小さい頃……よく、ばあちゃんの料理を手伝ってたことがあった。
ばあちゃんのことは嫌いじゃなかったし、料理をするのも嫌いではなかった……
「亮ちゃんは本当に料理が上手だねぇ」
そう、ばあちゃんにほめられるのが嬉しくて……単純な俺はますます料理にのめりこんだ…………
世間じゃ海の方が騒がしくなってきていたが、俺にはそんなことは関係ない。
将来的には料理人になるつもりで、腕を磨き……料理学校にも通おうと…………
「喜べ亮、お前の海軍学校への入学が決まったぞ!」
目の前に居るクソ親父が、そんなことを言った。
「やはり日本男児たるもの、軍に行くべきだろう、はっはっは」
「亮ちゃん、頑張るのよ」
俺は料理人を目指して…………
「士道 亮(しどう りょう)、貴官を提督に任命する、すぐさま呉泊地へ向かい、前任者の艦隊を引き継いで任務に当れ。」
料理人になるはずが…………
なぜか俺は、提督に任命されてしまっていた。
……どうしてこうなった?
第1話~日常~
午前6時……起床のラッパが鳴り響く……
鎮守府の朝は早いのだ、最も俺個人はいつも早起きする方なのでそう苦ではないのだが…………
壁にかけられた白染めの海軍士官用制服を着用し、部屋から仕事場に向かう……
「あ、てーとく!!」
「お、早いな島風、おはよう。」
「てーとくさん!おはようなのね!!」
「今日も頑張ってくれよ、イク、おはよう。」
執務室へ向かう道のりで、鎮守府に所属する艦娘たちとすれ違う……何時もどおりの朝の光景だ…………
さあ……今日も一日頑張らなければ。
気合を新たに、執務室……を素通りして進む。
やってきたのは食堂……まずは腹ごしらえが必要だ。
「よし……やるか!!」
そのまま厨房に入り、手洗いを念入りに済ませ……壁にかけていた自前のエプロンの紐を腰にまわして結ぶ。
まずは食材の確認だ、昨日炊き出した米が少しと、卵、レタス、玉ねぎ、青ネギ、細切れの鶏肉と調味料の数々を取り出す。
「~~~」
鼻歌を歌い、手馴れた手つきで卵を溶いてご飯と混ぜ合わせる、その後玉ねぎの皮をむき、厨房内の収納スペースから愛用の包丁を取り出す……
玉ねぎをむいて包丁でもって半分にカット、その後半分にした玉ねぎに格子状に切り込みを入れてから薄くスライスしてゆく……程なくして微塵切りになった玉ねぎが出来上がった。
続いて青ねぎ、何分割かにカットしたものを輪ゴムでバラけ無いように束ねて、細かく小口切りにカットしてゆく。
手を切らないように慎重に、しかしながら必要以上に包丁を恐れず……3分ほどかけてカットを終える。
此処までくればいよいよフライパンの登場だ、ごま油を引いて熱したフライパンに微塵切りの玉ねぎと細切れ鶏肉を加え
加熱してゆく……肉に火が通り、玉ねぎが透明色になるまでフライパンを振るい続ける。
「ほっ……よっと!!」
しっかり加熱したら一度具材をボウルに移し、調味料の準備に移る。
ウェイパーを砕き、砂糖、塩コショウ、醤油を少量、味を調節する。
「よし・・・・・・仕上げだ!!」
ごま油を引いたフライパンに、卵に混ぜあわせたご飯を投入……塊が出来ないようにお玉でほぐしつつ、鍋を振るう。
有る程度卵が固まったら、先ほどの調味料、ボウルに移した具材類を投入し素早く炒る……
「最後に……一口大にちぎったレタスを皿の周りに……ライスを真ん中に盛って上からネギを……うん、良い出来だ。」
米がパラパラ、黄金色に輝く黄金チャーハンの完成だ。
「んじゃ……早速……「見つけたわ!!」」
いざ食べようと思ったところで、食堂の扉が勢い良く開け放たれた。
「ん……おお、叢雲!!」
わが艦隊中、最も最古参でも有る駆逐艦の少女……叢雲は、声をかけると一歩、一歩とこちらに歩み寄る。
「丁度良いところに来たな、せっかくだから……「フンッ!!」」
すぱぁぁぁん!!と勢いの良い快音が食堂中に響き渡った……
脳天に受けた衝撃に一瞬惚けている俺に対し、彼女はさらに詰め寄る。
「……いきなり何を……痛「やかましい!!」」
彼女が手にしたハリセン、それこそが脳天の痛みの正体だと感づいて抗議したものの、不機嫌全快の彼女はそんな俺の抗議を一蹴する。
「アンタ……何考えてるわけ?」
「え……俺は何かしたか?」
「この書類……アンタが申請したものでしょ?」
叢雲が、手にした一枚の書類を俺の目の前に突きつけてきた。
「えっと……『執務室内備品の申請書』……これがどうかしたのか?」
「私が言いたいのは申請している内容なのだけれど?」
ふむ……申請内容は、執務用のペンなどの事務用具……新しいデスクの購入に……
「執務室横へのシステムキッチン以下調理器具の導入……何もおかしなところは無いと思うが?」
「執務室への調理器具やシステムキッチンの導入が必要なわけが無いでしょ!?」
ふむ……確かに設備的には、厨房があるのだから、執務室内に調理場を設ける必要は無い……と思うことだろう。
「叢雲……聞いてくれ。」
「なによ?」
「俺の仕事はなんだ?」
「……提督でしょ?」
「そう……提督だ。」
一息ついて、叢雲の目をまっすぐ見つめ、真摯な思いで語りかける。
「提督というのは言わば艦隊の責任者だ、戦闘における戦術の提唱、艦隊のメンバー達の和を取り、艦隊が運用できるように補給、士気を保つ必要がある……そう、艦隊の士気を保つ必要があるんだ。」
「……」
「食料事情と言うのはそのために重要な生命線であるともいえる、特にわが艦隊には大喰らいな面子も多い、何時如何なる時でも、彼女たちの要求に備える必要があるんだ……さらには、飽きが来ないように常日頃からさまざまなレシピに挑戦し、バリエーションを増やしてゆく必要がある……」
「……で?」
「しかしながら、提督の仕事には書類整理と言うわずらわしいものがあってだな……なかなか時間が取れ無いことも多く、厨房と執務室の行き来の時間すら惜しまれることもある位だ……」
そこで俺は気がついたんだ、行き来に時間を取られるなら、執務室に厨房設備を設ければ良いじゃないか、と……
「…………」
「これは艦隊のために必要なことなんだ……叢雲。」
「うん。」
「分かってくれるか?」
次の瞬間叢雲は、いつの間にか取り出した酸素魚雷をフルスイングで振りかぶっていた。
「分かるわけ無いでしょ、この馬鹿ッ!!」
「あべしッ!?」
ゴン、と鈍い音が頭蓋に響き渡り、俺は意識を手放した…………
…………………………………………………………
「まったく……この馬鹿は……」
普段の仕事は有能なくせに、料理に関係することになるとどこか馬鹿になる提督に呆れつつ、取り出した酸素魚雷を何処かに直す叢雲。
「む……」
机の上に置かれた提督作のチャーハンを一瞥、見た目は悪くない……
用意されていたレンゲを手にとって一口……うん、美味い。
シンプルな味付け、米のパラつき、上に乗せられた小口切りのネギのしゃっきり感と薬味のあっさり感。
叢雲も食べられる程度の料理は出来る……が、提督の作るそれは、店に出しても通用するレベルだとは思う。
「どうして、コイツ……提督やってるのよ。」
女性として何か負けたような気分になりながらも、気を失った提督を背負い、執務室まで引きずってゆく叢雲であった。