ダンジョンに救済を求めるのは間違っているだろうか 作:美宇宙
それは過去の話
誰もいない小さな家の椅子の上で膝を抱え何かに恐怖する少年
もうそろそろ彼女が来る、また力の差を見せつけられる、どうやっても今の少年では届き得ない領域にいる少女に恐怖する少年
扉が開く
ああ、きてしまった
視線は扉に向けずそのまま、彼女の姿を見れば彼はさらに恐怖すると思ってしまった
「貴方が私の後継者ですか?」
だが聞こえた声は違うものだった
ばれないように視線を横に移せばそこにいた人は別人だった
両手に握った黄金の剣、腰に付けられた青い鞘、彼女の方で気持ちよさそうに眠っている小さな白竜
そしてその持ち主、来ると思っていた少女と同じ金色の髪、碧色の瞳、白いワンピースを着ている女性がゆっくりとこちらに近づいてくる
「貴方は私達と同じ存在になれます。この先にどの様な困難があろうと貴方は突き進む事になるでしょう。それが貴方の運命なのだから」
3つの力が光となり消えていく
その瞬間自分の中に力が溢れてきた気がした
途絶えることのない、それどころか止まることを知らない得体の知れない力、それに彼は魅了され、そして溺れた
その力はとても強大だった
脆弱な自分はいない、自分こそこの街の最強である、まるで神にでもなったように少年はただただその力を振るう
しかし、そこで更に少年は力を求め始める
自分がもつそれ以上の力、人間が手にしたことのない
そして欲望が抑えられなくなった少年は暴走する
あるファミリア、強大な力を持つファミリアを、彼はたった1人で攻め込んだ
握られた双黄金剣を幾度と振るい、宙を舞う巨大な白い龍に命令を下し人々を殺しそして彼は
神を殺した
光の粒子となって消えていった神、その際、不敵な笑みを浮かべ神が言った言葉により彼の心は元に戻る
「どこまでも突き進むがいい、”英雄”よ」
それにより元に戻った少年は絶望する
人を殺し、そして神をも殺した自分を否定する
しかし、自分の服に付着した人々の血と、そして神の血がそれを許さなかった
絶望し泣き叫ぶ少年は自分が堕ちた原因を見た
未だ空を走る今は小さな白竜、自分の左右両方に落ちている輝く聖剣、そしてこの場にはないが自分の中に眠る鞘
この力を手に入れた時から自分は間違っていたのだと、そう確信する少年は再び剣を握る
その刃先を自分の腹に向け、我が身を貫こうとした瞬間
「何をしているんだ君は!」
この場にはいないはずの誰かの声が聞こえた
恐る恐る顔をあげればそこには神がいた
黒い艶のある髪を頭の両端で縛り、その縛っている部分には銀色の綺麗な鐘が飾られている
青みがかった目は透き通っていて、それは吸い込まれそうなほどに綺麗な目にその身長には似合わない大きな胸
その服装からして神だと判定するには容易だった、なんでこんな所に?なんて思う少年に彼女は抱きしめた
「君は何をしていたんだ!?こんな血まみれで、こんなにボロボロで!」
「お……れは」
「喋るんじゃない!傷口が……ってなんで塞がっているんだい!?いやそんなことよりも体が悲鳴を上げているんじゃないのかい!?ミアハに薬を作ってもらって、あとそれから!」
他人のはずなのに、まるで子供が怪我をした時の親バカの様にあたふたとする神
「神、様」
「だから喋るんじゃない!取り敢えず僕の家に!」
少年の腕を自分の肩に回そうとする神に少年は思った
こんな自分を助けようとしているこの神様を、一瞬だけ親のように
冷え切った自分の体を温めてくれたその温もりを、知ることのなかった家族の温もりなのではないかと
「俺を、貴女のファ、ミリアに……入れて、貰えま、せんか?」
「……僕のファミリアにかい?」
「は、い」
その温もりをずっと感じていたい
意識があった頃には既にいなかった家族、その存在に浸かっていたい
彼の中にある欲望は、先ほどとはまるで別物だ
ただ力を振るう狂戦士ではなく、家族を守れる人間になりたい、その真逆の思いを叶えるために彼は神である存在に願う
「誰もいない弱小ファミリア、ファミリアかさえ疑問のある場所だよ?それでもいいのかい?」
まるで忠告のように告げる神
それを少年は首を縦に振り答えた
「俺に、希望を、くださ、い。俺に、生き、る意味を、くだ、さい。俺、に、家族、というも、のを、教え、て、くだ、さい」
ただ自分の願望を言った
自分になくて他人にあるものを願う少年に、神は笑い、手をさしのべた
「うん!歓迎するよ!僕の名前はヘスティア、君は?」
「俺の、名前は、オリムラ、カイ、です」
「よろしくね、カイくん!」
これが少年に家族ができた日の出来事
誰もが知らない秘密の、一柱の神と少年の家族の秘密の出来事だ
そして今
「なんで俺は拘束されているんだ?」
少年は、ロキ・ファミリアにて拘束されていた