大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~   作:顔が盗賊

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第九話 「帝都、月明かりの下で」

 

 

「(.........ん?まだ暗いな。)」

 

弓人は「見慣れぬ天井だ」とかなんとかというセリフは全く浮かばず、月明かりに照らされた部屋で誠につまらないこと言いながら目を覚ます。

 

(ん~、目が覚めてしまった。目覚めが良いにも限度があるのだが。)

 

つくづく常識というものを叩き落としていく体である。しかし目覚めてしまったものは仕方がない。足をベッドの外に出そうと腕に力をかけると......

 

(硬い......ナイフか。)

 

そう、弓人がこの世界に来て初めての睡眠だが、どうも丸腰で眠ろうとは思えなかった。この帝都はある程度栄えているが、法治国家NIPPONには遠く及ばないだろう。否、弓人が勝手にそう思っているだけだが。魔法なんてものがあるぐらいだ。証拠を残さず誰かを襲うことだって出来るに違いないと考えるのが普通である。弓人の持つファンタジー的常識を基にすれば、という注釈は入るが。

 

(.........ん?俺の能力がそれを如実に表しているって?.......うっせ。)

 

静かな室内に弓人の心の声が木魂する。

 

(はぁ、パトロンを探すとか言ったものの......さて、何をもって力を認めさせようか。)

 

そして、起き抜けのこの調子である。弓人自身、考えは有ると言ってはいるが。

 

(テンプレ的に誰かを危機から救ってもいいんだけど、それだと裏で取引することにはならないしな。)

 

皇帝の姫とか貴族の令嬢を助けられれば“劇的”なんだが、それは自分の目的にはそぐわない。

 

(何か、何かないだろうか。)

 

10分程考えていただろうか。ふと、うまく形を伴わない疑問が弓人の頭をよぎる。

 

(ん?......待てよ。冒険者?組合(ギルド)?城壁?魔法?.........今更だが何か足りてないか?)

 

(そうだ、ファンタジーなテンプレ的に考えても何か足りない。いや一番を要素といってもいい何かが。)

 

(冒険者は何で儲けている?仕事.............................そうだあの仕事だ!)

 

自分でもなんでこの事に気付けなかったのか甚だ遺憾な弓人であった。

 

 

 

「(魔物の討伐だ!)」

 

 

 

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事を急ぐと(ろく)でもないことが起きるということわざ(・・・・)があるが、今の弓人の中では『善は急げ>>>急がば回れ』←と、 圧倒的にこんな感じであった。後者のことわざが息をしていない。当然だ、弓人が首を強烈に絞めているのだから。

 

念のために荷物は全て持っていく。腰にナイフ、背中にバッグ、これだけだ。

服は着たまま寝ていた。洗濯と替えの服もそのうち考えないといけないだろう。

 

もう部屋に私物は残っていない。そして弓人は迷わず窓から飛び出した。

 

ストッ

 

いつもの事だが、弓人が自分でも怖いほどの静かな着地だ。前方に向かって高さ15メートル以上で跳躍できるのだから2階の窓程度なら当たり前なのかもしれない。ここは宿屋裏手の狭い中庭だ。弓人は、どうやって帝都の外に出るかを考える。

 

(ここは“アレ”しかないな!)

 

弓人は直ぐ様(すぐさま)両足で軽く直上に跳ぶ。宿屋の屋根に上に伸ばした手をひっかけそのまま引き寄せる。体が持ち上がり、そのままの勢いで屋根に着地した。

 

(王城......いや帝国だから...........城.........城だ!そこから離れていけばいいな。)

 

月明かりに照らされたなんとも豪華な城を尻目にゆっくり加速していく。音を立てない、しかし軽快で優雅な走りだ。

 

(昔の忍者もこんな感じだったのかね。)

 

そんなことを考えながら速度をどんどん増していく。音を立てそうになったところで加速を止めて巡航走行する。屋根の上をものすごい速さで走っているので気分は航空機だ。

 

弓人が泊まっているエリアは違ったが、飲み屋街だろうか、まだ賑やかなところもあり、灯りが灯っている。

 

軽快な足は、そんな賑やかさも置いていき遠目に帝都の端らしきものが見えた。弓人の目で遠目だ。相当遠いのだろう。気づけば先程よりも雑多な賑やかさが増えてきた。こっちは外からの客向けの店が多いのだろうか。

 

(あれ?じゃあなんでバラルの宿屋は帝都の中心に近い方にあるんだ?冒険者は多分多くいたはずだ。ん~~...。)

 

疑問は尽きないが....................それを考える暇も無く、帝都外縁はすぐそこに迫っていた。

 

 

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トンッ................................ストッ

 

(やっと着いた。..............おおっ、なんて壁の高さだ。)

 

ここは帝都外縁、この街を強固に守る防壁が外界とを隔てている境界。弓人は壁の上から外側を覗いてみる。

 

(25メートル程だな。しかも壁の外を若干掘り下げているみたいだ。これを帝都の全周に施しているのか。)

 

いったいどれだけの労力が掛かったのか。想像を絶する費用も費やしたに違いない。

 

(あ、でも土系の魔法とか有ったらそうでもないのか。)

 

そんな事を考えながら改めて壁の外を見やる。3キロ程先に森が見える。ここから見る限りかなり深い森のようだ。『そうだ、あの森を目指そう。』そう思った。

 

(ここも跳べばいいかな?城でも15メートルの壁を軽々跳べたのだ。これくらい大丈夫だろう。行くぞ。)

 

「よいしょっと。」

ピーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

 

 

「え?」

 

 

 

大丈夫ではなかった。

 

 

 

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トンッ

 

地面に着地した弓人はそのまま森の方へ翔けた。着地点へ十数の人の気配が近づいて来ているからだ。

 

(さっきのは?......警報か?なるほどそういうことなのか?)

 

魔法が存在する世界だ。壁だけで街を守れるとは考えていないのだろう。壁の上を人が通ると警報が鳴る仕組みになっていたようだ。それを弓人は盛大に鳴らしてしまった。つまりは.........

 

(帰りずらくなったな。.............いや、なんかまた壁を跳べばいける気がするが。)

 

帰りは警戒が強くなっている可能性がある。しかし、この世界の一般的な身体能力を知らないが、この体でいると感覚がおかしくなりそうな、否、既になりかけている弓人。

 

(体に慣れるまでは程々に。まぁ、そうは言っても自重する気はさらさら無いがね。)

 

弓人はこのまま森へ翔ける。屋根の上とは違い、足を踏みしめ、人外の走りで周りの景色を追い越していく。

 

振りかえれば遠くなっていく帝都。月明かりに照らされても、落ち着いた雰囲気は出さず、それどころが強大で壮大なイメージを持たせる威容を放っている。

 

(距離感が狂いそうだな。いや、この体では狂わないが。)

 

走った距離と速度を前の世界の単位に当てはめて精確に測る事が出来る弓人。

 

しばらく走り、森に後1キロと迫ったところで............“それ”の存在を感じとった。

 

 

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