京介&瑠璃 夫婦の、本当どうでもいい会話です。
とある夫婦の会話
《帰宅》
「ただいま~」
「お帰りなさい」
(スンスン)
「ん? どうした? 猫みたいに匂いを嗅いで…」
「女の匂い……貴方、今日、女の人と逢ったでしょう?」
「はァ?、帰って早々に何を言い出す?」
「逢ったのね」
「そりゃ、会社で働いてりゃ、女の人と会うこともあるさ。
それに隣の席も女だしな」
「そ、そうなの? それで……」
「ちょっと待った!
言っとくけど、お前の心配しているような関係じゃないからな!」
「何故、私が何も言わないうちから、そんな言い訳をするの……? 何か後ろめたいことでもあるから?」
「ない! 」
「隣の席なら、会話する機会も多いことでしょうね?」
「……基本的に、仕事の話しかしねえよ」
「でも、雑談とかはするのでしょう?」
「……そりゃあまあ、たまには……」
「……今日も何かお話したの? その女と」
「へ、変な訊き方するなよ!
まあ、確かに今日もその子と話はしたぞ」
「その子? 若い女なのね!?」
「だから! そういう訊き方やめろって! マジで!」
「一体どんな話をしていたの?」
「ちょっとした相談を受けてた」
「相談? 内容は?」
「そこまで言うのか?」
「言えない内容なの?」
「俺は平気だけど、彼女のプライベートな話だったからな……」
「そう言って誤魔化す気?」
「違う!」
「なら話しても構わないでしょう? 私とその女とは赤の他人で、接点がないのだから」
「わ、分かった! 話すから、そんな今にも泣きそうな顔をするな!
相談っていうのは……恋愛相談だ」
「れ……」
「いいから、落ち着いて聞け。
その子はいわゆる腐女子ってやつで、お前もよく知っているとおり、俺には、そっちの方面の知り合いがいたから……誰のことを言ってるかは分かるよな?」
「……ええ」
「……で、何となく、彼女にもあいつと同じ匂いを感じたから、おそらく“そういう”人じゃないかって気づいちまって、彼女にも、俺に気づかれていることが知られて、たまに何かと相談にのってきたんだ。
で、最近になって彼女が、別の部署の後輩に惚れちまったらしく、
『こんな私でも、男の人は受け入れてくれるんでしょうか?』
とかなんとか、今日もいろいろ相談されてきたってワケだ」
「そ…そうだったの……。
相変わらず貴方は、自分の周りに個性的な人間を引き寄せる力があるようね」
「うるせーっ。てか、むしろ俺は、さっきからお前の様子の方に、何か不穏なものを感じるぞ?」
「そ、そうかしら?」
「ああ。こっちこそ、お前に何かあったんじゃないかって気になってくる。マジで何かあったのか?」
「べ、別に何もないわ……」
「本当か?」
「ごめんなさい。
どうかしてたみたい。
忘れて頂戴」
「?」
* * *
「お母さん」
「あら悠璃、まだ起きていたの?」
「いい歳して、TVの影響を受けて夫の貞操が心配になるってのは、
それも、子供の私たちから見ても超ベタベタな展開のドラマの…」
「ほ、放っといて頂戴!
子供の分際でマセたこと言ってないで、さっさと寝なさい!」
──────────────
《呼び名》
「母さん、その急須とってくれるかな?」
「……」
「母さん?」
「最近の貴方、私のことを“母さん”って呼ぶようになってきたわね?」
「そうか? そういえばそうかもな?
」
「私は貴方のお母さんではないのよ」
「はァ? それを言うなら、お前だって最近、俺のことを“お父さん”とか“あなた”って呼ぶことが増えてきてるぞ」
「そ、そうかしら?」
「ああ」
「貴方は、私に“お父さん”って呼ばれるのはイヤ?」
「全然。むしろ、家族だな~って実感出来るから、気に入っているかもな」
「そう……」
「お前は俺に“母さん”って呼ばれるのはイヤか?」
「べ、別にイヤではないわ。
でも、たまには、こうして二人っきりで居るときくらいには、その……名前で呼んで欲しいかも……」
「今だって、普通に名前で呼んでるときも、けっこうあると思うけどな……」
「…なら、今ここで名前で呼ぶのも問題ないはずよね」
「そ、そうだな。
よしっ、じゃあ、今さっそく呼ぶぞ」
「は、はい!」
「……」
「……」
「……」
「……?」
「……う…何だか、いざ改まってみると、なんだか照れるな……」
「!……そんなこと言われると、こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないの?
お、お願いだからさっさと済ませて頂戴!」
「……わ、分かった!
じゃあ言うぞ……。
る、る、るらりひょ……」
「……あの、無理はしなくていいから……」
「いや、呼ばせてくれ、瑠璃!」
「はい!」
「ほら、名前で呼んだぞ」
「……ありがとう、貴方……」
「そうじゃないだろ?」
「?」
「お、俺はちゃんと名前で呼んだんだからさ、おま……る、瑠璃も俺のことを名前で呼んでくれよ。
でないと不公平じゃないか?」
「!……わ、分かったわ。
き、きょ……京介!」
「はい!」
「……何故、急に姿勢を正すの?」
「いや、何となく……」
「……」
「……」
「……お、お茶っ葉、俺が入れ直してくるよ、母さん……」
「……お、お願いしますね、お父さん……」
「…き、気のせいかな?
な、なんか今日は暑くないか?」
「……奇遇ね、私もちょうど、そう思っていたところよ……」