大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~   作:顔が盗賊

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第四話 「逃走(?)」

 

庭園の少女がこちら側を凝視している。先ほどの「誰かいるのですか?」から察するに

完全に不審者とバレたわけではないと思いたい弓人であったが。

 

ストッ、チラッ

 

弓人は天井から降りて少し柱から頭を出し、少女の方を見る。しかし少女は柱から顔を出した側とは反対側を見ている。小さく手を振ってみてもこちらに気付かない。少し大きく手を振ってみる。

 

やはり気付かない。弓人は思い切って上半身を出す。すると、

 

(お?こっちを見た?)

 

そかし、そこで弓人は動きをピタリと止める。

 

(.........あれ?俺......隠れるんじゃなかったの?)

 

いつの間にかあの少女に気付いてもらおうとしている自分がいるのを自覚する弓人。

しかしそれでもきちっとバレているのだろうか。洞窟の入り口にいた見回りの警備兵、彼らも弓人を見ていながらも焦点が合っていなかった。やはり何かが弓人に対する視認を阻害していることは間違いないようだ。

 

正体や位置はばれずとも、ふざけていることだけは伝わってしまったのか、

 

「そこにいるのは分かっているのよ! ふざけてないで出てきなさい!」

 

ある意味完全にロックオンされた弓人。いきなり高貴な貴族オーラを出し始めた少女に驚く。

 

(ヒィー あの年代の子供の威厳ではないよね。こう何かすごい血筋を感じさせるね。

でも残念。君は私を視認できていない。そこに“なにかある”としかわからないのだろう。

目立とうとしてもこれなのだ。子供にどうこうされるわけが........)

 

「姫様、どうされました?」

 

(え?)

 

そこにはタキシードで|き(・)めたダンディーで白髪、初老の執事が、

 

「あの柱の付近、誰かいるわ!」

「!?、すぐに見てまいります。」

(あ、あれ?こっちくる。執事君っ、そこは子供の戯言だと思ってよっ。どうせお前らも気づいてなかったんだろぉぉぉ.............................あ、姫様の命令だわ。絶対来るわ。)

 

弓人は取り合えず最大限音を立てずにダッシュでこの場を離れる。

 

「ん?そこか!!」

 

ヒュッ

カッカッカッ  

 

狙っていたのか?意外に近く、何かが刺さる。

 

(あぶねー!! 今のはクナイ? ん? ナイフか?折角高機能な眼球があるのに逃走経路を考えるのに必死で見ていなかった。あの執事一気に3本もナイフを投げてきやがった。

どうする?折角外に出られたんだ。このまま半分外の通路を進んで建物の中に戻るのも危険だ。認識を阻害する効果がどこまで通用するかもわからない。ここは、賭けるか?)

 

弓人は庭園の方に走り出す。ここは中庭になっていて周りを15メートルはありそうな城壁が覆っている。しかし心配することはない。弓人の体は“いける”と言っているようだ。棒高跳びも真っ青な壁を今、飛び越え、

 

スゥッワァンッ

 

(おっと!)

 

今にも跳躍しそうだった弓人の脚を執事の蹴りが襲う。その脚からは風を切る音が聞こえた。

 

(げ、なんという執事キック。こいつは相当な手練れだな。)

 

執事の蹴りが自分に脚に当たる直前、弓人は跳躍するために振り上げていた右脚を無理矢理後ろに戻す。そのまま左脚に力を抜き、頭を下げ、腰を中心に空中で前に回転した。すかさず執事は拳を繰り出す。それを回転中の上半身を捻ることで避ける。

 

フウァンッ

 

弓人の眼前を執事の拳が通る。

 

ダンッ

 

ようやく地面に脚が着いた弓人は拳を突出した執事を尻目に壁へと走る。

 

フンッ

 

弓人は眼下にあの少女、否、お姫様を見やる。日差しに照らされて颯爽と空を飛ぶ様はさぞカッコ良く見えることだろう。

 

(よし、このまま城壁上に着地)

 

と思ったのもつかの間、飛距離は順調に伸びていき城壁の向こうへ。

 

(うそぉぉぉぉ!え!?やばいやばいやばい)

 

城壁の向こうは、また違う中庭。弓人はそこに軟着陸した。

 

ストッ

 

(呆気無っ!このジャンプ力さえあれば余裕だな!

 

 

 

 

 

 

そう、ここが近衛師団の練兵場じゃなければな!!)

 

 

////////////////////////////////////////

 

 

あからさまに強い近衛オーラを出しているガッチガチな漢たちが弓人を囲む。

 

「貴様っ!!どこから入った!!」

「宮仕えのものではないな!!」

「動くなよ」

(言葉は違えど皆俺をギンギンに睨んでる!そんな熱い視線に曝されたら悪い事してなくても逃げたくなるわ!!)

 

ザッザザザザザ

 

漢達が一斉に襲い掛かってくる。彼らの1人が目配せしてタイミングを合わせて『かかれ!』の合図でも出したのだろう。

 

(なんて練度だ!格が違うぜ!)

 

その瞬間弓人は翔ける!!漢たちに向かって。漢達にぶつかる前にワンステップ下がってフェイントを入れる。そこから前方に踏み出してジャンプ。どこから出したのか目の前に迫ってくる槍を軽々躱し1人の顔を踏み抜いてさらに高くジャンプする!

 

フンッ、フンッ! ガッ

 

「何!?」

「グッ」

 

何かくぐもった声が聞こえたが気にしてはいけない。とにかく奴らの包囲は突破した。着地したらもう一度大ジャンプ!次は城壁に上る。

 

トッ

 

弓人は今回ばかりは力を加減して城壁に乗ることが出来た。そのまま城壁上を翔ける。見渡した限りこの城壁は城を中心に蜘蛛の巣状に建造されているらしい。城と思しき所から遠く、遠くへ翔ける。やはり外をこのスピードで走るのは気持ちが良いようだ。

 

(それにしても大きな城だな。こんなのネットでも...いや、やめよう。多分ここは地球じゃない。)

 

薄々気づいてはいた。この体が既におかしいのだ。世界の精鋭が集まるオリンピックでさえもこんな体を持つ選手はいないだろう。しかも14、5歳かも怪しいと思える。

弓人はそんなことを考えながらも順調に城壁を翔けた。

 

(やはり気づかれない.....か...)

 

ここは王様とか何かが住む城だと弓人は思っている。当然警備も厳重な訳で、城壁の上にも弓や剣を持った兵士が大勢いる。普通なら考え事しながら逃走する状況ではない。しかし........なんとも空しい逃走劇である。城壁上では誰も追ってこないのだから。下にいた屈強な漢達はもう声すらも聞こえない。

 

城壁の外縁が見えてきた。また跳んでもいいが堀とかトラップに落ちるのも困る。

減速して外縁に到着した。当然周りの警備は何も言ってこない。

 

(視認している者が少ないと気づかれないのか?)

 

先程の近衛兵達には思いっきり気づかれた。訓練中ど真ん中に着地したわけだから気づかれるのも仕方ないが。

 

弓人は城壁の外縁から外を見渡す。多分ここは王都なのだろう。建物の高さほど現代日本には遠く及ばないが、人の数が多く皆忙しそうに生活しているのが見て取れる。市場も活気に満ちているようだ。

弓人はここがファンタジー特有の王侯貴族が圧制を強いた殺伐とした国でないようで少し安堵した。

 

(堀はあるが.........跳べるな!)

 

フンッ!

 

城壁から大きく跳躍して堀を越える。弓人はそのまま着地して城下の人混みに紛れる事にする。

 

 

こうして大怪盗(?)ユミヒトの逃走劇は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

(一旦ね!終わらないからねっ!)

 

 

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