ダンジョンに救済を求めるのは間違っているだろうか 作:美宇宙
あの店を飛び出してから俺は彼を追っていた
彼の背中は見えないけれど、向かった場所は多分ダンジョンだと予測し、今はそのダンジョンの前にある大きな一本道を走っている
「あと少し!」
迷宮の上に立つ大きな摩天楼は、距離を縮めるにつれ大きくなっていく
今の彼のことだ、大した装備なしに下の階層に行っているに違いない
イレギュラーだったとはいえ5階層で死にかけていたのにそれ以上に進むなんて無理ある
何よりも俺は今の彼がどのような感情を握っているかをわかってしまった気がするのだ
それは、力の欲求
もっと強くなりたい、誰にも負けないような、誰も追いつけないほどの絶対的な強さを求めているのではないだろうか
まるで、過去の俺みたいに
なら、その行き先も俺と同じになるかもしれない
力を欲した自分に絶望する前に止めないと、じゃないと
「止まれ」
聞こえたのは男の声
言われた通り止まって俺は眼前の男に目を向けた
ローブを羽織った人間が、俺の行く末を阻むように、ただ一本の道の真ん中に立っていた
右手に漆黒の剣を握り、唯一見えている口は三日月を作っている
「そこを、退け」
男は無言で、剣を構えた
「そこを退けって」
エクスブレイザーを呼び出し、それを握り、俺は一歩踏み込んだ
「言ってるだろ!?」
一気に距離を詰めての第一撃
上段からの一撃を男は剣で防ぎ、俺に顔を近づけさせる
少し見えた漆黒の瞳が、俺を捉えた
「っ!」
体が恐怖を感じ、咄嗟に後ろに下がってしまった
背中に刺さるような冷たい何か、それを振り払うように剣を振るい、構え直す
次はゆっくりと奴を中心に右に一歩づつ足を進める
その中、俺は考える
あの男が俺を引き止める理由はなんだ?いやそれ以前に奴の目的はなんだ?
俺を引き止めるではなく、俺を殺すことが目的、そう考えるのならば奴は、俺の存在を知っている?
「お前は、俺のことを知っているのか?」
聞くも、答えず俺が攻撃するのを待つように男はずっと立ったままだ
答える気はないということだろう、なら力ずくで、というわけにもいかない
今はベルを追いかけるのが最優先だ、隙を見て抜け出さないといつまでたっても追いかけられない
俺は地を蹴った
剣先を相手に向けての刺突、それを剣を使い受け流されながらも右足を軸に回転し振り向き治り、剣をぶつけ合った
つばぜり合いに持ち込み、奴の顔を覗き込んだ
さっきと変わらない不敵な笑みを浮かべる男は俺の剣を弾き飛ばし、自らを俺にぶつけた
地面に落とされた俺に迫り来るそれの側面に剣をぶつけ、すぐに立ち上がって追撃する
「あああ!」
歓喜の声を上げ、男は俺とともに超高速の剣劇を披露する
宙を舞う黒と金の軌跡、夜中に鳴り響く金属音
両者引かず、止まらない
その中、俺は一歩前進する
剣撃が止み、受け止めるものがなくなった剣が俺を襲う
それを無視し、俺は左拳を握り、それを思いっきりぶつけた
頬にめり込み、飛んだ男は、一瞬にして消えた
「!?」
そうか、そもそも俺は勘違いしていた
俺のことを知っているということはつまり、この男は俺と同じ存在"英雄のなり損ない"
「あああああああああああああ!?」
背中に激痛が走り、悲鳴をあげる
俺の背後に回ったその男が、俺の背中を斬ったのだろう
足に力が入らなくなり、意識が朦朧とし始めゆっくりと地面に向かう俺は最後、奴の顔見た
最後まで、男は笑っていた
夢を見た
それは過去の夢、あの頃の夢
力を追い求めた哀れな俺の姿が、夢の中に映る
両手に握られた黄金剣には血が滴り、その血の主と思われる大量の死体の中心で泣き叫ぶ
そこで手を差し伸べる少女が一人
違った、彼女はヘスティア様ではない
彼女は……
そこで夢から覚めた
目を開き状況を確認する
見慣れた部屋、ここは、俺の家?
なんで俺はここにいる?だって俺はあの男に斬られて……あの男は
「いっつ」
無理に動こうとしたせいで背中の傷が傷んだ
なんで傷が残っているのだろうか、いつもなら修復されているはずなのに
ここから考えられることは一つ、今も外にあるということだ
戻す前に意識を無くしたからか、そう思いながら部屋を見渡す
見える限りの場所は探したものの、剣は見えたらなかった、まさかあそこに置いてきた?
いや置いてきたもなにも、まず誰かここまで俺を運んだ?この家知っているのはヘスティア様とアイズだけだけど
ああ、なんかまた眠たくなってきたな
「カイ?」
ドアの開く音と、聞き覚えのある声を最後に、俺は深い眠りに落ちていった