篠ノ之さんと織斑先生の協力あって、物置は無事人が住める空間になった。シャワーもコンロもレンジもエアコンも無いが。
「篠ノ之さん、織斑先生。今日はありがとうございました」
「気にしなくていい。これからも何かあれば遠慮無く頼ってくれ」
「柊、シャワーやコンロ等の設備が使いたい時は寮監室のを使ってくれ。私がいない時は篠ノ之、頼めるか?」
「はい、分かりました」
「では、私はこれで失礼する。また明日な」
織斑先生はそう言い、立ち去っていった。
「……篠ノ之さん。アンタ、織斑先生のことどう思う?」
「急にどうした?」
「ちょっと聞きたくなったんだ。あの織斑一夏の姉だし」
「確かに私は織斑一夏が嫌いだが、千冬さん自体は尊敬に値する人だ。少々身内に対して目がいってないが……」
ふむ……ワンサマーの存在が篠ノ之さんの織斑先生に対する尊敬の念をかき乱してやがるか。
精神的不健康は良くないものだ。オレは肉体的には不健康だが精神的には健康そのものだから割と元気だ。マジでマジで。
「それはしゃあないさ。ワンサマーが周りの取り巻きを作るのと使うのが上手いってことだ。織斑先生よりワンサマーに非があるのは明白。だから篠ノ之さんは自分の気持ちのままに尊敬してればいいさ」
「……そうだな」
篠ノ之さんは微笑みながら頷く。どうやら納得した様子。
「じゃあ、私も部屋に戻る」
「あぁ、今日は助かった。本当にありがとう」
オレは部屋に戻る篠ノ之さんを頭を下げて見送ってから部屋に入り、鍵をかけ、制服から寝間着のスウェットに着替える。
今日は疲れた……もう眠ってしまおう。
オレは寝袋の中に入り込み、目を閉じるとすぐにオレの意識は途絶えた……。
「ーーーよっ、お久」
いつもの真っ黒空間、いつものクソ悪魔……ああイヤだ。コイツ嫌い。
「……なんだよ?」
「なんやかんやで元気にやってんじゃないか」
「まあな。ワンサマーのせいで平穏な学園生活は送れないが、ワンサマーのお陰で味方は出来た」
「やっぱり神に転生されるヤツは頭が足りないんだよ。そんなヤツを転生するヤツ等もやっぱり頭が足りない」
「やっぱり神は嫌いか?」
「ああ、大嫌いだ。なんてったって、オレは悪魔だしな……」
……なんだ。今日は妙にテンション低いな。
「あ、そうだ。お前自分の力のこと理解出来た?」
「…………」
「まだ理解してねぇのかよ……」
「ならヒントよこせよ!ノーヒントで分かってくれだなんて虫が良すぎるわ!」
「無理だ。お前が自分の特典を自分で理解出来なきゃオレもお前もマズイことになる契約なんだよ。だから、オレの為にも自分で気付け」
このクソ悪魔が……クソ面倒臭ぇ!
「んじゃ、そろそろ起床時間だ。またいつかな」
クソ悪魔が指を鳴らすと、目の前は真っ白になってオレの意識は途絶えていった…………。
ーーー目を開くが、窓から射し込む日光が眩しくすぐに目を閉じる。そのまま寝袋から抜け出て日陰の方に移動してから目を開く。
「……着替えるか」
怠い身体を動かして寝間着から制服に着替える。
白いスラックスにグレーの長袖Tシャツを着ておしまい。上着は……置いてくか。着ろって言われたら取りに来よう。
「さてと……朝飯、食いに行くか」
オレは部屋を出て、足早にある所に向かった。
「ーーーこれ下さいな」
オレは購買部にて、コッペパンと250ml紙パックの緑茶と代金をレジに置く。レジ担当の女性はオレをまじまじと見つめながら代金を受け取り、会計を済ませる。
純白の肌に、金色の長髪の外国人……おとなしげな容姿で、年齢はハタチといった所。もしこの世にエルフが存在するならこんな感じの顔立ちだろう。生徒や教師だけじゃなく、こういう所でも美女揃い。流石はIS学園と言うべきか。
しかし凄く視線が気になる。正直ウザったくて仕方ない。
「……あの、なにか?」
「えっ?」
「人の顔ジロジロ見つめて……なにかありましたか?」
こんなことを問いかけてるが、正直何かあるだろう。なにせオレは二人目の男性操縦者。しかも目の下には隈があって頬が痩けてる。不気味な根暗野郎とでも思ってるんだろうか。
「そ、その……普通みんな食堂でご飯食べるし、購買部で食べ物買っていくのって夜食目的の教師の方だけで……それに、コッペパン一個だけで足りるのか、気になっちゃって……」
レジ打ちの人は申し訳なさそうに言う。
なんだ……この人オレを心配してくれてたのか。視線ウザったいと思っちまって申し訳ない。
「食堂で食わなきゃいけないなんて決まりはありません。それに、人多い所苦手だし少食なんで。あ、ゴミ持ってくのイヤなんでここで食っていきますね。頂きます」
そう話してからコッペパンの袋を開け、かじりつきながら紙パックにストローを挿す。
正確には女の多い所とワンサマーがイヤだからなんだけどな。だが少食なのは本当だし、パン一個と緑茶で腹一杯になるヤツがあそこで飯食えば残すのは目に見えてる。それをしちまったらわざわざ作ってくれた食堂の方々に申し訳ない。
「そう、なんだ……あっ、ジャムとか、クリーム、つけないんですか……?」
「このままで結構です。腹に入れるだけなんで」
それに味なんて感じないし。
口の中の水分を持っていくパンを緑茶で流し込むと同時に口の中を潤す。そして再びパンにかじりつく。以下繰り返し。
「ご馳走様でした……んじゃ、オレはこれで」
購買部脇にあるゴミ箱にコッペパンの袋と紙パックを捨て、その場から立ち去る。
「あ、あのっ!」
「……なんですか?」
立ち去ろうとした矢先に呼び止められたので振り返る。
「ま、また、来てくださいねっ!私、待ってますから!」
「…………昼になったら来ます。では」
オレは無表情を装いつつその場を立ち去った。
……原作では見たことがなく、名前すら分からない人。だが、これだけは分かった。
あの人は数少ない癒しだ。だって、オレに悪口言わないし。正直好みの見た目だし。
教室には篠ノ之さん、購買部にはレジ打ちの人……完璧だ。これだけで、オレはワンサマーにボコられようと他多数の女子に嫌われようとオレは耐えることが出来る。IS学園は嫌いだが、そのIS学園に入学しなかったらこの出会いは無かったと思うと皮肉なものだ。
「……頑張るか」
オレはいつもより足取り軽めに一組の教室へと向かった。
教室の扉を開くと、どいつもこいつもオレを一瞥してすぐに各々の行動に戻る。ワンサマーは……なんだかイラついた様子で席に着いてる。
オレが自分の席に座ると、篠ノ之さんがやってきた。
「朝、食堂にいなかったがどこにいたんだ?」
「購買部でパン買って食ってた。理由は察して」
オレは周りのアマ共とワンサマーを一瞥しながら言う。
アイツ等と同じ空間で飯食うくらいなら轢死して腐り果てたスカンクの死骸をビールと一緒に飲み込む方がマシだ。
…………クソッ!!また戯言を!!
「……なるほど。察した」
オレがバカなこと考えてる間に篠ノ之さんは理由を察していた。
自分で言っといてアレだが篠ノ之さん物分かり良すぎだろ。もしかしてエスパー?
「そういえば、来週の総当たり戦はどうするんだ?」
「んー……ダメ元で織斑先生に辞退するって言ってみるよ。素人と代表候補生が戦ったって結果見えてるし」
「それもそうだな……む、そろそろ先生が来るな」
「んじゃ、また後で」
篠ノ之さんは席に戻る。それから一人のんびりしていると、織斑先生とやまや先生が入ってきて挨拶。それからSHRが始まった。
「織斑、柊。来週の総当たり戦で二人の使用するISだが、機体が空いてなくてな……学園の方で専用機を準備することになった」
これを聞いたワンサマーは先程のイラつきが失せ、笑顔を浮かべてる。
ワンサマーはともかく、オレはFU×KIN'なFランクだぞ?男性操縦者のデータ収集目的とはいえ、金をドブに捨てる真似だとオレは思う。
……いや、待てよ?つまり……来週の総当たり戦は『データ収集の為に』とかいって強制参加か?こりゃマジで土下座するしかないかな。
「専用機!?一年のこの時期に!?」
「いいなぁ〜……私も欲しいなぁ〜……」
「織斑君はいいけど、なんでアイツに専用機が……」
「柊に渡すくらいなら専用機なんてない方がいいと思うんだけど」
「なんでアイツが……最ッ低!」
ワンサマーを羨ましがる声が上がる一方、周りのアマ共から睨まれながらボヤかれるオレ。
ふざけんなクソアマが。文句は政府や学園側に言え。というか最低ってなんだよクソ!FU×K!!
オレはクソアマ共のボヤきを受けながら机に頭を預けた。
特に何もなく、昼。オレは購買部に向かって歩きながら思考する。
織斑先生に話した所、やはりデータ収集があるから総当たり戦には強制参加だと申し訳なさそうに言われた。
……ワンサマーにボコられ、ライミーに撃たれまくるのかオレは。
ワンサマーの攻撃は受け方が分かるが、ISバトルとなると勝手が変わる。片やSランクで片やFランクとか……無理だろコレ。雪片弐型で斬られまくってから零落白夜でトドメ刺されるのがオチだ。
ライミーはイギリスの代表候補生で専用機の武装はデッケェレーザーライフルに六機のビット。
…………それと申し訳程度の剣。
だとすると……終始近付くことも出来ずライフルとレーザービットで蜂の巣撃墜だな。苦戦させることがないからミサイルビット撃たれないだけマシだと考えるべきか。
…………溜め息しか出ねぇ。こうなったらライミーにマジで土下座して手加減してもらうしかないな。
「ーーーどうか、しました?」
「うおォッ!?」
「きゃっ!」
突然の声に驚き、前を見る。視界に入ったのは購買部とレジ打ちの人。どうやら考え事をしてる間に到着してたようだ。
また自分の世界に入ってしまった……クソッ、またオレの悪い癖が……。
「……すみません」
「い、いえっ!こちらこそ!それで……お昼、ですね?」
「えぇ、まあ……これ下さい」
オレは朝と同じく、コッペパンと250ml紙パックの緑茶を代金と共にレジに置く。会計が済んだのを確認してからコッペパンと緑茶を受け取る。
「確か……柊霧生くん、ですよね?」
「……そうですが」
「自己紹介がまだでした……。私は、
そう言い、椛根さんは丁寧に一礼してくるのでオレも一礼しておく。
見た目は外国人なのに日本的な名前……ハーフか。
「御丁寧にどうも……。あ、またここで飯食わせてもらいます。……頂きます」
朝と同じようにコッペパンの袋を開け、かじりつきながら紙パックにストローを挿す。それから飲んでは食ってを繰り返し、さっさと食べ終わる。
「ご馳走様でした……では、また明日」
「ゆ、夕食は摂らないんですか……?」
「……はい。全然腹減らないんで……」
簡潔に言い、この場から立ち去る。
独りでのんびりと休みたい……屋上にでもいくか。
誰もいない屋上に寝転がって雲を眺める。独りで……静かに……。今はこの時が幸せだ。
「ーーー隣、いいかな?」
オレの隣から『男』の声が聞こえた為すかさず反対方向に転がりながら立ち上がり、声の主を見つめる。
そこにいたのは灰色のショートカットと赤いフレームの眼鏡、レンズ越しに見える緑色の目が目立つイケメン野郎。歳は……高校一、二年くらいか。第二ボタンまで開いた白Yシャツに緩くかけられた赤いネクタイ、そこに羽織られた黒いブレザー。これだけ見ればどこぞの高校生に見える。
腰に巻いたベルトの左側に金ピカのリボルバーが入ったホルスターと日本刀を携えてなければな。
「……そんなにビビることないじゃないか」
「この現代社会で堂々と銃刀法違反犯してるヤツに『ビビるな』だなんて無茶な話だろうが」
「あー……そう言われればそうだね」
目の前の眼鏡野郎はオレの言葉に納得している。どうやら見かけと違ってバカっぽいようだ。
「君、名前は?俺は
「…………柊、霧生」
この野郎……そのネタでイチャモン吹っかけてやろうと思ってたのに。
「それで……アンタはなんでここに来てオレに接触してきた?その趣味の悪い拳銃とポン刀でオレを殺す気か?」
「君を殺す気はない。ただ、会いたかったんだ。オレの『同類』である君に」
「……同類だと?」
コイツも……転生者なのか?
「勘違いしてるかも知れないから言うけど、俺は『転生者』ではないよ」
「…………」
このクソ眼鏡野郎はなんでこうもオレの考えを読みやがるんだ!?その眼鏡に読心機能でもついてんのか!?
「分からない様子だね。なら、ヒントをあげるよ。君は俺と同じ『才能』を持っている」
「才能……?」
「そう……『貰い物』の力とは違う君自身の才能だ。それが、君と俺が同類たる所以だ」
「……アンタ、何者なんだ?」
問いかけずにはいられなかった。オレを転生者だと、『特典』を持っていると見抜きながら転生者ではない男。クソ悪魔の差し金だろうか?
「そうだなぁ……近い将来、君の『先輩』になる者だと言っておこう。じゃあ、またいつか会おう」
そう言って眼鏡野郎は走り出し、屋上から飛び降りやがった。どうせ生きているだろうから追いかけて見たりはしない。
……一体なんだってんだよ、クソが。なにが才能だ。なにが同類だ。悪いが、『先輩』のヤバいことに巻き込まれるのは御免だ。
オレは午後の授業の準備の為に教室へと戻った。クソが、昼休み丸潰れだぜ、クソ。
メイン人物紹介
IS学園の購買部で働いている女性であり霧生にとって癒しの存在。金色の長髪に白い肌、二十代の端麗な外人系容姿を持つ美女であり、霧生の好みのタイプ。異性に対してあまり耐性がなく、緊張してしまうが基本的に心優しい。
突如霧生の前に現れた謎の男。灰色のショートカットと赤いフレームの眼鏡、レンズ越しに見える緑色の目が目立つ十代後半の青年。黄金のリボルバーと日本刀を携えている。霧生に自身と『同じ才能』を秘めていることを感じ、『同類』と呼んでいる。