ダンジョンに救済を求めるのは間違っているだろうか 作:美宇宙
「ベル、行こう」
「はい!」
俺たちが向かうのは豊饒の女主人という場所だ
今日ベルがそこでお世話になったらしく、お礼代わりに食べに行こう話になったのだ
神様も誘おうと思ったのだが用があるとかないとかで2人で行くことになり、今出発したとこだ
外に出てみればすでに夕日が上がっていた
ベルはダンジョンに毎日潜っているから外がどうなっているかはある程度把握できるのだろうけど、俺はそういうわけでもない
俺は2週間に1回ぐらいしかダンジョンに潜らず、かつそれも2時間程度である
それ以外は当然ホームにいる、そのホームが地下室ということもあり外の光が差し込むわけがないため外が今どうなっているかとかは確認できないのだ
まあ地下室を出ればわかる話ではあるのだけれど、なんというか、地下室の方が落ち着くのだ
「えっと、その豊饒の女主人って所にはいつ着くんだ?」
「そろそろです」
さっきも言った通り、俺が外に出る理由はほとんどがダンジョンに潜る事だ
それはつまり、2時間ほどダンジョンにしか潜らないと言うわけで
それも俺が外にで始めたのは2ヶ月ほど前からだ
2週間に1回のペースで考えると4回しか外に出ていない事になる
昔といってもやはり俺はダンジョンにしかいっていないわけで
そのせいで俺は長年住んでいるこの街の構図をほとんど理解していない
2ヶ月前の久しぶりの迷宮探索もそこに着くまでに1時間は迷った覚えがあるほどだ
「そうだベル、俺君がこのファミリアになった時の祝い、してなかったよね?」
「はい」
「今夜はパーティにする?」
ニヤリ、と頬を緩ませながらベルを見た俺に彼は苦笑する
「カイさんって時々子供みたいになりますよね。オレンジジュース好きなところとか」
「ぐ、いや美味しいだろ!?ヘスティア様のバイト先の近くの屋台にあるやつとか絶品なんだぞ!?」
結構前、神様がそこで働き始めて数日のことだ
偶然見つけたとかなんとかで買ってきたオレンジジュースを飲んだ時の感動はやばかった
あの甘酸っぱい感じがすごく美味しくて、時々ヘスティア様に頼んで買ってきてもらってたりする
「そんな事よりも、もう見えてきましたよ!」
「そ、そんな事!?」
ぐぬぬ、こうなったら明日の朝は聖剣極光目覚ましの刑にしてやる
あれで起こされると数秒目が眩んで何も見えなくなるんだよなあ、なんか知らないけど神様が俺を起こす時によくされた覚えがある
本当に痛いんだよな、あれに何度苦しめられてきたことか
ベルが言った通り、俺たちの視線の先には賑わった酒場の姿があった
看板には豊饒の女主人と書かれ、中は大盛況、それはもう外に聞こえてくるくらいなかではどんちゃん騒ぎが繰り広げられていることだろう
「すごいな」
「はい」
俺たちが中に入らずずっとそこにいたせいか、中から女性が現れた
ベルの反応を見る限りこの人が朝お世話になった人だろうか
「ベルさん、来てくれたんですね。そちらの方は?」
「僕のファミリアの先輩です」
「先輩というわけでもないですが、カイっていいます。今日はベルがお世話になりました」
「カイさんは僕の保護者か何かですか?」
「家族だけど?」
「そうでした」
二人して笑いながら、目の前の女性、シルさんに招き入れられ酒場の中にへと入り込む
「……すごい」
先ほどと同じ驚きの声が出る
外で聞いていた以上に大きな声、冒険者たちはジョッキをぶつけ合い、 店員たちが懸命に働いている
そして何よりも俺の目が引かれたのは、うまそうな料理である
一体、どのような料理が今から俺たちを満たすのだろう、その考えが一層俺の腹を空腹にする
今すぐ食べたい、今すぐにでもがぶりつきたい
「シルさん、おすすめを貰えますか?」
「おすすめですね」
そう言って厨房に行ったシルさんを見送り、俺達は席に座る
待ちきれるかな、できる限り早く来て欲しい、できる限り早く食べたい
なんか主役のベルより俺の方が楽しんでいる気がする、けれど欲求が止まらないのだ
「やっぱりカイさんって子どもっぽいですね」
「……否定できなくて辛い」
さっきは否定したものの、やはり自分はまだ子供なのだと実感する
これじゃあ俺とベルどっちが年上かわかったもんじゃない
「大丈夫ですよ!そんな人でも僕にとっては最強の剣士です!」
「そんな人がなかったら嬉しかったかな」
大体、俺が最強なわけがない
例えそれが各分野、俺の場合だと剣士の中だとしても一番上なんてありえない
このオラリオで強い人の名前を上げるのならば、猛者オッタル、勇者フィン、九魔姫リヴェリア、そして剣姫アイズ
名前をあげればきりがないぐらい、俺より強い人なんていっぱいいる
彼らの力は確かに神によって解放されたものだ、だが神はあくまでも冒険者たちの背中を押しているにすぎない
ステイタスもスキルも魔法も彼らの努力の結晶だ、特にステイタスは努力しない限り伸びはしないし、個人の努力次第では何処までも伸びていくのだ
対する俺のは自分の力ではなく後付けの、武器の力だ
それに、俺と彼らでは大きな違いがある
それは力に溺れていないこと、力に恐怖していないこと
常に全力で対象に立ち向かい、己の全てをぶつけていることだ
俺とは大違い、対極の存在である彼らを超えて最強という称号を得ることは絶対にない
それが俺の考えだ
なんか自分で言っていて悲しくなってきたな
やめよう、自分の悪口を言っているみたいで心にズバズバと何かが刺さってくる感じで俺が持ちそうにない
自分の頬を2回ほど強く叩き、心を改め待つこと数分、厨房の方からこの店の主人が料理を俺たちの前に運んでくれた
皿いっぱいに守られたパスタ、スープやサラダ、どれも美味しそうだ
「あんたがシルの言っていた冒険者かい?随分と可愛らしい顔をしているね!」
「ほっといてください……」
「落ち込まないで、ほら、目の前にある大量の美味しそうな料理をいまから2人で食べれるんだよ?元気出して」
「は、はい!」
ミアさんが行ったのを確認して俺たちは手を合わせた
「「いただきます!」」
そこからはただひたすらに料理を頬張った
最近は美味しい料理を食べていなかったせいかそれがスパイスとなってさらに美味しく感じる
こうして俺とベルが料理をどんどん食べている時、新たな客がぞろぞろとこの店に入ってきた
少しそちらに目を向ければほとんどが顔見知りなわけで、というかロキ・ファミリアなんだけど
俺はとっさにフードを深くかぶった、とりあえずはこれでバレはしないだろう、あとはベルだ
「どうしたんですか?」
「ベル、とりあえずこれをかぶってくれ」
そう言って俺は腰にかけていた帽子をベルに差し出した
不思議そうにそれを受け取り被ったベルが再度俺に訊いてくる
「それでどうしたんですか?」
「ここから1時の方向だ」
ベルはまた不思議そうに顔を言われた場所に向けるとすぐに俺の方に向き帰った
「ヴァレンシュタインさんじゃないですか!」
「シーっ!ばれたら面倒なことになるからやめてくれ!」
「なんでですか?今からでも行ってあげればいいじゃないですか」
「それが面倒ごとなの!」
これじゃ目の前の料理を美味しくいただけない
いや別に彼らのせいで不味くなるというわけではない、彼らがいると意識して食べてしまって味がわからなくなってしむという意味だ
それに料理に対してそれは失礼極まりない、料理は美味しいだけを考えて食べるからこそ美味しいのだ
しょうがない、ここはばれないように全部食べてお金払って帰ろう、さすがに食べずにお金払って変えるのは料理にも作ってくれた人にも失礼だ
再び、俺はご馳走を食べることを開始する
やっぱりうまい、アイズたちがいることを忘れて夢中になって食べていたい
そうやってもぐもぐと料理を食べている時、離れている俺たちのところまで、周りの大きな声さえも無意味のようにはっきりと声が聞こえた
「そうだアイズ、あの話を聞かせてやれよ!」
声からしてベートか、なんの話だろうか?少し気になるところだ
「白髪の冒険者が俺たちが逃したミノタウロスに追いかけられていてよ!」
「ふむう?その冒険者は助かったん?」
赤髪の彼らの主神、ロキがベートに尋ねれば、彼は笑いながら続きを話し始めた
「カイが間一髪ってところで助けてよ!それでそいつあの牛の血を全身に浴びてトマトになりやがったんだよ!は、腹いてぇ!」
「うわあ……」
「カイのやつ、あれ絶対狙ってたんだよな!?そうだよな!?」
「……そんなこと、ないです」
自分のことではないのに否定してくれたアイズとは裏腹に苛立っている俺がここにいる
聞いていれば聞いているほど腹たたしくなってくる
今ベートが話しているのはもしかしなくてもベルのことだ
よっているのだろう、それでも怒りがどんどんと溢れてきて、止められそうになくて
帰りたい、こんな話を聞いていられるほど、俺もベルも強くない
「アハハハハハハハ!そいつは傑作や!」
神も笑い始め、それにつられほとんどの人たちが笑い出した
だめだ、このままだと
「久々にあんなやつ目にしたぜ、野郎のくせに泣きやがって。泣くくらいなら冒険者なんかになるんじゃねえっての、なあアイズ?」
彼が、堕ちてしまう!
「ベル!」
叫んだ時にはすでに遅く、彼の姿は隣にはない
それに気づいていない彼らはさらに話を進める
「アイズはどう思うよ?アレが俺たちと同じ冒険者なんだぜ?」
いま、なんていった?
今あの狼男は、ベルのことを、アレ、といったのか?
「あのガキと俺、ツガイにするならっどっちがいい?」
「……ベート、君、酔っているのかい?」
「うるせえ、ほら選べよアイズ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って」
「黙れ」
もう、止められなかった
店の中が静かになる、まるで時が止まったかのように全員が行動を停止した
静かな店の中を歩き、ベートの前に立った
「……お前は、逃げずにいられるのか?」
「あ?」
「お前は!ミノタウロスを前にした時逃げずにいられたのか!?」
足を地面に叩きつける
歯を食いしばり、俺はまた口を開く
「lv.1、冒険者になって半月の少年がミノタウロスから逃げたことがそんなにもおかしいか!?」
心からくる怒りを全て吐くように
「お前がlv.1だったとして、逃げずにいられたか!?」
自分の怒りをその場にいる全員に押し付けるように
「お前は最初からあいつとまともに戦えたのか!?今のような力を最初から持っていたか!?恩恵を受けた最初からlv.5だったのか!?」
叫んだ
周りの空気が沈んでいく
誰も彼もが視線を下に向けていく、あげているのはロキ・ファミリアの主要メンバーだけだ
「……宣告します。もし俺の家族に手を出すようならば」
それが例え過去の俺と同じ道を再び通るとしても
「俺は、この街を敵に回してでも貴方達を叩く」
それだけいって、俺はその店を出た