柊霧生が進む道   作:ダメオ

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EPISODE9 ラブラビット

ピットに戻ってくると、織斑先生とやまや先生が笑顔で迎えてくれた。

 

オレの今世初の本気出した結果に御満足頂けたようだ。良かった良かった。

 

 

「柊君!代表候補生のオルコットさんに勝ってしまうなんて、凄いですよ!」

 

「……色々な要素が組み合わさったビギナーズラックですよ」

 

「それでも勝利には変わりない。よくやったな」

 

「……ありがとうございます」

 

 

二人に褒められていると、その二人の背後に立つワンサマーと目が合った。どうやら、オレを潰す気満々らしい。

 

 

「次の試合は柊と織斑だが、柊は連戦になる。休憩を挟むか?」

 

「いえ、構いません。すぐ終わるので」

 

「そ、そうか……では柊のシールドエネルギー補給が完了次第、試合を開始するぞ」

 

「分かりました」

 

 

お次はワンサマーとだが……オレの目的は既に達成した。首の皮一枚繋がった今、あんなバカとなんてまともに戦うものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレのエネルギー補給が終わり、すぐにオレとワンサマーはアリーナに出た。ワンサマーの白式も既に一次移行は終えたようだ。

 

 

「オイ、柊、棄権するなら最初の内だぜ?」

 

「……理由は?」

 

「お前が俺に勝てるわけないからだ。俺は主人公で、特典だってあるんだからな」

 

 

オレだって特典持ってるぞ。どんなものか全く分からんがな。クソ。

 

 

「まあ零落白夜がないのが非常にムカつくが、その分射撃武器があるし俺ならそれを活かすことが出来るしな。まあ、俺程に強ければ剣さえあれば充分だが?」

 

「…………」

 

 

……成程。篠ノ之束が手を付けず、倉持技研が本気で頑張ればそうなる訳か。見た目と性能以外ラファールみたいだ。

 

しかしワンサマーの戦闘能力がそれの力を引き出しちまう。銃を持たせりゃ百発百中、剣を持たせりゃ天下無双。零落白夜さえあればエネルギー消耗誘えたがそれもない。

 

……原作より遥かに厄介な仕上がりだな。いや、恐らくこれが普通なんだろう。原作の白式がロマンと欠陥という糞にまみれた動く棺桶なだけだ。

 

まあ、そんなの関係ない。試合はすぐ終わるからな。

 

思考していると、試合開始のブザーが響く。オレはすぐに右手を挙げた。

 

 

 

 

「柊霧生、棄権します!」

 

 

 

 

オレは声高らかに叫んだ。ワンサマーは口を開けてオレを見つめている。如何にも『ハァ?』と言いたげな顔をしている。

 

何驚いてんだよ。棄権するなら最初の内だってテメェが言ったんだろうが。

 

 

『ひ、柊霧生の棄権によって、勝者織斑一夏!』

 

 

アナウンスが聞こえたのでオレはすぐさま耳を塞ぎながらピットに戻った。

 

 

「真面目に戦いなさいよ!!男の癖に!」

 

「この臆病者!!」

 

「専用機の持ち腐れじゃない!!」

 

 

案の定アリーナからクソアマ共のブーイングが聞こえてきたが、勿論無視。どいつもこいつもワンサマーにボコられるオレを見たかったようだ。

 

ダメだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットに入ると、織斑先生とやまや先生が微妙な表情で迎えてくれた。

 

 

「先程のすぐ終わるというのはこういう意味か……」

 

「オレの目的は達成出来ましたし、オレはクラス代表の座に興味はないので」

 

「そうか……まあ、柊が考えたことだ。とやかくは言わん。では、専用機を待機状態にしてくれ」

 

「分かりました」

 

 

イメージは……定番の『納刀』にしてみる。刀を鞘に納めるイメージをすると、機体が消えた。

 

そして、オレの右手に先端が少々凹み、所々が少々曲がった金属バットが握られていた。

 

 

WHAT THE ×UCK!?(なんだこりゃ!?)

 

 

武器も金属バットなのに待機状態も金属バットってふざけてんのか!?しかもよりによってオンボロじゃねぇか!オレは野球少年でもヤンキーじゃねぇぞ!BAT MANとでも名乗れってか!?

 

織斑先生とやまや先生は困惑している。そりゃそうなる。誰だってそうなる。オレだってそうなる。

 

 

「まさか、そのような待機状態になるとは……」

 

「やっぱり珍しいんですか?」

 

「ISの待機状態は基本的に装飾品になるものだ。バットのようなものは前例がない」

 

「ですよね……まあ、分かりました。こうなった以上面倒でも持ち運びますよ」

 

 

オレは右手に持ったバットを肩に乗せる。これで校内歩く姿は実に反社会的。

 

 

「では、柊君。これに目を通しておいて下さいね」

 

 

やまや先生からISに関する規則の本を受け取る。参考書より薄いが普通の本よりはかなり分厚い。鈍器として十分だ。

 

面倒だが読まないと。面倒だが。

 

 

「ありがとうございます。では、オレはこれで失礼します」

 

「織斑とオルコットの試合は見ないのか?」

 

「どうせ織斑が勝つのは目に見えてます。互いに打鉄だったとはいえ元世界最強を負かした男が代表候補生に負けるわけがありませんし。では、お先に失礼します」

 

 

オレは扉の前に立つ。

 

……おっと、両手塞がってた。

 

オレは冷静にバットを持ってる右腕で本を脇に抱えてから左手で扉を開けてピットから出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更衣室に入り、一先ずバットと本を置く。ロッカーを開いてからISスーツを脱ぎ捨て、入れておいた下着と白スラックスと靴下と内履き用革靴を履く。そして最後にオレ愛用の灰色長袖Tシャツを着る。

 

 

 

 

 

「ーーーまさか代表候補生に勝ってしまうとは。驚きだよ」

 

 

オレはバットを手に取り、声が聞こえた方向にフルスイングする。

 

そこには、ベンチに座って右手の平でバットを受け止めた眼鏡野郎の津上司がいやがった。

 

案の定、通じねぇか……クソムカつくなぁクソ。

 

 

「もっと『()』る気を籠めないと俺に傷一つつけることは出来ないよ」

 

「籠めたつもりなんだがな……それで、何の用だ」

 

 

オレはバットを引っ込め、肩に乗せながら問いかける。

 

 

「君の試合の観戦だ。なかなかいい試合だったよ。セシリア・オルコットが女尊男卑思想で直情型だったとはいえ初戦でああもきっちりと畳み掛けるとは。流石は俺と同じ『才能』を持つ男だ」

 

 

眼鏡野郎の言葉から察するに……オレの『才能』とやらは戦闘面のもののようだ。

 

なら特典はなんなんだろうか……出来ることならオレの才能を引き立てるものがいいが。

 

 

「……そいつはどうも。それで、アンタの他の目的は?」

 

「少なくとも君のことではないさ。俺の個人的な用だ。だから、君は君で行動した方がいい。少なくともここで俺と会話するよりは有意義な時間を過ごせるよ」

 

「なら御言葉に甘えてそうさせて頂く。じゃあな。出来れば二度と会わないことを切に願うぜ」

 

 

オレは更衣室から出て寮へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー柊!」

 

 

バットを肩に乗せて反社会的に学園の廊下を歩く中、後ろから声をかけられる。

 

この声は篠ノ之さんか……。

 

振り返ると、やはり篠ノ之さんがいた。

 

 

「まさか代表候補のオルコットを倒してしまうとはな」

 

「篠ノ之さんとの特訓の成果が出たけど……オルコット様がオレをナメてなかったらオレが一方的にやられてた。ビギナーズラックだよ」

 

「それでも凄いことだ。ランクや稼働時間等、大差があったのに柊は勝ったんだ。少しは自分を誇ってもバチは当たらないと思うぞ」

 

 

篠ノ之さんに褒められ、どうも背中がむず痒い。

 

……ワンサマーがちやほやされてる時の気持ちがよ〜く分かった。あまり好きになれない感覚だな。気恥ずかしいし。

 

 

「それに、その……好機と見てオルコットに果敢に攻め入る柊は、とても格好良かった……」

 

 

頬を赤らめながらも微笑み、そう言う篠ノ之さん。その姿は正しく美少女と言うに相応しいものだった。

 

……顔が熱い。今のオレは恐らく顔が真っ赤になってることだろう。

 

 

「……あー、それはどうも。そう言ってもらうと頑張った甲斐がある。うん、嬉しいよ」

 

「そうか……それは、良かった」

 

 

篠ノ之さんの言葉を最後にこの場は沈黙に包まれ、非常に気まずくなる。

 

 

「……篠ノ之さん。済まんが、オレは疲れたから帰って寝る。話はまた明日ってことで。じゃ、これで」

 

 

場の気まずさと照れ臭さからオレは返事も聞かずに走り出した。

 

ウソじゃない。本当に今日は疲れたし。決してウソじゃあない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に到着。鍵を取り出したが、一度手を止める。

 

……篠ノ之束が出てきたりしてな。

 

警戒しながらも右脇腹に本を抱えながら左手で鍵を解き、左手で扉を開く。中に入り、扉を閉めて鍵をかけてから左手に本を持ち、右手のバットを前に構えながら周りを見る。

 

 

「……ハァ」

 

 

妙に膨らんだオレの寝袋が視界に入る。しかも頭の方から見覚えのあるウサ耳が出ていやがる。

 

隠す気ゼロかこのアマは。

 

とりあえず寝袋の前で座り、バットでつついてみる。

 

 

「んー……もう、誰だよ。この束さんの至上の安眠を妨げる不逞の輩は」

 

 

寝起き特有の不機嫌そうな顔をしながら寝袋から頭だけ出し、そう言う篠ノ之束。

 

 

「それはオレの台詞だ、不逞の輩さん」

 

「……あっ、きーくん!」

 

「あぁ、柊霧生だよ。それで、アンタここで何してんだよ?」

 

「きーくんの初勝利を記念してイチャイチャしようと部屋で待ってたらつい魔が差して……眠っちゃった!」

 

「あ、そう……」

 

 

ツッコミを入れる気すら起こらず、溜め息混じりに言う。すると、篠ノ之束は寝袋から出てきてオレを抱き寄せてきた。

 

 

「それで、機体の調子はどうだった?なるべくきーくんに合わせて調整したけど、反応速度遅れてたよね?」

 

「ああ。まあ、相手が相手だったし特訓してたからなんとかなったけど」

 

「流石はわたしの旦那様!」

 

「旦那になった覚えはねぇよ!」

 

 

抵抗するがやはり動かない。仕方ないので放置しつつ、健全な男子としてこの状況を愉しむ。この柔らかさはさることながら、篠ノ之束は『香り』も凄い。今まで嗅いだことがなく、言葉では表現出来ない程の良い香りがする。

 

そういう香りを発する篠ノ之束が凄いのか、その香りを言葉で表現出来ないオレが単にバカなのか……恐らく後者だろうよ。ムッツリスケベと罵ってくれて構わない。

 

……ひとしきりアホなことを考えてから篠ノ之束を見つめる。

 

何を考えているかはまだ分からないが、篠ノ之束はきっちり専用機を調整してくれた。礼の一つくらい言っておかなくては……。

 

 

「あの……、専用機の件だが」

 

「ふぇ?どうかした?」

 

「……助かったよ。ありがとう」

 

 

オレがそう言うと、篠ノ之束は喜色満面でオレを見つめてくる。

 

最初に浮かべてたニヤニヤ顔ではない。その美しい容姿から溢れる可愛らしさに、オレは思わず見惚れてしまった。

 

 

「わーい!きーくんがデレたぁ!」

 

「デ、デレてねぇよ!ただ感謝の言葉を述べただけだ!」

 

「やっぱりきーくんはツンデレさんだなぁ〜」

 

 

そう言いながら篠ノ之束はオレを抱き締め、顎をオレの左肩に乗せる。それから、頭を上げたと思うや否や、オレの左耳に篠ノ之束の吐息を感じた。

 

 

「きーくん……大好きだよ」

 

 

耳元で、篠ノ之束が甘ったるい声で愛を囁く。非常に堪らないものがあるが、非常に脳に良くない。

 

 

「きーくんは『まだ』わたしのことが好きじゃないだろうし、信用出来ないのは分かってる。でも、これだけは言わせて。わたしはきーくんを愛してる。わたしは絶対に、きーくんから離れないから」

 

「…………」

 

 

篠ノ之束は先程とは打って変わってしおらしい態度で、オレを優しく抱き締めながら耳元で優しく囁く。

 

今なら抵抗すれば容易く抜けることが出来るだろうが……オレは、抵抗しなかった。

 

今現在信用出来る女はいるが、オレは基本的にこの世の女が嫌いだ。周りのクソアマ共はとにかく、血の繋がった母親も姉二人も、オレが『男だから』愛してくれなかった。

 

でも、彼女は……篠ノ之束は、他人であるオレに対して『愛してる』と言った。天災様がここまで言うのだから、今だけは信用したい。

 

……例えこの先裏切られることがあろうと、オレは彼女を信用する。

 

オレは懐かしい感覚に身を委ねながら、決して口を開かずに『彼女』の背に両手を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、何も存在しない『黒い』空間にて。その黒に溶け込まない闇髪灼眼の『悪魔』が、一人座っていた。

 

 

「奴の『才能』がほんの少しだが、開花しつつあるな。実に良いことだ。アンタもそう思うだろ?」

 

 

この場には一人しかいないのに、誰かに話すかのように悪魔は口を開く。

 

 

『……でも、これでは彼の未来は鮮血に染まってしまいます』

 

 

悪魔の言葉に反応するように、空間に声が響く。それを聞いた悪魔は肩を震わせ笑みを浮かべる。

 

 

「ハッ!その彼の前世での未来を閉ざしたのはどこのカミサマだよ?テメェのやったこと棚に上げて、オレを否定するんじゃねぇ!!」

 

 

悪魔の叫びに、声は返ってこなかった。悪魔は呆れたように溜め息を吐いてから目を閉じる。

 

 

「正論言われたらだんまりか……これだからカミサマってヤツは。まあ、オレは焦らず気長に待つとしよう……ヤツがオレの、『俺等』の『無念』を晴らすまで」

 

 

その呟きと共に、悪魔は黒に溶け込んでいった。

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