それでは、どうぞ。
昼食時……多くの社会人、学生達が学生食堂や飲食店に出入りし、飲食店に勤めるスタッフや調理人にとって修羅場ともなるべき、この時間帯。
それは鎮守府においても同様のことだ、鎮守府近郊の町には多くの飲食店事業が展開しているし、
鎮守府内にも、今はもう一線を引いた艦娘達によって経営される、小さな料亭が存在する。
そして……鎮守府に住まう艦娘達にとって、常日頃の食を担うための食堂、そこでは…………
第2話「提督の戦場」
「大鯨、13番テーブルからの注文、入ったぞ!!」
「日替わりと、サバ味噌定食ですね?日替わりのほうから入ります!!」
「頼んだ!!こっちは少し手が離せない!!」
その厨房においても忙しいのは変わりない……艦隊の規模に比べ、調理が出来る者の数は少ないのだからそれは当然であろう。
そんな中、白染めの制服の上からエプロンと言う、もはやこの艦隊に所属する者達にとっては見慣れた姿で、巨大な中華鍋を振るう青年……士道 亮。
現鎮守府最高責任者でもあるはずの彼は、厨房を手伝っている艦娘達に混じり、料理をしていた。
別の鍋の煮込み具合を確認しつつ、巨大な丼にご飯をよそう、その上に醤油、砂糖、みりん、酒、だし汁に少しのとろみをつけたタレで炒めた牛肉と玉ねぎを豪快に盛り付ける。
最後に真ん中にくぼみを開け、半熟卵を3~4ほど落とす。
「牛丼(一抗戦サイズ)と、肉じゃが上がり……電、雷!!鍋ごともって行ってくれ!!」
「鍋ごとなのです!?」
「加賀さんから「鍋で」とのご注文だ……一度に運ぶのは無理そうだから分割して持って行ってくれ!!」
「わ、わかったわ!!」
肉じゃがの入った小鍋と、『あかぎ』と書かれた、もはやバケツと言っても信じられるであろう程の巨大なドンブリ――おそらく特注で作られたものであろう――を、うんしょ、と可愛らしい掛け声を上げ、赤城と加賀の一抗戦ズが待つ席へと運ぶ、電と雷。
それを確認して、先ほどオーダーが入ったサバ味噌定食の準備を始める。
朝の内からじっくりと味を入れていた味噌煮の上に細切りにしたミョウガを小高く盛り付ける。
「提督!!日替わりと定食の準備、出来てます!!」
「……とりあえずオーダーは全部済んだな……サバ味噌は俺が持っていこう。」
大鯨が用意していてくれた、ご飯、味噌汁、漬物の乗ったトレイに先ほど完成させたサバ味噌を乗せ、テーブルまで運ぶ……
「サバ味噌定食と日替わり定食、お待ちどう!」
「お、提督と大鯨が持ってきてくれたのか?」
「おいしそうね~~」
注文したのは、わが艦隊の武闘派、殴りこみ隊長こと天龍と龍田の姉妹だ……午前中の遠征任務がひと段落着いたので、食事に来たのだろう。
「龍田さんは日替わりですね?はい。」
本日の日替わり定食である、秋刀魚の照り焼き定食を龍田の前に差し出すのは大鯨。
戦闘能力は殆ど無いため出撃の機会こそ無いが、調理や執務などは得意なので、食堂の管理を任せてあったりと、鎮守府の内部を支えてくれている艦娘だ。
「しっかし……もうすっかり違和感も感じなくなってきたなぁ…………」
サバ味噌をつつきながらそう言ったのは天龍……それに続くように龍田が返す。
「そうね……提督が厨房に居ても、もう驚かなくなったわ~~」
「俺としては提督よりも、料理人のほうが天職だと思っているんだけどな……」
正直な話、ここ数日は執務室にいるよりも厨房で料理をしていることのほうが多い気がするぐらいだし……
「……それで良いのかよ、提督。」
本部への提出書類なんかは、全部届き次第終わらせているし……艦隊の運営についても特に不備があるわけでもない。
そう、必要な仕事は全て終わらせた上で食堂の運営をしているのだから、何も、問題は無いはずだ。
「でも……まあ、食堂が使えるようになったのは嬉しいけどな。」
「そうね、提督のお料理、おいしいし~~」
ことの話は3年前、俺が鎮守府へ着任した当初に遡る……
鎮守府の無茶な運営を繰り返したことで前任者の提督が解雇され、その後任として提督に任命された俺。
元々提督になることには乗り気でなかったが……命令拒否が許されるわけも無く、こんなはずじゃなかった人生に恨みを吐きながら鎮守府にやって来たのだが……
「あのときの提督……気が狂ったのかと思ったぞ。」
「嬉しくてテンションが上がっていたのは認めるが……そこまで酷かったか?」
僅かな隙も無く頷く、天龍と龍田。
ならばと思い大鯨を見るが……頷いてこそいないが、顔を横に背けて、回答を拒否する体勢に入っていた。
「いや……だってよ、俺は元々料理人になりたかったんだぜ?」
この鎮守府には元々食堂は無かった……いや、正確には使われていなかったと言うべきか。
元々は料理のできる艦娘達が交代性で請け負っていたらしいが、前任者時代の運営方針上、料理をする時間が無く、食堂は閉鎖された状態で放置されていたわけだ。
「俺がこの鎮守府にやって来て、一番最初にやるべきことは設備全体の建て直しだったわけだが……ならばこそ、放置されていた食堂を占りょ……もとい、使えるようにして、料理のできる者が居ない状況下で料理のできる俺が厨房についても、おかしいことは無いと思うが?」
「今、占領って言おうとしただろ。」
「…………何のことやら?」
料理人なら誰しも1度は思うだろう。
自分の店を持ちたい、と。
まさに一挙両得、俺は自分の城を得ることができ、鎮守府にとっても設備の充実と言う意味でメリットがある。
特に、料理人への道が閉ざされたと思っていた俺とっては、まさに夢をかなえる絶好の機会であったわけで……
「だから……多少テンションが上がっていても何も問題は無いだろ?」
「でもよぉ……使われていない食堂の中で、「俺の城だァ!!」とか叫んでいた提督は……ちょっと引いたわ。」
「…………」
「提督、そんなことしていたんですか……?」
「ち……違うんだ、大鯨、あれはその……」
「「「ハァ…………」」」
3者一斉にため息をつく……
「提督って有能なくせにどこか抜けてるんだよなぁ……」
天龍は呟き、提督が作ったサバ味噌を箸でつつき一口食べる……
しっかりと下処理で骨を抜き、食べやすくした上でじっくりと味を入れられたソレを食べて、天龍は今日も思う。
コイツ……どうして提督やってるんだ? と…………
提督の戦場(厨房)、出撃するとは言っていません。