それと、次回投稿は今回くらいの時間か、もっと開くかと思われます。
長らくお待たせしますが、今後ともよろしくお願いします。
魔理沙に連れられて魔法の森に来た私は、その中にある霧雨魔法店の中へ案内されていた。中には形容し難い甘い臭いが漂い、机の上には実験中であろう薬品が数多く置かれている。
努力の天才という言葉は、彼女に贈るのが一番正しい。部屋の隅には、山のように積まれた書物があり、そのどれもがボロボロになっていた。
何度も読み返して、試行錯誤を重ねる。その結果が、この部屋という訳だ。
「凄い部屋だな」
「天才と競うなら、このくらいはしないといけないんだよ」
魔理沙に誘導されるまま椅子に座ると、ついそんな言葉が零れる。魔理沙もそれは否定せず、苦笑すると部屋の奥へと引っ込んだ。
話す相手も居なければ手持ち無沙汰になるが、それでも机の上にある物を触ろうとは思えない。
何よりも驚くべき事は、魔法店と言いながらも、商品らしき物が置いていない事だ。
値札が無ければ陳列棚も無い。商売をする気が微塵も感じられず、どうやって生計を立てているのか気になる。
そもそも、魔法の森には一般人が来れない。変わり者の求める品というのも、私には想像が付かなかった。
「こいつについて、何か分かるか?」
魔理沙の生活について疑問を浮かべていると、巻物を持ってきてそれを私の元へと放る。
受け取って開いてみたが、どうやらおとぎ話が書かれているらしい。
内容はというと。竹から出てきた美しい女性が、ある日、月へと帰ってしまうお話。しかし、魔理沙が知りたいのは物語の内容ではない。
その中で出てくる、珍しい品について知りたいのだろう。
竹の女性はかぐや姫と記されており、それは永遠亭に住む住民の一人の名前だ。つまり、これが実話なのかというのが、彼女の質問なのだろう。
「これは竹取物語という物で、昔の人が書いた逸話だ。記されている物や人物は架空の存在で、実際には存在しないとされている」
私は歴史についての知識が無駄に多い。この物語はある程度有名な物だったため、すぐに分かった。
「でも、輝夜は実在するぜ?」
「偉人や故人を用いた逸話は珍しくない。この物語も、輝夜を見て惚れた者が書いたんじゃないか?」
魔理沙は私の言葉を聞くと深い溜息を吐き、露骨に残念がって見せる。
逸話に出てくる物でも見つけて、実験の材料にでもしようとしていたのだろう。残念ながら、もし実在したとしても、それは見過ごせない。結局は嘘を言ってでも止めていただろう。
「まったく、アレのどこに惚れるのやら。私の方が数倍は魅力的だ」
「この部屋を見る限りだと、輝夜の方が女らしいよ」
輝夜は正直に言ってしまうと、とても美しい。伊達に逸話にされている訳ではなく、本当にそういった事があった可能性もある。
性格面に関しても、仲間を大切にしており、あそこの住民に手を出すと後が怖い。
少なくとも、魔理沙と比べればほとんどの相手が女らしく写る。少しでも着飾ってくれれば、私もわざわざ否定をしない。
「どうせ私はキノコ臭いよ。もういい、帰れ」
魔理沙の用事は済んだようで、拗ねたように顔を逸らした。その姿は女らしく、つい口元が緩んでしまう。
「分かったよ。実験もほどほどにして、たまには女らしい事でもするといい」
「大きなお世話だ」
お互いに一言掛け合って出て行くと、既に日が傾き始めていた。思ったよりも、巻物を読むのに時間がかかっていたらしい。
しかし、せっかくここまで来たのなら、少しだけ寄りたい場所がある。
ここ幻想郷は外界と隔てられた、いわゆる孤立した都である。それが故に、外の世界にある物は手に入らない。
しかし、そんな中で外の世界にある物を取り扱う店がある。どういった経路かは分からないが、そこにしか無い物がたくさん。その事実さえあれば、十分だ。
霧雨魔法店を出て、そのまま魔法の森の出口を目指す。湿気を多く含んだ空気はとても不快で、特別な理由でもない限りはもう来る事はないだろう。
魔法の森の出口に付くと、”香霖堂”と看板のかかった店があり、中を覗いた。
中では眼鏡をかけた白髪の男性が読書をしており、客は居ないらしい。
「まだやってますか?」
それだけ確認して中へ入ると、店主であるその男へ声をかけた。
「慧音か、こんな時間に来るなんて、どうしたのさ?」
彼は本を閉じると、眼鏡をかけ直して笑ってみせる。
ここ香霖堂の店主は霖之助という名前で、とにかく変わり者として名高い。
集めた品を気に入ったからといって非売品にしたり、見ただけで物の使い方が分かったり。それだけでも胡散臭いのだが、それでいて人里に降りて来ないともなれば、変な噂も立つだろう。
「魔理沙の家に居たので。それより、何か珍しい物はありますか?」
「魔理沙の家に? それは珍しいね。僕の店で珍しくない物は無いよ。気になったのがあったら聞いてくれ」
霖之助の言葉に肩を竦ませてみせると、内装を見渡してみる。言われた通り、そこには見た事の無い物ばかりで、用途なんかも一切不明。
気になったのがあればと言われても、用途が分からないのではどうしようもない。
「それなら、この小さい箱みたいのは何だ?」
とりあえず、近くにあった掌に収まるほど小さい箱を手に取った。上の方に溝があり、開くがよく分からない装置が付いている。
「それか。それは簡単に火を灯す物なんだ。貸してごらん……ほら」
どう扱うのか考えていると、霖之助は説明をしながら近づき私から受け取った。
彼が装置の平たい部分を何度か押し込むと、油の匂いと同時に小さな火が灯る。それはとても弱弱しいが、驚くには十分な物だった。
火を灯すとなれば、火打石を使ってそれなりに慣れを必要とする。実際に、炊事をする際は面倒だ。それがこの装置一つで解決となれば、便利なんて物じゃない。
「これはいくらするんだ?」
「まぁ落ち着いて。残念だけど、これには油みたいなのが入っていてね、どうやら僕達の世界で使っている物とは違うようなんだ。つまり、それが切れると使えなくなる。楽に慣れると後が大変だよ?」
興奮気味に値段を尋ねたが、それに対する返事はとても商売人とは思えなかった。ある程度面識があるからか、はたまた彼の性分なのか。
どちらにせよ、変人扱いされるのも頷ける。
「そんなでよく商売が成り立つな?」
「信用が売り上げに直結するんだよ。何にせよ、これは君には向かない」
そう言うと小さな箱は懐に入れられてしまい、少々残念ながらも諦めた。
しかし、油のような物ならば、諏訪子にでも聞けば場所が分かるのではないだろうか。とはいえ、彼が神様と面識があるとは到底思えない。結局は無い物ねだりなのだろう。
「それじゃあ、私に向いているのは何があるんだ?」
「君に向いている物? そんなのあったらとっくにお勧めしてるさ」
そして、この言葉だ。本当に商売をしているのか疑う。
霖之助が肩を竦めたのを見ると、こちらも肩を竦めて返した。どうやら、今日来たのはあまり意味が無かったらしい。
「それじゃもう帰るよ。また来るまでには何か仕入れている事を期待してるとするさ」
「またのお越しをお待ちしております」
結局は何も買うことなく香霖堂から出て行き、霖之助がお決まりの言葉を笑顔で吐いていた。暫くは来る必要が無いだろう。
店を出た頃には外は暗くなり始めており、山の奥では赤い光が最後の力を使い果たそうとしていた。
思っていたよりも外で居たせいか、足の裏やふくらはぎが少々痛む。室内で引きこもり過ぎていたのだろうか。また妹紅に会ったら、良い運動を聞いてみることにしよう。
しかしながら、ここから歩いて帰るとどれほど時間がかかるだろうか。誰かの家にでも泊まるべきかもしれない。
となると、どこに向かうのが近いだろうか。魔理沙の所に戻るのも悪く無いが、あの場所で生活したくない。物を捨てる癖を身につけてくれれば、もう少しはマシになるだろうか。
「行く場所は一つ、だな」
行く場所に目星をつけると、人里とは反対方向へ歩き出す。彼女が泊めてくれるかは知らないが、最悪宿代でも出せばいいだろう。
暫く歩いて山道へ入り、そのまま整理された道へと出る。階段には腐った落ち葉もあり、掃除が行き届いてない事は誰が見ても分かるだろう。
そのまま階段を上がっていき先にあったのは、一つの神社。鳥居の奥は綺麗に掃除されており、一応人の往来がある事だけは分かった。
鳥居を潜り賽銭箱へと近づいていくと、袖の中から財布を取り出す。香霖堂で買い物をしていなかったため、お金にも余裕があった。
「美人で博識。それでいて優しい巫女さんが泊めてくれますように……」
「あんた喧嘩売ってるの?」
そして五円玉を一枚落として鈴を鳴らすと、今日のお願い事を口にする。しかし、そのお願いは神へと届く前にその巫女へと届いたようだ。
どうやら今帰ってきたらしく、霊夢は鳥居を潜ってこちらの方へと歩み寄る。呆れたように肩を竦めたが、私は笑顔でそれの返事とする。
「ここはそんな裕福じゃないのよ。さっさと帰りなさい」
霊夢は露骨に嫌だと顔に出してそう言うが、どうせ断りきることはできない。押し引きによっては無償で泊めてくれるだろう。
「宿代なら出しますから。それに、こんな暗い中を美女一人で歩かせたら危ないだろう?」
「あんたなら返り討ちにできるでしょ……まぁ、宿代を出すならいいわよ。ただし、ご飯もお風呂も無しよ」
だからといって、そんな厚かましい事をするつもりはない。
呆れたような返事に続いたのは、快い承諾の言葉。彼女は素直ではないから、こういう言い方しかできないのだろう。
「それで、竹林について妹紅は何て言ってたのよ?」
どうやら私が聞く相手は分かっていたらしい。それなら最初から自分で聞けばいいのと思ったが、この時間だ。他にも色々と聞いて回ったのだろう。
「霊力は集まってるけど、おかしな所は無いらしい。それに、霊力は普通じゃ扱えないらしいじゃないか?」
そして、ここに来たのは寝床を求めただけではない。その言葉の真意を探りたいからだ。
魔理沙に言われたからというわけでもないが、何が霊力を使えるのかは把握しておきたい。それ次第によっては、迷いの竹林に行く事を止めたりするくらいはできる。
「霊力を使えるのは……博麗の巫女、私だけよ」
それに対しての答えは、予想もしていない話だった。
「それは、どういう事だ?」
博麗の巫女は、霊夢の一人。他の巫女がいるという話は聞かないし、霊夢も私だけだと言っている。
つまり、霊力を集めるにも霊夢しかやれないということだ。
「そのままの意味よ。紫も私を危険視して、お守り何か持たせてるくらいだから。嫌になるわね」
こちらの問いに対しての言葉は苛立ちを滲ませ、ポケットから一つお札を取り出して見せる。
つまりは、こういうことだ。
一番の容疑者が容疑者探しをしている。確かに霊夢が何かするようには思えないが、本人にしか扱えないのなら、嫌でも疑うしかない。
何よりも、あの紫が動いているというのならば、それは見逃せない事ではないだろうか。
「ちょ、ちょっと待て。それじゃあ、お前がやってるっていうのか?」
「落ち着きなさいよ。勿論私はやってないし、あんたをどうこうしようとも思ってない。というより、できないのよ。このお守りのおかげで、霊力を使おうにも上手くいかなくてね」
霊夢はとても落ち着いていた。憤りや焦りは感じるが、それでも取り乱すような様子は見られない。しかし、これは余裕ではない。むしろ、余裕が無いからこそなのだろう。
どれだけの才能があっても、彼女は人でしかないのだ。自力には限界がある。
自分を冷静でいさせることが、今の彼女にとっては諦めないための手段なのだろう。
「私が怪しいと思うなら監視してても構わない。でも、私は私で捜査させて貰うわよ」
薄っすらと笑みを浮かべて言ったその言葉は”疑わないで”と言っているように聞こえた。
「そんな事しないさ。お前が解決してくれないと、派手な魔法使いが竹林を吹き飛ばすかもしれないだろ?」
「……そう、適当な所で寝ていいわよ。部屋は余ってるし、少しほこりを被ってるかもしれないけど、布団もあるから」
私に背中を向けてから返事をし、足早にそう言ってまた神社から出て行った。捜査を続けるのだろうか。休憩をしているのか少し心配だが、そのくらいの管理はしているだろう。
思っていた以上に事が大きい事を実感し、私も少しくらいは良心というのが目覚めてしまった。
彼女が犯人じゃない確信はなくとも、犯人を見つけてやらないといけない。こういうのを、安っぽい正義感と言うのだろう。
それでいい。元々正義を語るような性質では無い。
踵を返して神社から出て行くと、空を飛び私も行くべき場所へと向かった。少し迷惑であっても、彼女なら笑って済ましてくれるだろう。
夜の空気は少し冷たく、空を飛んでいると肌が冷えた。月はもう丸に近い形になっており、あと二日もすれば満月になる。
それまでに犯人を見つけておけば、少しくらいは力になれるだろうか。
それから三十分ほど飛んだだろうか、そうしていると迷いの竹林が視界に写り、入り口に着地する。
振り返ると一つの小屋があり、まだ明かりがあった。
「妹紅、少しいいですか?」
それだけ確認をすると、妹紅からの返事を待たずに戸を引く。
「んー、ちょっと忙しいかな……」
妹紅は札らしき物に文字を書いており、忙しいというのもあながち嘘でもないのだろう。
「何をしてるんですか?」
「陰陽術に使うための札を作ってるんだよ。竹林が怪しいなら、私も無関係とはいかないだろ?」
どうやら、妹紅なりにこの件について関わるつもりでいるらしい。心強いことこの上無いが、放っておくと無理をしそうで少しだけ不安にもなる。
「そうですね……霊夢も今は力が使えないらしいですよ。最悪、私達で解決に当たらないといけないかもしれません」
しかし、そうも言っていられないのは確かだ。魔理沙も協力してくれるだろうが、霊夢の抜けた穴は大きい。解決できるか、正直に言えば不安がある。
「霊夢が? それはまたどうして?」
「あ、いえ……その、八雲紫に力を封じられているそうです。どうも、霊夢を怪しんでいるようですね」
妹紅に聞かれてから、自分の失言に気づいた。こういう事は極力言わない方がいいに決まっている。
しかし、一度言ってしまったからには、続きを言うしかない。それに、妹紅ならばそんな間違いは犯さないはずだ。
「そうか……」
そう思ったのだが、この話を聞くと妹紅は思慮を巡らせ始めた。
何かまずいことでもあったのだろうか。私が知らないうちに、霊夢と親しくなっていたかもしれない。
「それなら、私の方も見回りを強化するか。暫く竹林案内はお休みだな」
「そうですね。どちらにせよ、何かあるかもしれないのなら、不用意に近づかないほうがいいですから」
妹紅の意見には素直に賛同した。永遠亭の面々には申し訳ないが、人里に下りてくるようにお願いするしかないだろう。
とはいえ、あのお姫様がそうするとも思えない。鈴仙だけでも着てくれればいいが、それもまた交渉次第だ。
「それじゃ、早速一回りしてくるかな」
そう思案していると、妹紅は書き終わっていた分の札を回収して立ち上がる。
外は既に暗く、とてもじゃないが見回りになるとも思えない。
「今からでは遅いですよ。また明日、一緒に永遠亭まで挨拶しに行きましょう?」
「大丈夫だよ。私は文字通り無敵だからな」
しかし、そんな心配を歯牙にも止めず、妹紅は隣を過ぎて出て行ってしまう。
そして残った私は、自分の不甲斐なさにため息を付くのだ。
こういう時はどうしたらいいのだろうか。どれだけ自分を大切にしろと言っても聞かないし、無理やり止めにかかったら目的と手段がすれ違う。何よりも、妹紅の方が強いのだからそもそもが成り立っていない。
「無敵……ね」
今はただ、その言葉を信じて家路につくしかできなかった。
その日の夜はとても寒く、かなり丸に近い月が出ていた。歴史の編集作業より先に、この異変を解決できるだろうか。
一抹の不安を感じる中で、やはり私の中の何かは憤っていた。
次回の投稿は未定。進捗状況も登校日には0%です。進捗があれば活動報告にも記載させていただきます。
では、また次回お会いしましょう。