(ん?..........なんだ?)
帝都から離れて森から1キロの地点。森の方から多くの気配がする。弓人にとっては初めての気配だ。
(人間のものではないことだけが分かるのだが......)
その場で停止し、森に注意を向けてみる。
(.....っ....これは!.............確実だな。)
この禍々しいまでの気配、確実に魔物ないし魔獣が存在する。弓人に眠るファンタジー好きの血が騒ぎに騒ぐ。
(今すぐにでもその命、狩り|盗(・)りに行きたいが……..)
騒いだ血はそのままに、頭だけは冷静になって森の方を見渡す。すると、
(それにしても、少し数が多過ぎやしないか?)
50、60ではない。200ほどの気配が森の陰からこちらを睨んでいる。
(これはなんとも。にしても奴らは俺を睨んでいるのだろうか?)
この体の隠密能力は極めて高い。城からの逃走(?)を軽々こなしたのだから。
それよりも、弓人は帝都に程近い所にこんなにも魔物(仮称)が出る森が在るのかと考える。
(夜になると森の浅い所に出てくるのか?高い壁を造ったから駆け出し冒険者のために放置したか。にしては中々危険度が高そうだ。もしくは帝都の方が後に広がったが、この森を排除できなかった何かがあるのか............。)
疑問が尽きることがない。まだこちらに来て間もない。下手にこういった世界観に対して抵抗もなく、自分の中で“理想的”な計画を立てているからこんな状況になっているのだが。
やはりこれまでの弓人の行動は、“過剰なスタートダッシュ”であったかもしれない。
(これで冒険者|組合(ギルド)に入って情報を集めてたり、図書館で調べものをした後なら状況も違っていたのだが.........。)
裏の名声欲しさに、魔物見たさに暴走した結果がこれである。良い子は寝ていれば良かったのだ。悪い子弓人には関係ないが。
(自分が何者かさえも分かっていなんだ。そう急ぐこともない。)
といっても城に忍び込んでたことから堅気で無い事だけは確か。弓人が『表で商売できるか?』と言われれば、答えは完全無欠の“NO”である。
(........ん?........あれ?初めはいったい何に悩んでたんだっけ?)
魔物の存在を確認するため、可能ならば狩るために来た筈なのだが。
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宿屋から出発して一時間も経っていない。しかし結局のところ弓人もここでで目的を諦めるわけにもいかず.........
(見るだけ、うん、見るだけ。)意訳『面倒事に非常に|不本意(・・・)であるが巻き込まれるため。』
シュッ、ダッ
弓人は翔け出した。ここはまだ森から1キロメートル地点。魔物が弓人を認識しているか確認するためジグザグに蛇行しながら森を目指す。といっても5分足らずの旅路だ。草原を翔け、岩を飛び越え、帝都を睨む魔物の下を目指す。
(こっちを目で追ってきてるわけではないな。)
ジグザグ走行を始めて間もなく、魔物達の顔が弓人からもはっきりと見えてきた。どうやら彼らは弓人を認識していたわけではなかったようだ。何をそんなに怨みの籠った瞳で帝都の方を見つめていたのだろうと思う。そんな魔物は狼の姿をしている。初めて遭遇する魔物に鉄板ネタが出てきて少し安心する弓人。
(ここで異形の怪物とか不定形の奴が出てこなくて良かった。なんではっきりと視認出来るかはこの際、置いて、おこう.........。)
しかし驚いたのは、この目、月明かりがあるがそれでも暗い森までを明るくはっきりと、望遠までして魔物達を|捉(とら)えているのだった.........。
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森から200メートル地点。今弓人は手近な岩の陰にいる。岩に手をかけ森を覗くと帝都を睨む狼の魔物が見える。動物は匂いや音、勘が鋭いはずなのだが弓人の隠密には|敵(かな)わないようだ。
(やはり隠れようとすると隠密が発動するみたいだな。)
城の小さい姫様やメイド、護衛の執事には完全に視界に入っていたのにも関わらず正確な位置を把握させなかった。否、正確にはあの執事は鋭い勘か何かで弓人を攻撃してきたが。警備には完全に気づかれず、城壁上を堂々と走って逃走したことも弓人の記憶に新しい。流石に慌てながら近衛兵団の中心に着地した時や、バラルの宿屋で飛んできた男を絞め落とした時は流石に存在を認識されたが。
(不思議なのは露店の店主だ。こちらから呼んでも初め反応が無かった。)
本能が無意識に危険を感じとり隠密を働かせていたのだろうか。あの店主とは是非ともあれが今生の別れであってほしいものと思う弓人であったが.........。
(さて、いつまで隠れて思案していても始まらない。ここからどうしようものか。このまま腕試しでもしたいところなのだが、森の外縁に群がっているせいで一対一にもっていける光景が思い浮かばない。)
もう一度森を覗き見る。
(魔物の反応を見ながら歩いて接近するか。隠密を自認しながらなら気配も薄れるはず。)
岩陰からでて森へ足を進める。いくら自分に気付いていなかったとしても怖いものは怖い弓人。いくらチートじみた体であってもこの世界の平均さえ知らないのだから。
――150メートル――
チラッ、サッ..........チラッ
――100メートル――
チラッチラッ、サッ..........チラッ
――50メートル――
チラッ、サッ.....チラッ.....チラッ
――10メートル――
(結果を言おう。)
(誰も俺を見てくれない。)
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寂しくなったところで注目を集めるために踊り出すのを必死に我慢しながら森へ到着した弓人。相変わらず魔物は帝都を睨みつけ、そこから動かない。
(今更だが|人気(ひとけ)が無いな。夜な夜な魔物が森の外縁に|屯(たむろ)するのは帝都の冒険者達にとっては常識なのだろうか。いや、ここが冒険者にとって有益であることは俺が勝手に想像したことなのだが。.........って、今は深夜か............。)
それよりも弓人が驚いた事が、
(この狼の魔物、大きいなあ。)
そう、今弓人の目の前には瞳をギラつかせた、自分の身長よりも背中の位置が高い狼の魔物がいるのだ。当然弓人の事なんて路傍の石程にも思っていないようだが.........。
(この魔物、自分の体が小さくなっている分余計に大きく見える............。)
もう一度その大きな魔物を見て一言。
(Q.さて、こいつをどう料理してやろうか。
A.喉を一突きする。)
弓人は間髪入れず帝都を睨む魔物の背後に回り込む。これは別に必要ではないが、刺した瞬間にガブリとやられることだけは避けるためである。魔物の右後方、首の右下へと迫り右手に掴んだナイフを左上方、魔物の首へと向ける。
スゥッ..........
吸い込まれる様に刺さったナイフを自分側に戻す。魔物は首の左下を深く切られ、声にならない静かで湿った叫びを上げながら絶命した。初め一突きした後、体が勝手にナイフを自分の方向へ引いた。声帯を完全に切り裂くためだろうか。
(こうやってどんどん殺しのテクニックを覚えて.........いや思い出していくのだろうか。)
元々備わっていた能力が解放される。殺しにそんな意味があるような気がしてならない弓人。.........あって欲しくないとも思っているが。
ザザザザザ...........ガサッ
(来たか..........。)
血の匂いに誘われたのか、周りの草が怪しく揺れる。森に差す月明かりにを反射した二つの眼光が静かにこちらを目指す。
そう、先程まで興味すら示してこなかった魔物達が、
弓人の周りに迫っていた。