、五十嵐、中野の三枚を買おうと思ってます。今週はお三方のCDやドラマCDを聞きながら進めていきたいと思います(また今日からデレステイベントですが…)
それでは皆さん変わらぬ応援をよろしくお願いします。
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