事故ったりインフルエンザになったり
踏んだり蹴ったりでしたが
なんとか出来ました
どうか今回もチラ見してやって下さい
午後の授業が終わり、放課後。何もやってないのに視界に入るだけで睨まれ、苛立ちながら歩き続ける。部屋に戻っても暇だし、何をしようかと考える。IS訓練は……いいや。負けるのは目に見えてるし。
このISに対するモチベーションの低さ、我ながら情けないと思う。骨無しチキンと詰って蔑んで踏んづけてくれ。
「あぁ〜、らぎらぎだぁ〜」
……ラギラギねぇ。どちら様?珍しい名前だなぁ。自分が女だったらこんな名前つけた親を呪殺しそうだが、オレは『柊霧生』なので関係ない。
そんな屁でもないことを考えながら恐らくオレを呼んでいるであろう声を無視して歩き続ける。
「らぎらぎ〜、待ってよぉ〜」
オイオイ……ラギラギさん。待ってって言ってるんだから待ってやれよ。まあ、オレには関係ないが。だってオレは『柊霧生』であってラギラギではないから。
再び屁でもないことを考えながら声を無視して只々廊下を歩き続ける。
「ひ、柊くん!ちょっと待って!」
さっきとは別の声がオレの名字を呼ぶ。柊って名字で『くん』付けなんてオレ以外にいない。もうトボけることは不可能と判断して立ち止まって振り向く。
喋り方で予想はついていたが……案の定布仏本音がいた。更に、二人の女子も。確かおさげの方は……谷本癒子で、ヘアピンつけた黒髪は……夜竹さゆか。
原作にいた人だけどメインじゃないから正直曖昧だ。改めて、自己紹介を真面目に聞いとけばよかったのにと思う。
というかなんでオレの所に来るんだよ。ワンサマーに騙されるなと祈りはしたが、オレの所に来いと祈った覚えはない。こんな所ワンサマーに見られたらボコ殴り確定なんだぞオレ。だから来ないでくれ。頼むから。祈るから。土下座するから。靴舐めるから。
「らぎらぎ〜。無視するなんてひどいよぉ〜……」
布仏本音は落ち込んだ様子で言う。悪いとは思ってるが反省はしない。
「すみません……いきなりあだ名を付けられるとは思ってなくて。それで、何か用ですか?」
「ちょっと柊くんとお話したいなぁって思ってね!どうかな?」
谷本癒子が笑顔で言う。オレはお話したくないなぁ。厄介事は余所に行ってくれ。オレはボコられたくない。
「……そういうのは織斑の所に行けばいいと思いますが」
「えっと……それは…………」
オレの言葉を聞いた夜竹さゆかが狼狽しだす。
「ここだけの話だけどね。織斑くんと話してみて、私達としてはちょっとアレかなぁ……って思って」
「嫌いなタイプだったと」
「ストレートに言うと、そうなるかな」
小声で話す谷本癒子はオレの言葉に苦笑を浮かべながらも肯定する。
嫌われてやんのワンサマー。ザマァミロ。
「らぎらぎなら〜、仲良しになれるかなぁって思ったんだ〜」
布仏本音はそう言いながら笑顔でオレを見つめる。そう言ってもらえるのはいいことだろう。
だが、オレは厄介事とは仲良くしたくない。残念だ。もしワンサマーのヒロイン候補じゃなければお友達になれたのに。
「……お気持ちはありがたいですが、オレも織斑と同じようなものだから御遠慮させて頂きます。では、失礼します」
「ちょ、柊くん!?」
聞こえる声を無視してオレは足早にこの場を立ち去った。
三人には悪いとは思ってるがオレの為にもここは退かせてもらう。
……結局、部屋で暇を持て余すことになったか。まあ、いいけど。どうせならハチに電話でもしようかな。
部屋の鍵を解いて扉を開く。
「ーーーおっかえりなさ〜い!ごはんにする?お風呂にする?それとも……たーーー」
「ーーー悪霊退散」
不思議の国のアリス的なエプロンドレス着てウサ耳カチューシャつけたアマが変なことを言って動かない間にすかさず扉を閉めて鍵をかける。
オレの前世の記憶が正しければ……あのアマは『
……原作でこんなイベント無かったろうが!!ゲームで例えるなら『自分の部屋に帰ったらラスボスがいた』のと同じだぞ!?
もしや、オレの幻覚だろうか……!?ヤバい類のブツをやった覚えは今世でも前世でも覚えはないんだが!?
……今一度、鍵を解いて扉を開く。
「おかえりなさ〜い!わたしにする?束さんにする?それとも……エス・イー・エックス?」
「FU×K YOU BITCH」
つい口から暴言を垂れながら扉を閉めーーー
「ーーーそうはイカのなんとかー!」
「うおぉっ!!?」
扉を閉める前に胸倉を掴まれ、中に引きずり込まれて鍵をかけられる。中にいるのはオレと篠ノ之束のみ。
……冷静になれ柊霧生。こういう時こそまともに思考しなくては。
まず、何故篠ノ之束がここにいるんだろうか……コイツはワンサマーか篠ノ之さん、或いは織斑先生以外に関心ないんじゃないのか?
……イレギュラーであるオレを消しに来た?コイツのことだ、気紛れで自分の手で人殺すくらいしそうだ。
「ムッフッフー!ようやく会えたね、柊霧生くん!」
「……もしかしなくても、篠ノ之束博士ですよね?」
「そう!ホントは来る予定なかったんだけど……来ちゃった!」
篠ノ之束は笑顔で言う。何故か前屈みになって胸の谷間を強調するポーズを取っている。
それは止めろ。不健康だが健全な男子であるオレには破壊力が高過ぎだ。やまや先生を軽く超越してやがる……。
「……それで、何の目的があって来たんですか?」
「気になっちゃうよね?
ーーーなら、教えてあげる」
そう言いながら篠ノ之束は無表情になってオレに近づいてくる。
得体の知れない気味の悪さがオレの身体を蝕み、ビビりでチキンなオレは後退りする。しかしやがて壁に背中が当たり、その隙に篠ノ之束は間合を詰めて壁に右手をつく。
まさか篠ノ之束に壁ドンされるとは……こんな状況じゃなければハッピーだったのに。今全然ハッピーじゃねぇよ。凄まじくおっかねぇよ。
「…………」
「…………」
篠ノ之束の顔が互いの吐息がかかる程に迫る。無表情なのはおっかないが、見れば見る程美人ーーー
「ーーーんっ……」
「……ッ!!!?」
オレの唇が人肌並に温かい柔らかさを感じた。柔らかいのに、軽い。まるで羽毛のようだ。
……えっ?オレ、キスされてる?篠ノ之束に?……えっ、えぇっ?
唇の感覚が無くなり、目前にある篠ノ之束の顔は、いつの間にか笑顔を浮かべていた。先程の笑顔でありながら、どこか艶かしい。
「柊霧生くん。篠ノ之束はキミを愛してます」
篠ノ之束はそう言いながらオレを抱き締める。
「……ッ!!おまっ、なにをーーーって力強ッ!!?」
全力を出して逃れようとするが全く動けない!なんて馬鹿力だよコイツ!?しかもなんてデカさと柔らかさだ!!文字通り悩殺する気かBITCH!!
「どったのセンセ?子作りしちゃう?」
「ふざっけんなバニー違い!色々と過程スッ飛ばした挙句人のファーストキス奪いやがって!!」
「いいじゃんいいじゃん!その代わりにこの完璧にして十全な篠ノ之束さんのファーストキスと溢れんばかりのLOVEを得たんだから!きーくん、世界で一番の幸せ者だよ?」
「それは否定しねぇから離せ!!」
「や〜だ〜!やっと束さんが待ち望んだ人に会えたんだから離さない〜!」
「意味分かんねぇよ!大体、オレとアンタは今が初対面だろうが!アンタの身内の篠ノ之箒や織斑千冬、一夏なら兎も角、どうしてオレなんだよ!?」
「箒ちゃんもちーちゃんもいっくんもわたしが望むモノを持ってないもん。でもきーくんは違う。きーくんはわたしが望むモノを持ってるの!」
篠ノ之束の望むモノを、オレが持っている……一体なんなんだ?
……オレの『才能』と『特典』が関係しているんだろうか?それが関係しているなら……この篠ノ之束も転成者?或いは『天才』故にオレのようなイレギュラーの存在を感知出来る『天然の化物』とかだろうか?
「きーくんは自分が思ってる以上に強くて凄い!だから、わたしの全てを捧げてでもきーくんと添い遂げるのだ〜!」
「分かったから離せぇ!」
「離しませーん!」
色々な意味で顔を赤くしながら抵抗するが篠ノ之束はそれを笑うかのように抱き締めて拘束したまま更に強く胸を押し付けてくる。
いくら規格外の存在とはいえ、女に力負けするのは情けなくて泣いちゃいそうだよクソッタレ!
「ねぇねぇきーくん。知ってる?今度クラス代表の座を賭けて戦うじゃない?」
「情報筒抜けかよ……ああ。それがどうかした?」
もう抵抗するだけ無駄なので諦めてこの状況を健全な男子として愉しみながら篠ノ之束と話す。
情けないと詰り、爆発しろと蔑んでくれ。
「きーくん、もしメシマズといっくんに負けたら死ぬよ?」
「……マジで?」
「うん、大マジ。日本政府に身柄引き渡されて研究所逝き。解剖して研究って名目で
世の中クソだな……オレもブリュンヒルデ並の身内が欲しかった。
「でも大丈夫!この天才束さんがきーくんの専用機を作ってあげる!」
「ハァ?んなこと言ったって、もうどっかの企業がオレの専用機を作ってるってーーー」
「ーーーガラクタだよ?」
「……どういうこと?」
「専用機二機作るなんて大口叩いたヤツ等『倉持技研』って烏合の衆なんだけど、あそこヒドいよ?」
倉持技研……確か原作だと白式はあそこで設計開発されたんだったな。まあ、結局作るの無理で凍結してたのを篠ノ之束が引き取って完成させたってオチだけど。
「どう酷いんだ……?」
「引き受けてた仕事途中でほっぽり出した上いっくんの専用機開発で手一杯」
「つまり……オレの専用機は超絶手抜き?」
「そう!いっくんの専用機作る片手間にガラクタ寄せ集めたツギハギでポンコツなガラクタ機!まともに動く保証ナシ!」
ホントにこの人の情報網どうなってんの?まあ、天災だからどうとでも出来るんだろうけど。
しかし、そんなので『男性操縦者の専用機設計開発してやったぜ』とデカいツラすると考えると……クソムカつくな。
「本当は一から作ってあげたいんだよ?でもさ、きーくんの立場上わたしとくっついてるのがバレると非常にマズいし」
「つまり……そのガラクタをアンタの手で使えるモノにすると?」
「そゆこと!流石はきーくん!聡い子だねぇ!」
篠ノ之束はそう言いながらオレの頭を撫でる。
……正直まだ篠ノ之束のことは信用出来ない。いつ掌返し食らうか分かったもんじゃないし。だが、オレの命がかかってるんだ。使えるものはなんだって使おう。
「……感謝はしときますよ」
「んふふ〜!きーくんはツンデレさんだなぁ〜!」
「ツンデレじゃねぇ。というか、いい加減離してくれ」
「そうだね〜。きーくんの専用機用意しないといけないし。はぁ……名残惜しいなぁ」
そういって篠ノ之束はオレを解放した。
不健康だが健全な男子であるオレとしては『名残惜しい』という点は同意せざるを得ない。
「じゃあ、わたしはそろそろ行くね?またね、きーくん!愛してるよ!」
そう言うや否や篠ノ之束の唇がオレの唇と重なる。
この温かさと柔らかさ、そして軽さでオレの思考は再び停止する。
オレは只棒立ちして、窓から飛び降りる篠ノ之束を見つめることしか出来なかった。
「…………」
本日の教訓。
童貞がいきなり絶世の美女にキスされると、頭がおかしくなる。
覚えておくとしよう……。
「ーーーえへへへへぇ〜!勢い余ってキスしちゃったなぁ〜!」
世界のどこかにある篠ノ之束のラボにて、束はソファーに寝転がった状態で笑っている。
「面と向かって改めて理解出来た……!きーくん自身は自覚してないけど、きーくんはわたしを『解放』してくれる人だ!」
束はハイテンションのまま起き上がり、ソファーから立ち上がってその場をクルクルと回り出し、止まる。
「きーくんがわたしを『解放してくれる時』を安心して待つ為なら……わたしは、触れたくも近付きたくもないわたしの『壊れた夢』にまた触れるよ」
先程のハイテンションから嘘のように静かに、束はそう言った。そして、無言のままラボを出た。