俺“達”の家族がこんなに可愛いわけがない   作:武太珸瓏

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2016/3/7:
所々、微調整しました。
物語は変えていません。





帽子と竹刀と夏休み 《 Part 2 》
 The Will of Boy~決意


 

 

「え!? この子、一人だけでですか?」

 

彪瑠のケンカの一件の翌日。

家族会議の席で珍しく瑠璃が、俺の親父に噛みついた。

 

「そうだ。夏休みの最初、七月中の間、この子 ── 彪瑠を泊まり込みで東京の剣道の先生のもとに、預けたいと考えている」

 

 * * *

 

昨日、彪瑠と一緒に帰宅してから、俺は瑠璃と、親父とお袋に事情を説明した。

俺は、その日の夕食後のあたりで即、家族会議になると身構えていたのだけど、夕食は普段通りに進み、その日は何事もなく終わった。

ただ、俺は夕食時、親父が何か考えていることには気づいていた。

 

そして翌日の夕食後、予測していた家族会議が始められた。

 

出席しているのは、親父とお袋、俺と妻の瑠璃、この実家に帰省している、俺の妹の桐乃、そして彪瑠だった。

 

 

「無論、君たちの子供だから、無理にとは言わない。ただ、まずは私の話を聞いて欲しい」

「…ですけど……」

「アタシは絶対に反対!」

 

突然、妹が割り込んできた。

 

「小学校で初めての夏休みなのよ! 遊びたい盛りなのよ!

それを家族から引き離してワケの分からない人にあずけるなんて!」

 

「桐乃は少し黙っていなさい」

「そうだ、お前は単に自分があいつらと遊びたいのが、第一の理由だろ?」

「(ギクッ!)」

 

「京介、あなたは、お義父(とう)さんの話に賛成なの?」

「賛成も何も、まずは親父の話を聞こうって」

 

「…瑠璃さん、京介の言うとおり、まずはお父さんのお話を聞いてみましょう?

この人だって、無理強いはしないって言ってるのだから…」

 

お袋にやんわりと(なだ)められて、義姉妹は大人しくなった。

 

因みに彪瑠は、大人たちに囲まれながら、少し緊張した面持ちで親父 ── 祖父の顔を見ている。

 

場がおさまったと判断したらしい親父は「コホン」と咳払いを一つしてから、静かな口調で話し始めた。

 

「俺だって、可愛い孫とは離れたくはない」

 

ああ、よく知ってるさ。

 

「それに、まだ小学生になったばかりの子供を親許から離すことについても随分と考えた。

だが、親許から離すとはいえ、たかが二週間ほどだ。

それに、夏休みを消費するとはいえ、まだ一カ月ほども残りがあるんだ。

東北の小中学校は、八月半ばまでしか夏休みがないのだぞ」

 

「えっ! マジで?」

 

妹よ、お前その歳になって、そんなことも知らなかったのか…。

親父の話は続く……。

 

「それに、俺が預けたいと考えている先生は、たいへん立派なお方だ。

そうでなければ、可愛い孫を預けようなどとは思わん」

 

親父、さっきから “可愛い” を連発してるぞ。

俺がガキの頃にも、そう思ってくれていたのか…な? う~ん……。

 

「既に引退しておられるそうだが、私が若い頃、警察学校でお世話になった方だ」

 

「何故、あえて遠方のその先生のもとへ預けるのですか? 剣道の道場なら、通える距離の近場にもあるでしょうに……」

 

「瑠璃くん、そこなのだ、私の言いたいことは。

俺は、別にこの子に剣道を教えたいわけではない。

たかが二週間足らずで、武道は身につくようなものではない。

 

……もう、みんな俺の言いたいことが分かってきたようだね。

 

この子は ── 彪瑠は、とても強く元気で、そして優しく善い子だ。

 

しかし、どうも自分の力の使い方や、心との折り合いのつけ方が非常に危なっかしい。

 

並の子供なら、成長していくうちに、そのあたりの兼ね合いは自然と身につけていくのかも知れんが、この子は、歳の割には持っている力が大きすぎる。

 

いやはや、どういう血の交わり方をして、こんな子が産まれたのか知れんが、正直この俺にも手に余るよ」

 

それは、孫だからつい甘やかしてしまうからじゃないの?

そう思って瑠璃を見たら、何故か少し顔を赤くしていた。

どうしたのだろう?

 

「俺は、この子の個性を、世間の常識の枠組みに当てはめて無理やり矯正しようとは思っていない。

むしろ、出来ればそれを良い方向に伸ばしていって欲しい。

世間の常識に合わせる為に個性を抑えつけたり、人と違うものを切り捨てたりすることが、必ずしも良いとは限らないことは…京介、お前が俺に教えてくれたことだったな?」

「えっ!? お、おう!」

 

聞き役に徹していたら突然こちらに話をふられたため、正直、親父が何のことを言っているのか分からなかったが、思わず返事をしてしまった。

 

「せっかく生まれ持った個性や能力を、誰にも見いだされず、伸ばされず、それどころか(うと)んで潰すような育て方を私はしたくない。

その為には、その個性や能力を見抜き、それに見合った育て方の出来る人が必要だ。

恥ずかしながら、この私も、そういった方面へは万全の自信があるわけではない。

昔、自分という人間の頭の固さを痛感させられたことがあるのでな。

その点、あの先生は、安心してこの子を任せられるお方だ」

 

親父の話を聞いていて、俺の腹は大体決まってきていた。

 

同時に、胸の奥から何か切ない気持ちがこみ上げてきていた。

 

この気持ちは、前にも感じたことがある。

 

あれは確か ──

 

「……お義父(とう)さまのおっしゃることはよく分かりました……」

 

瑠璃が静かに口を開いた。

 

「……ですが、やはりこの子には、一時的とはいえ親許から離すのはまだ早いと思います。

私は……」

 

「お母さん」

 

母親の言葉を彪瑠が止めた。

 

ある程度、これを俺は予測していた。

親父の方を見たら、どうやら同じらしい。

お袋は、少し驚いているようだが、それでもまだ落ち着いている様子だ。

しかし、瑠璃と桐乃の義姉妹は、驚きのあまり二の句が継げないでいるようだ。

 

そんな中で我が息子、彪瑠は、

 

「おじいちゃん、ぼく、その先生のところに、勉強しに行きたいです」

 

淀みなく言ってのけた。

 

俺は満足感と同時に、一気に寂しさに襲われた。

 

そうだ。

思い出した。

 

前に俺が、この感情を覚えたのは ──

 

 

 

《 To be continued 》

 

 

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