俺“達”の家族がこんなに可愛いわけがない   作:武太珸瓏

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その陸《一番星みーつけた、二番星みーつけた》

 

 

 

食事が始まってからも、彪瑠はしばらく無口だった。

高坂家の食卓は普段から、基本的には静かなんだけど、べつに全員がずっと無言というわけではない。

ちょっとした雑談くらいはする。

 

しかし今回は違う。

 

おじーちゃんとおばーちゃんは、彪瑠の出方をうかがっている。

 

私たち姉妹は、弟が期待通りの反応をしてくれないことに困惑している。

 

やがて彪瑠は、ジト目で私たちを見比べながら、ようやく話を始めてくれた。

 

 

「……あのさ、お姉ちゃんたち、いつまでその“おしばい”をつづける気?

バレバレなんだけど。

おじいちゃんと、おばあちゃんも困ってるよ」

 

 

彪瑠の言葉を聞いて、私は思わず素頓狂な声を出してしまった。

 

「え、そうなの?

じゃあ、おじーちゃんも、おばーちゃんも、最初から気づいていたの?」

 

 

「そりゃあ、まあ…これでも元警察官だからな」

 

「あんたたちを、生まれたときからずーっと見てきた、このおばあちゃんの目を見くびらないでちょうだいね。

もっとも、二人がもっと小さくて、一緒にあの懐かしい“双子の妖精”の衣装で唄っていた頃は、たまに間違えることもあったけれどもね。

そういえば、あの頃もあなたたち、今みたいなイタズラをしたことがあったわよね?」

 

 

おじーちゃんとおばーちゃんが、それぞれ、その人らしい答えを返してくれた。

 

おじーちゃんは口数少なく簡潔に。

おばーちゃんは思い出話まで交えながら。

 

おばーちゃんの言う、私たちの『唄う双子の妖精』の姿は、今も映像に残っていて、親戚とかが集まったときに、みんなで見る定番の一つになっている。

 

実のところ、あの頃の私たちの容姿は、今となっては自分でも正確に見分けられてる自信がない。

周りの大人たちから『こっちが悠璃ちゃんだよ』とか言われて『ああ、そうなんだ』と思う程なのだ。

だいたい、それだって人によって言うことが一致しなかったりするし。

 

(超余談だけど、その映像は桐乃おばさんの大のお気に入りだ。

自分でいうのも変だけど、確かにあれは可愛らしいと思う。

でも、ネットにアップするのは、いろいろ困るからやめてよね、桐乃お()ちゃんっ!)

 

 

そんな感じで、だいたい幼稚園に入るくらいまでの私たちの見た目は、本人たちでさえ迷うくらい瓜二つだった。

姿見の前で二人並んで、お互いを見比べ合って遊んだのは懐かしい思い出だ。

でも、それ以降になると、徐々に写真とかでも姉妹の区別がつきやすくなってきて、最近になるほど、親しい人たちからは滅多に間違われなくなってきている。

ましてや一緒に住んでいる家族には、ちょっとすれ違ったり、そっと後ろから近寄ったりしただけでも、普通に姉妹のどちらなのか判ってもらえるようになっている。

 

 

 

……それにしても、

 

なんだ、最初からバレバレだったから、あの反応だったのか。

 

え? ということはもしかして、今の私たちって、もの凄く恥ずかしくない!?

 

思わず隣に座る妹、璃乃を見てみると、まるでマネキンみたいに硬直している。

駄目だコリャッ!

仕方ないので、再び私は二人にたずねた。

 

「どーしてわかったの?」

 

「どうもこうもねえ…、まずあなたたち、雰囲気とか演技とかが、とっても不自然だったものね?」

 

グサッ!

おばーちゃんヒドい!

 

「俺なんか、そもそもお前たちが、入れ替わって皆を騙してるつもりだったことにすら気づかなかったぞ。

“何故、この子らは服と髪形を取り替えたり、お互いの口真似をしているんだ? 最近は、こんな妙な遊びが流行しているのか?”

最初はそう思ったものだ。

祖母(ばあ)ちゃんに言われて初めて、お前たちの悪戯の狙いを知ったくらいだからな」

 

グサグサッ!

おじーちゃん、もっとヒドい!

だから反応が鈍かったのか。

冗談を言って、その意味を説明してから、ようやく笑ってもらえたようなものだ。

ジョークの解説ほど空しいものはない!

 

「そういえば、おばあちゃんは昔、テレビのバラエティー番組か何かで見たことがあるんだけど、一卵性双生児を、家とか学校みたいな親しい集団の中でこっそり入れ替わらせて、『周りの人は果たして気づくのか?』…なんて実験をやってたんだけど、少なくともその番組では、結局どの実験でも最終的にはバレちゃってたわね。

中には、今のおじいちゃんみたいに一目見ただけで、『なんであなたの方がいるの? もしかして代理?』なんて、騙される以前の反応をしてた人もいたし。

 

同じ顔で、同じ知識を持っていて、更にお互いの癖を熟知して演技しても、ちょっとした物腰や仕草の違いで、親しい人には気づかれちゃうみたいね。

 

もっともその番組では、仕掛け人が双子なのをターゲットの人たちは(あらかじ)め知っていたし、もちろんテレビだから、多少の演出もあったんでしょうけどね」

 

 

今のおばーちゃんの話を聞いてちょっと思い出した。

昔の怖い映画で、人間が少しずつエイリアンに入れ替わられていく侵略ものがあったけど、その映画でも、親しい人だけは入れ替わりに気づいていたな。

現実でも、そういうことがあるのだろうか……?

 

あ、『そういうこと』ってのは、エイリアンの侵略のことじゃなくて、見た目が同じでも、親しい人には違いが判るのかな?ってことだからね!

 

あぶない、あぶない…。

“黒猫”時代のおかーさんとか、珠希お姉ちゃんみたいになるとこだった。

あ、璃乃ちゃんも知ってるかも。確かオリジナルは小説だったはずだから。

うーむ……。

 

 

 

「……わ、私たち──」

 

あ、私が考え事してる間に、璃乃が辛うじて復活してきたみたいだ。

 

「──髪の長さが少し違うから、それでバレないように、髪の短い姉さまにはウィッグをつけてもらって、逆に私は髪を纏め上げたのに……」

 

 

うんうん、これでも私たち、見えないところでいろいろと工夫をしていたのだ。

泣きそうな声の璃乃の話に私が補足した。

 

「…そ、そうだよ。それに、ホクロとかも出来るだけ気にしてたのにな……」

 

 

 

私たち姉妹の影ながらの苦労話を聞いて、彪瑠がなんだか残念そうに口を開いた。

 

 

「……そこまでこだわるんだったらさ、璃乃ねえ、カットバンを貼る手くらいまちがえないでよ…。

悠璃お姉ちゃんの手のキズあとは、消しようがないから、しかたないと思うけどね」

 

「「え?」」

 

私たちの困惑の声は、さっきのおばーちゃんの話に出てきた“双子の妖精”みたいに重なった。

それを聞いた彪瑠は、自分の両手のひらを、まるで手相占いのようにテーブルの上に出してみせながら、私に言った。

 

「悠璃お姉ちゃんも、手を見せて」

 

彪瑠の言葉を受けて、私も同じように両手をテーブルの上に出してみせた。

 

「これでいい?」

「うん。見てよ、ぼくら二人とも、左手にキズがあるでしょ?」

「あ、うん」

 

 

確かに、そのとおりだ。

 

彪瑠の左手には、まだ絆創膏が貼ってある。

私の左手からはいつの間にか絆創膏がはがれていて、薄い傷痕が見える。

 

「じゃあ、次に璃乃ねえちゃん。璃乃ねえも両手を出してみせて」

 

彪瑠に促された璃乃が、おずおずと両手を出した。

私は璃乃の手を見た。

璃乃は、私が傷を負った手とは反対の、右手に絆創膏を貼っている。

 

 

「ね、手が逆でしょ?」

 

 

……彪瑠に指摘されるまで、なぜ気づかなかったのだろう?

あの泥沼みたいな庭で姉弟で転んだとき、私と彪瑠はお互いに利き手の右手を握りあっていて、反射的に空いてる方の左手を地面に着いて体を支えようとしたんだから、二人とも擦り傷を負ったのは左手なのだ。

 

絆創膏は、璃乃が自分の判断でいつの間にか貼ってたものだから、私はそれに気づいていなかった。

お互い時間もなかったから、服装と頭部くらいしか気にしていなかったし、何より私たち姉妹は、性格はともかく、顔だけは瓜二つな自信があったから、簡単な変装で楽にごまかせると踏んでいた。

 

学校でも、普段は友だちとかに普通に見分けてもらえてるけど、体育の時間にクラス対抗でバスケをしたときには、『あんたはどっちだ、どっちだ?』と、周りを混乱させたこともある。

あのときは、二人とも同じデザインの運動着だったし、同じように髪を纏めていたから余計に見分けがつきにくかったのだろう。

 

 

傷痕のことなんか、お風呂からあがった頃にはほとんど痛まなくなっていたから、すっかり忘れていた。元々たいした傷じゃなかったし。

 

 

 

ん、待てよ……?

なんかひっかかるような……。

 

 

 

 

 

そうだ、思い出した。

璃乃に鏡を手渡したときだ。

あのとき、私から鏡を受け取った璃乃の右手には、本来あっては困る絆創膏が貼られていた。

私はそれを、見てたはずなんだ。

 

あの、ボンヤリとした違和感の正体は、これだったんだ。

 

 

う~ん、ほんとになんで気づかなかったんだろ?

ちょっと悔しい。

 

 

 

「……詰めが甘かったわ、私。

知っていた筈なのに何故、貼る手を間違えたのかしら?

余計な気を利かせて絆創膏など貼るのではなかったわ……」

 

「璃乃ちゃんは悪くないよ。というか、それ以前の問題だよ、私たち……」

 

「……だって、タッくんたら、いっつも…………だから……試しに入れ替わって………………なのに………………バカ……………」

 

 

璃乃が、もうほとんど独り言みたいに、ブツブツと何か呟いている。

どんどん自分の世界に入って行くみたいだ……。

 

 

 

「……うーん、そんなに落ち込まないでよ、お姉ちゃんたち…。

 

それにね、たとえもっと時間があって、プロのメイキャップの人に変装させてもらったとしても、たぶんこの家のみんなにはバレてたと思うよ?

 

気づかれるまでの時間が、少しはのびたかも知れないけどね。

 

璃乃ねえには言ったんだ。ナカミまでおんなじ人は世界中のどこにもいないんじゃないかってね。

 

でも、今日みたいに、お姉ちゃんたちのしかけたイタズラがカンタンにバレたってのは、べつに悪いことじゃないと思うよ。

 

ちょっとの違いからでも別人だと気づけるくらい、その人たちのことがわかってるってことは、それだけ大切に想っているってことだからね」

 

 

 

「彪瑠、お前、随分と難しいことを考えられるんだな…」

 

おじーちゃんが、半分感心、半分困惑の混ざった複雑な顔で言った。

 

「……うーん…たぶん、璃乃ねえのせいだよ、これ。いろいろムズカシイ本を読まされてるから…。

こういうことがわかっても、自分ではあんまり、うれしくないし……」

 

彪瑠のそんな呟きを聞いたおじーちゃんは、ちょっと渋い顔を璃乃に向けた。

 

「……璃乃………あのな…お祖父(じい)ちゃんは、あんまりこういうことを言いたくないのだが……彪瑠に見せるにはまだ早そうなものをやたら与えるのは、この子がもっと大きくなるまで、その……もう少し慎んでもらえんかな……?」

 

「!……いえ、私は…あの……その……」

 

元警察官のおじーちゃんに、やんわりとだけど、どっしりとした重みのある口調で苦言を呈された璃乃は、途端にしどろもどろになった。

 

おばーちゃんは、

 

「……なんだか、どこかで似たような光景を見た気がするわ。そのときよりは随分と軟化しているみたいだし、ほかにもいろいろと違うみたいだけど……」

 

と、首をひねっている。

 

 

そんな中、彪瑠が困った顔をしながら璃乃の擁護に入った。

 

「…お、おじいちゃん、もういいよ。今さらだもん……。

璃乃ねえだって、ぼくにとっては、いいお姉ちゃんだよ。

だから、あんまり璃乃ねえちゃんのことを叱らないでください。

お願いします……。

ね?」

 

「…うむ。」

 

おじーちゃんは、渋々とだけども、しっかりと頷いてくれてから、『仕方ないな』という感じで苦笑いをした。

それを見た彪瑠の顔に、ホッとしたような笑顔が浮かんだ。

今日、久しぶりに見る弟の本物の笑顔だ。

 

「ありがとう、おじいちゃん。

 

……ただ、ぼく、当分はもうこんなややこしい話はしたくないな。

 

えーと……さっきは、いろんな話をしたけどもさ、本当にぼくがいいたいのはね、“みんな大切な家族”だってこと!

それだけなのっ!

 

だから、ほかのややっこしい話なんて、正直もうどうでもいいんだよ。

 

ハア~……。

 

ぼく、今日はなんだかスッゴく疲れちゃった。

璃乃ねえにはグルグル回されたし、庭で泥んこにはなったし、ムズカシイことをいっぱい考えたし……。

 

もう、ごはん食べおわったら、すぐに自分の部屋に行って寝よ……」

 

 

 

「あ、それで思い出したのだけれども、お祖父さま、大事なことを伝え忘れていました」

 

 

つい今しがたまで落ち込んでいた璃乃が、再び復活した。

そんな彼女に呼びかけられて、おじーちゃんたちが反応する。

 

 

「ん、何だ、璃乃?」

 

「…璃乃ねえ、なんかぼく、イヤな予感がするんだけど……」

 

 

さっきまでの弁舌でエネルギーを使い果たしたのか、疲弊の色を隠せないでいる彪瑠とは対照的に、璃乃の方は何だかイキイキしてきたみたいだ。

 

 

「お祖父さまたちが入浴されているときに、硝子(ガラス)の割れた音がしましたが、あれはタッくんの部屋の窓のものでした」

 

「ええーっ!?」

 

 

悲鳴をあげた彪瑠とは違って、おじーちゃんは落ち着いた口調で答えた。

 

 

「何だ、そんなことか。

それなら、お前たちが風呂に入っている最中に確認しておいた。

正直、なるべく手は出して欲しくなかったが、雨戸を閉めるだけに留めておいてくれたのは賢明な判断だったと思うぞ。

ガラスで手を切ったりしてないだろうな、璃乃?」

 

「はい。万全の体制で臨みましたから」

 

「割れたガラス窓は、専門の業者さんに処理してもらわねばならないから、彪瑠は今夜からはしばらく、また姉さんたちの部屋に戻ることになるな」

 

「そういうことになりますね。

さあ、タッくん、さっきはうやむやになった、摩耶さんとかいう娘の話、たっぷりと聞かせてもらうわよ~♪」

 

「り、璃乃ねえ、なんでそんなに、うれしそうなのー?

あっ、そうだ。おばあちゃん、お客さん用の部屋は?」

 

「それがね、彪瑠……さっき連絡があって、今夜は日向ちゃんたちがウチに来て、泊まることになってるの」

 

 

一縷の望みを賭けてたっぽい彪瑠に、おばーちゃんが申し訳なさそうに答えた。

そもそも客間は基本的に、私たち子供は使用禁止である。

それにしても…そうか、またあの人たちが来るんだ。

もしかしたら今夜、少なくとも明日の朝には、また日向おばさんや珠希お姉ちゃんたちと会えるのかな。

 

 

「そんなあ……あーもうっ、やっと自由が手に入ったと思ったのにィ~!」

 

 

八方塞がりになった彪瑠は、頭を抱えてのたうちまわり始めた。

そんな弟の姿を見た璃乃が、妙にトーンダウンした口調で彼にたずねた。

 

 

「……タッくん…それ程までに、私たちと一緒の部屋に戻るのが(いや)なの?」

 

 

今の璃乃の表情が、演技なのか本気なのかは判らないけど、自分の姉のとても寂しそうな顔を見せられた彪瑠は、もうこれ以上の反発は出来なくなってしまったようだ。

 

 

「……そんなことないよ。もういい、わかったよ…」

 

 

彪瑠には気の毒だけれど、さすがにこれは仕方ない。

改築したとはいえ、もうこの家に余っている部屋はないし、桐乃おばさんの部屋を勝手に使うわけにもいかないし。(桐乃おばさんはOKするかも知れないけど、彪瑠はイヤがるだろうな)

 

やっぱり少し前まで一緒だった、私たちの部屋に戻るのが最も妥当なところだろう。

 

 

それに彪瑠、あんた本人が言ってたじゃない?

 

『みんな大切な家族だ』

 

と。

 

 

お風呂のときのおばーちゃんのセリフじゃないけど、いくら“きょうだい”だからって、ずっと一緒にはいられない。

 

だから、少しでも一緒にいられる時間が延長されるのなら、ありがたく受け入れておこうじゃないの。

 

 

 

そう考えてみたらどう?

 

 

ね、タケ──

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「──ってなことがあったらしいぜ。親父とお袋の話と、彪瑠のメールから推察するとな」

 

「私たちが楽しんでいる間に、いろいろと大変だったみたいね。明日、お義父(とう)さまたちには改めて挨拶しなきゃ。特にお義母(かあ)さまは今日の夕飯までつくって頂いたわけだし」

 

「そうだな。本当、いろいろあったみたいだからな」

 

「それで今夜のタッくんは、また悠璃ちゃんたちと同じ部屋で寝ているのですね?」

 

「そうよ、珠希」

 

「そうですか…何だかタッくんに悪いことをしたみたいです……」

 

「お前らが気にすることはないぞ。どうやら親父たちには、ほかにも何か(おも)わくがあったようだしな」

 

「ありがとうございます、京介義兄(にい)さま」

 

「それにしても、三人とも、可愛い寝顔だったよねー?

キリ(ねえ)が今この場にいたら突入していたかもね?」

 

「ま、日向の言うことも否定しきれないわね……」

 

「…でもさあ、変なこと抜きに、ガキの寝顔見てると和むよな、瑠璃(かあさん)?」

 

「ええ、確かにそうね、京介(あなた)

 

 

昔懐かしき友人たちとの久々の(じか)の再会(とはいえ、それぞれ個別にはちょくちょく会ったり、連絡しあったりはしてきた。モニター越しに集合したことは何度もあるし)から帰還してみると、ちょうど寝るところだったらしい親父たちから、今日一日この家で起きた騒動を聞かされた。

 

その、だいぶ掻い摘んだであろう話からでも、ジェットコースターのような賑やかな雰囲気は窺えて、実際にその場に居たかったような、そうでないような複雑な気分だ。

 

どのみち、俺たちが居ない間、この家を守ってくれた親父とお袋には、感謝の気持ちと申し訳ない気持ちとでいっぱいで、瑠璃の言うように、明日、改めてこの気持ちを伝えなきゃな。

 

尤も、二人とも少し疲れているようではあったけど、その一方で、何か楽しい祭のあとのような顔をしていたのが少し気になったのだが。

 

今、俺たちは、今日のパーティーの出席者のうち身内にあたるメンバー、つまり妻の瑠璃、義妹の日向、同じく珠希とで、最近の改築で少し広くなった我が家のリビングで談笑している。

本当は、妹の桐乃にもいて欲しかったんだけどな……。

 

ま、さすがに今日のパーティーほどいっぺんに人が揃うのは難しいけど、妹と、このメンバー+αぐらいなら、集まろうとすれば何とか集まれる。

実際、今までもそうしてきたわけだし、これからもそうしていくだろう。

 

いや、そうしていくさ。

 

 

 

「貴方のその顔、また妹のことを考えているでしょ?」

 

「おわっ!? な、なんでわかる?」

 

「伊達に何年も貴方の妻をやっているわけではない、ということよ」

 

「ルリ姉、スゲエ…年季が入ってる」

 

「姉さま、流石です」

 

「家族というのは、そういうものよ」

 

「なんか綺麗な流れにしようとしているみたいだけど、今の俺はまるでスケープゴートじゃないか?」

 

「光栄に思いなさいな」

 

「思えるかよ! てか、意味が分からねえよ!」

 

「姉さまたち、楽しそうです♪」

 

「本当、羨ましいよー」

 

「あ~もう、どうにでもしてくれ……」

 

「それより、貴女たちはどうなの? 良い人いないの?」

 

「そ、それは……ね、ねえ、日向お姉ちゃん?」

 

「う~ん、さあ、どうだろうね~? キヒヒ…。

そんなことよりもキョウ(にい)、あたしは今の話に出てきた、タッくんのガールフレンドのことが気になるんだけど?」

 

「あ、それは私も知りたいです」

 

「ああ、摩耶ちゃんや不知火先生たちのことか。あれ、まだ話してなかったっけ?」

 

「え、聞いてないよ?」

 

「私もです。とても気になります」

 

「あれはな、ん~、けっこう複雑な話でな……」

 

「悩む必要ないじゃない、京介。あの問題は既に解決済みでしょう? それに、そんなに複雑な話でもないし」

 

「それはそうだけれど、話すと長くなるんだよな。ちょっと話すのしんどいし……」

 

「え~、封印する気ィ~?」

 

義兄(にい)さま、ズルいです」

 

「まあまあ、日向、珠希。

京介の言うとおり、これはそう軽々しく吹聴できる物語ではないのよ。

語り手も聴き手も、生半可な覚悟では務まらないの。

それに今は未だ、語るべき時ではない。

しかし、いずれそう遠くない日、封印の解かれる(とき)がきっと来るわ。

その刻、あなたたちが望むのならば、物語ってあげましょう」

 

「は~い、分かったよ、ルリ姉…」

 

「仕方ないですね、姉さまがそう仰るのなら」

 

「俺のときには猛反発だったのに~?」

 

 

…ていうか、そんな思わせぶりな言いまわしをしないでくれよ、瑠璃………。

 

 

 

 

 

『あね、おとうと』編

《おわり》

 

 

 

 

 

 







ここまでお読み頂いて、ありがとうございました。


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